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彩桜の兄達



 前に走り出て来た祐斗は、パッと見では区別のつかない兄達の中から金錦の腕を掴んだ。

「金錦お兄さん、勝手に調べて すみません。

 でも、みんなは彩桜君の友達なんです。

 紹介させてください」


「ふむ……」

「そんじゃ、皆 当てたら待ってやる♪」


「解りました白久お兄さん」「当たりだ♪」


「黒瑯お兄さん、ごちそうさまです。

 とても美味しかったです」「おう♪」


「紅火お兄さん、ジオラマ作りの技、もっと教えてください。

 それと、これ何ですか?」「刀の(つば)だ」

「ありがとうございます!

 ずっと前に祖父から貰ったけど欠けてるし謎だったんです♪


 青生お兄さん、藤慈お兄さん。

 デュークを助けてくれて ありがとうございます!」


「仕事なだけだよ」「私は何も……」


「『だけ』じゃないし、『何も』でもありません♪

 当たりましたよね♪」


「よく見分けられるよなぁ」


「ファンですので♪」


「そんじゃ、手短にな」


「はい♪ 上から順に紹介します♪

 金錦お兄さんはヤマ大の歴史学の教授で、優しくてカッコイイ絵を描きます♪

 僕の母さんは金錦お兄さんの絵を集めているんです♪


 駅前の大きな黒ピカのビルなら みんな知ってるよね?

 白久お兄さんは、本社は東京な、あの会社の常務さんで支社長さんです♪


 青生お兄さんは、きりゅう動物病院の先生です。

 交通事故に遭って複雑骨折したデュークを助けてくれました♪」


「ウチのモモも、大きな赤ちゃん達も元気で~す♪」


「凄腕の獣医先生なんです♪


 黒瑯お兄さんは、今はロイヤルグランホテルのシェフですが、春には自分のレストランを始めるそうです♪

 今日の料理も黒瑯お兄さんのです♪


 紅火お兄さんは、ここの『稲荷堂』をしていて、お店の商品も作っています。

 お寺や神社や占い師さんが使う物を扱ってるから、みんなには関わりがなさそうだけど、お菓子も置いてあるのを見つけました♪

 出て来たお客さんに聞いたら、稲荷堂の物は最高だと、ここにしかない、凄いんだと言っていました♪」


(のろ)いって黒魔術?」


「『のろい』じゃなくて『まじない』だよ。

 僕の母さんも間違えてたけどね。

 とにかく、特殊で凄い物を作って売ってるんだよ。


 藤慈お兄さんは薬学博士で、青生お兄さんの動物病院で働きながら、動物に最適な薬を研究してるそうです♪

 藤慈お兄さんのペットフード、デュークの大好物なんです♪

『おいしい、これ、すき』って言ってました♪

 おいしいだけじゃなくて、栄養もシッカリなんですよ♪

 以上、彩桜君のお兄さん達でした♪」


「こっ恥ずかしい紹介しやがって」こつん。


「これでもカナリ省略したんですよ?」


「ま、いいけどなっ」あははっ♪

「そんじゃ、ちょい待っててくれ」

今度こそ引っ込んだ。



「僕は……ずっと間違いを信じてたんだ。

 彩桜君を無視したり、酷いこと言ったり、蹴ったりしたんだ。

 彩桜君は許してくれたけど、僕は……ずっと償っていくつもりなんだ」


「祐斗だけじゃない。俺達、近所の者は親から嘘を教えられて、それ信じてた。

 今日、祐斗が俺達を別に集めたのも そのせいだ。

 俺達にだけ伝えたいことがあったから。

 そうなんだろ?」


「うん。他の小学校から来た みんなは知らないから……一緒だと話しにくくて」


〈ユート、大丈夫だよ~〉トコトコトコ。


「あ……ショウ……」


〈償い続けるじゃなくて~、仲良しさん続けたらいいんだよ~♪

 サクラが望んでるのはソッチだから~♪〉


「ありがと……ショウ」


〈みんなもサクラと仲良くしてね~♪〉

トコトコぴょんと陽咲(ひなた)の膝へ。


「喋る犬?」「犬って喋るの?」恐る恐る集まる。


〈うんっ♪ 僕、喋る犬のショウ♪〉


「うん。ショウは喋る犬だよ。

 でもショウだけじゃないんだ。

 ショウが手伝えば、喋るのが苦手な犬の声だって聞こえるんだよ。

 常識ってものが鵜呑みにしちゃいけないものだって、よく分かるよね。


 僕は彩桜君を親に捨てられた子だと教えられてたんだ。

 このお化け屋敷は町の汚点で、スラムで、住んでるのは、どうしようもない不良だって。

 みんな、もう それが嘘だって知ってるよね。

 彩桜君のご両親は世界中で活躍してるから滅多に帰って来られないだけなんだ。

 キリュウ夫妻って知ってる?

