モグラの支配vs力丸の煩悩
キツネの社では、キツネと彩桜が話し続けていた。
「飛翔さんが集めてる神様って、だぁれ?」
「儂の弟だ」
「お稲荷様の弟さん!?」
「然うだ。狐儀の父でもある」
「どぉして飛翔さんが集めてるの?
トシ兄にも入ってるよね?」
「両者を指導しておったからな」
「やっぱり飛翔さんて神様なんだ……」
「気付いておったか?」
「なんかねぇ、人じゃないのかな? って。
でもトシ兄は分かんなかった~」
自身は? と問いたい処だが――
『キツネ殿よぉ』「サイ……如何した?」
サイオンジが薄ぼんやりと姿を見せた。
「ちょいとなぁよぉ」
「俺、ショウのトコ行くねっ♪
お稲荷様、ありがとねっ♪」
社を貫いている大木の虚へ。
「邪魔してすまんなぁよ」
「いや……モグラの匂いか?」
「だぁよ。
さっきも逃げられたちまっただぁよ。
で、だ。この山の結界なんだがよぉ、オイラが入れちゃあモグラも入れる筈だ。
アイツはオイラの相棒だったからよぉ、オイラの真似なら器用にしちまうんだぁよ。
だから すまねぇが、オイラが入れねぇように変えてくれ。
ただ、キツネ殿の居場所だけは掴めるようにしといてくれよなぁ。
モグラが狙ってるんならオイラとは会わねぇ方が絶対ええからなぁ」
「サイ……」
「そ~んな顔すんなってモンだぁ。
なぁに、モグラを取っ捕まえる迄の辛抱だぁよ。
アイツは必ずオイラが成仏させる。
だからそれ迄、頼むなぁよ」
「解った。
一つだけ……狐儀を連絡役とする。
其れだけは許してくれ」
「心配掛けちまうなぁ。ありがとよぉ」
「いや、礼には――」
「たまにゃあ言わせてくれって。なぁ。
話を変えるが、さっきの坊っちゃん。
仲間――神様なんじゃねぇのかぁ?
封じて人として匿ってるのか?
それとも――」
「友は罪を着せられ、人世に堕とされた。
儂は其の未来を垣間見、人世に降りたのだ」
「理由を聞けるのに百年も掛かったなぁよ。
なぁに、誰にも言いやしねぇよ。
知らぬ存ぜぬで通してやらぁ」
「祓い屋になりたがっておる」
「そぉか~。なら全力で護ってやらぁよ♪
そんじゃあ達者でなぁ。
モグラは獣使いだぁ。
よくよく気をつけるだぁよ」
「サイもな。彼奴は人をも操る」
「だぁなぁ。
噛みつかれちまったらオシマイだぁよ」
サイオンジは笑って消えた。
〈狐儀〉
〈はい主様〉現れた。
〈力丸を連れたままか……〉
〈欠片達の話を聞いておりました故〉
〈ふむ。ならば力丸を預かろう。
各拠点の結界をサイが入れぬよう変えよ〉
〈は? サイ様を、で御座いますか?〉
〈サイが然う伝えに来たのだ。
サイが入れるのならばモグラも入れると。
モグラが社に入れたのも其故だ〉
〈然様で御座いましたか……では、バステート様にお伝え致します〉
〈何処に行こうとしておる?
お前自身で変えられる筈だ。
結界を変え終えたならばサイにも伝えよ〉
〈は〉
〈サイの近くにガイアルフの欠片を持つ者が居る筈だ。見付けておけ〉
〈あ……〉
〈探そうとしてくれておったのであろう?
先程サイから気配を感じたのでな〉
〈はい。畏まりました〉
〈此れからも連絡等、頼む〉
〈はい♪〉笑顔で消えた。
「ん…………ん? 彩桜っ!?」バッ!
起き上がってキョロキョロくんくん。
「匂い……だけ?
あ、キツネ様……なんでっ!?」
「相変わらず騒々しい奴だな」
「彩桜、来てたんですよねっ!」
「ほぼ毎日来る。ほれ」
「でっかいプリンだ~♪
コレ持って来てくれてたんですか?♪」
「然うだ。
食べたならば瞑想し、欠片と話せ」
「はいっ♪」食べながらウロウロ。
「何をしておる? 座って食え」
「彩桜の匂い、ここで消えてるんだよなぁ」
もぐもぐしながら虚を覗き込む。
「其の通りだ。通路であるからな」
「でも、ただの木の穴だよな?
上も下も、どこも通じ――でも…………俺、行かなきゃ……」
額に赤い光が宿る。
ほう。見易くしたのだな。
「彩桜ん家……行かないと――」「落ちるぞ」
「え? あっ!! プリンがっ」
皿から落ちかけたプリンを手で受け、そのまま口へ!
