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彩桜は踊るヒトデ



 放課後、祐斗は輝竜家に大勢が集まる準備を手伝おうと、彩桜を白儀に引き留めてもらって先に帰宅した。


鞄を置いて輝竜家へと走り出すと、

「待てよ! 俺も行くから!」

斜め前の家に入ろうとしていた堅太が反転して駆けて来た。


「部活は?」


「俺も歴史研究部に入ったんだ♪

 今日はソッチ部活だからって帰ったんだ♪

 で、着替えるから待ってくれ!」家の中に!


「え?」


窓を開けて引っ込んだ。

「一緒に勉強したら俺でも櫻咲に行けっかな♪」


「そんな理由で!?」


「じゃねーよ♪

 もっと彩桜を見てたくてな♪」


「それなら納得♪」


「祐斗に続いて入りたかったんだけどな。

 彩桜をバスケ部に連れて来いって先輩達がウルサくてな。

 今朝、部活掲示板に彩桜が部長になったのが貼り出されてたから入部届け出したんだ♪」


「バスケ部の先輩、怒ってなかった?」


「バスケ部に入れて、世界の宝が突き指したらどーするんですか?

 だから彩桜は部長になったんですよ。

 つったら黙ったよ♪」


祐斗が吹き出した。


 笑っていると窓が閉まり、堅太が出て来た。

「俺だってな、先輩には『です』くらい使うんだよっ」


「ソコじゃないけど、でも堅太って意外と考えてるんだね♪」


「あのなぁ。

 ま、そのとーり意外とだよなっ♪

 んで、勉強しないとバスケ部も辞めさせられそーだから歴史研究部に入ります。

 ってな♪」


「嘘てんこ盛りだねっ♪」


「いや、半分マジなんだよなぁコレが」


「それじゃあホントに勉強するために?」


「まぁな。あ……恭弥だ」


「だね。恭弥!」


輝竜家の玄関前で俯いていた恭弥が向いた。


「彩桜と話せなかったのかな?」


「泣きそうな顔だよな」足を速めた。




「どうしたの?」

「東京で彩桜とナンかあったのか?」

着くなり各々が声を出した。


「僕……輝竜君に……」また俯いた。


「おい、彩桜が直史とコッチ来てるぞ」

「とりあえず隠れよう」玄関横の植え込みへ!


植え込みに隠れて暫し。二人をやり過ごした。



―◦―



「たっだいま~♪ 黒瑯兄、何この料理?」


「今日はお向かいさんの歓迎会なんだろ?」


「ほえ?」直史がアワアワしている。


「直史は知ってそーだよな♪

 彩桜にはサプライズだったかぁ」


「どぉして俺にサプライズ?」


「東京の友達だからじゃねぇか?」


「ふぅん」直史、激しくコクコク!


「ま、知らなかったコトにしてくれ♪

 部屋かアトリエで遊んでろ♪

 つまみ食いなら手を洗ってからなっ♪」


「うんっ♪」


〈で、庭の3人、見えてるんだろ?〉

〈うん。でも祐斗と堅太に任せたいから~〉

〈そっか。ま、それが良さそうだな〉



―◦―



「どーする?」


「手伝い、今更だよね。

 僕ん家で話さない?

