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馬女神の欠片を集める



 夜が更けたサクラ牧場では――


〈ねぇ白桜(はくおう)〉〈あ♪ 黄桜(きざくら)ちゃん♪〉


 淡く黄色みを帯びた白の牝馬(ひんば)が、ユーレイ勝桜(かつおう)と談笑していた白桜に声を掛けて寄って来た。


〈久しぶりだねっ♪〉


〈そうね。

 あのね、何か……不穏な何かを感じるの。

 白桜、あなた狙われてるみたいよ?〉


〈えっと、ボクには何も……だから、ちょっと見させてもらっていい?

 触れないといけないけど〉


〈いいわよ〉


〈ゴメンね〉胴をくっつけた。


〈見えた? 聞こえた?〉


〈うん、少しだけ。

 でも、この思念……人だとは思うけど性別すらも分からないよ〉


〈私もなの。とにかく良くない感じ。

 ワルダクミ? ほら人ってよく――あっ!〉


〈大丈夫!?〉


〈何かが私の中で弾けたの。

 これ……何? 誰の記憶?〉


〈見させてねっ〉〈お願い!〉〈うんっ!〉


 この風景……雲地!? ええっ!?

 ボクが見えて――ボクと走ってる!?


〈白桜?〉


〈ちょっと一緒に!〉彩桜へ瞬移!



――【彩桜!】【ルルクル!?】


彰子を迎える為の部屋を整え終えた彩桜が自室の(ふすま)を開けると馬が現れた。


【どしたのルルクル? そのコだぁれ?】


〈サクラ牧場での幼馴染み、黄桜ちゃん〉

【でも、どうやら神世でも幼馴染みみたいなんだよ。見てくれない?】


【うん】

〈黄桜ちゃん、怖がらないでね?

