瑠璃の武勇伝②
数日後の午後――
〈サクラだ~♪
今日もルリ待つの?〉尻尾フリフリ♪
〈うん♪ 待ってよ~ねっ♪ あっ!〉
〈ん?〉振り返る。〈スズちゃんだ~♪〉
「ショウ♪ おさんぽ行くよ~♪」
〈スズちゃんだけ?〉くぅ~ん?
振り返って穴を見たが、彩桜は居なかった。
〈彩桜は来ていないのか?〉穴に目。
〈ルリ~♪ スズちゃんが~〉
リードを繋ぎ替えようと苦戦している。
「紗、少し待っていなさい」「は~い♪」
ボールで遊びながら待っていると、瑠璃ではなく澪が出て来た。
「紗、一緒に行きましょう」「ママ~♪」
手を繋いで一緒にリードを持ち、嬉しさでぴょんぴょん跳ねる紗が先頭になって出掛けて行った。
―◦―
「パパいっちゃた~」
庭に面した掃き出し窓に両手を突いた飛鳥が寂しそうに呟いた。
「飛鳥、パパが見えているのか?」
「パパとショウいっしょ♪」
「そうか……」
敵方に目を付けられる前に
少し封じておくべきだな。
「明日の散歩には連れて行ってやろう」
「うんっ♪」
「しかし今日は昼寝の時間だ」
敷いたばかりの布団をポンポン。
「は~い」
―・―*―・―
「ヨォ彩桜♪
また瑠璃とショウの散歩行くのかぁ?」
戌井家から逃げ、歩いていた彩桜の横にトラックが止まり、窓から利幸が顔を出した。
「瑠璃姉、飛鳥とお留守番~」
「んじゃあ澪さんが行ったのか?」
「うん。紗ちゃんもね」
「あ~、だから逃げたんだな?」
「うん。俺まだまだだから」
「乗れよ」「ほえ?」
「こないだの、聞きたいんだよ」「……うん」
―・―*―・―
〈タカシ♪ カケラさんのお話し終わった?〉
〈うん。方向が決まったから続きは瑠璃と一緒に聞くよ〉
〈ね♪ 前歩いてるヒト、前に見た大きな欠片のヒトだよ♪〉
〈ああそうだね。就職したんだね〉
〈ソレなぁに?〉
〈前に見た時は学生さんだったんだろうね。
学校で勉強中の人だったんだ。
卒業して会社で働く大人になったんだよ〉
〈ふぅん。勉強って終わるものなの?〉
〈終わらないよ。学校を卒業しただけ。
これから彼は社会で勉強し続けるんだ〉
〈僕もずっと勉強する~♪
ルリ、本 入れ換えてくれたかなぁ?〉
〈その為に留守番にしたんだろうね〉
〈ん♪ た~の~し~み~♪〉
スーツの背中二人の声が聞こえてきた。
「優生君、これが北営業所の佐熊課長だよ。僕の同期なんだ」
隣を歩く若者にスマホの画面を見せている。
「おおらかな奴だから研修中は存分に頼ったらいい」
「ありがとうございます!
3ヶ月間、頑張ってきます!」
「そんなに緊張しなくていいよ。
今日は挨拶だけだしね」
「でも俺、早く認めてもらいたいから頑張ります!」
「僕は気概のある若者だと認めているよ?」
「彼女のお父さんに……早く結婚したいから」
照れて空を見上げた。
「そうか。それなら頑張れよ」ポンッ。
「はいっ。あ、じゃあ俺、駅ですから。
壬上課長、戻りますよね?」
会社の方向らしい横道を指す。
「僕も用があってね、一緒に行くよ」
「そうですか♪」
「今夜また春菜に行かないか?
ひとつ駒を進められた祝いに」
「あ、はいっ♪」
二人は大通りを真っ直ぐ駅に向かったが、ショウ達は住宅地の方へと曲がった。
―・―*―・―
「なぁ彩桜、あん時 瑠璃は危ない目に遭わなかったのかぁ?
知ってるんだろ?」
「白久兄から聞いただけだよぉ。
俺、生まれる前なんだからね」
「そっか。その兄チャン何歳だ?」
「32」
「ちょい下かぁ。ナンで知ってんだ?」
「団体さんがキレイな女の子囲んで歩いてたから尾行したんだって~」
「女の子って……瑠璃のが上じゃねぇかよ」
「でも小柄でしょ?
白久兄って美人さん大好きだから~」
「ま、確かに瑠璃は美人だし小柄だよな」
「ぞろぞろ繁華街通って、倉庫ばっかのトコ行ったら、もっといっぱい待ってて、真ん中に座ってたヒトと瑠璃姉が話し始めたんだって。
白久兄、通報しないとってケータイ握りしめてたけど、女の子が堂々としてるから様子見てたんだって」
「で、乱闘か?」
「うん。最初はタイマンだったんだって。
でも何人も簡単にフッ飛ばされちゃって団体さんが怒ったみたいで一斉に。
ワッてなって、バッて」
両手を合わせて結んで、バッと開いた。
「全部いっぺんに、か?」
「うん。白久兄には光って見えたんだって。
一瞬だったけど光って真っ白なって、見えるよぉになったら真ん中に座ってたヒトだけ残して み~んな寝てたんだって♪
『二度と私と友の前に現れるな。
目に入ったなら綺麗サッパリ掃除してやる』
って言ったんだって~♪」
「で、組ごと引っ越しかぁ?」
「引っ越しじゃなくて解散したって金錦兄が言ってたよ?」
「瑠璃に何言って怒らせたんだろなぁ……」
「なんかね~、どっかの高校に入ってアタマしろとかって。んで、組に入れって。
他にもいろいろ言われたみたいだけど、白久兄、言ってくれないんだ」
「瑠璃があんなグレ高なんかに行くかよ。
んじゃあ、『道を外した屑共なんぞに人生を決められる筋合いは無い』ってのは?
