心からの謝罪
「あっ、戻って来たよ!」
祐斗が指す方を見ると、彩桜達が談笑しながら乗馬クラブの門をくぐっていた。
彩桜達も視線に気付いたらしく、集まっている人々に、もう安心してくださいと笑顔を向けた。
そして彩桜は白桜を、ソラはショウを繋ぎに行った。
響は固まったままの清楓の前へと真っ直ぐに進んだ。
「その動けないのは、貴女が貴女自身の負の感情に囚われてしまったからなの。
つまり自業自得。
負の感情そのものは、ユーレイになっても見守り続けていた鈴本さんが全て取り込んで貴女から離したけど、その呪縛は誰にも解けないわよ。
解く鍵は貴女の負の感情にあったんだから。
でも貴女の強い負の感情で、鈴本さんが怨霊化してしまったから、もう無理なのよ。
唯一の望みは――と言っても一縷の望み程度だけどね、貴女が負の感情を向けた全てに対して反省した上で、鈴本さんに謝罪することしかないと思うわ。
それで鈴本さんの怨霊化が解けたなら、その呪縛も解いてもらえるかもね」
〈だったら涼楓も連れて来た方がいい?〉
〈そうね。彩桜クンお願いできる?
ソラ、ショウもお願い〉〈うん〉
ソラが馬達の列にショウ連れて近寄ると、馬達は歓迎しているらしく尾を揺らして鼻先をショウと合わせた。
〈うんうん♪ 友達ヨロシク~♪〉
ショウも尻尾フリフリ全開で大喜び。
彩桜は涼楓と白桜を連れて表彰台の前へ。
上機嫌なショウを連れたソラが続く。
〈肉球ペッタン♪〉
涼楓に凭れたショウが清楓のブーツに右前足を乗せた。
〈サヤカ……ボク、次はガンバルから〉
〈涼楓なの?〉
〈うん。ショウ、えっと、この犬が伝えてくれてる。だから話せる〉
〈さっきは叩いたりして、ごめんなさい。
負けたのが悔しくて……〉
〈ごめんなさい。ボクが跳べなかったから。
この前のも……ごめんなさい〉
〈涼楓のせいじゃないわ。
悪いのは私。
解っているの。とっくに解っていたのよ。
それなのに……認めたくなくて……〉
「解っていると認めたのなら涼楓にキチンと謝ったら?」
〈そうね。貴女の仰る通りだわ。
涼楓、ごめんなさいね〉
〈ボクは大丈夫。サヤカ大好きだから。
イライラなくなったから、また一緒に跳べるよ。次は勝てるよ♪〉
〈ありがとう涼楓〉涙が頬を伝った。
「ほんの少しだけ動けるようになったわね。
謝るべき人、他にもいるんでしょ?」
響が彩桜を見た。
〈そうね……〉
「俺、な~んにもだけど?」
〈視線に苛立ちを込めてしまったわ。
それに……その馬も叩いてしまったの。
鞭で強く……〉
「このコ、白桜♪」
連れて前に進み出るとショウが白桜の足に尾を当てた。
〈長いの持ってたから通る時に当たっただけだよね?
だから大丈夫だよ♪〉
〈ありがとう……でも、ごめんなさい。
貴方も、ごめんなさい〉
「ほえ? 俺の方こそポッと出なのに勝っちゃってゴメンなさい!」
〈それって、ご自慢かしら?〉ふふっ♪
「あ♪ 笑えた~♪ もちょっと解けたね♪」
〈私も中等1年で障害競技にデビューしたの。
優勝したわ。ですから同じよ。
でも中障害で、なの。
少しずつグレードを上げて、出場の度に優勝して……でも9月の競技会で初めて負けたの。
その時は大障害B。優勝は松風院さんよ。
ですからグレードを上げて私の方が上よ、と示したかったのだけれど……松風院さんも上がっていらしたの。
それでも勝てると思っていたわ〉
「なのに俺が邪魔しちゃった~」
〈そんなこと……〉ふふっ♪
「また笑った~♪」
「だったら松風院さんにも謝らないとね。
彩桜クンと同じように睨んでたでしょ?」
「馬もだよね? 連れて来るよ」ソラが走った。
〈サヤカやっぱり笑顔がいい♪〉
〈涼楓ったら……〉頰染まる。
【いい感じだね♪ 次は強敵かもね♪】
【うんうん♪ 楽しくなりそ~だね♪】
ソラが白馬ウィンローズを連れた彰子を伴って戻った。
紗と飛鳥も手を繋いで一緒に来た。
「なんでしょう?」にこにこほわわ~ん。
〈ウィンローズちゃん、こっちね♪〉
白桜が場所を譲った。
〈ありがとう。でも離れないでくださる?〉
〈うん、いいよ♪ でも……不安?〉並ぶ。
〈そうではなくて……〉もじっ。
〈えっと~???〉
〈ローズさん、白桜 気に入ったね♪〉
〈えっ!?〉
〈同じ白ですし……〉
〈くっついてたらいいよ♪〉〈涼楓てば!〉
〈どっちもテレてるね~♪〉〈もうっ!〉
【ルルクルいいんじゃない?】
【彩桜まで!?】
【欠片持ちさんだし~♪】
【えっ!? ああっ!!】
【気づいてなかったの?】
【うん……気づいたトコ】〈彩桜クン?〉
〈あっ! お馬さん大丈夫だから始めて~♪〉
撫でていた手を慌てて止めた。
〈松風院さん……〉
「あら、不思議なお話し方ですのね~。
ローズさんと同じですのね~。
それで、これまではお話ししていただけなかったのね~」
〈いえ、これは、その……〉
「今は特別なの~。
嘘も誤魔化しも効かない心からの言葉を伝えたいからなの~」
「そうでしたのね。では伺いますね~」
彩桜に ほんわか笑顔を向けた。
「俺じゃなくてぇ」
「輝竜さんとは、後程ゆっくりお話ししたいわ~」にこにこにっこり~。
「ダメなのっ!」また彩桜にしがみついた。
「ランちゃん落ち着いて~」よしよし。
「おねーちゃんジャマしちゃダメ~」
飛鳥が紗の服を引っ張る。
「俺、離れとくから。
ソラ兄、響お姉ちゃん、あとお願い~」
連れて逃げた。
彩桜クン上手く逃げたね。
まだ響には内緒なんだね?
