スケートボード競技会②
『パーク競技シニアの部、最終ランは輝竜 青生さんです』
そのアナウンスでスタート地点に青生が姿を見せた。
「青生先生もフルフェイス?」
「気にしな~いでぇ」
「あ! もしかして、また騒がれるから?
やっと取材が来なくなったからだね?」
「……うん」コクン。
「有名人も大変だね。
それにしても青生先生、凄いね。
いつもは穏やかそのものなのに迫力が……ダイナミック?
そんなのじゃ足りないよ」
「うん……」キラキラ☆
青生のランは彩桜よりも速く、高いのは確かだった。体格の違いもあって、その迫力は桁違いだと思えた。
「でも……彩桜のも軽やかな風みたいでカッコ良かったよ♪」
「そんなコトにゃいよぉ~」テレテレテレ。
「彩桜ってホント、カワイイよね♪」
「もぉ言わにゃいでぇ~」
目は青生を追い掛けたまま、話しているうちに競技が終わった。
「青生先生、何でもできるんだね」
「うん。俺の目標♪」
「僕の目標は彩桜だからね。あ……向こう」
「ん? あ♪ 黒瑯兄と紅火兄だ~♪」
〈黒瑯兄 紅火兄~♪〉
「こっち向いたね。あ、堅太も一緒だよ」
「ホントだ~♪ 堅太、部活は?」
「また休んだのかな?」
互いに手を振って駆け寄った。
青生も来て黒瑯 紅火と話し始めた。
「部活、休んだんじゃねぇからな」
「先に言われた~♪」にゃははっ♪
「体育館のメンテだってよ。
午前中だけだがな」
「じゃあ午後は部活?」
「バレー部と卓球部が使うんだと。
部長がジャンケンで負けたらしい」
「「じゃあ遊べるねっ♪」」
「この後 何するんだ?」
「あれ? 彩桜を呼んでない?」
「ほえ?」「アナウンス――」
『ジュニアの部、輝竜 彩桜君いませんか?』
「ほら!」「アレ、表彰式じゃねぇか?」
「早く行って!」「ふえぇ~」「早く!」
祐斗と堅太が表彰台の方に大きく手を振り、彩桜の背を押した。
渋々な彩桜が走る。
「青生も行っとけよな」「だな」
「呼ばれてもないのに?」
「「確実に呼ばれる」からだよっ!」
「そう?」
『シニアの部、優勝は輝竜 青生さんです!』
「ほらなっ!」「早く行け」
「仕方ないなぁ……」青生も渋々。
彩桜は またフルメットを被って出たが取らされてしまった。
少し遅れて出た青生も同じく。
「これでまたテレビ局が大騒ぎだな」
「次の競技会は絶対カメラ来るよね。
また報道されちゃうね」
「次どころか今 撮ってるヤツで夕方のニュースは大騒ぎだろーよ」
「あれって、もしかして配信してる?」
「あ~、かもな」
『兄弟でW優勝おめでとうございます!』
「あ~あ……」「やっと静かになったのにな」
―◦―
「兄弟……ふ~ん」
「だからキリュウ兄弟って言ったでしょ」
「音楽じゃなくてスケートボード兄弟?」
「何でもできるのよ。何でも天才なの」
「この後は?」
「ずっと追いかけるんでしょ?」
「そうだけど、どこに?」
「輝竜さんのお宅でしょうよ」
―◦―
表彰式の後、青生の友人とその息子が来て少し話し、それから外に出た。
「青生兄、土日ベッタリ?」歩きながら見上げる。
「教えるのは日曜の午前中だけだよ」
「俺も練習する~♪」「来ればいいよ」
「ね、堅太。あれ」祐斗が指した。
「ん? 高架下のバスケコートか?
