白儀教頭はお見通し
輝竜家のアトリエでは、皆で楽しくジオラマ作りをしているが、昼が近付くに連れて彩桜が黒瑯をチラ見する回数が増えていた。
〈黒瑯兄お昼ご飯は?〉
〈リーロンに任せてるよ。
そろそろアイツにもマトモな料理教えねぇと間に合わねぇからな〉
〈って、レストランも一緒に?〉
〈だよ♪
リーロンも そのつもりで頑張ってるんだ♪〉
〈そっか~♪ ん? 白久兄は?〉
〈また仕事だってよ。
昼過ぎには帰って来るだろ♪〉
〈そっか~♪〉あれれ?
彩桜だけでなく兄達も白儀も神眼を上空に向けていた。
ソラだけは窓の外、遠くを見ている。
〈彩桜クン、怨霊だから行くね〉〈ん〉
青生も立ったのでソラは一緒に下りた。
〈青生兄?〉
〈うん。
気づいて直ぐから瑠璃と話していたんだ。
俺達が行くから彩桜は続けていてね〉
〈うん……〉 〈ソラ! 居るんでしょ?〉
あ……響お姉ちゃんだ。 〈行くから!〉
俺も行きたいなぁ……。 〈うんっ!〉
〈サクラ~♪〉アンッアンッ!
〈ショウ!?〉
〈一緒に行こ~♪〉
〈また脱走したの!?〉
〈ヒビキが門開けた時に出た~♪
あ♪ オニキス乗せて~♪〉
〈今はリーロンだっ!〉
〈オニキス~♪〉〈聞けコノッ!〉〈行こ~♪〉
〈なぁ彩桜、オニキスがリーロン?
オニキスって犬だろ?〉
〈えっとね~〉どぉしよ~。
【藤慈、今日は お休みなのですよね?】
【あ……ウィスタリア様……】
【ああ見えました。
一般の方が一緒なのですね。
では――おや? フェネギ様?】
兄弟の神眼が白儀教頭に集まる。
【行ってください。
関わりが生じた此方の方々は私が護ります】
【では行って参ります!】
〈黒瑯兄、下りるよ!〉〈えっ!?〉
「黒瑯兄~♪ ご飯の準備~♪」
「あ、ああ。だな」
「お手伝いしますよ」「「ふむ」」
「サクラおにーちゃん、ボクも~」
〈お姉ちゃんは開いてないから眠らせたよ〉
飛鳥が一瞬だけ向けた視線を追って見ると、紗は毛布にくるまって心地よさ気に眠っていた。
〈飛鳥って……?〉〈サファーナ♪〉
「行こっ♪」「うんっ♪」
兄弟と飛鳥は階段を下り、上で待っている龍神の背へと瞬移した。
【オニキス師匠! ショウも!】
【しゃーねぇなっ、たく!】【オニキス~♪】
ショウを拾って再上昇!
「なぁ彩桜、この黒い龍神様は、オレの黒い龍神様とは別なのか?」
「別なの~、ドラグーナ様の子供なの~」
「ああ~、そっか♪ 納得だ♪
で、どこ行くんだ?」
「神眼で上見て。すっごく上。
それとね、獣神秘話法 教えるね」
「ゲ……ナンか黒くてヤなヤツが来てやがる」
〈ソレがドラグーナ様の敵なの。
話してるの聞かれたらダメだから聞こえない話し方 教えるね〉〈おう!〉
―・―*―・―
フィアラグーナの欠片の写し神力を認識した効果で少しは見えるようになった徹は、窓の外の不穏な存在をもっとよく見ようと祐斗達からは離れた窓に寄って頑張っていた。
「古屋君には見えているのですね」
徹に並んだ白儀教頭は声を潜めて囁き、徹の肩に手を添えた。
「あ……見易くなりました。
あの黒いのは何ですか?」同じくヒソヒソ。
「怨霊です。
怨霊とは人の魂の負の感情が膨れ上がり、化した怖物です」
「あれは……ソラさん?」
「そうです。ソラ君は祓い屋。
ですので戦いに行ったのです。
この街を護る為に」
「街を……誰も知らないのに……」
「大きな愛です」
「もしかして彩桜君も? お兄さん達も?」
「……そうです。上に目を向けてください」
「えっ……龍……?」
「よく見えるのですね。
龍神の背に彩桜君達兄弟が乗っているのです。
降りて来ている悪神を待ち受けているのです」
「悪神って……あっ!」
「来ましたね。戦いが始まりました。
あの悪神の影響で怨霊も生じたのです。
そちらは祓い屋の皆さんが戦っております」
「白儀先生。
その話、ちゃんと聞かせてください」
「口外しませんので!」
「教頭先生! お願いします!」
「見えない貴殿方が知るのは危険極まりないのですが……口外は死に直結すると覚悟するのでしたら、お話し致しましょう」
「「「覚悟します!!」」」
「見える者の指示には従うと――」
「「「誓います!!」」」
「そうですか――」
―・―*―・―
〖ドっラグーナ~♪〗〖イーリスタ様?〗
いつものようにラピスリがマディアの魂を取り込んだ途端、ご陽気なイーリスタの声が響き渡った。
〖つまり、マディアの魂中のイーリスタ様の欠片を通じているんですね?〗
〖そ~ゆ~コト♪
マディアに父親宣言しちゃった~♪
ごめんねドラグーナぁ〗
〖当然ですので謝らないでくださいね〗
〖あっりがと~♪ ん? ええっ!?〗
〖どうかしましたか?〗
〖シルバーンとコバルディが道に入っちゃったみたい~〗
〖では、時間稼ぎしないといけませんね〗
〖ホント困ったコ達~。
青龍様の御指導から逃げたみたい~。
迷惑ゴメンねっ。
今回の道は3本なんだ。あと道モドキ♪
ぜ~んぶカモフラ道だから壊しちゃっていいんだけど~、どれに入ったのやらなんだよね~〗
〖ラピスリ、マディア、聞こえたよね?