「秋小路さん、どうぞ」
彩桜を追っていた視線を表彰台に戻した。
〈ええ。松風院さん。
私、貴女に負けたのを認めたくなくて……恨みがましく睨んでしまったの。
ウィンローズにも苛立ちをぶつけて……叩いてしまったの。ごめんなさい〉
「あら私、見つめられていたのね~。
ローズさん? ぶたれたのかしら?」
〈いいえ。白桜様が私の代わりに。
同じ白だからとサッと入れ代わって庇ってくださったの〉
「それでですのね~」にこにこ♪
〈彰子様、私……〉
「輝竜さんに練習場を伺って、一緒に練習しましょうね~」
〈はい♪〉
「秋小路さん。私達、謝っていただくようなこと、何もありませんよ?
これからは競い合う友として、仲良くしていただけるかしら~?」
〈ありがとう!
お優しいのね、松風院さん……〉うるうる。
「彰子でお願いしますね~。
同じ学年のお友達なのですから~」
〈彰子さん……〉また涙が頬を伝った。
『清楓お嬢様、心が清らかになりましたね』
〈ばあや!?〉
『はいはい。ただ今』淡い姿を見せた。
〈さっき……ごめんなさい!〉
『お役に立てて、ばあやは嬉しいですよ』
優しく包み込んだ。
〈具現化〉「あらあらまぁ」「ばあや♪」
ソラの具現化で身体を得た鈴本が清楓をしっかりと抱き締めると同時に、浄化光が二人を包んだ。
放った青生と彩桜が笑みを交わす。
「動けたわ! ばあや、ありがとう!
皆さんも……私が起こしてしまった事ですのに助けてくださって、ありがとう。
……ありがとうございます」
抱き合っていた清楓と鈴本は支え合うように並ぶと、ゆっくりと一緒に礼をした。
〈一件落着~♪〉ワンワンッ♪
「良かったですね~」にこにこ♪
〈彰子様……〉
「は~い、ローズさん何かしら~?」
馬達の並びに寄って行った。
〈涼楓様が、彰子様と私がどのようにしてお話ししているのかと……〉
「さぁ……私にも分からないのよね~。
他の動物ともお話しできませんし~」
〈後で彩桜に頼んでみるよ。
僕と彩桜も話せるから、清楓さんと涼楓も話せないとフェアじゃないよね〉
〈やはり白桜様は素敵です……〉ぽ♡
ウィンローズの心を表すように耳飾りがキラキラしている。
〈あっ、えっ、、とぉ〉〈白桜ガンバッ♪〉
〈涼楓っ!〉〈ボクもガンバらないとね♪〉
〈あ……そうだね。頑張ってね〉〈うん♪〉
ニコニコ涼楓が、鈴本の胸で泣き笑いな清楓に向けた目を嬉しそうに更に細めた。
〈ボクがサヤカのになったのは去年の春。
ばあやがサヤカと会わせてくれたんだ。
最初は楽しかったんだよ。
でもサヤカ、だんだんイライラになって。
ボク、サヤカが怖くて跳べなくなってた。
おもいっきりっての、ムリになって。
ボク、サヤカと話せたから幸せ♪
イライラいなくなったし♪
だから、もう話せなくてもいいんだ。
ムリ言ってゴメンね〉
〈話せるよ。任せてよ。
来月の大会で渡せると思うから。
悪くても、その次の大会で。
そういう道具、作ろうとしてるって彩桜から聞いてるから♪
でも~、なんとな~くだけど、もっといいコト起こりそうな気がする♪
だから諦めないでね♪〉
めでたし めでたし――か?
清楓お嬢様の件は収まりましたが、彰子お嬢様も何やらワケアリぽい?
ウィンローズと心話しているので彰子お嬢様も欠片持ちなんでしょう。
『永遠の商売敵』と呼ばれている秋小路グループと松風院グループのお嬢様達ですが、良い友達になれそうです。
その友情パワーで彰子お嬢様の方も解決できるハズ! と……信じましょう。
とか何とか、結末は分かっているんでしょ?
と思っていますよね?
外伝のゴールは既に決まっていますが、各エピソードの結末は考えながら書いている状態ですので、私自身どうなることやらと思って後書きを書いています。
そんな状態でいいのか? と自分でも思っているんですけどね。
( ̄▽ ̄;) あはっ。