あ……アイツら何してるんだ?」
立ち止まった。
少し遠くに見える高架下のコートはハーフらしく、リングは1つしかない。
コートを囲むフェンス近くに避難しているかのように立つ男の子3人と、明らかに歳上な背の高い少年(?)達3人が動いているのが見えた。
「チビッ子達、泣きそうになってるな」
「バスケをしているのは高校生かな?」
「助けてあげない?」「ふむ。行こう」
輝竜兄弟は静かに駆け寄った。
それを堅太が追い、少し遅れて祐斗と拓斗も走った。
「君達どうしたの?」
青生がフェンス越しに声を掛けた。
「見てろって言われて……」
「秀飛、順に話せよな」
堅太が突っついた。
「あ……鷹前センパイ……」
「今日は学校の体育館が使えなくて、ここで練習しようって来たんです」
「練習してたら高校生が来て、見てろって」
「割り込まれたのか?」
「「「はい」」」
「そーいや午後は小学校のメンテだとか言ってたな。
百合谷小バスケクラブの子達なんです。
ま、とにかく どっか行こうぜ」
青生達への説明も加えて、秀飛の服を摘まんで引っ張った。
「紅火、庭でバスケが出来るようにしてくれない?」
「ふむ。任せろ」
「それじゃあ行こうか」「おい!」
やっと高校生達が気付いたらしい。
怒りを露にして走って来た。
「オッサン達ナンだよ?」赤髪。
「コイツらに見本してやってンだ。
勝手なコトすンなよな」紫髪。
「チビ共、行くなよ?」 金髪。
「オッサンなんか何処に居るんだよ?」
「俺の後輩達なんだから連れて行く!」
黒瑯と堅太が同時に言った。
「ナンだぁ? このガキ、どこ中だぁ?」
「二中だ! けど関係ナイだろっ!」
「そうだね。この子達の知り合いでもなさそうだし、拘束するのなら誘拐として通報させてもらうよ?」
「ここでダチになったんだよ!」
「どう見ても そんな雰囲気じゃない。
誘拐に脅迫も追加だね」
「ムカつくオッサンだな!」
秀飛の腕を掴んだ。
「ほら、オッサンにダチだと言えよ」
「そういうのを脅迫と言うんだよ」
「黙りやがれ!」
我慢の限界とばかりに黒瑯がフェンスの向こうに瞬移し、小学生達を連れて離れた。もちろん掴まれていた秀飛も一緒に。
「ナニしやがる!!」
「ナニしたンだ!?」
「種明かしの必要なんかねぇだろ。行くぞ」
小学生達と一緒に出ようとフェンスの戸に手を掛け――
「待てよ! 正々堂々勝負しやがれ!」
「これなら通報できねぇだろ~がよ?」
「オッサン達ヒビってンじゃねぇか?」
黒瑯に向かって行く。
「オッサンいねぇし」
小学生達を庇いつつ、先に出した。
「お前だよ! オッサン!」
「黒瑯らしいよ」くすくす♪
「あのなぁ、オレがオッサンなら青生もだろ。
つか笑ってる紅火もだっ!」
「ってーなっ!!」
黒瑯に駆け寄ったうちの1人が叫んだ。
「勝手に寄って来て足出したんだから踏んでも仕方ねぇだろ」
「全て録画している。不慮の事故だ」
「サッスガ紅火だなっ♪」
その間に高校生達は戸を閉めて前に集まり、立ち塞がっていた。
「勝負しろよな。
俺達が勝ったらダチ返してもらうぞ」
「ダチって? お前ら3人のコトだろ。
返すも何も、お前らなんかいらねぇよ」
「あのチビ共だっ!!」
「で、オレ達が勝ったら?」
「ナニ言ってやがる。ワケねーだろ」
「勝ったらナンでも聞いてやるよ♪」
「オッサンにゃムリだろーからな♪」
「青生 紅火、来いよ」
「仕方ないなぁ……」「ふむ……」
戸に向かいたくもないので瞬移して入った。
「なっ!?」「オイ!」「ナニしたっ!?」
「始めねぇのか?」ニヤッ。
―◦―
祐斗と拓斗の母親達は、話がギリギリ聞き取れる距離の物陰に隠れていた。
「やっぱり不良兄弟じゃないのっ」囁き抗議!
