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血の欠片



「バステート様ぁ、どこ行くんですかぁ?」


「修行してなさい」畑に向かっている。


「修行しますから見ててください♪」


「今日は狐儀様の日でしょ?」


「お師匠様も消えちゃったんですよぉ」


「私じゃなく欠片達と話しなさい」


「えぇえ~~」ぶぅ~。〈静かになさい〉

バステートは察知した悪しき気に集中した。


「ぇ?」〈奥に戻るわよ〉「ゎ――」消えた。



―◦―



 バステートが言った『奥』とは、かつてサイオンジがキツネを匿っていた奥ノ山の七合目に在る『山の社』の事で、狐儀が古い社に神世の物を重ね整えて住まいとしており、今はバステートも其処で修行している場所だった。


〈いい加減になさい〉〈だ、だって!〉

〈四の五の言わない〉〈ワケ分かんないし!〉

〈だったら眠ってなさい〉〈ぇ〉ポテッ――。


 ったく!

 流石ティングレイスの子ねっ!

 この厄介な欠片をこの子自身に

 見つけさせないといけないのに――


〈バステート様、申し訳御座いません。

『血の欠片』に動かされ続けているのかを見極めようと致しておりました〉

狐儀が現れて礼。


〈こうも力丸が邪魔をするのは、この禍々しい欠片からの指示なのですか?〉


〈いえ。輝竜家に行くと騒ぐ時の欠片は赤い光を帯びます。

 しかし今は暗いまま。

 指示は出していないようで御座います〉


〈それって、つまり力丸自身の意思で邪魔を?〉


〈そうなりますね。

 バステート様に構って頂きたいのでしょう。

 それに致しましても……力丸には此の欠片は全く見えておらぬのですね。

 此の欠片……もっと浮き上がらせては如何で御座いましょう〉


〈そうですね。

 モグラが近くを彷徨(うろつ)いております。

 ティングレイスの欠片との相乗作用が起こる前に消させなければなりませんね〉


〈結界よりも先に、で御座いますね〉


〈ええ。仕方なく、ですけど……〉



―・―・―*―・―*―・―・―



 ひと月程前――


 山の春は少し遅いが、山の桜は早く咲く。

しかも花が開くのと葉が出るのが同時期なので、バステートは塩漬けにしようと、せっせと若葉を摘んでいた。


「葉っぱなんか どーするんですかぁ?」


「力丸、修行は?」


「気になるんですけどぉ?」


「少しは落ち着いたら?

 想いの欠片は随分と減った筈よ?」


「毎日毎日ソレばっかで飽きちゃいましたから、何か新しい修行させてくださ――」

〈静かに!〉力丸を掴んでキツネの社へ。




〈此処に隠れてなさい〉〈へ?〉

〈出てはならない。それだけよ〉


合点がいかない顔ながらも力丸が頷いたのでバステートは外に出た。




 暫くして、力丸の前に人影が現れた。

輪郭の内側は黒いだけの人影に、ニヤリと笑う赤い口だけが見えた。


「お前、誰だっ!」


「王子様のお父上様にお仕えしておりますモグラと申します」

恭しく胸に手を当てて礼をした。


「お前なんか知らないからなっ!

 それに俺はもう王子なんかヤメたんだっ!

 コッチ来んなっ! どっか行けよっ!」


「そう仰らず。

 陛下の元にお戻りくださいませ」


「イヤだっ!」


「しかし動けないでしょう?

 戻りたいのでしょう?

 さ、私と共に参りましょう」


「来るなっ!

 どーして動けないんだよっ!?」


「それは既に王子様が私の術中にいらっしゃるからで御座いますよ」クックッ。


「笑うなっ! 気色悪いんだよっ!」


「そんなにお嫌でしたら……」


「ナンだよっ!? どっか行けって!!」


「私の友として差し上げましょう」


「お前なんかと友なんてなるもんか!!」


「然様で御座いますか」クックック♪


一瞬で力丸の目の前に。両肩を掴んだ。


「では……そうで御座いますね。

 誓いの口づけでもいたしましょうか」


 ヤメッ――声出ない!? 助けてっ!!

 お師匠様っ!! バステート様っ!!


力丸の視界いっぱいに血赤の鈍い光が広がった。

至近距離でモグラの目が開いたのだった。


「さて、掻き回して頂きましょう。

 傀儡としてお働きくださいませ、王子様」


「何……すれば、いいの? モグラ様……」


「あの家に戻りたいのでしょう?」


「うん……彩桜と、兄貴達の家、だよね?」


「然様で御座います。さ、お早く」

水晶玉を翳し、力丸の額に爪の先をチョン。

「私の欠片の指示の通りに」


「はい、モグラ様……」


バンッ!!「魂浄破邪!!」太い光が迫る!


しかしモグラは(かわ)して消えた。


『おお怖い怖い。

 しかし用は済みました。

 オフォクス様であろうが其れは解けません。

 解けるのはマリュース様のみ。

 つまり私のみで御座います。


 ああそうでした。

 黒猫のお人形をお早くお捜しなされよ。

 本当にお人形になってしまいますよ?』


〈狐儀!!〉〈はっ〉現れた。


「バステートを――其の尾、如何した?」


 狐儀の尾は固まっており、じわりじわりと右足にも及んでいた。


「申し訳御座いません。

 (かす)ってしまいました。

 バステート様は私を(かば)って――」


「ふむ。其のまま持っておれ。

 解輝破呪!」


キツネが放った碧色の光が狐儀とその掌の黒猫の人形を包んだ。



 光が収束し、狐儀が小さな黒猫を床に下ろすと、人姿の女神(バステート)に戻った。


「「有り難う御座います」」深く礼。


「狐儀、傷も深い。休んでおれ」


「しかし――」「有無は言わさぬ」「……は」


「バステート、結界強化を頼めるか?

