パパサンタさんの空飛ぶ橇
そしてクリスマスイブ――
戌井家には利幸と瑠璃が来ており、紗も上機嫌でケーキを食べ、飛鳥を相手に二人から貰ったプレゼントで遊んでいた。
「お~い瑠璃」
利幸が、食器を洗うと離れた瑠璃を追いかけて来た。
「ホントにサンタしなくていいのかぁ?」
「いいと言ったろ」
手も止めず、振り向きもしない。
「まさか瑠璃がするのか?」
横に並んで覗き込む。
「青生がする」というのは嘘だが。
「へ? 外に来てるのか?」
「後で来る。
利幸がサンタしたらバレバレだろ」
「イイ男過ぎるか?♪」
「洗った食器くらい拭いたらどうだ?
青生ならば自然とそうするぞ。
そういうのがイイ男と言うのだ」
「ゲ……瑠璃がサラッとノロケやがった……」
「邪魔だ。
紗の ままごとの相手をしてやれ」
「へいへい。ったく幸せそうだよなぁ」
「幸せだが? 利幸も早く結婚すればいい。
言っておくが澪は――」
「ミジンコも望みなんか無ぇよ。
よ~く分かってるってぇ」
「微塵だ」
「ミジンコ知らねぇのか?」
「よくそんな知識で大学に行けたな」
「スポーツなんでも得意だからなっ♪」
「準備せねばならぬ。
脳筋類は向こうに行ってくれ」
利幸を追いやり、食器を片付けて勝手口から外へ。
〈飛翔、ショウ。準備は?
練習するのはよいが疲れるなよ。ん?
青生、来ていたのか?〉聞こえたのか?
〈うん。出番がないことを祈っているけど、もしも途中で消えてしまったら代わりをしようと思ってね〉
〈その可能性が高いから、ありがたいよ〉
〈そうして髭で覆っていると、ほぼ同じに見えるな。
体格も似ているし……〉声も話し方までも。
〈でもきっと紗ちゃんには違いが分かるよ〉
〈……だろうな〉
父と子か……。
記憶に蓋がされようとも
この父子も縁を感じて
いるのだろうか……?
父、か……――
〈瑠璃?
じっと俺を見ているけど、どうしたの?
何か変かな?〉
〈見惚れているんだよ♪〉
青生が首を傾げ、飛翔は笑っている。
〈いや。それにしても似ていると感心していただけだ。
ここにプレゼントを入れてある。
赤いリボンが紗、緑が飛鳥だ〉
熱くなった頬を隠そうと下を向き、クッションで膨らませたサンタらしい白い布袋から2つの包みを取り出して見せ、戻して渡した。
受け取った飛翔は袋を犬小屋で隠すように置き、ショウの中に戻った。
〈それじゃあ打ち合わせ通りに〉
飛翔と瑠璃は散歩の度に打ち合わせていた。
青生とも打ち合わせ終えていたらしい。
飛翔の声に頷いた青生は低木に隠れ、黒い布を被った。
瑠璃も頷き、勝手口に向かった。
―◦―
ワン♪ カリカリカリ――
「あ♪」
窓の方を向いた紗が嬉しそうに駆けた。
飛鳥がヨチヨチと姉を追う。
もどかしそうにカーテンと窓を開け、
「ショウ♪ パパサンタさんは?」
しゃがんでショウをギュッとした。
ワン♪〈タカシ♪ いくよ♪〉〈お願いね〉
〈すっぽ~~ん♪〉〈具現化!〉
「ぱ~ぱ、ぱ~ぱ~♪」「えっ?」
飛鳥が手を伸ばしている方を見ると、犬小屋の向こうに赤いものが見え、動いた。
「パパ……?」
飛翔サンタが立ち上がり、袋を担いで数歩寄ると、紗は庭に駆けだした。
「パパっ!♪!」
しゃがんで紗を受け止め、愛おしさのまま抱き締めた。
「ホントにパパだぁぁ♪」
「なかなか来れなくてゴメンよ。
でもいつも見てるからね」
紗の頭を撫でながら澪を見る。
「次いつ来るなんて約束できないけど……ずっと見守っているからね」
潤む瞳で飛翔を見詰める澪は何も言えずに唇を噛み、頷いた。
「約束してやれよな」
「無理言うなよ、利幸」
「ほら飛鳥だ」肩車に乗せる。
「大きくなったね。しっかり重くなった」
「だから頻繁に来いよな」
「毎日来てるんだけどね。
姿を作るのが難しいんだよ。
だから消えてしまう前に――」「あ♪」
「――メリークリスマス。はい紗」
「パパサンタさん、ありがと~♪」
「飛鳥の分だよ」頭上に。 「あいっ♪」
両手を伸ばした飛鳥が落ちそうになり、利幸が支えた。
「おいおい息子を落とすなよなぁ」
「ありがとう、利幸。瑠璃も。
これからも僕の家族をお願ぃ――」消えた。
「うわっ――と!」ギリギリキャッチ!
