歴史研究部の新部長
彩桜達が牧場から帰ると、アトリエで白儀と砂原が待っていた。
「教頭先生、今日は部活しませんよ?」
「砂原先生は どぉして?」
「職員会議の結果を伝えに来ただけですよ」
「明日の全校集会で文化祭の表彰式をするのよ」
「ってコトは、祐斗と彩桜のピアノが表彰されるんだな?♪」
「歴史研究部も、じゃない?♪」
堅太と直史が嬉しそうに祐斗と彩桜を突っついた。
「その通りよ。
火曜日に表彰式をする予定だったのに、来客投票の集計が間に合わなかったのは票が分散したからではないの。
余白に感想を書いてくださった方が多かったからなのよ。
票はピアノ連弾に集中していたわ」
「ジオラマも同じくなのです。
来年の展示も期待するとの言葉も多くありましたよ。
それで表彰式なのですが、会議では二人に纏めて渡せばとの意見が多かったのです。
ですが私は表彰されるべき部長は古屋君だと主張したのです。
如何です? 新部長が受けますか?」
「「トーゼン徹君です!」」
「では、そのように。
それで、新部長は決まりましたか?」
彩桜に視線が集まる。
「祐斗でしょ。アタマなんだから~♪」
「春から部に居たのは彩桜なんだから、彩桜に決まりだよ」
「おいおい、ナニ険悪になってるんだよ。
変な押しつけ合いすんなよな。
彩桜、やっといた方がいいと思うぞ」
「堅太、それって内申点の為?」
「ナニ言ってるんだよ、凌央は。
そんなだから彩桜に追いつけないんだぞ。
視野を拡げろよな。
歴史研究部はカケモチ可な部だろ?
アッチコッチから欲しがられてる彩桜なんだからな、どっか連れてかれるぞ。
部長だけはカケモチが許されない。
だから彩桜がやるべきだ」
「確かにね。
サッカー部も諦めてないんだよね」
「バスケ部も連れて来いってウルサイんだ」
「吹奏楽部も音楽部も合唱部も美術部も欲しがっているわよ♪
これぞ引く手数多ね♪」
「じゃあ部長する~。祐斗、副部長ね?」
「うん。それならいいよ」
「では部長が輝竜君、副部長が久世君ですね。
吾倉君、波希君。よろしいですか?」
「「はい」♪」
―・―*―・―
その夜遅く、オニキスと彩桜はルルクルを連れてキツネの社を訪れた。
オフォクスに経緯を聞かれたルルクルの話は思い出しながらだったので、断片的でパズルのようなものを行ったり来たりで沢山していた。
「ふむ。つまり彼の多重事故で白桜は命を落とし、ラピスリがルルクルと入れ換えて命を保ったのだな?」
「はい!
あの時はパニック状態で、あまり覚えていないのですが、そうだと思います!
話が纏まらなくてスミマセン!」
「無自覚であったのだから十分な情報だ。
それだけ思い出せたのならば、神力も随分と開いたのではないか?」
「はい♪ ありがとうございます♪」
「尾に保管している記憶を解いてやろう」
「尾に!? 良かったぁ。
あっ、ありがとうございます!♪」
ルルクルを包んだ光が収束すると、白馬の背には半透明な翼が はためいていた。
「ルルクル、ソレって……フツーに乗っていいの?」
「大丈夫だよ♪ 力が見えてるだけだから♪」
「人姿にも成れる筈だ」
「やってみます♪
わあっ♪ なれました♪」
白に近いプラチナブロンドの髪を揺らして細身だが筋肉質な青年がペタパタと身体を確かめている。
「ふむ。次は修行の仕方だな」
ルルクルの額に手を翳した。
「瞑想せよ。
最初は儂が神力を引き上げる。
保ってみよ」
「はい!」「あ♪ 瑠璃姉♪」
「お稲荷様、御用ですか?
その白馬神様の件ですか?」
「事故に遇うた馬と神の魂を入れ替えたのはラピスラズリか?」
「はい。白馬神様に飛んだものらしき死印はトラックに着いておりましたので、内外の魂を入れ替えれば生きられると仰って、そうなさいました。
ですが無自覚神様でしたので、牧場を訪れる度に神力を注ぐよう仰っただけで、以降は何も。
自覚なさったのですね?」
「彩桜が目覚めさせたそうだ」
「そうですか」彩桜に微笑む。
「事故の時、運転してたの牧丘さんでしょ?
