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繋がる虹の絆



 音楽部のステージ1時間半を二人三脚で演奏し終えた彩桜と直史は、笑顔で控え室に戻った。


「え……」「彩桜君、誰?」


「どーしてトレービおじさん!?」伊語。

「ジョージおじさんも居たの!?」英語。


トレービは兄達の間で笑っており、搬入口からジョージが入って来た。


「東京で仕事だったんだ♪」以下英語。


「公演なんてあったっけ?」


「収録だよ♪」「で、寄ったんだ♪」

「昨日テレビでお前らを見てな♪」

「駅からはタクシーで来たんだ♪」

「昨日キリュウ兄弟が演奏した場所に行けってな♪」「大至急な♪」


「また騒ぎになっちゃうよ?」


「「騒がせてやればいいさ♪」」「え?」


「あと30分も残ってるんだろ?♪」

「許可は得たよ。演奏しよーぜ♪」


「兄貴達いいの?」


「楽器は運んで来たよ」苦笑。


「やるんだ……」ここまで英語。


『本日も特別公演があります。

 バイオリン、トレービ=リストアーノ様。

 チェロ、ジョージ=サザンクール様。

 伴奏、キリュウ兄弟による弦楽演奏です』


「行こうぜ♪」「ほら早く♪」もちろん英語。


「あんな……楽しそぉに……」「行くぞ彩桜♪」


 輝竜兄弟は苦笑半分で満面笑顔な二人を追ってステージに出た。

しかし入場を待つのか、トレービとジョージの人物紹介や曲紹介やらのアナウンスが続いている。


〈うわ~、また いっぱいだ~〉

〈まだ入って来ているね〉

〈あ、選抜演奏の3年生、前まで来た~〉

〈チェロの男の子とバイオリンの女の子だね?〉

〈おじさん達、有名なソリストだもんね〉

〈邦和には滅多に来ないからね〉


控え室に残った音楽部員達が手招きして、手を繋いでいる二人も特等席に着いた。


〈彩桜がキューピッドになったかな?〉

〈ほえ?〉

〈昨日の演奏前とは雰囲気が違うから〉

〈そっか~♪ 仲良しさんなった~♪〉

〈そろそろだよ。今日は伴奏だからね〉〈ん♪〉


『――では、どうぞ』


 トレービとジョージを囲むように弧を成している兄弟が先に構え、穏やかな音色を紡ぎ始めた。

満足気な笑みを湛えたソリスト達が音を乗せると、途端に華やぐ。


〈こゆトコ、流石なんだよね~♪〉

〈そうだね。目標だね〉〈うん♪〉



―◦―



「徹君こっち」「ありがと」「特等席♪」

白儀教頭に連れられて搬入口から入った徹を祐斗達が控え室に連れて行った。

「教頭先生も座ってよ」「でも展示は?」


「来賓の皆様も生徒も全て此方ですので、閉めて参りましたよ」



「古屋君、ジオラマ見たよ。

 芸術作品だね」

チェロ少年の視線はジョージに向けたままだが微笑んだ。


「そうね。あの装束も単なるコスプレじゃないって解っているわよ」

バイオリン少女もトレービを見ているが微笑んでいる。


「あ、ありがと……」


後は静かに音色に集中した。



―◦―



〈ね……兄貴達。

 俺、夏休みと冬休みの2回なら……兄貴達と一緒で、父ちゃんと母ちゃんも、おじさん達も一緒なら、楽しそ~だからステージ立ちたい。

 この前の……俺の答え〉


〈そうか。ならば、そう伝えておこう〉


〈兄貴達はソレでいいの?〉


〈ほわほわ彩桜は、どーやら俺達の話を聞いてなかったらしいなっ♪〉

