祐斗とサッカー
翌日。急に居心地の良くなった教室での楽しい昼休み。
おかずは瞬く間に交換されてしまったけど、何でも美味しい状態の彩桜は笑顔のまま昼食を終えた。
「彩桜君、これ解ける?」
「立体パズル?」
「うん。小3の時のクリスマスプレゼントなんだけど解けないままなんだ」
「ふぅん……はい♪」バラバラ~♪
「あ……」
「ゴメン! 戻すねっ」元通り!
「ああっ!」
「ほえ?」
「解けたら次のプレゼントな約束なんだよ」
「じゃあ解き方ねっ♪
外側は五角形と六角形が並んだ球だけど、中はグネグネの棒が絡んでるんだ。
大きな赤と青のパーツがメインなの。
その真ん中に緑が突き刺さってるの。
緑を抜くには黄色と水色が邪魔でしょ。
黄色の邪魔してるのが紫と白。
水色の邪魔してるのが黒とオレンジ。
反対側からチョコッと押し出せるのがオレンジと紫だから一番ね。
抜いたら白が見えるでしょ♪
白を――」『輝竜君』「――はい?」
「あっ、待下部長。
どうかしましたか?」祐斗が先に聞いた。
「今週ずっと休んでた富久なんだが、腹膜炎で手術中らしいんだ。
試合は無理だからスタメンでよろしく」
「部員の1年生を出してください!」
「2年の総意だ。
瑞田先生にも話したら頷いてくれたよ」
「そんなぁ」『彩桜君 出てよ』「ふえっ?」
「廊下から見えたから来たんだ」
「練習で分かってるから出てよ」
1組のサッカー部員達だった。
「でも俺は――」「1年みんな集めます!」
「待って! 行っちゃったぁ」
「それで富久先輩は大丈夫なんですか?」
「盲腸なのに我慢してて腹膜炎になったらしいが、比較的 軽いと聞いたよ。
次の試合には出られるよ」
「集めました!」「早いな」「はい♪」
「彩桜君がスタメンに賛成な人!」
即、全員が手を挙げた。
「決まりねっ♪」「じゃあ応援に行くぞ♪」
今度は彩桜のクラスメイトが同意だと手を挙げる。
「それじゃあ頼んだよ、輝竜君」
笑顔で背を向けた。
「あ、富久の見舞いなんだが――」
話しながら去って行く部長を1年生部員達が追った。祐斗も。
「ふえぇ~」頭を抱える。
「どーして落ち込んでるんだか♪」
「応援、みんなで行くからなっ♪」
「おい彩桜、ちょい」
「堅太君っ!? 引っ張らないでぇ~」
ベランダに連れて行かれてしまった。
「どーするの?」「ここから見てる?」
「ヤバそうだったら助けよう」「だな」
―◦―
「彩桜、絶対 勝て」
「そんなぁ」
「試合の後、祝勝会しろ」
「どぉして俺が?」
「サッカー部を呼ぶのは任せるが、近所のヤツらを集めるんだよ。
他3組のヤツらは誤解したままだ。
このままだと文化祭の展示、壊されるぞ」
「あ……」可能性は否定できない、かぁ。
「祐斗と俺は言葉は悪いがアタマだ。
祐斗がスタメンだから応援しに集まるのは確定だ。
祝勝会も、祐斗が快気祝いだと俺達を集めたように話せば集まる。
そうすれば誤解は解ける。
文化祭を無事にと考えるなら、日曜は最後のチャンスだ」
「そっか……」
「祐斗には言わない。また落ち込むからな。
今度は俺が動く。
だから兄さん達には話しておいてくれ」
「ん……ありがと」
「言うなって。礼とかナシな。
俺達も祐斗と同じだから。
昨日の帰りな。
兄さん達は家の前には行けないからって近くから家に入るのを見守って次に、って送ってってくれたんだよ。
それも心にナンか刺さる感じがしてな。
それと、家に入ろうとしたら隣の おばさんに呼び止められたんだ。
友達いなくて楽器が友達で、家に閉じ籠って兄弟で支え合ってたからキリュウ兄弟が出来上がったんだって言われたよ。
だから考えてたら文化祭ヤバいぞって。
同じクラスのヤツらは喜んで動いてくれる。
また食えるからな♪」
「うん……うん……」うるうるうる――
「な、泣くなっ。
イジメてるみたく見えるだろっ」焦っ。
「えへへ~」ぽろっ。 バンッ!! 「違っ!」
ベランダに面した窓に沢山の掌が見えた。
そして、その向こうから皆が睨んでいた。
「違うんだっ!」「みんな ありがと~」えへっ♪
―・―*―・―・―・―*―・―
そして日曜日の朝。
中渡音第一中学と第二中学のサッカーの試合が間も無く始まる。
「あれ? 徹君とソラ兄?」
礼をして顔を上げた時に気付いた。
「ホントだね。手を振ってるね♪
頑張ろうねっ♪」
「うん!」
各々のポジションへと駆けて行った。
―◦―
「で、やる前から祝勝会って?
