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転校生



 そして1時限目が全校集会に変わった木曜日。

展示の部で表彰された歴史研究部を代表して徹が藤原京について発表し、演奏の部で表彰される彩桜と祐斗の番になった。


「やっぱり弾くのかな?」「そぉみたい~」

「昨日、言ってくれればいいのに」「ねぇ」

「でも毎日ピアノで遊んでて良かったね♪」

「うんうん♪ 今日も楽しく弾こうねっ♪」


呼ばれて壇上に行くと、隅に出していたらしいピアノが中央へと動かされている。


「「やっぱり~」」

顔を見合わせて小さく肩を竦めたのが揃った。

「「ピッタリだから大丈夫♪」」

笑顔で校長の前に並んだ。



 受けた表彰状を楽譜立てに重ねて置き、遊ぶ時と同じようにリラックスして笑顔のまま弾き始めた。



―◦―



「おい凌央」斜め前の背中を突っつく。


「何?」堅太の方は向かず、そっけない。


「さっき放送室に、お前の母ちゃん入らなかったか?」

ステージ横の小部屋を見ている。


「来るなんて聞いてない。

 あっ……誰か入った」

渋々といった様子で放送室をチラッと見た凌央が、そのすぐ近くの非常口へと視線を移した。


「だな。顔は見えなかったけど誰かの母ちゃんだよな」


「そうだね。たぶん」


「何してるんだろな。

 ん? 紙が回って来てる?」


「うん、来たよ」後ろに回す為に振り向いた。

「彩桜の歌。次に弾くんじゃない?」


「そっか♪

 あ、来た来た♪」1枚取って後ろに。


「また入った。直史のお母さんだ」


「ママ友軍団、集められてるのか?」


「彩桜のを聴きに? 有り得ないよ」


「ん~~、だな。

 教頭に騙されて来たとか?♪」


「それなら有り得るね」


 曲が終わった。

彩桜と祐斗は立ち上がって礼をして去ろうとしたが、砂原が出て来て椅子に戻された。

そして彩桜の横にマイクが増えた。



―◦―



「祐斗、俺か青生兄パート歌える?」


「無理だよ。弾くので精一杯」


「ん~、今は俺だけで歌うけど、次はソレ練習ねっ♪」


「えっ!?」


 ニコニコ彩桜が弾き始めた。

出だしは彩桜だけなので それで良いのだが、祐斗は慌てて重ねた。


 彩桜はソロのつもりで歌い出したが、聴いている側からも声が上がり重なったので思わず笑顔を向けた。


「彩桜、マイク!」


『あっ!』という顔で向き直って続けた。



―◦―



 彩桜と祐斗が壇上に行った後、放送室近くの非常口とは舞台を挟んで反対側の搬入口から控え室に入った二人も、その演奏を聴いていた。


「教頭先生。歌ってるの輝竜君ですよね?」


「そうですよ。輝竜君と久世君です」


「久世……祐斗君!?」


「はい。田城(たしろ)君は東京の小学校で輝竜君と一緒だったのですね?」


「はい……それと、保育所でも。

 僕が東京に引っ越すまで……」


「そうでしたか。では全く知らない中に入るのではありませんから、すぐに馴染めますね。安心しました」


田城は俯いて、ふるふると首を横に振った。

「僕……僕は……輝竜君に……」


「此処を離れましょう。

 教室に行く前に落ち着くべきです」


「……はい」



―◦―



 教頭と転校生の田城(たしろ) 恭弥(きょうや)は、歴史研究部も使っている和室で向かい合って座った。

「何があったのか、話して頂けますか?」


「……はい。

 保育所で一緒だったのは年中組の1年間だけでした。

 僕は年中組から通い始めましたので。


 僕は母から言われていたので、輝竜君には近寄らないようにしてました。

 だから祐斗君達が無視したり酷いこと言ったりしてたのは知ってましたけど、遠くから見ていただけでした。

 小学校での輝竜君は とても静かで……居ないみたいなくらい空気でした。

 だから やっぱり話しもしてなくて……。


 たぶんキッカケは体育のマラソンの時で。

 だから3年生の冬でした。

 学校の周りを走っていたら、前を走ってた子達が立ち止まって、何か叫んだりして、その時 近かった東小門から校庭に走ったんです。

 僕は、どうしたんだろうとは思いましたが、そのまま走っていたら後ろから腕を掴まれたんです。

『逃げて』って聞こえて後ろを見たら、輝竜君が僕じゃなく、前を睨んでました。

『前は向かずに校庭に逃げて』もう一度ハッキリそう言いました。

 どうしてなのか聞こうとしたら、女の人が2人、凄い速さで走って来て、『早く校庭に!』って。

 それで輝竜君に東小門から押し込まれて……もう一度 行こうとしたけど、見えない壁に通せんぼされていて……女の人も輝竜君も見えなかったんです」


思い出し難いのか、言葉を止めて目を閉じた。



―・―*―・―



 同じ頃、校長室では『ママ友軍団』が校長を睨んでいた。

 文化祭の時に比べると随分と減って10人程が応接卓を挟んで、運び込んだ椅子に座っており、ドア近くには祐斗と直史の母が立っていた。田城の母は、そのどちらからも離れて立っていた。


「私達は何も教頭先生を指名した訳ではありませんので、これ以上 待たなくても、校長先生から ご説明いただけませんか?」

イライラを露にしているのは凌央の母だった。


「ですが、文化祭の日に皆様とお話ししたのは教頭です。当事者がお話しするのが最善と考えますが?

