庭にバスケコート
彩桜達が家の大門に着いた時、白久が角を曲がって来たのが見えた。
「白久兄もお帰り~♪」
黒瑯と紅火は軽く手を上げて大門をくぐった。
先に庭にバスケコートを作るつもりらしい。
「スケボーの大会、行けなくて悪かったなぁ。
青生なら優勝したんだろ?♪」
「彩桜も優勝したんです♪」
照れている彩桜を祐斗が前に押し出した。
「出たのか♪ そっか♪
ん? 青生、ソイツらは?」
「白久兄さんの後輩達ですよ」
「後輩? 高校生かぁ? そっか、グレ高か」
「「「うっ」」」後退る。
「俺は櫻咲だからな」
「睨まないであげてくださいね。
今日から俺の生徒達ですから♪」
「ま、更正する気ならヨシだ♪
あっ、勝利サン!? 勝利サンですよね♪」
高校生達の後ろに隠れていた荒巻が照れ笑いしつつ姿を見せた。
「久しぶりだな白久。今日も仕事か?」
そして白久に近寄る。
「社長の息子のお守りですよ」苦笑。
「へぇ♪
そんなん任されるんなら係長くらいにはなったんだろ? 課長か?」
「白久お兄さんは常務で支社長です♪」
祐斗が誰よりも誇らし気に言った。
「常務!? マジかっ!?」
「運が良かっただけですよ。
勝利サンの会長様にもお世話になってます」
〈青生、少々狭いがコートが出来た〉
「そろそろ入りませんか?」
「だなっ♪ ボロ屋敷ですがどーぞ♪」
ぞろぞろと門をくぐった。
「文化財かぁ?」「ボロいだけですよ」
「デカっ!」「広っ!」「何なんだ!?」
後ろの方から高校生達の声が聞こえた。
「静かにしやがれっ!」「「「はいっ!」」」
店と和館の間にあった木が移されており、広くなった場所に立つポールの先にバスケットリングが付いた板が見えた。
地面は綺麗に平らで深緑色。ラインもクッキリなコートに仕上がっている。
「誰がバスケなんかするんだぁ?」
「誰でもいいんですけどね、今日のところは小学生。中学生もかな?」
紅火が堅太にボールを渡した。
指導するつもりらしく去ろうとしない。
「秀飛、やろーぜ♪」「はい♪」
「君達は俺と一緒にね」「「「はい!」」」
「勝利サンどーします?」「白久と一緒だ♪」
「それじゃ居間に」「そーいや瑠璃サンは?」
「病院の方に歩いて行きましたよ」「そっか」
「あれれ? 祐斗は? あ♪」
祐斗は引き返していたらしく、母と叔母の手を引いて来た。
「彩桜、アトリエに行きたいんだけど」
「うんっ♪」先導~♪
「バスケ、いいの?」したいよね?
「もぉ待たせるの無理でしょ」おばさん達。
「やっぱり気づいてたんだね」
「心配そぉに見てたから~。
拓斗君、行こっ♪」
「拓斗、大丈夫だよ。行こう」「うん」
アトリエに入ると彩桜と祐斗は拓斗を連れて離れた。
聖水と智水は絵を掛けたままの小ホールで座って待つように言われて入ったものの、所在なく立ち尽くしていた。
「このまま黙っていなさいね。
智水は口を開けば失礼なことしか言わないんだから」
「失礼なことしかって、それこそ失礼じゃないのよっ」
「そんなこと言ってないで絵をご覧なさい」
「絵なんて見ても――」「ご覧なさい」
「この絵……姉さんが集めてるのに似てるわね?」
「同じ方の絵ですからね――触らないの!