足の怪我、治す?」
「少しずつ治している」
「やっぱり~♪ 俺も治癒するねっ♪」
「そんじゃあオレもなっ♪」「うん♪」
「そうか。頼む」
「ルルクル、休憩だ」「はい♪」
「ルルクルも治癒してね♪」「うん♪」
「競技会も頑張ろうねっ♪」「うん♪」
「競技会?」「いつ?」
「「今週の日曜♪」」
「日曜か。ならばよい」「ん?」
「青生は土曜だからな」「何が?」
「スケボーの競技会だ」「見に行く!♪」
―・―*―・―
その頃、死司最高司の館で臥せったままのザブダクルが隠し持つ封珠の内では、エーデリリィとユーチャリスがダクラナタンを囲む障壁を破壊すべく両手を当てて気を高めていた。
二龍の純白の鱗からは虹光の煌めきが炎の如く立ち昇っている。
勿論、障壁の内からもダクラナタンが高めた破邪を全力で注いでいる。
〈ダクラナタン、無理はしないで!〉
〈破邪だけは奴に吸い取られません!
ですので大丈夫ですっ!〉
〈ユーチャリス、浄破邪に!〉〈はい!〉
―◦―
ザブダクルは原因不明の苦しみに悶えていた。
〈エーデ……マディア!〉〈はい!〉
助けを求めたいが心話すらも儘ならない。
続く言葉を待っているのは分かっているが、もどかしく歯噛みしていると――
『失礼致します!』
――執務室に続く扉が開き、エーデラークが飛んで来た。
「如何なさいましたか!? 最高司様!」
ザブダクルは答えようとしたが唇が震えただけで声は出ず、瞼も固く閉じたままだった。
それでも震える手が少しだけ上がった。
その弱々しい手をエーデラークが取り、治癒を伝わせて全身を覆った。
〈ありがとう……〉
それだけを伝えるとザブダクルは意識を失った。
これって……破邪? 内側から?
エーデが また何かしてるんだね♪
―◦―
とうとう障壁に亀裂が走った。
〈あと少しよ!〉
更に更にと破邪を強めると、一瞬だけ障壁は筒状の全貌を露にし、硝子のように弾け散った。
しかしその欠片が降る事は無く、キラキラと宙で瞬いては消えていった。
〈綺麗ね……〉〈そうですね……〉
見上げていると、上へ上へと煌めく箇所が移っていき、外殻に達したらしく煌めきの輪を一際輝かせて見せた後、終わった。
〈外に通じていたのですね……〉
〈それって……つまり、あの壁はダグラナタンの動きを封じていただけではなくて、あの筒を通じてダグラナタンの神力をザブダクルに流していたのではないかしら?〉
〈きっとそうですね!〉
〈ダグラナタン、どうかしら?
もう吸い取られないのではないかしら?〉
〈はい……そのようです。
と、同時に……何と申しますか……とても身軽になりました。
どうやら身体と完全に切り離されたようです〉
〈〈えっ!?〉〉
〈清々しい心地ですよ。
あの身体は『過去』。
くれてやりますよ。
もう吸い取られないのなら、もう一度、身体が成せるように修行するのみです〉
〈そうね♪〉〈一緒に頑張りましょう!〉
〈はい! ご指導、宜しくお願い致します!〉
―◦―
〖マっディア~♪〗
イーリスタ父様!♪
〖うんうん♪ 今日も元気だねっ♪〗
はい!♪
またエーデが楽しそうで、
ザブダクルが気絶したんです。
内側から破邪を浴びたみたいなんです♪
〖さっすがエーデちゃんだねっ♪〗
はい♪
月の皆様は? ご無事ですか?
〖楽しく修行して、禍と遊んでるよ♪
み~んな元気♪
あとはカイダーム様、クウダーム様の思い出し待ちだけかなっ。
これが なかなかに大変なんだよね~〗
それじゃあ まだ古のお話は
聞けてないんですね?
〖そ~なんだよね~。
あ♪ 道は順調に、途中までのを増やしてってるからねっ♪
も~チョイ待っててねっ♪〗
はい♪
ザブダクルは封珠の事、
すっかり忘れてるんでしょうか?
破邪を浴びても取り出して確かめたり
しないんですよ。
〖忘れてそ~だよね~。
も~ そのままでいいんじゃない?
タップリ何度も浴びてたらダグラナタンみたく改心するかもね~♪〗
そうですね♪
「エーデ……」「はい……?」寝言?
〖寝言だね~♪
な~んか伝わっちゃった~♪〗
えっと、何が?
〖エーデラーク大好き~って♪〗
ええっ!?
〖今すっごくイヤそ~な顔したでしょ♪〗
それは……しますよ。
〖顔に出ないよ~に気をつけてね。
ある意味これまでよりずっと危険度が増したんだから。
可愛さ余って~ってコトにならないよ~に演技 徹底してねっ〗
はい!
話し方はいつも通りだが、いつになく真剣なイーリスタの声に、マディアは固く気を引き締めた。
封印が雑なのでルルクルはどんどん神らしく戻っていっています。
どうやら瑠璃は牛のお産以降、山南牧場に よく行っているようですね。
彩桜は馬術、青生はスケボーの競技会に出る事に。忙しい兄弟です。
青生はきっと同窓会で そう決まったんでしょうね。