 デュークも連れて来てあげたいし」

寄って来た犬達を撫でている。


「んじゃ行くか♪ 恭弥、ほら立てよ」



―◦―



 そして久世家の庭。

ずっと無言で俯いていた恭弥が、小屋から出たデュークを見て後退った。


「デュークなら大丈夫だよ」

「コイツ、見た目こんなだけど優しくて賢いヤツなんだ。俺よかずっと賢いぞ♪」


「そ、そう?」


「恭弥がビビるから、また『ごめんなさい』な顔してるぞ」

「デューク、姿が怖いのを気にしてるんだ。

 だからいつも『怖くて ごめんなさい』なんだよ」

「噛みついたりしやしないって。コッチ来いよ」


「うん……」恐る恐る近付いた。


デュークは地面にベッタリ伏せて縮こまった。

祐斗と堅太が双方に『大丈夫だよ』と背を撫でる。


「ホントに……おとなしいね。

 ……輝竜君みたい」


「彩桜は怖くなんか――あ、確かにな。

 怖いっての、あの得体の知れねぇ力のコトだろ?」


恭弥が小さく頷いた。


「東京でのコト聞く前に俺のを話す。

 祐斗も恭弥も年中組からだったからな」


「言われてみれば入園した時にはもう彩桜はイジメられてたね」


「だよ。年少組から入園したヤツしか原因なんか知らねぇハズだ。

 俺が決まってるんだから従えよ、ってウム言わさなかったからな」


「「そうだったね」」


「入園して間がない頃だから、たぶん5月だ。

 昼寝の後、園庭で遊んでたら急に腕 掴まれて、『踏んじゃダメ!』ってな」


「「同じだね……」」


「お前らもなのか?」


「僕は卒園間近。

『行っちゃダメ!』だったよ。

 堅太は休んでた日だったね」


「あ~、食い過ぎて腹下してた日かな?」


「僕は小3の冬、授業でマラソンしてて……」


「な~んだ。

 俺だけの特別極秘だと思ってたのにな。


 で、頭キて突き飛ばして、何度か蹴って。

 引っ張ってってトイレの個室に閉じ込めたんだ。

 周りにいたヤツらにドア押さえてもらってる間に四角いモップバケツ置いて、水入れて開かなくして。

 ジューブン泣いただろうと思って帰る頃に出したら、笑ってたんだよ。

『出してくれて ありがと♪』って。

 それでもっと腹立って無視するか、突き飛ばしたり、殴ったり蹴ったりするかになっちまったんだ」


「僕が入園した頃には、彩桜は その状態を受け入れてたよね。

 みんなから離れて、独りで動物や物と話してたよね」


「だったな。

 園庭に入って来た猫とかスズメとかな」


「うん……スズメ、頭とか肩とかに いっぱい乗せて、手にも乗せて話してた……」


「で、祐斗は?」


「腕を掴まれて怒って……いっぱい蹴ったよ。

 3月の初めだから寒かったのに水掛けて。

 泥の中に血が残ってたの忘れられないよ。

 それで彩桜は来なくなって……東京に」


「祐斗が原因だったのか。俺だと思ってたよ。

 ま、他のヤツから祐斗がボコったってのは聞いてたんだけどな。

 いつ、どのくらいってのは知らなかったんだ。

 アタマとしちゃあ知ったかぶりするしかなかったんだよな」


「東京での輝竜君は空気だった。

 動物と話してるのなんて見た覚えないよ。

 いつも独りで俯いてた。

 イジメられてもなかったけど、誰とも話してなかったと思う。

 僕は……ずっと避けてたんだ。

 ずっと同じクラスだったのに……」


「で、3年の冬に?」


「うん。学校の周り走ってて。

 僕には何も見えなかったし聞こえなかったけど、友達は『食ってやる』って低い声を聞いたんだって。

 みんな校庭に逃げたけど僕は走り続けて。

 それで輝竜君に止められて、小門から校庭に押し込まれたんだ。


 今日、教頭先生に話したら、前に居たのは怨霊で、道に残った輝竜君は祓い屋さん達と戦ったんだろうって。

 校庭は結界で護られてたんだろうって。

 だから門の向こうは何も見えなかったんだ。

 景色は写真みたいに動かなかった。

 それから僕は輝竜君が怖くなって……輝竜君も僕から逃げるようになったんだ」


「またボコられると思ったんじゃねぇか?」

「そうかもね」


「4年の夏、水泳の授業中だった。

 泳いでたら僕の足に黒い糸――ううん。髪の毛だと思う。

 長いのが束になって絡まってて、水の中に引き込まれたんだ。

 誰にも知られずに溺れ死ぬのか、って泣いてたら白っぽい細長い生き物が髪の毛を切って助けてくれたんだ。――って、信じてくれる?」


「龍だよね? 彩桜の」「彩桜の龍!?」


「うん、居るんだよ。

 同じ経験した堅太と恭弥だから話すけど、誰にも言わないでね。

 僕が見たのは黒い龍だったけど、彩桜が乗って怨霊と戦ってたんだ」


「教頭先生は桜色の龍だって、すぐに言ってくれたよ。

 水から顔を出した僕に輝竜君が『もぉ大丈夫だよ』って……。

 だから……もっと怖くなったんだ。

 その授業の後、2学期の学芸祭でする劇の役を決めたんだ。浦島太郎の。

 その時、僕は強引に輝竜君をヒトデ役にして、衣装も魚役とは違う着ぐるみに決めたんだ」


「ヒトデ!?」「祐斗、先に続きだ」「うん」


「夏休み中に衣装とか道具とか作れるように、決めるのは7月だったんだ。

 僕は母さんにヒトデの着ぐるみを作ってもらったんだ。

 それ着て踊るって言わずに、丈夫に作ってって頼んで。

 ピンとなるように芯が入ってて、綿も入ってて、ぷくぷくのヒトデを輝竜君に押しつけたんだよ。

 それでも足りずに、当日 僕は家にあったカイロを全部 持ってって、内側ちょっと破って大量に突っ込んだんだ。

 父さんが冬に外で働く時用のが沢山あったから……たぶん100コくらい入れたんだ。まだ暑い9月なのに……」


「けど彩桜なら涼しい顔で踊りそうだよな♪」


「そうなんだよ。笑って踊りきったんだ。

 何度か出番があったから終わるまで着たままで。

 入りの時からだから2時間くらい」


「ゲ……」「だからヒトデなんだ……」


「え?」「さっきからナンだよ?」


「うん……トラウマなんだと思う」







同じような体験をした3人が話しているうちに彩桜とヒトデの話になりました。

祐斗はトラウマだと思っていますが、真相は?


輝竜家に集まる名目は田城家歓迎会でした。

さて、どちらも どうなることやらです。



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