常識も何もないのね。
少しは智水も勉強したら?」
「私は全力で拓斗を育ててるのっ!」
―◦―
彩桜達は弦楽器の部屋に居た。
「拓斗君、バイオリンを構えてみてね♪
弾き易いの探してねっ♪」
手慣れた様子で次々と調弦している。
頷いて、拓斗は並んでいるバイオリンを中程から順に構えてみる事にした。
「ね、彩桜。これって少しずつ大きさの違うバイオリン? 何するものなの?」
「うん、バイオリン♪ 子供用なの~♪
だから どれも小さなバイオリン♪」
「成長に合わせていくんだね♪」
自分達に背を向けて真剣に選んでいる拓斗をチラリと見た。
「そぉなの~♪ 兄貴達も使ったの~♪」
彩桜も拓斗を見てニッコリ。
「彩桜は?」
「半分くらいかな~?」
「あっ、東京……」
「俺が青生兄の鞄で寝ちゃっただけだからぁ、そんなお顔しないでぇ~。
でねっ、だから拓斗君に使ってもらいたいの。
使ってくれたら嬉し~の~♪」
「そっか。もう使う子がいないのに手入れだけしてるんだね?」
「そぉなの~。将来、兄貴達の子供が使えるよぉにしてたの~♪」
「毎日この数を!?」
「音出してるよ♪」「彩桜クン♪」具現化♪
「あ♪ ゴウちゃん師匠~♪」
「もしかしてユーレイさん?」
「ユーレイよ♪
ね、彩桜クン。怨霊化を防ぐ破邪の強さを教えてもらえるかしら?」
「出してみたらいい?」
「ええ、お願い♪」「うんっ♪」
彩桜は拓斗の様子を確かめてから、その場に座って目を閉じた。
祐斗にも彩桜が桜色の光と舞う花弁を纏ったように見えた。
桜色の光が炎のように立ち昇って明瞭になり、煌めく花弁が舞う範囲を拡げた。
「キレイ……」
「そうね、とても美しいわね。
これは彩桜クンの浄化の力なんだけど、魂の清らかさが見えているとも言えるのよ」
「彩桜って……凄い……」
「そうね。
これほどの強さだったなんて……弟子達には無理そうね。私も修行しなきゃ」
「ゴウちゃん師匠、強い? 強過ぎ?」
彩桜が目を開けていた。光も消えている。
「あら、大丈夫よ♪
私は出せるようになってみせるわ♪
ホント早く高校生になってもらいたいわぁ」
「えへへ~♪」
彩桜が一瞬だけ向けた視線をトウゴウジは見逃さずに追った。
「あら、もう1人 居たのね。あの子……」
「ん? 知ってるの?」
「よく私の公園に来るのよ。ほぼ毎日ね。
バイオリンを持っていてね、練習しているみたいなんだけど弓は持っていないのよ。弓だけエアーなの。
弦を押さえる練習だけしているのかしらね。
ただ、気になるのは表情が暗くて、いつも泣きそうな顔で帰る事なの。
負の感情は拡がらずに内に籠っているみたいだから、今のところ怨霊化には繋がっていないのだけれど……」
心配なのは生霊化なのよね……。
「ありがと、ゴウちゃん師匠。
俺……頑張ってみる♪」
「お願いね。
それじゃあ私は――修行スイーツを頂いて帰りましょ♪」
彩桜と祐斗に華やかな笑顔を向けたままスッと消えた。
「怨霊化って……拓斗が?」
「んとね、生きてるヒトの負の感情にフツーの幽霊さんが触れたら怨霊なっちゃうかもなの。
だから俺、さっき高架下で破邪してたの。
祓い屋さん達も高校生が出してる負の感情を警戒して来てたの。
ゴウちゃん師匠は東の街でイッチバン強いユーレイさんなの。
東の中央公園に住んでるの。
だから来てなかったけど、この街のユーレイさんから聞いたみたい~」
「東の中央公園かぁ。
拓斗の家、すぐ近くのマンションなんだ。
そっか。
さっきも僕達は彩桜に護られてたんだね。
ありがと彩桜♪」
「怖くない? 大丈夫?」
「うん。もう分かったから大丈夫。
ごめんね彩桜」
「もぉ謝らないでぇ」「やっぱりコレ!♪」
「「あ……」」忘れてた!
「最初から持ちやすいって思ったけど、ぜんぶ持ってみなくちゃ、って試したの。
でも、やっぱりコレがいい♪」
「拓斗のは大きいの? 小さいの?」
嬉しそうな拓斗の頭を祐斗が撫でる。
「大きい? かな……?」
「それじゃこれから使えるねっ♪
暫くはソレ使っててね♪」
「いいの!?」
「持ってるのが構え易くなるまで、順に使ったらいいよ♪」
「ありがと! 彩桜お兄さん♪」
「お兄さんとかヤメてぇ~」テレテレテレ~。
「それじゃ練習しない?」祐斗、笑いながら。
「祐斗、ピアノお願いねっ♪
あっち行こっ♪」
彩桜も自分のバイオリンを出して、ピアノが並んでいる場所へと駆けて行った。
「待って彩桜! 曲は!?」追い掛ける。「拓斗も早く!」
「うん!」
―◦―
〈なぁ紅火、さっきのナンだ?
庭の木、ゴソッと動かしたろ?
瞬移させたのか?〉
台所の黒瑯が店の作業部屋の紅火に話し掛けた。
〈掌握〉
〈って?〉
〈神の手〉
〈オレにも出来るのか?〉
〈黒瑯は神眼が強い。
故に神眼を極めれば掌握にも繋がる〉
〈んん? ま、神眼を鍛えろってコトか?〉
〈そうだ〉
〈よーし! オレはヤルぞ!〉
実は紅火がイチバン凄いのかも。
あっという間に庭にバスケコートを作ってしまいました。
いつの間に鍛えたのやら『掌握』という神力も使い熟しているようです。
ま、『ドラグーナの手』なら当然でしょうか。
輝竜家の子供用バイオリンは特製です。
金錦と白久が幼かった頃、トレービが来る度に置いて行ったんです。
もちろん教えたのもトレービです。