「おいっ、飛翔! もっかい出やがれ!」
飛翔が持っていたプレゼントの袋を掴んで大喜びな飛鳥を抱き、空に向かって叫んだ。
「利幸、ご近所迷惑だ」
「んなコト言ってもなぁ、瑠璃――」
「ほら」犬小屋の向こうを指した。
低木に隠れていた青生サンタが立ち上がり、驚いた飛鳥が落とした袋をショウが咥えて駆けて行った。
「パパ……」
「もう行かないといけないんだ。
だから……またね」
白髭の上の目が悲し気に笑う。
そして背を向け、木の向こうへ。
「待ってパパ! えっ……?」
山茶花を揺らして、淡い光を纏った何かが飛んだ。
「トナカイ、さん? あっ! パパっ!!」
トナカイが橇を引いて飛んだのだった。
手綱を握っているサンタが振り返り、片手を離して振った。
音も無く、高く高く昇って行く幻想的な橇に気圧されてしまい、後はただ静かに見送った。
〈タカシ、大丈夫?〉
〈うん。なんとかね〉
〈アレどーなってるの?〉
〈馴鹿は狐儀殿だよ〉
〈そっか~♪〉
〈瑠璃、このクッションは?〉
〈力丸の寝床のだ〉
〈じゃあこのまま帰るね〉
〈狐儀殿にも礼を頼む〉
〈うん。早く帰ってきてね〉
橇は すっかり見えなくなった。
「あ……雪……」
「これもパパサンタさんのプレゼントね」
「うんっ♪」
「冷えるから入りましょう」
「イイコしてたら来年もパパサンタさん来てくれる?」
「そうね……」
澪と紗は、もう一度 橇が飛んで行った空を見上げた。
「きっと来るわ。パパですもの」
笑顔で家に向かった。
〈期待されちゃったね~〉
〈来年はもっと保てるように頑張るよ。
青生君も協力してくれるから、きっと修行も捗るよ〉
〈うんっ♪
タカシとアオって、おんなじ匂い♪
だから安心する~♪〉
〈ショウも安心するの?
僕も安心するんだよね。
ちゃんと話したのは初めてなのに不思議だね〉
〈またタカシの前世?〉
〈ああ、そうかもね〉
―◦―
「パパサンタさんからのプレゼントは何?」
「ショウそっくり~♪」
包みから取り出して抱き締めた。
「本当に。笑ってる表情もソックリね♪」
「うんっ♪」
飛鳥は擬人化したような車のぬいぐるみで遊んでいる。
「瑠璃、どこで見つけたの?」こそっと。
「義弟が作ってくれたものだ」
「青生さんの弟さんって凄いわね……」
「物作りの神の化身かもな」
「瑠璃が言うと信じてしまうわ」
「そうか?」ふふっ。
「そうよぉ」ふふっ♪
嘘でも誇張でもない。
紅火様はドラグーナ様の手だからな。
先程の橇もフェネギ様の御指示で
作っていたのだろう。
―・―*―・―
『ただいま~』
「あ♪ 青生兄おかぇ――サンタさんだ~♪」
「うん。ちょっとあってね」袋に手を入れる。
「お♪ 俺達にプレゼントか?♪」
「白久兄さんは酒さえあればいいんでしょ?
はい、彩桜」「わ~い♪」
「はい、藤慈」「ずっと探していた本……♪」
「紅火は、これね」「む? ……ぉ(♪)」
「黒瑯、はい」「うっわー♪ 匠の柳葉♪」
「黒瑯兄カッコイイ~♪ 刀?♪」
「違ぇよ! 包丁だよっ♪」シャキーン♪
「紅火兄のも武器?♪」「彫刻刀だ(♪)」
既に藤慈は本に夢中だ。
「金錦兄さん」「開けてよいのか?」
「もちろんですよ」「ありがとう」
「お~い俺には?」「はい?」
「無ぇのかよぉ」「はい、白久兄さん」
包んでいるが、どう見ても一升瓶だった。
「飲み過ぎないで――」「おおおっ♪♪♪」
「青生、まさか、この石板」「本物ですよ」
「如何にして入手したのだ?」「内緒です」
「遺跡でも発見したのか?」「ではそれで」
「青生兄、じゃあコレも遺跡から?♪」
「そうだよ」「その遺跡にっ」「行こ~♪」
「彩桜の何だぁ?」「カッコイイ~聖杯♪」
「杯なら俺にくれっ♪」「やっだよ~ん♪」
「実は全て狐儀殿からなんだ。
奥さん達の分は、これね」
口々に驚きと喜びの声が上がる。
「賑やかだな」「あ♪ 瑠璃姉~♪」
こうして輝竜家の面々が揃い、楽しく賑やかなクリスマスイブが始まった。
父ドラグーナと息子アーマル。
気づくのはいつのことやらですが、接していれば目覚めるのも早くなるだろうと瑠璃と狐儀は思っています。
ただ……瑠璃としては、世の為にはドラグーナが必要だけれど、自身にとっては青生でいてほしいと複雑な想いを抱えています。