「子供達を助けただけじゃないの。
普通できないわよ。立派な行為よ」
「喧嘩するんじゃないの?」
「しないわよ。
ほらバスケットするみたいよ」
―◦―
「コートはハーフ。リングは1つ。
3×3のストリートボールだね?」
「つまりルールは あってないよーなモンだ♪」
「ま、いいけどね」
「シュート入ったら3ポイントラインから再開か?」
「カンケーないねっ」ヘヘン♪
始める合図も何も無く、高校生の1人が持っていたボールをシュートした。
「ま、入ったら攻守交代ってくらいは守ってやるよ♪」
バイ~ン。
「おい、そンくらい入れ――あっ!」
黒瑯が跳んでリバウンドを奪って離れた。
「ボール取っても、シュート入っても、そのまま続けていいんだな?」
テンテンテンテン――
「ンな まどろっこしいのなんか全ナシだっ!」突進!
「よーし♪ そんじゃこのままなっ♪」
軽く躱して青生にパスした。
―・―*―・―
「社長ってのはな、社員とその家族皆の金銭面だけじゃなく人生も夢も背負うんだよ」
「ええ~~」
「現場アルバイトを含めると万を越える人間が この会社を支えてるんだ。
そのお返しなんだから出し惜しみすんな」
「出し惜しみじゃなくてぇ」
「ったくフニャフニャしやがって。
ヨシ決めた。
琢矢がシッカリ自分の足で踏ん張れるまで、俺は『坊っちゃん』と呼ぶからな」
「そんなぁ、今度は子供扱いですか?」
「オトナだと認められるように気合い入れて頑張りやがれ。
坊っちゃんが戻る迄に、俺はこの会社をもっと大きくしておいてやる。
背負うものを大きくするんだから、受け止めて支えられる大きな者になってみせやがれ」
「やっぱり俺、バンドを続けて――」
「逃げるのか?」
「じゃなくてホントはバンドを続けたかったんですよ」
「だったら続けりゃいい。
ただし親と違う道を選ぶんなら親を頼るな。
バンドで食ってけるようになれ。
バンドに限らず違う道に進みたいのなら親を頼らず生きていけ」
「そんなぁ」
「恵まれた環境で何不自由無く育ててもらって、好き勝手させてもらえた事に先ずは感謝しろ。
そこに込められた期待に背くんだ。
だったら自分の足で歩け。
そんな甘えた考えだから『坊っちゃん』なんだよ。
親父サンの子として生まれたのは、確かに坊っちゃんが選んだ事じゃない。
だがそれは誰しも同じだ。
選べもしない上に責任ってオマケも乗っかってる。
どの道を選ぼうとも等価の重さが乗っかるんだよ」
「常務は……?」
「自分の足で歩いているつもりだが?」
「……ですよね。
でも俺、自信なんて……」
「最初からあるかよ。
積み上げていくんだよ。
何度も何度も根底から崩されるけどな、積み上げ続けるんだよ。
資格取得も、その土台の一部だ。
そこに経験が加わって次第に頑丈な土台に成っていくんだよ。
そうしてやっと積み上げが始まる。
大勢の人生を背負うのも、別の道を自力で進むのも等価だ。
今日はここまでだ。よく考えろ」
と、偉そうに言ってるけど俺もなぁ……。
これからは二足の草鞋なんだから
よ~く考えねぇとなぁ……。
ま、親父サンへの恩返しは
また別として考えねぇとな。
この会社を潰さねぇように、
吸収されねぇように、
シッカリ備えねぇとな。
案の定、彩桜と青生は優勝しました。
配信されているのは気付いているんでしょうか?
そして帰り道、どう見ても不良な高校生達に関わってしまいました。
まぁ、輝竜兄弟が負けるなんて有り得ませんけど。
常務と坊っちゃん、それぞれ誰なのか、もうお分かりでしょうが、これからもチョコチョコ出てきます。