それも聞いたんだがな」
「言ってそぉだよねぇ。
その高校とかのコトでしょ。
他にも尾行したヒトいたんだね?」
「いや……グレ集団側に居たヤツに大学で会ったんだがな、ソレしか言ってくれなかったんだよ。
あの後ひと塊が改心しましたって謝りに行ったんだと。
そしたら軌道修正したいのならって勉強 教えてくれて、んで大学に入れたってな」
「中学生の瑠璃姉が高校生に教えたの?」
「んだとよ。
イキサツとしてさっきのセリフだけは言ってくれたんだが、話さないって約束したからってナンにもだ。
意外と律儀なんだよなぁ」
「ふぅん。そのヒト今は?」
「大会社の会長サンの専属運転手してるよ。
会ってねぇが続けてるハズだ」
「へぇ~♪ 軌道修正できて良かったね♪」
「だよなぁ。
俺もアイツも、瑠璃に救われたんだよなぁ。
ナンだカンだって女神様だよ……」
「瑠璃姉と結婚とかって考えなかったの?」
ブホッ!! ゲホッゲホガホッ!!
「運転中に危ないよ?」お顔 真っ赤っか~♪
「彩桜がっ! ンなコト言うからだろっ!」
「ん? そんな変なコト?
飛翔さんと澪さんが仲良しさんなんだからフツーって そぉなるんでしょ?」
「コクったりなんかしたら視線でサクッと殺されちまうよ」
眉間を指で突いた。
「青生兄 生きてるよ?」
「瑠璃に認められたんだろーよ。
そーいや飛翔と青生ってソックリだよな」
「うん。似てるよね~」
「瑠璃も……飛翔が好きだったのかなぁ……」
―・―*―・―
何やら寒気がしたが……?
飛鳥を眠らせ、死が近づいた飛翔が込めた欠片の力だけを残して、飛鳥本来の神力を封じた瑠璃は、飛翔の部屋にショウの為の本を選びに来ていた。
首を傾げたが気を取り直し、犬小屋から回収した本を浄化して棚に戻した。
辞書や図鑑というのも喜びそうだな。
歴史は、次は室町時代だったな。
ん? 高校の生物の教科書?
まだ持っていたのか。
懐かしさを覚え、つい手に取った。
この表紙の落書き……利幸の物か。
此処に何故?
パラパラと繰っていると紙片が落ちた。
何だ? 「え……?」
それは破ったページを畳んだもので、開くとビッチリと利幸の字が並んでいた。
「授業中に真後ろで書いていたのか!?」
暫し額に手を当て項垂れる。
つまり飛翔は、これを読んだが為に
返せなくなったのか……?
挟み直して棚に戻した瑠璃の頬は赤く染まっていた。
「ったく……困った弟だ」ふっ――
苦笑を浮かべ、肩を竦めて部屋を後にした。
―・―*―・―
「トシ兄、野球してたんでしょ?」
「おうよ♪
俺がピッチャーで飛翔がキャッチャーだ♪」
「ほえ? 逆だと思ってた~♪」
「キャッチャーは頭が良くなきゃできねぇんだよ」
「そっか~♪ ピッチャーはいいの?」
「飛翔まかせだったからなっ♪」
「嬉しそぉに言うコト?」
「ま、テキザイテキショってヤツだ♪
だから俺は大学に行けたんだからなっ♪」
「ん? どゆコト?」
「スポーツ推薦ってヤツだ♪」
「そんなのあるんだ~。
で、俺いつ帰れるの?」
「あ……高速 乗っちまったよ……」
「どこ行くの?」
「東京だ」
「ふええっ!?」
「夜中には帰れる予定だから瑠璃に電話してくれ。
ほれ」スマホをぽい。
「俺が?」
「俺は運転中だからな♪」
「じゃなくて瑠璃姉と話すの怖いんでしょ」
「ぐ……んなコトあるかよっ!」ゲホッ。
「ま、いいけど~」顔認証♪
「うわっ!? 何すんだっ!?
運転中だつってるだろっ!」
「だって使えないでしょ。あ♪ 瑠璃姉~♪
うん、うん。
今ね、トシ兄に誘拐されてる♪」
「誤解されるだろっ!」
「高速で東京まで拉致~♪」「バカッ!」
「うん♪ 金錦兄トコ泊まるねっ♪」
「学校は!?」
「春休みなんだけど?」
「あ、そっか」
翌日、彩桜は青生と一緒に帰った。
本編の登場人物がウロチョロ出てくる外伝です。
前話のオマケ的な瑠璃達の過去のお話と、社会人になったカケルのお話を少々でした。
どこかの大会社の会長さんの運転手……本編後半で登場しましたよね?
彼もまた外伝にも登場します。
利幸の友達ですし、小夜子を送ったりもしますので。
利幸も瑠璃に片想い。
モテモテな瑠璃です。