〈ありがとーございます!♪〉
両頬を包んで味わう~♪
キツネは力丸が置いた皿を取り、浄化すると、社を貫く大木の虚に入った。
〈キツネ様っ!?〉
「何だ?」虚から出る。
「ええっと……」お皿は? 穴の中?
「皿を返しに行っただけだ。
頬がベトベトだ。己で浄化して見せよ」
「ホントに……その向こうって彩桜ん家なんですか!?」
「何度も言わせるな。
修行を積めば通路とも成る。
井戸に行かず、浄化せよ」
「ええっと……」手を見る。「はいっ!」
モグラの欠片にも打ち勝つ食欲とは……
呆れたものだが、大したものだ。
キツネは笑みを浮かべ、瞑想する力丸を見守った。
「おかわり……無いのかなぁ……」「無い」
「あ~あ……」
「虚が通路と成ったならば行ってもよい」
「え? あっ、はいっ!♪」
「他にも通路は在る。己が力で見付けよ。
全て見付ける迄、バステートを煩わせるな」
「話しかけちゃダメってコト? ですか?」
「然うだ」
「しゅ~~ん……」ポテッ。「あ――」
「如何した? ほう」
プシューッと音でも出そうな勢いで、大の字に転がった力丸の全身から煙とも霧とも見える気が噴出している。
「えええっ!? 何コレッ!?
助けてキツネ様っ!!」
力丸から出、立ち込める気を、キツネの掌に現れた水晶玉が吸い込んだ。
「慌てるでない。一つ力が開いただけだ。
然うまでもバステートと話せぬ事が辛いと言うか」
「そりゃあ……俺、くっついてたいんですよ。
ず~~~~~っと!」
「……困った奴だな。
力を戻す。座り直せ」
「力? 俺の?」
「戻すと言った筈だ。要らぬのか?」
「要ります!! すんごく要ります!!
通路 見つけられますよねっ!?
彩桜ん家 行けますよねっ!?」
「未だ足りぬが、足しにはなるであろう」
「早く戻してくださいっ!♪!
バステート様♡ 待っててくださいねっ♪
俺、ガンバルからっ♪」
苦笑を浮かべたキツネは、水晶玉から力丸の頭頂へと力を注ぎ込んだ。
全く以て煩悩の塊だな。
しかし……面白い奴だ。
「全て入ったが何か変化は?
浄化も出来る筈だが?」
ごく小さな光球を力丸の胸へと飛ばしたが、力丸は全く気づいていなかった。
「あ……浄化?」
ごく淡い光が両手と顔を包んで……消えた。
「わあぁあっ♪ ベタベタなくなった♪」
頬をぺたぺた。
「うんっ♪ こりゃあ便利だっ♪
キツネ様♪ ありがと――ぐぅえぇ~」
鼻を押さえて七転八倒!
「ナンなんだよっ!? コレっ!!」
「今度は何だ? 賑やかな奴だな」
「だってクサッ! すんごい臭っっ!!」
ジタバタゴロゴロ――
暴れる力丸の額ではモグラの欠片が不規則に点滅していた。
ふむ。浄化の力が苦しめておるのだな。
あと一歩か……?
「ナンだよコレッ!?
ってナンか俺、コレ知ってる!?」
「思い出せ。己が内に目を向けよ」
「内!? あ!!
確かに鼻の奥から臭い!?
確かに奥だっ!!
そーだっ! アイツ!!
あの気味悪いオッサンの臭いだっ!!
濃縮オッサン臭なんてウソだろっ!!
俺っ、オッサンとチューなんかっ!!
絶対してないからなっ!!
バステートちゃんとチューしたい!!
バステートちゃんの匂いで消して!!
オッサンでイッパイじゃなくてっ!!
バステートちゃんイッパイにして!!
出てけっ!! オッサン消えろ!!
うわあっ!! マジ鼻の奥だっ!!
オッサンの目と同じ色っ!!
コイツ!! 消えやがれっ!!!!
消えっ……た?」ゼェハァゼェハァ――
モグラの光も気も……全て消えた、か。
ようやった。ダイナストラよ。
ヘソ天で だらんと転がり、肩で息をしている力丸に優しい光が降った。
「あ……ホッとしたぁ~。こりゃいいや……」目を閉じる。
「力丸?」眠ったか……。
キツネは力丸を浮かせると頭を撫でた。
「プリン……おかわり……」
思わず吹き出した。
「彩桜に頼んでやろう」フフッ。
「すんごく臭かったんだからぁ……」
「分かったから眠れ」はははっ。
モグラの操りの力『血の欠片』は、力丸の煩悩に負けてしまいました。
サイオンジがキツネの居場所を方角だけ分かるようになったのには、こういう経緯があったんです。
輝竜家と稲荷山、奥ノ山を繋ぐ通路は複数あり、山側の出入り口は全て大木の虚です。
キツネの社を貫く大木は、きっとオフォクスが育てたんでしょうね。
すぐに心友に会えるように。