〈夢の中で半分くらいかぁ?〉


〈あ~、うん。そぉかも~〉


〈彩桜が言った通りのを進めているよ〉

〈あとは彩桜待ちでなっ♪〉〈そうだ〉


〈彩桜、私も もう大丈夫ですので♪〉


〈うん……うんっ♪ 兄貴達だ~い好き♪〉


 そんな話が聞こえている筈もないトレービとジョージが兄弟に笑顔を向けた。

そして控え室に視線を走らせ、

『あの真剣な少年少女を呼べ』

『楽器はあるんだろ?』と口パク。


 まだ曲は中盤。

兄弟の予備楽器はあるが、自分ので演奏したいだろうと彩桜は考え、どう伝えようかと困っていると――


〈彩桜クン困ってる?〉


〈あ♪ ソラ兄~♪

 徹君の横の3年生に楽器を持って来てって伝えて~♪〉


〈じゃあ、お邪魔するね?〉


〈うんうん♪ 控え室で聴いて~♪〉



 ソラが静かに搬入口を開けると白儀が笑みを向けた。

会釈をして入り、徹の隣の少年の肩に触れた。


驚いて振り向いた少年に、小声で

「楽器を持って来てください」

と伝えると、もっと驚かれてしまった。


〈トレービおじさんとジョージおじさんが一緒に演奏しよ~って♪

 仲良し恋人さん、ご招待~♪〉


彩桜の言葉を丁寧に伝えると、喜びを溢れさせて頷き合った二人は手を繋いだまま外に飛び出した。


〈ソラ兄ありがと~♪〉



―◦―



 曲の終わりに間に合った二人が急いで調弦していると、曲が終わりステージが静かになった。

余韻が消えて拍手が響き渡る中、進行係がマイクを持って走った。


 受け取ったトレービが話し始める前に彩桜がマイクを奪った。

『おじさん達が英語で喋ってもダ~メ。

 通訳するからぁ』


「「そうなのか?」」


『『そうなのか?』って世界共通語だと思ってるでしょ。

 邦和は独自文化を大切にしてるんだからね』


「「へぇ~」」


『このショート公演は文化祭の一部ですので、次の曲は昨日の生徒選抜で弦楽器を演奏した3年生にも加わって頂きます。

 虎縞津(とらしまづ) 匡鷹(ただたか)さん、燕子花(かきつばた) 志乃(しの)さん。

 どうぞ此方に』


――と、出て来てもらい、曲を決めてもらって楽器を構えると、唐突に客席後方が騒がしくなった。


『もしかして取材ですかぁ?』


「来い来い♪」「ステージに上がれ♪」


『えっと、外をぐるっと回って搬入口からステージに来て撮影してください』

手で大きく示した。



 ぐるっと来た。

カメラや大きなマイク等の大きな物を持った人達も走ったらしい。

「生中継させていただきます!」


「好きにしろ~♪」「早くしろよなっ♪」


「だから英語ムリだってばぁ。

 始めていいですか?」


「はいっ! どうぞ!」



―・―*―・―



 演奏を終えて片付け、体育館から出ると外は すっかり暗くなっていた。

出待ちも大勢いたが、白儀が呼んだタクシーを避けたところに教師達が門を閉めるからと散らしてくれた。


 それでようやく人垣を抜けられた直史の母が駆け寄る。

「お母さん、僕、転んじゃった。

 でも彩桜君のお兄さんが痛くなくしてくれたよ。

 痛くないけど約束したから病院に行くね。


 それと、いろいろ悩んでたけど……音楽部、続ける。

 彩桜君に音楽の楽しさ教えてもらった♪

 これからも教えてもらうんだ♪

 通っていいよね?

