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作戦①:母と一緒に動物病院



 翌朝早く、祐斗は廊下の絵の中で一番のお気に入りの前で母を待った。


 程無くして両親の部屋の引戸が開いた。

「あら早いのね。どこか行くの?」


「まだ行かない。父さんはゴルフ?」


「そうよ。とっくに出掛けたわよ」


「そっか。

 僕……この絵が見たかったんだ。

 落ち着くから」


「絵の良さなんて分かるの?」


「中学生なんだよ?

 大人に近づいたんだからね。

 でも……この人の絵、見てると気持ちのトゲが消えてくのは前からなんだよね」


母が並んだ。

「だから集めてるのよ」


「ふ~ん。

 母さん いつもケンケンしてるのに?」


「言ってくれるわね。

 祐斗が言う『ママ友軍団』ね、友達なんかじゃないのよ」


「そうなの? ケンカでもしたの?」


「喧嘩なんてしてないわよ。

 一方的に私が従ってるだけ。

 ご近所から仲間外れにされないように余所者で年下な私は必死だったの。

 だから、この絵に頼ったのよ。

 縋るように集めてるの」


「まだ従ってるの?

 お隣のおばさん達は?」


「両隣は友達だけど……でも先輩よね。

 先に嫁いで来てたし、年上だから。


 この絵に出会えたのも何かのチャリティー展に行きましょ、って誘われたからなのよね。

 断れないし、仕方なく行ったの。

 チャリティーだから全部 売り物で。

 何か買わなきゃ済まないわよねって、お腹に祐斗が入ってる重たい身体でウロウロしてたら、この人の絵を見つけたの。そこから動けなくなったわ。

 でも売約済みで……絵葉書しか買えなかったの」


「その絵葉書は?」


「次の年も同じだったから大切に保管してるわよ。見たいの?」


「うん、見たい」


「待ってて」



 部屋に戻ると、直ぐに葉書用のポケットアルバムを持って来た。


「どうぞ」広げて渡した。


「やっぱりいいね。

 あれ? 他にもあるんだ」


「見つける度に買ってたのよ。

 画集も出てないし、滅多に画廊にも出ないから」


「そんなにファンなんだ」


「そうね。

 心のトゲが消えるって、私もよく分かるわ。

 KiNさんの絵の世界で生きていけたら……よく、そう思って泣いてたのよ」


「僕達を育てる為なんだよね?

 ぜんぜん知らなくてゴメン」


「なんか愚痴っちゃた……。

 祐斗が大人っぽいこと言うから……」


「……ごめんなさい」


「謝らなくていいわよ。

 少し……大人だって認めちゃったのね、きっと。

 朝ごはんしないといけないわね」台所へ。


「いつもみたいに頑張らなくていいよ。

 日曜なんだから」付いて行く。


「絵が見たいだなんて、昨日あの家で何かあったのね?」

手際よく料理を始めた。


「良い事ばかりだったよ♪

 ヒナも大喜びだったし♪」


「だったら どうして?」


「デュークを……退院したら預けようかと悩んでて……母さん犬嫌いだから。

 ……デュークも可哀想だから」


「なにも、あの家に預けなくても……」

チラッと振り返った。


「広い庭に犬だけじゃなく、いっぱい居るんだ。

 餌も個々に合わせて あげてて。

 栄養管理も健康管理もシッカリしてるんだ。

 だから もちろん散歩も。

 僕も毎日 通うし、彩桜君ちの方がデュークは幸せだと思うんだ。

 思うけど……離れるのは寂しくて……」


「預けなくてもいいわよ。

 私は怖いから近寄らないけど」


「デュークは猟犬だけど、絶対に猟なんてできない優しい犬なんだ。

 優しいからヒナを護ってケガしたんだし」


「でも……あの犬も『ママ友軍団』から押し付けられたのよ。

 私の犬嫌いを知ってて嫌がらせみたいに猟犬なんて……」


「デュークのせいじゃないよね?

 そこは忘れてよ。

 もうデュークとママ友軍団は繋げないでよ。

 それにデューク自身が猟犬として生まれたのを嫌がって悲しんでるんだから」


「そんなデュークと話したみたいに――」

「ママ、お兄ちゃん、おはよ~♪

 なに話してるの?」


「祐斗がデュークをあの家に預けたいって」


「イヤッ!

 デュークは私の命の恩犬なんだからっ!

 デューク預けるんだったらヒナも預かってもらうもん!」


「なんか違う話になるからヒナは黙って」


「黙らないもんっ!

 デュークと一緒じゃなきゃヤダもん!

