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楽しいアンコール



「で、どーするんだぁ?」


「此処に在る全種を使う。

 重なる事を考慮すれば主だったものは全て2本ずつとなるだろう」

「ってリードは!?」


「新品を見つけた。道具も。任せろ」

紅火は皆に背を向け、テーブルに陣取った。


「数は最小限にしたい。曲は?」


「オレが一番好きな派手なヤツ!」

「曲名を言えよなっ」「忘れた♪」

「お前、ホントに好きなのかよぉ」


「解った」「マジかよ!?」

「サッスガ金錦兄♪」


「調弦は私が。白久、黒瑯、金管を。

 トランペット、ホルンのみ2で」

「「おう!」」


「藤慈、先にフルートとピッコロを。

 予備が無いものは抜きとし……ピッコロ、ファゴットは1。

 サキソフォンは各1。

 フルート、オーボエ、クラリネットは2で頼む」

「はいっ!」


「白久、黒瑯。

 リードが上がり次第、木管に」

「「おうよ♪」」



「ホントに全部 使うんだ……」


「お♪ 彩桜、手伝え♪」「うんっ!」



 青生が紅火の手元を覗き込むと、光を帯びており、速さも尋常ではなかった。

〈発動して大丈夫?

 瞬移の疲れは出ていない?〉


紅火は不敵な笑みを浮かべ、並べているリードを指した。

〈クラリネット、サックス〉上がりだ。


「うん。ありがとう」


青生はリードを藤慈に渡して戻って来た。


〈む?〉〈手伝うよ〉

手が光らない程度に回復を込めて紅火の肩に添えた。



「金管、チューニング終わったぞ♪」

「サックスを!」「「任せろ♪」」


「金錦兄、ビオラの弦、張り換えてるの?」

「大した時間は要しない」

「俺、チェロするねっ♪」


〈オーボエ〉

「うん。合わせてくるよ」



 楽団員達が戻って来た。


「あれれ?」


「ステージの椅子を片付けているんですよ」

「トレービさんとジョージさんが喋りで繋いでいます♪」

「もしかして、それ全部……?」


「「「「使わせて頂きます♪」」」」

「みんなカワイイから鳴らすの~♪」


「流石キリュウ兄弟……」「ほえ?」


「もう、そう呼ばれてますよ」「ふえっ!?」


「それより運んでやらないか?」

「そうだな」「スタンドもだな」

チューニングを終えた楽器は運び出された。


 青生がチューニングしているオーボエと紅火がチューニングを始めたファゴットに奏者達が寄った。

「リードは?」


「弟が整えました」紅火に微笑む。

「あ、勝手に頂いてしまいました。

 すみません」


「それは構わないよ。でも大丈夫?」

「確かめさせてもらっても?」

まだリードを付けていない方を指した。


「どうぞ」


付ける。鳴らす。驚く。「これは……」


「どっちなんだよ?」

「こんなに吹き易いのは初めてだよ」

「貸してみろよ」「ほらよ」


鳴らす。目を見開く。「マジか……」


「だろ?」「ああ。発注しようかな」


「何年も毎日毎日リード削ってるのになぁ」


「まったくだ。バイオリンじゃなくこっちが専門なのか?」


「いえ……道具作りが専門です」

ファゴットの方も奏者が楽しそうに吹いているので手持ち無沙汰になっている。


「おい、そろそろ行かせないと」

「あ、そうだな」

「客席の後ろで聴くか?」

「それがいいな♪」「急げ!」



―◦―



 兄弟がステージに戻ると、唐突な大拍手でピンときたトレービとジョージがニヤリと振り向いた。


『そんな所で止まるなよなぁ』

『お前らのお陰でトークショーって仕事が増えちまうじゃねぇかよ』


「ソレ、俺達のせいなのぉ?」


『こんな喋った演奏会なんて初めてだよ』

『普通は終始ダンマリなんだからなっ♪』


「喜んでていいのぉ?」


『それはお客様に聞いてく――』大喝采!