 歴史研究部にも入っていいよね?」


直史の母は目を潤ませて頷いた。


「それじゃまた明日ね~♪」

タクシーに乗って手を振った。

母も輝竜兄弟に深く頭を下げてから乗り込むと、タクシーは帰る人々を避けつつ遠ざかった。


「教頭先生、教室の片付けは明日でいいんですよね?」

明日月曜日は今日の代休になっている。


「ええ。そのつもりですよ。

 午前中のみ部活申請しておりますよ」


「「ありがとうございます♪」」


「それじゃ、午後は徹君の部活卒業式をウチでねっ♪」


「えっ」「いいね♪」

「僕まだ入部してない」

「俺も行っていいか?」


「来て来て~♪」


「あの……僕達も、いいかな?」

虎縞津と燕子花が申し訳なさそうに近寄った。


「来ってく~ださ~い♪」


「古屋君、僕達も櫻咲(高校)を目指してるんだ。

 一緒に頑張ろう」

虎縞津が手を差し出した。


「えっ……と……」

「おっ友っ達~♪」ガッチリ握手させた。


瑠璃の車が入って来て、兄達は楽器を積み込み始めた。


「トレービおじさん何してるの?」また英語。


「マネージャーにホテルを――」


「泊まってくれないのぉ?」


「「いいのか?♪」」


「あったり前でしょ」


「そんじゃ車に――」「行っちまったな……」


「歩いて帰れるから~♪」

「どうぞ此方に♪」兄達も集まった。


「みんな~♪ また明日ね~♪」



―◦―



 正門横の扉から出ると、ソラとショウが待っていた。


「ソラ兄ありがと♪ ショウもお疲れ♪

 響お姉ちゃんは?」


「用があるって先に帰ったよ。

 ジオラマは?」


「片付け明日~♪ 午後ウチ来れる?」


「うん」〈僕も~♪〉フリフリフリ♪


「徹君の部活卒業式♪ 来てねっ♪」


「うん行くよ♪」〈僕も~♪〉

「片付けが明日ならボク達はここで」

〈じゃ~ね~♪〉アンアンッ♪


「まった明日(あっした)~♪」『お~い白久サン♪』「あれれ?」


兄弟揃って声の方を向く。


『おい誰だよ、呼べば白久サンだけが向くつったの。

 区別つかねーじゃねぇかよ』


「暗がりで誰だぁ?」『あ♪ 白久サン♪』

『それじゃ、常務♪』「ソレ言うなっ!」

白久が暗がりへ走った。


順志(かずし)コノッ!」「だって常務だし♪」

「マジか!?」「白久サンが常務!?」

ワイワイ街灯の下に出て来た。


「これから同窓会なんだ。来てよ」

「先に言えよなっ」「まぁまぁ♪」

白久は連れて行かれた。



『どれが黒瑯?』『知らん』『呼ぶか?』

反対側の暗がり。


「ナンだよ?」黒瑯が行った。


「俺達も同窓会♪」「しよ~かな~と♪」

こっちの集団も街灯の下に出て来た。

「レストランは?」「オーナーシェフ♪」


「春からだよ」


「じゃあ次は予約な♪」「居酒屋へGO♪」

黒瑯も連れて行かれた。



『貴公子様~♪』男女複数の声。


「金錦兄♪ 行ってらっしゃ~い♪」


「だが――」「行って行って~♪」

トレービとジョージを見ている金錦の背を彩桜が押して行った。

「ど~ぞ連れてってく~ださい♪」



『紅火君』『藤慈君』


啓志(ひろし)か……」「巧君ですね?」


各々の団体が街灯の下で笑顔を見せた。


「一緒に来てくれる?」「待ってたんだ」

「どの集まりも昨日の歌とキリュウ兄弟の演奏で同窓会しようってなったんだ」

「それとウッドベースの友情演奏でね♪」


「ふむ……」「そうですか♪」


彩桜が戻った。

「行ってらっしゃ~い♪」大きく手を振る。



「青生兄♪ 帰ろ♪」


ガーッと低い位置で音がし、スケボーが街灯の下を通って来た。


青生が止める。「誰?」


『息子に教えてくれないか?

 近くの公園にハーフパイプがあるんだ』


「青生兄がスケボー!?♪ 見た~い♪」


「彩桜、あのね」「乗って乗って~♪」

「「俺達も見たいぞ♪」」「行こっ♪」


青生を連れに来た笑顔の団体と一緒に楽しく公園に向かった。







どうにか無事に文化祭が終わりました。


兄弟の同級生達は『虹の絆』を聴き、その後の進行係長の言葉で同窓会をしたくなっていました。

2日続けてのキリュウ兄弟の演奏を聴いて、彩桜と直史の頑張りを見て、その思いは強くなり、文化祭前からの順志 啓志 巧の働きかけもあって同窓会を開くに至りました。


兄弟にとっては初めての同窓会です。

良い夜になりそうですね。



桜「おじさん達、帰ろ~♪」


J「けど飯は?」

T「黒瑯が行っちまっただろ」


桜「リーロン居るから大丈夫♪」


T「誰だぁ?」


桜「従兄♪」


T「はあ?」

J「燻銀(いぶし)は一人っ子だろ?」


桜「でも従兄なの~♪ おにぎり美味し~の♪」


T「ま、いっか」

J「世話になってやる♪」


桜「うんっ♪」



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