 ですが、ただ待つと言うのも、と仰るのでしたら、こちらをご覧ください」

段ボール箱を運んで応接卓に置いた。


「これは?」


「文化祭の投票用紙です。

 一般の方からの率直な感想ですよ。

 近い文面のものを纏めておりますので、一番上をお読みくだされば十分です」


ママ友軍団は渋々なのを隠そうともせずに束を取って読み始めた。



―・―*―・―



「マラソンの時の状況は分かりました。

 その後、どうしたのです?」


教頭の声で、やっと田城が顔を上げた。

「えっと……はい。

 それから輝竜君は僕から逃げるようになって、僕も なんだか怖くて避けてて……でも、夏休みの少し前、今度は水泳の授業中でした」


「4年生の、ですね?」


「はい。

 泳いでいたら足が動かなくなって、引っ張られたんです。

 足首を掴まれてるみたいで。

 確かめようとして身体を捻ったら、足に黒い糸の束みたいなのが巻きついてて、プールの底に繋がってたんです。

 それがグイグイ引っ張ってて。

 もう完全に水の中で……暴れても水面には手も出せなくて……オバケに殺されるって思った時に、長い生き物が横切って、黒いのを切ってくれたんです。

 黒いの、バラバラって落ちて消えました。

 長い生き物が僕のお尻を突いて上げてくれました。

 水から顔を出せて……助かったって涙が出て……そしたら『もぉ大丈夫だよ』って輝竜君が背中をトントンって……」


「そうですか。

 二度も助けてもらったのですね。

 長い生き物は桜色の龍ではありませんか?」


「桜色……白く見えましたけど……そうかもしれません。

 教頭先生は龍って信じてくれますか?」


「はい。私も龍神様に助けて頂いた事がありますので」


「もっと早く教頭先生に会えてたら、あんなこと……僕は……」



―・―*―・―



「全て読まなくても、あの子が素晴らしいと仰りたいのは、もう よーーーく分かっております。

 話を進めていただけませんか?」


「でしたら、次は――」

ノートパソコンを運んで画面を向けた。

「――こちらの動画をご覧ください」



―・―*―・―



「僕は輝竜君が怖くて……でも祐斗君みたいに無視も、もうできなくて……だから離れてもらいたくて……」


「虐めたのですか?」


躊躇いつつ頷いた。

「はい。2学期に文化祭みたいな学芸祭があって、僕達のクラスは劇に決まってたんです。

 その水泳の後、役を決めることになってて。

 浦島太郎で……ヒトデとワカメの役は、みんな嫌がってて……だから輝竜君をヒトデに推薦したんです。

 ワカメ役が決まらないんなら、ワカメを持って踊ったらいいんじゃないか、って」


「その程度では虐めたとは言えませんよ?

 そう思い悩まずともよいと思いますよ。

 輝竜君は心の強い子ですからね」


「まだあるんです。

 魚とかはヒラヒラした衣装で、頭に魚の絵を着けて踊るんです。

 ヒトデも そうだったんです。

 でも着ぐるみにした方がいいって言って、夏休み中に母さんに縫ってもらったんです。

 踊るとか言わずに、綿を入れて頑丈に。

 だから、それだけでも踊るのは大変だったと思うんです。

 それなのに僕……当日、カイロをたくさん入れたんです。

 内側、少し破って……押し込んで……。

 9月だったから、きっと凄く熱くて、重たかったと思います。

 でも輝竜君は笑顔で踊ったんです。


 僕……謝らないとって思ってたんです。

 何日か悩んでて……でも謝ろうって。

 そしたら朝お腹が痛くなって、欠席して……次の日、学校に行ったら輝竜君は転校してたんです」


「そうですか。

 それでも謝ろうと、他の中学校ではなく此方にいらしたのですね?」


「父さんは単身赴任を考えてたみたいでした。

 でも……僕も行きたいから、って……。

 保育所の友達と同じ学校がいいって……」


「その決心、揺らいでいますか?」


「いいえ。謝りたいです」


「では、教室に参りましょう。

 そうまでして いらしたのですから、謝って、仲良くなってくださいね。

 輝竜君と同じクラスですので」


「同じ……はい。あっ――」オバケ!?


「おや。

 スザクイン殿、如何なさいましたか?」


「少し補足をと思いまして♪」







Uターン転校生・田城(たしろ) 恭弥(きょうや)の話で、東京に居た頃の彩桜の様子が垣間見えました。


優しくて気弱そうな少年までもを動かしてしまう敵神の『縛り』は、祐斗達を見ていると、その後、宿主達にも苦しみを与えています。

その事に気付いた時、この正体を突き止めようとソラも彩桜も動き始めます。



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