 儂は此奴を浄化せねばならぬ」


光に包まれている力丸をチラリと見た。


「再び儂の留守を狙われるは目に見えておる。

 しかし見捨ても出来ぬ」



―・―・―*―・―*―・―・―



〈主様にも解けぬ此の欠片……モグラとは何と厄介な――あ……〉


〈あれはマリュースの力を込められた怨霊。

 マリュースではありません。

 お気遣いは無用です。

 モグラがマリュースでない証拠に、私がマリュースの妻である事すら知ってはおりません。

 マリュースの力であれば、私は全て知っているというのに。


 その欠片を込められた者が探し当てるのは容易ではありません。

 しかし見つけ出し、消したいと強く思えば解けるのです。

 懐に入り噛みつく危険を犯さず離れた場所から欠片を込める為に使っていた水晶は既に狐儀様が破壊し、その力も回収できたのですから、もう憂いはありませんよ〉


バステートは最強結界を成しているキツネの社に置いてある蛇型の水晶を神眼で確かめた。


狐儀もその神眼を追って確かめ、そして、

〈こうも頻繁にモグラと戦わねばならぬとは思うておりませんでしたよ〉

このひと月の戦闘を指折り数える。


〈そうね……ずっと神世でアイツが護衛にするのだと私も思ってたわ〉


狐儀とバステートは、左右から力丸の額に(かざ)していた手を離した。


〈モグラの血の欠片。

 此の辺りまで浮かび上がらせればよろしいでしょうか?〉


〈そうね。

 狐儀様、力丸が眠っている間に周りの小さな欠片達とお話し頂けますか?

 私は結界強化に戻ります〉


〈私の怪我をお気遣いくださっておられますか?

 もう十分 癒えましたよ?〉


〈いえ……今日は狐儀様がご指導の日。

 それだけですよ〉

バステトは柔らかく微笑んで瞬移した。



 蛇型の水晶に込めた()の力は具現。

 おそらく主様の父神様のもの。

 浄化と具現の蛇狐神ガイアルフ様の

 御力で御座いましょう。


 ガイアルフ様の欠片を持っている者を

 探さねばなりませんね。

 欠片を奪う為に成仏させられぬよう早急に。



《あの……お話ししても?》


〈あ、では場所を移します〉

力丸を背に乗せて山の社へ。

〈どうぞ何也と〉


《では――》



―・―*―・―



 キツネの社に遠方から稲荷(キツネ)が戻った。


「お稲荷様♪ お帰りなさ~い♪」


「彩桜、また来ていたのか」


「うんっ♪」


「儂を待つ程の悩みとは何だ?」


「あのね、両親と暮らしてないって変?

 兄弟だけで住んでるのって おかしいの?」


「人各々(それぞれ)に事情も在る。

 彩桜達の両親は仕事の為、子を養う為に海外に居るだけだ。

 何の問題が在ろうか。

 愚かな声に耳を貸すな」


「ん♪ お稲荷様のご両親って?」


「知らぬ間に死んでおった」


「へ? 神様って死んじゃうの?」


「人の死とは少々異なるが……現状、生きておるとは言い難い。

 祭壇に置いて在る水晶の蛇が見えるか?」


「うん。普通には見えなくしてるよね?」


「其の通りだ。

 彼の水晶には父の力の欠片が在る。

 つまり現状、父は細かく分けられてしまっておるのだ」


「集めたら……生き返るの?」


「神だからな」


「俺、集めるからねっ。どこに在るの?」


「人の魂の内に隠されておろうな。

 生き人から無理矢理に抜いてはならぬぞ。

 回収は死魂からのみだ」


「ユーレイさんは? 生きてる?」


「生魂だ」


「じゃあ怨霊から抜くんだねっ♪

 あ! 飛翔さんも神様集めてるんだねっ♪」


「其の通りだ」







今回は力丸側のお話でした。


本編で最強の敵として登場したモグラが動き始めました。


敵神は怨霊モグラを使って堕神達を葬り去ろうとしているようです。

その為にダイナストラに『血の欠片』を込め、利用しようとしているようです。

本編で『血を込める』と言っていたアレですね。



狐儀(フェネギ)はガイアルフをオフォクスの父と言っていましたが、自身の祖父でもあります。

こういう表現も、この世界の神様ならではなんです。




ガイアルフ(蛇狐)=ララナルフ(狐)

    ┌───┴──────┐

オフォクス(狐) …トリノクス(蛇狐)…

[キツネ・稲荷]┌──┴──────────┐

       …フェネギ(狐) リグーリ(蛇狐)…

        [狐儀]   [老死神]




 ティングレイス王(人神)

┌───┴──────┐

…第2999王子  第3000王子(全て人神)

 ダイナストラ ショウフルル

  [力丸]     [翔(ショウ)]






  △奥ノ山山頂(奥ノ社)

   ・山の社



      △稲荷山山頂(キツネの社)



山の社は人が建てた稲荷神社ですので人にも見えますが、古くて朽ちた社にしか見えません。

狐儀が住んでいる社は、その稲荷神社に重なっていますが神眼でしか見えないんです。


オフォクスが住んでいるキツネの社と、バステートが住んでいる奥ノ社は神眼でのみ見える社です。



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