兄さん達が出口に現れるまで頼んだよ〗
【【はいっ!】】
―・―*―・―
「――今回の怨霊は、上空の悪神の影響を受けて生じました。
ですが、そのような影響が無くても怨霊は生じます。
誰しも負の感情は抱いておりますので。
ソラ君達 祓い屋と、輝竜兄弟とは、今は各々で戦っております。
輝竜兄弟は祓い屋を把握しており、その動きに合わせて戦っておりますが、輝竜兄弟を知る祓い屋は ごく一部なのです。
しかし、その目的は同じなのです。
人々を護りたい、ただそれだけなのです。
その強い思いだけで、人知れず命懸けで戦っているのです」
白儀に触れる事で見させてもらっている祐斗達は、もう言葉も発せられず、ただその光景を見詰めていた。
「笹城君、藤慈君に怪我を負わせた直接の原因を覚えていますか?」
名を呼ばれてハッとした巧は思い出しながら答えた。
「前からウザいと思ってて……直接は……俺の前で立ち止まったから通せんぼされたと思って……」
「久世君は?」
「さんざん無視してたのに、歩いてたら彩桜君に手を掴まれて……もしかして!?」
「そうです。
貴殿方には見えておりませんでしたが、行く手には怨霊が居たのです。
そのまま進んでいれば魂を喰われていたでしょう。
ですので藤慈君も彩桜君も暴力を受け続けたのです。
怨霊が去るまで我慢し続けたのですよ。
留まってくれさえすればよいからと」
「何も知らずに俺は……」
「僕も……彩桜君……」
「知らずに生きる事は普通の事です。
知る事を望んだからこそ話したのです。
知った事で悪神や怨霊に狙われる可能性も否定出来ません。
今後は見える者の指示には必ず従ってください」
「「はいっ」」
「岐波君も、コンパスを刺すに至った原因を覚えていますか?」
「前の日に廊下で突き飛ばされて、肩を打ったから腹を立てたんです。
でも、今よく思い出してみたら何人か一緒に突き飛ばされてて。
紅火君は走った後、不思議な動きをして、壁に紙を押し当てて……それもなんですね?」
「そうです。
怨霊は大きいとは限りません。
大きさと強さにも相関関係はありません。
あの時は小さく強い怨霊が居たのです。
大勢が行き交う昼休みの廊下に、です。
紅火君は犠牲者が出るよりはと、已むを得ず人目の有る所で動いたのです。
突き飛ばしはしたものの倒しはしなかった。
あの状況では、それだけでも紅火君の優しさは並外れていると言えるのですよ」
「打撲にもなっていなかったのに僕は……」
「紅火君は岐波君の肩が壁に当たってしまったのにも気付いておりました。
ですのでコンパスの痛みにも無言で耐えたのです」
「やっぱり怪我をしていたんですよね!?」
「岐波君が外に逃げた後、若菜さんは青生君を呼びました。
傷は青生君が すっかり治しましたよ。
青生君は治癒の神力を持っておりますので」
「治癒の、力……」
「もしかしてデュークを治したのも?」
「そうですよ。
あれだけの複雑骨折なのですから、普通の治療では その日に立てるなど有り得ませんよ」
「あれ? どうして それを教頭先生が知ってるんですか?」
「怨霊の方は終わったようですね。
では私は呼ばれましたので――」
「先生? どうして知っているんですか?
過去の俺達のも」
「何でもお見通しなだけですよ」ふふっ♪
若者達の手からスルリと抜け出ると、階段までスッと一気に動き、振り返って、
「輝竜兄弟にもソラ君にも話してはなりませんよ」
笑顔で、消えるように下りて行った。
祐斗達は輝竜兄弟と接触して直ぐに常識外を見てしまいました。
そして白儀教頭が一気に謎の人物になってしまいました。
白儀は当時その現場を見ていたのではありません。
もしも見ていたなら輝竜兄弟を護っていたでしょう。
では何故?
この場で戦いを見る為に3人は白儀に触れていました。その手から記憶を見たんです。
本編でショウもカケルの記憶を俯瞰で見ていましたよね?
同じように俯瞰で見ていたんです。
戦いが終わりましたので輝竜兄弟もソラも戻ります。
知ってしまった4人は普通に接することが出来るのでしょうか?
白儀は誰に呼ばれて何処に行ったのでしょうか?