 俺、白桜の友達♪ 彩桜♪

 ちょっと触るね?〉


〈ええ〉


【神様の欠片……小さいけど。

 お馬さんの女の子。

 俺には そのくらい。

 だから、お稲荷様トコ行こっ】瞬移。



――キツネの社。

【お稲荷様っ、ちょっと助けて!】


【ふむ。大騒ぎだな】


【ほえ?】


【神世からも同じ女神が降りて来ておる。

 人世でも走って来ておる。

 その牝馬の内に在るは、マーレットの尾。

 一部だが、確かに記憶を有する尾だ】


【そんな……マーレットちゃんが……欠片に……】


【ルルクル、思い出したの?】


【うん。確かにボクの幼馴染みだよ】


【お稲荷様、走って来てるって、もしかしてウィンローズ?】【えっ!?】


【その馬だな。背に人の娘を乗せておる】


【松風院さんだ……迎えに行かなきゃ!】


【待て彩桜。

 先に涼楓(リョウカ)()の主とを()の娘に会わせよ。

 今後の為だ】


【涼楓と秋小路さんを? 松風院さんに?】


【然うだ。今ならば近くを走っておる】

小さな光球を彩桜へと飛ばした。


【ルルクル行こっ!】

【黄桜ちゃん待っててね!】



〈ルルクル……?〉よく聞こえなかったけど……。


〈黄桜が持つ欠片の神はマーレット。

 白桜が持つ神がルルクルだ〉


【オフォクス父様! 失礼致します!】

1拍置いて、わらっと神が現れた。


【見えておった。慌てるな。

 今、彩桜が人世の欠片を集めておる】

〈女神マーレットの欠片を持つ者達よ、見え得る限りの欠片を集める。暫し待て〉


《彰子は? ローズは?》


〈同じ欠片を持っておる。案ずるな〉



―・―*―・―



 彩桜と白桜は秋小路の屋敷へと瞬移し、涼楓を見つけて身を(ひそ)めた。


〈彩桜、どうする気?〉白桜が首を傾げる。


〈電話したから来てくれるよ♪〉〈来たよ♪〉

涼楓が嬉しそうに尾を揺らした。


駆けて来る足音が近くなり、そっと扉が開いた。


「輝竜君?」「涼楓トコ~♪」


頼んだ通りの乗馬服で来た清楓が彩桜の隣に屈み込んだ。

「よく入って来られたわね。

 セキュリティ万全、警備員も居るのに。

 目立つ白の大きな馬まで一緒にだなんて……」


「勝手に入ってゴメンなさい。

 でもホントに緊急事態なんです。

 松風院さんがローズちゃんに乗って逃げてるんです。

 一緒に追ってもらえませんか?」


「それで乗馬服なのね。

 いいわ。行きましょう。

 でも……誰にも見られずにだなんて……」


「入って来た種明かしします。

 白桜、涼楓をお願いね」

清楓を立ち上がらせるのに手を取ったと見せかけて瞬移した。



――海沿いの国道。


「波の音? えっ!? 星空だなんて!」


「急がないと!」

彩桜は既に白桜に乗っている。


「そうね! 涼楓、行くわよ!」「西に!」



―・―*―・―



〈マーレットの欠片を集め、娘と其の馬が強く生きられるよう込める。よいな?〉


《彰子の為でしたら喜んで!》

ミュムが右手に持っている浄化域から連れて来た女性の魂が嬉しそうに輝いた。


《集めていただけて、お役に立てるのでしたら……どうかお願いいたします》

ハーリィ プラム エィム リリムが持っている保魂域の原魂達は、無垢の人魂に包まれたマーレットの欠片達なので、こちらも嬉しそうに光を帯びた。


《あの……ほんの僅かだけ、他の馬に込めていただけましょうか?》

ミュムが左手に持つ老婦人の魂が申し訳なさ気に願い出た。


〈ふむ。涼楓号が背の娘と話せるようにしたいのだな?〉


《あっ、はい。

 お察しくださり嬉しゅう存じます》


〈然うしよう。

 では取り出し、集めてよいのだな?〉


《はい。お願いいたします、お稲荷様》


〈見えておったのか。強いのだな。

 その力の写しは残る。

 故に今後も母娘(ははこ)共に、()の娘達を見守ってやってくれ。

 リリム、プラム。頼んだぞ〉


〈〈はい♪〉〉《見守る? では……?》


〈先ずはマーレットを集める。急ぐのでな。

 リリム、プラム。其の後で説明を頼む〉


〈〈はい♪〉〉《《お願いいたします》》



―・―*―・―



「あれね! 涼楓 急いで!」


涼楓は小さく(いなな)くと加速した。



【ねぇ彩桜?

 どうして瞬移で追いつかないの?】


【今は、こぉするのがイチバンって思うんだ。

 ただのカンだけど。

 秋小路さんが松風院さんとホントに友達になるのに必要なんだよ。

 だから追いかけられる距離で松風院さんの後ろに出たんだ】


【そっか。この後は?】


【ウチに連れてって、次に行くよ】


【次?】


【近くの方が見易いから。

 確かめて、兄貴達にも助けてもらうの。

 俺、明日は学校だから】


「彰子さん! 止まって!」


 話しているうちに声が届きそうな近さになっていた。

しかし聞こえていないのか、無視しているのか、彰子は振り返りもせず伏せるように身を低くしてウィンローズを走らせている。


「彰子さん! 私よ! 清楓(さやか)よ!

 待ってちょうだい!」


彰子の頭がピクリと上がった。


〈ローズちゃん、ボク白桜♪

 ちょっと待って。助けるから〉


ウィンローズが速度を落としていく。



「やっと追いついたわ。

 ウィンローズはレースにも出られそうね♪」

並んで ゆっくり歩く。

白桜は後ろを護るように続いた。


「清楓さん……輝竜さん……」

彰子がゴーグルを外すと涙が頬を伝った。


「追っかけて来てないから、その駐車場に入らない?

 ローズちゃん休ませてあげないとね」

海水浴場の駐車場を指す。


「そうですね~」無理矢理にっこり。


「彰子さん? その、おっとりぶりっ子、そろそろやめてくださらない?」


「……バレていたのね」肩を竦めた。


「こんな夜中に馬を走らせる友なんて他にいるのかしら?

 家は家。

 親友と思っていただけないかしら?」



 駐車場に入り、馬から降りた。


「清楓さんっ」

降りる前の清楓の言葉に対する答えとばかりに、彰子は胸に飛び込んだ。


「彰子さん」背をぽんぽん。


「仲良しさん出来上がり~♪

 でも『家は家』って?」


「松風院財閥と秋小路財閥は、元を辿れば平安時代からの因縁のライバルなの。

 かなりドロドロとした関係よ。

 私も彰子さんも一人娘。

 いずれは その因縁に巻き込まれる運命にあったと思うわ。

 でも、もう終わらせてあげる♪

 協力もするし競い合いもする、そういう清々しいライバルに変えてみせるわ」


「ですが私はもう……家を出ましたので……」


「早まらないで。

 私が協力するのですから家出ではなく、これはただの遠出よ。

 そうなのでしょう? 輝竜君。

 二大財閥初の協力。解決する為に私を引っ張り出したのでしょう?」


「バレちゃった~♪

 まだまだ(ウチ)は遠いから、お馬さん達の為にビックリすると思うけど近道します。

 目を閉じていてください」


「目を?」「なぜ?」 

「あ! 先程のね!」


「うん。

 開けててもいいけどぉ、と~ってもビックリだよ?」と~っても困り顔。


「さっきの真剣な顔と大違いね♪

 いいわ。閉じていてあげる♪」「私も」


【ルルクルせ~のっ】瞬移!







キツネの社に馬女神マーレットの欠片を集めようとしているのとは別に、彩桜は動こうとしているようです。


清楓は昼間の騒ぎを忘れたのでも、棚に上げているのでもありません。

あの騒ぎがあったからこそ協力しているんです。


桜「お友達でっきあっがり~♪ だからい~の♪」



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