僕は勉強してたかったんだけど?」
「祐斗がフォワードなんだから勝つに決まってるだろ。
それに祐斗は この試合で引退なんだよ。
祝うに決まってるだろ。
したけりゃ ここで勉強してろよ」
「引退って、また『ママ』に禁止されたとか?
ま、堅太と祐斗に逆らうとか、愚かとしか言いようがないよね。
こんな眩しい所で勉強だなんて目に悪いし。
仕方ないから見るけどね」
「文句の多いヤツだな」
「どうして輝竜まで出てるの?
試合中に怪我させようとでも?」
「ったく卑怯なヤツ……」ボソ。
「よく聞こえなかったんだけど?
ああそうか。
周りに聞こえたらマズイよね」
「ナイスカット! 行けっ祐斗!」
「うるさいなぁ……」大きな溜め息。
1組の波希 凌央は憎々し気に秋空を睨んだ後、石を拾って地面に数学の公式や英単語を書き始めた。
―◦―
ボールを奪った彩桜からのパスは祐斗へ。
シュートして先取した。
「彩桜君、地面で止まって、足に吸い付くみたいに戻ったんだけど?」
「回転♪」サッと離れた。
―◦―
彩桜は前半だけと言われていたのに、結局、交代を言われる事無く終了まで駆け回ってボールを奪い続け、相手を一度も二中ゴールに近付けなかった。
勝利に沸く中、部長と副部長が肩を落として、スポーツドリンクのボトルをじっと見詰めていた。
「どうかしたのか?」2年が集まる。
「この旨いドリンクも、あの二人も今回限りかと思うとな……」
「そうか……」揃って肩を落とす。
「ドリンクでしたら、またお持ちしますよ。
彩桜、こそこそ逃げずに挨拶なさいね」
朝、運んで来たまま応援していた藤慈が優しく微笑んでいる。
「ふえぇ~い」
祐斗の手を引いて逃げようとしていたが、力が緩んだので祐斗に引き戻された。
「弟が大変お世話になりました。
貴重な体験をありがとうございました」
「ありがとございましたっ」一緒に礼。
「いえそんな。
一中に勝てたのは彩桜君の活躍あってこそですから。
このまま居てほしいですよ」
『お~い! 手洗って集まれ~!♪』
「あれれ? リーロン?」
「黒瑯兄様は お仕事ですので」
「そっか~。大量おにぎりだ~♪
あ♪ 青生兄~♪」
第一中学の顧問と話していた青生がサッカー部員を引き連れて来た。
「仲良く一緒にね」「うんっ♪」
―◦―
「で?」
「何だよ?」
「こんなつまらないのを見せただけ?」
「この後の為だ」
「そう? 15時だったね。
楽しみにしてるよ。
僕は何としても期末テストでは学年トップに戻らないといけないんだから」
―◦―
「唐揚げとウインナーと卵焼きも具?
リーロン、コレ何? ヒトデ?」
「じゃねーよ! 星型のナゲットだっ!」
「ヒトデの おにぎり~♪」
「それじゃ彩桜の寝言じゃねーかっ!」
「寝言? 俺 言わにゃいよぉ」またぁ~。
「しょっちゅう言ってるよっ!」
「はい♪ よく聞きますよ」
「昨日も聞いたよ」くすっ♪
「や~ん恥ずかし~っ」
「どんな寝言なんです?♪」
「フツーに話すんだよ」
「よく騙されますよね」
「そうだね。会話してしまうね」
「で、ヒトデが出て気づくんだよ。なぁ?」
「そうですね」ふふっ♪
「夢に出てくるのかな?」
「覚えてにゃ~い」「泊めてください♪」
「いつでもどうぞ」
「ありがとうございます♪」「ふぇ~」
彩桜が住む百合谷東町7丁目の同級生は祐斗 堅太 直史 凌央の4人で、凌央だけは1組です。
祐斗と堅太は彩桜と友達になりましたし、気弱な直史はそもそも彩桜をイジメていません。
見ていただけ、は加害者とも言えますが、誰にも言えずに悩み、ビクビクしながら生きてきたと考えれば被害者とも言えます。
最後の大問題的な凌央。
出揃ったところで、この章は終わりにして次の章に移ります。
〔百合谷東町7丁目 東部〕
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