 クラシック界では超有名人。

 彩桜君のご両親だよ」


「だから音楽できるの?」


「素質は遺伝してるかもだけど、できるのは努力したからだよ。

 彩桜君のご両親はピアニストとソプラノ歌手なんだ。

 彩桜君が演奏できるのはピアノだけじゃない。

 スポーツだって勉強だって凄い。

 お兄さん達も音楽じゃない道で超一流だよ。

 全て努力だと思うよ」


「そこまでにしてくれよな。

 こっ恥ずかしいつったろ。

 それと、あんま謝るな。彩桜が泣いちまうだろ。

 彩桜が東京に行ったのはイジメられて逃げたんじゃねぇよ。

 大好きな青生の匂いがする鞄に入って遊んでたら寝ちまって、そのまま東京に運ばれちまっただけだ。

 だからショゲるな」ぽんぽん。


「でも……」


「彩桜はまだまだこれからだ。

 親友として、いろいろ教えてやってくれ。な?」


「白久お兄さん……僕……」


「いいつったろ♪

 後ろばっか向いてんじゃね~よ♪


 お~いソッチもシンミリすんなってぇ~。

 また遊びに来てくれよなっ♪

 そんじゃ自転車なヤツ、一緒に行くぞ♪」

大きな段ボール箱を抱えて軽やかに走って行った。


『早く来~い♪ 彩桜は門に居るぞ~♪』


2/3が慌てて追いかけた。



「近くの皆さんは私達と一緒に♪」

藤慈も大きな段ボール箱を抱えている。


「その箱は?」


「手土産ですよ。

 遅くなりましたので、きっと皆さんのお母様は心配してお待ちでしょうからね」

蓋を開けるとギフト袋が詰まっていた。

「焼き菓子の詰め合わせです♪」



―◦―



 兄達が手分けしてクラスメイトを送り届けて帰宅すると、金錦から居間に集まるようにと伝わった。


「今日 帰宅したのは別件で皆と話し合いたかったからだ。

 先ず、事後報告となってしまい申し訳ないのだが、私達はキリュウ兄弟として両親の事務所に所属する事となった。


 これ迄は、ジョージ様とトレービ様の事務所には私の研究室付属の事務室を連絡先として伝えてあった。

 その為、事務室の電話が鳴り止まぬ状態となってしまったのだ。

 メール等もパンク状態だ。

 内容は世界中からの出演オファーだ。

 私としては音楽活動は彩桜が大学に入る迄は控えたいと思うのだが、どうだろう?」


「兄貴トコがパンクしたのに、親父の事務所、もつのかぁ?」

白久が頭を動かしても豆チワワ達は落ちない。

帰宅してケージから出したとたん乗ったらしい。


「それも懸念しているのだが……」


「全くの拒絶じゃないと示したら?

 そうすれば少しは静かになると思うんだけど?」


「青生がヤル気だとはなぁ。

 で、具体的には?」


「彩桜が長期の休みの時なら動けると思うんだよね。

 夏休み中に1公演、冬休み中に もう1公演で年2回とか。

 両親との共演も条件として」


「ふむ。年2回ならば可能であろうな」


「俺も異存ナシだ。

 ただ……藤慈、大丈夫か?」


「大丈夫ですよ♪

 兄弟一緒のステージはとても楽しいです♪」


「そっか♪

 他は? って、勤めてる兄貴と俺が出られる日にすればいいだけだよな?」


「オレまだホテルなんだけど?

 リーマン休日は忙しいんだけど?」


「春までに1回だけじゃねぇかよ♪」


「まぁな」


「イヤなのかぁ?」


「……なワケねーだろっ♪」


「んじゃあ決まりだなっ♪」

「彩桜? 静かだけど、嫌だったかな?」


「嫌じゃない……けど、いろいろいっぱいで、なんか~、ふわふわ?

 そんな感じなのぉ」


「今日は彩桜にとっては大変な日だったからね、ゆっくり考えたらいいよ」


「青生兄、今日は家に居る?」


「そうしようかな?」


「青生兄の部屋 行きたい~」


「いいよ」「ん♪」ぴと♪


「紅火も静か――なのは いつもの事だなっ♪」


「む……」「ナンだよぉ?♪」


「俺は異存も問題も何も無い。

 それだけだ」


「睨むなってぇ」



―・―*―・―



直史(ただし)……」


「うん。宿題は終わったから」

机に向かっていた為に背を向けていたが、部屋に入って来た母に顔を向けた。


「悩みって……?」


「今は話したくない。

 でも、1つは解決したよ。

 砂原先生に助けてもらったから。

 もう、、寝るね」


「そう?

 先生にお礼しないといけないわね。

 お菓子までいただいてしまって……」


「甘さは幸せに繋がるんだって。

 だから元気にも繋がるからって。

 お母さんも食べて。

 それじゃ、おやすみなさい」


「ええ。おやすみなさいね」



 家の門前で待ってくれていた華美に玄関まで送ってもらった直史は、無事に辻褄を合わせる事が出来たのには安堵しつつ、新たに湧いてしまった悩みに、また押し潰されそうになっていた。


凌央(りょう)君、さっき部屋から睨んでたよね……」


独り言ちて泣きそうになり、布団を被った。







デビューしたつもりはなかった輝竜兄弟ですが、1回こっきりのステージでは済まなくなってしまいました。



直史(ただし)の方は、もう皆が彩桜をイジメたりしないだろうと安堵したものの、家に入る時に隣家の凌央(りょう)が見えて、新たな不安が湧いてしまいました。


その凌央とは?

次話で登場します。



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