 あ♪ ヒナ、彩桜お兄ちゃんの お嫁さんになったらいいのねっ♪」


「ちょっとヒナ!?」

両手に皿で迫って来た。


「ヒナも母さんも落ち着いて」


「ヒナは落ち着いてるも~ん♪」「ヒナ!」

「落ち着いてないのママだけ~」「もうっ」


母は息子と娘の前に皿を乱暴に置いて陽咲を睨んだ。


「母さん、はい」

母の目の前にポケットアルバムを広げた。

「落ち着いてよ」


「祐斗まで……」溜め息。


「トゲトゲ消えた?」


「そうね。この絵には勝てないわ。

 これまでのも思い出しちゃって」


「すっごい効果♪」「ヒナ黙って」ヒソコソ。


「聞こえてるんだけど?」


「でも事実なんだから仕方ないよね。

 いただきます」「いっただっきま~す♪」


「まぁ……そうね。

 デューク、預けなくてもいいわよ。

 私も頑張ってみるから」


「やった~♪」

「母さん、デューク迎えに行くの一緒にお願い。

 ほら、お金 払わないといけないし」


「仕方ないわねぇ……」



―◦―



 どうにかこうにか母を連れ出すのに成功した祐斗と陽咲は、どうにもこうにも嬉しくて弾むように歩いていた。


「そんなにも嬉しいのね」苦笑。


「だってデューク預けるの、なくなったんだも~ん♪」

「僕も悩みが消えたから♪」


「そう……」


「母さん♪」「ママ♪」


「何?」


「「ありがとう♪」」


「そ、そう?」


「「うん♪」」



 きりゅう動物病院に着いた。


「でも、日曜日なのに?」


「いつでも開いてるって。ほら」開いた。


入るとチャイムが鳴り、青生が姿を見せた。


「どうぞ入院室に。

 ちょうど検査を終えたところなんです。

 とても元気ですので、もう連れて帰られても大丈夫ですよ」


「ママ、いいよねっ?」「いいわよ」

「行こっ♪」「私、ここで待つわよ」


「行こうよ、母さん」

祐斗が背中を押して連れて行った。



〈彩桜、順調に進んでいるよ〉〈ん♪〉




「やっぱり待合に――」「「デューク♪」」

有無を言わさずドアを開けて入った。


「あ♪ おはよ~♪」アンアンッ♪

彩桜が餌やり真っ最中で、デュークのケージは開いており、ショウも中に入っていた。


「彩桜君がお世話してるの?」


「うんっ♪ 俺も獣医 目指してるから~♪」


「へぇ~♪

 デューク、怖がらなくていいよ。

 母さんも迎えに来たんだから♪」

「おいでデューク♪」

壁際に逃げて伏せて縮こまってしまったデュークを兄妹が手を入れて呼んだ。


〈デューク、大丈夫だよ。

 ママさん、優しい目してるから〉

ショウが安心させようと鼻を合わせた。


〈ちっちゃく、なりたい……うまれる、なおす〉


〈カッコいいのに~。

 ユートとヒナちゃんとお別れしたくないでしょ?

 ユーレイなるなんて言っちゃダメ~〉


〈おわかれ……イヤ……〉


〈でしょ?

 戻って来れなくなるかもだし、犬じゃなくなるかもなんだよ?

 ヒナちゃんがキライな虫になっちゃうかもだよ?〉


〈イヤ……ムシ、デュークも、キライ〉


〈だったら生きなきゃ。ね?

 ママさん、仲直りしたそうだよ?

 昨日ユートとヒナちゃんとお話ししたみたいにママさんともお話ししない?

 僕が一緒だから大丈夫だよ♪〉


〈おはなし……ユート、ヒナちゃん……おうち、かえりたい〉


〈うんうん。

 先にユートとヒナちゃんとお話ししない?

 手まで行こっ♪〉


〈でも……ここも、すき……〉


〈いつでも来れるから~♪

 僕もデュークに会いに行くから♪

 お家に帰ろ♪〉


〈ショウ、くる? おうち、しってる?〉


〈知ってるよ~♪

 サクラん家の近くだもん♪

 先にデュークのお家だけ帰ってたよ♪

 だからお話ししよっ♪〉


〈ユート……ヒナちゃん……〉立ち上がった。


〈行こっ♪〉


〈……うん〉







KiNの絵を会話のキッカケにして、母をKiNの大きな絵がある動物病院に連れて来るのは成功しました。


母にとっては大嫌いな犬と輝竜兄弟が居る場所です。

押し込まれた入院室には犬が複数。

彩桜も居ます。

大丈夫なんでしょうか?



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