二人が『分かったから落ち着け』と手振り。


『お前らには立ってろと言ったが』

『お客様には座ってろなんて言ってない。

 けど見ろよ。空席はお前らの所だけだ』


 客席側が、やんわりと明るくなった。

妻達は席を詰めて座っており、空いた兄弟分の席には両親とマリノフスキー夫妻、このホールの支配人夫妻が座っていた。

 徹の隣にはソラが身体を具現化して座っており、繋いでいる手を挙げた。


『『空席じゃなくなってるな♪』』


「マジで満席のままだな……」

「つーか後ろ、スタッフも混じってるぞ」


『これだけの期待の眼差しをそんな不安満載の目で見返すなよなぁ』


『皆様、音楽が好きなんだよ。

 形式よりも、純粋に音を楽しみたいんだ。

 もっと自信を持ちやがれ』


『では皆様、お待たせ致しました。

 キリュウ兄弟が皆様からの熱烈なアンコールにお応え致します』


『曲は聴いてのお楽しみ♪ どうぞ♪』


 兄弟は大小の弦楽器を手に、広くなったステージに軽く弧を成して等間隔に並ぶと、指揮者が居るかのように同時に構えた。


 彩桜 藤慈 青生のバイオリンが和音を成して昇るのを金錦と白久のビオラが支えて包む。

黒瑯のチェロと紅火のコントラバスは、たった二人で演奏しているとは思えない重厚な轟きを生み出していた。


 劇的な始まりから一転して静けさへ。

いつの間に持ち替えたのか、青生のフルートと金錦のオーボエが旋律を奏でていた。


〈金錦兄、打楽器とピアノは残ってるけど使っていいのか?〉

黒瑯がチラリと後ろに視線を走らせる。


〈構わない。

 白久の動きにだけは気を付けてくれ〉


〈ん♪〉

〈おいおい、聞こえてるってぇ。

 俺だって こんな場でフザケたりしねぇよ〉

〈〈〈〈えっ?〉〉〉〉〈白久?〉


〈ナンだよ?

 さっき裏で紅火がコレ教えてくれたんだ♪

 俺がマジだからなっ♪ 安心しろ♪〉

と、楽し気に話しながらクラリネットを手にして素早く戻った。


足音も立てず次々と楽器を持ち替えて曲のイメージを崩す事なく旋律を保ち、他の楽器音も数の不足を感じさせない程に滑らかに繋いで、静けさから荘厳さへと転換していった。


〈ホルンの雄叫び貰ったー♪〉

〈そんなら俺がセカンドだ♪〉

黒瑯と白久の『雄叫び』に紅火がチューバの重低音で吼えて合わせる。


〈〈ナイス紅火♪〉〉


 そこからは黒瑯の好きな派手な部分。


 だが黒瑯はホルンを置くと後ろに走った。

6人になったと感じさせないように兄弟は音量を増した。

 黒瑯は最速でティンパニの音を合わせると、スタンドシンバルを横に運んだ。

それが丁度ロールをクレシェンドする箇所。


 笑顔から真顔に。

ロールから派手に交差させて叩いて魅せ、ハンドシンバル代わりのスタンドシンバルを響かせた。


 重なるファンファーレ。

最初は弦で奏でたフレーズを金管楽器で華やかに、高らかに。

 戻って来た黒瑯はピッコロで彩桜と青生のトランペットと掛け合いを始めた。


〈もうすぐフィナーレだがピアノは?〉


〈いつもの遊びをしねぇか?♪〉


金錦と白久のやりとりに、弟達は小さく笑みを浮かべて同意した。



 余韻がホールを清々しく包む。

満足気な笑みを交わして兄弟は深々と礼をした。


 余韻が消え、一瞬だけの静寂。

そして三度目のスタンディングオベーションを頭のてっぺんで感じつつ、兄弟は感謝を込めて頭を下げ続けていた。


『お~い、そろそろ上げろ~♪』

『次の公演が迫ってるんだよ♪』


『司会進行役』の二人が戻って来た。


顔を上げた兄弟、にこり。


『『んん?』』


「ちょっと遊ぶ~♪」

一斉にピアノを囲んで、慎重に中央へ。


「父ちゃんが教えてくれたの~♪」

彩桜が椅子に座る。


 両側に金錦と白久が立ち、三人での連弾で即興曲が始まった。


 直ぐに彩桜が弾きながら腰を浮かせ、白久が座りつつ引き継いだ。

彩桜は金錦と入れ替わり弾き続けている。

白久が立っていた位置では笑顔の青生が弾いていた。


 同じ要領で次々と兄弟が入れ替わっているが、全く違和感なく継いでいるので目を閉じれば各々のパートをずっと1人が弾いているとしか思えなかった。


 短い即興曲は和音で締め括られた。


『締め括られてしまった』と感じた観客から『もっともっと』と催促の手拍子が湧く。


『残念だが時間だ。

 次のリハーサルすら出来ないくらいにな』


『キリュウ兄弟を今回限りになんて俺達が、いや音楽界が、させやしないさ』


『『次に聴ける時を楽しみにしていてくれ』』


ピアノの前に並んだ兄弟に合わせて、トレービとジョージも深く礼をした。



『好きにさせてくれた、このホールの支配人と!』

『寛大でナイスなオケの皆に!』


『『感謝を込めて盛大な拍手を!』』







いつも離れのホールで遊んでいるように楽しもうと、兄弟一緒だから大丈夫だと、リラックスしてアンコールに応えました。


有り得ない演奏ですが、一緒に暮らせないからと様々な楽器を与えてくれた両親に、ちゃんと練習していたんだよと伝えたかったのもあるんです。

ピアノで締め括ったのも、ピアニストな父に想いを込めて捧げたんでしょうね。



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