瑠璃の武勇伝①
また春が来た。
〈ヒラヒラするの好き~♪〉
庭に舞う桜の花弁をショウが追いかけてはパクッと捕まえる。
「ショウ、桜食べてるの?」
〈あ♪ サクラ~♪〉塀の穴へ♪
〈おさんぽ行こっ♪〉尻尾ぶんぶん♪
〈瑠璃姉が来てからね♪〉〈うんっ♪〉
〈来たが、どうしたのだ?〉〈瑠璃姉♪〉
〈ルリ♪ おさんぽ♪〉
〈そういう事か。
彩桜、澪に紹介しようか?〉
〈んとねぇ……まだ、かなっ?〉
〈ん?〉
〈中学入ったら……いろいろ踏み出すよ♪〉
〈ふむ……〉いろいろ、か……。
〈だからショウ連れ出して♪〉
「では待っていろ」ぽんぽん。
―◦―
「彩桜、いろいろとは?」
「ん~~とね、俺、祓い屋なってユーレイさん達と仲間――じゃなくて友達になりたいんだ。
道具覚えたいから店番もするよ♪
店番が先かな?
それと修行もね。戦えるよぉにね。
紅火兄に話したら、店番しながらなら見てくれるって。
そしたらきっと……紗ちゃんに会っていいって思えるんじゃないかなぁ?」
「今は会えないと思っているのか?」
「……うん。なんでか知らないけどね。
まだ近づいちゃいけない、って……ね」
未だ護れぬからか?
危険が増すだけだと感じ取っているのか?
「だから、あと1年は我慢かなっ」
彩桜が瑠璃に無理矢理な笑みを向けた時、後ろから軽いクラクションの音がした。
「お~い瑠璃、彩桜♪」
「トシ兄だ~♪」「そのトラックは?」
「瑠璃が言ってくれたんじゃねぇかよぉ。
行って声かけたらソッコー面接でソッコー雇ってもらえたんだ♪」
「そうか」「建築屋さんは?」
「コッチのが給料いいんだよ♪
しかも楽チンときたもんだっ♪
あ、コレ運んだら休憩だからよ、そこの公園で待っててくれよなっ♪」
「何故、利幸を待たねばならぬ?」
「んな言うなよぉ。
忙しくてショウをワシワシしてねぇんだよ。
こんな近くなのによぉ」
「ふむ」〈トシ兄のワシワシいらな~い〉
彩桜が思わず笑う。
「彩桜ぁ、ショウは何言ってるんだぁ?」
「気にしないで~♪ 早く置いてきたら?」
「だなっ♪ 待っててくれよなっ♪」GO♪
―◦―
ブランコで待っていると、駆けて来る利幸が見えた。
〈ガッシュ ガッシュ ずんずん ガシュ♪
キュイ~ン♪ ぷしゅ~♪〉
アパート横の角を曲がり、小道を斜めに横断して公園に入った。
〈ショウ、ソレなぁに?♪〉あははっ♪
〈アスカと一緒にアニメ見たの♪
で、オモチャで遊ぶ時にね、その音 真似して出してるの~♪〉
〈ロボット?〉〈うんっ♪〉
「川沿い行くぞ♪」わしわしっ♪〈や~ん〉
「遅いが昼休みなのだろう?」
「だから食いながらだ♪」ハンバーガー♪
「ふむ」
散歩を再開して暫く歩き、土手道に入った。
「ね、トシ兄♪
瑠璃姉達と ど~やって友達なったの?」
「んっ!?」胸を叩いてコーラ一気飲み!
「そんなビックリするコト?」
瑠璃が吹き出した。「ま、そうだろうな」
「ね、瑠璃姉 教えてよぉ」
「この街と東の街の間に集落が在った。
私達四人は、その集落で育ったのだ。
今では利幸の家しか残っていないのだがな。
私と澪の家は近く、親が親しくしていたので、保育所に入る前から いつも一緒に遊んでいた。
飛翔とは保育所で知り合った。
飛翔と利幸の家は隣だったから二人も当然の如く友達だった。らしい」
「らしい、って?」
「私と澪は飛翔とは直ぐに友となったが、利幸は眼中に入っていなかったのだ。
利幸を初めて認識したのは――」
「待てっ!! その話は――」
「ならば利幸が仕事に戻った後で話そう」
「いやぁ、俺の居ねぇトコで話されるのもナンだかなぁ」
「ならば続ける。利幸は――」
「黙っとくって選択肢は無ぇのかっ!?」
「無い。何故、話してはならぬのかが解せぬ」
「ゲセヌ、って時代劇かよぉ」
「煩い。
利幸は澪を追いかけていた。
蜥蜴の尻尾を持って追い回し、澪を泣かせていたのだ。
澪は飛翔の背に逃げ、私はその前に立ち塞がり――」
「護ったんだねっ♪ カッコイイ~♪」
「ブン殴られてブッ飛んだよ」遠い目……。
「ナンでトカゲ? トシ兄っておバカ?」
「キレイなシッポだったんだよ。
青くて虹色に光ってて。
だから指輪にしてやろうと思ったんだ。
澪さん超可愛いかったからなぁ……」
「理由は、やっと分かったが……」
「やっぱり、おバカだよねぇ……」
「あのなぁ――いや、確かにバカだよなぁ」
「しかし飛翔と澪にとっては、この上無いキューピッドとなったのだ」
「もしかして、そこからずっとなの?」
「そうだ。二人はずっと穏やかに仲の良いまま結婚に至ったのだ」
「ふぅん。飛翔さんと澪さんは納得だけど、そんな出会いで、どーしてトシ兄とも友達なったの?」
飛翔にとっても私にとっても
利幸は弟だから、とは言えぬな。
「暫くは澪に近寄らせぬよう警戒していた。
が、飛翔が悪気の起きようも無い奴だと言うから、飛翔を立てる形で認めたのだ。
その後は徐々に緩み……ああそうか。
中学の頃、高校生から澪を護ってくれたのだったな」
「最終的には飛翔と瑠璃が駆けつけてくれて、蹴散らしてくれたんだけどな」
「瑠璃姉が、でしょ♪」
「モチロンだ♪」「あのなぁ」
「俺は野球と柔道してたからな、暴力問題なんか起こせねぇ。
だから手は出せずに無言で睨むしかできなかったんだ」
「どれだけ殴られようとも微動だにせず、無言で睨む勇姿はなかなかのものだった。
だからこそ澪もとうとう友として認めるに至ったのだ。
飛翔も野球部だったから、私はただ澪を護って逃げろと言っただけだ。
その場に居るだけで厄介事になるのは目に見えていたからな」
「だが俺は動かず、飛翔も怒りまくってて向かってこうとしたから、瑠璃に二人纏めて突き飛ばされたんだよ。
で、片手ずつで一緒に胸ぐら掴まれて立たされてな、飛翔は澪を押し付けられて『大切なら護れ!!』って怒鳴られたんだ。
『二人を護れるのは利幸だけだ!!』ってグレ高のアタマ投げ飛ばしながら言われたら、もう護って逃げるしかねぇだろ?
だから盾になりながら雑魚の壁から抜け出て、二人連れて走ったんだよ。
あの後マジで瑠璃ひとりでアイツら全滅させたのかぁ?
二人を交番に押し込んでオマワリ連れて戻ったら、み~んな地べたと仲良くなってたよな?
瑠璃は傷ひとつ無くて、服もキレイなモンだったよな?」
「まぁ、、な。……正当防衛だ」
「彩桜、このネーサンには逆らうなよ?」
「うん」にゃはは~。
「あの後……何日かして、校門トコに包帯だらけのアイツら来てたんだろ?
部活してたから知らなくて、次の日に聞いたんだけどな。連れてかれたってな。
あん時は聞いても笑ってるだけだったがもういいだろ?
いーかげん話してくれよ。
何があったんだ?」
「二度と私と友の前に現れるなと言った。
それだけだ」
「だけ、なんて有り得ねぇだろ。
OBとかイカツイのも来てたんだろ?」
「そろそろ仕事に戻れ」
「聞くまで戻らねぇからなっ」
「戻れ」「言え!」「何も無い」「嘘だ!」
「忘れた」「だから嘘だろっ!」「本当だ」
「瑠璃姉がヤクザさん達ボッコボコしたんでしょ?
白久兄から聞いたよ」
「ったく……」「彩桜、詳しく聞かせろ」
「知~らない」瑠璃姉が睨んでるから~。
「全員に勝てば何でも言う事を聞いてやると言われただけだ」
「もし、負けたら……?」
「ゴチャゴチャ言っていたが忘れた。
とにかく面倒だから全て立てなくした。
それだけだ」
〈この街から失せろ、とも言ったらしいよ。
かなり後で聞いたんだけどね。
その少し後、本当に組事務所がなくなっていたんだよ〉
〈飛翔、彩桜とショウに余計な事を吹き込むな。
根も葉もない噂だ。
欠片達と話していたのではなかったのか?〉
〈うん。話していたけどね。
本当に感謝しているのは伝えたかったんだ。
僕と澪の周りをすっかり平和にしてもらえたからね〉
〈ん? そうだったのか?〉
〈うん。デートしやすくなったよ。
よく絡まれていたんだけどね〉
〈今頃言うな。
その頃ひと言 言ってくれれば――〉
〈瑠璃みたいに勉強できる美人が、あんなに強いなんて普通 思える?〉
〈妙な世辞は止めろ〉
〈本当だからね〉くすっ♪
〈そこで笑うな。あ……〉
走って行く利幸の後ろ姿が見えた。
「遅刻だって~♪」にゃははっ♪
彩桜もうすぐ小6になる春のお話でした。
瑠璃は真面目で おとなしくて目立たない――ようにしていたんですよねっ!
何故だか睨まれています。(汗)
〈ラピスリは『慈愛の女神』の称号を得たけどね、『戦女神』の方が相応し――〉
あ、証言者が逃げた……。(苦笑)
瑠璃達が幼い頃を過ごした集落は、旧 東渡音村で、現在の中渡音市の東渡音地区です。
──△奥ノ山(山の社・奥ノ社)─┤
│ │ 成荘村
│ △稲荷山(キツネの社) │
│ │成荘ダム
│ │ ・
│ 〔北の街〕 │
│ 北渡音地区 ├─────
│ │
│ ・廃教会 │
│ 〔街〕 ・ │〔東の街〕
│ 中渡音地区 〔旧集落〕│ 東合市
│ 東渡音地区│
──┴─┐ │
│ 〔南の港町〕 │
│ 南渡音地区 │
〔漁村〕│ ・渡音港 │
西海村 │
・ ・キャンプ場
漁港
海




