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クリスマス間近



 間も無く師走という日――


〈タカシ♪ 雪? 雪だよねっ♪〉


〈やけに冷えると思ったら……。

 今年は珍しく早い初雪だね〉


 犬小屋から頭と前足を出して微睡(まどろ)んでいたショウの鼻先に冷たいものがチョンと降り、目覚めたショウは小屋から出て、大喜びで庭を駆け回った。


『ショウをトナカイさんにするのっ!』


〈へ?〉〈紗の声だね〉家に近寄る。


『そしたらショウトナカイさんに乗ってパパサンタさん来てくれるのっ!』


〈そういう事か……困ったな……〉

〈僕トナカイさん? タカシサンタさん? ソレなぁに?〉


庭に面した窓の向こうに、飾り付け途中のツリーが見える。


〈去年も角が付いた帽子を被せられたよね?

 あれが橇を引くトナカイなんだよ。

 きっとその帽子を見つけたんだ〉

地面に絵を描いていく。


〈これが橇。乗っているのがサンタさん。

 で、橇を引いているのがトナカイだよ。

 サンタさんはクリスマスに世界中の良い子達にプレゼントを配るんだ〉

ササッと絵を消した。


〈タカシ、配ってたの?〉


〈僕は本物のサンタさんじゃないから配っていないよ。

 でもね、親も子供達にプレゼントを渡すのが普通なんだ。

 僕も生きていれば、ね……〉


〈そっか~。スズちゃんもタカシからのプレゼント欲しいんだね?

 タカシ、出られないの?

 集めてる力って使えないの?

 アーチェリー出すみたいに〉


〈そうだね……やってみるよ。

 怨霊を動かす時みたいに僕を動かして、アーチェリーのように具現化……うん。

 クリスマスまでに練習してみるよ〉


〈すっごく泣いてるよ?〉窓を見上げる。


〈被ってあげたらいいのかな?〉


〈ん♪〉窓をカリカリ♪〈スズちゃ~ん♪〉


『あ♪ ショウ♪』トコトコ、カララッ。

「はいっ♪ トナカイさん♪」スポッ♪


〈あっ! スズちゃん待ってぇ。

 僕の耳、クシュッてなってるよぉ。

 ちゃんと穴から出してぇ〉クゥ~ン。


「あらあら泣き止んだと思ったら」

飛鳥を連れた澪が慌てて来た。

「帽子の穴から耳を出してあげないとショウが困ってるわ」


「あな?」


「ほら、ここから出してあげてね」


「うんっ♪ んしょ。これでいいの?」


「ショウの尻尾が嬉しそうだから、それでいいのよ」


「ん♪ じゃあショウ♪ クリスマスにパパサンタさん乗せてきてね♪」


〈タカシ、頑張ってねぇ〉ワン♪



―◦―



 その夜――


〈タカシ、怨霊の匂いするよ〉


〈小さいけど力も持っていそうだね。行こう〉


〈うんっ♪〉カチャカチャ、タタッ。


塀を飛び越え――〈わぁ白~い♪〉――タッ。


怨霊に向かって走る。


〈薄く積もっているから気をつけて〉


〈足ちべた~い♪〉ツツー♪〈あはははっ♪〉


〈器用だね〉ふふっ♪


曲がる度に軽く滑ったが、ショウはそれすらも楽しんで走り続けた。



〈そろそろ動きを止めようかな〉〈うん♪〉

立ち止まって風向きを読み、二足で立ってアーチェリーを構えた。


ヒュ――



 微かな風切り音は一瞬で遠ざかり、怨霊の動きが止まった。


飛翔は矢から繋がる気を手首に巻いて掴み、

〈囲みへ!〉

その手を横に薙いだ。


 怨霊が消え、囲みの内に現れる。

それを確かめ、矢に繋がっている気を引き戻すようにグイッと腕を動かすと、飛翔の手の内に、力を突き刺している矢が現れた。


〈回収~♪ タカシすっご~い♪

 どーしてサンタさんできないのかなぁ?〉

眠る前にさんざん練習したのを思い出し、首を傾げた。

〈あ♪ ルリだ~♪〉〈え? あ……〉


瑠璃と嶋崎が話しながら近づいて来ている。


〈祓い屋を手伝っているのかな?

 なんだか申し訳ないな〉


〈そう思うのなら犬らしくしろ。

 見つかったら厄介だろ〉


〈あ……〉犬らしく逃げた。



「今夜も仕事明けだったのよね?

 呼び出しちゃってゴメンなさいね」


「いえ、問題ありませんので。

 では私は此方ですので。失礼致します」


「ホント頼りになるわぁ。

 じゃあこれで5件引き受けるわねっ」

手をヒラヒラとして笑顔で去って行った。




〈さて、飛翔とショウ。

 また欠片を回収していたのだな?〉


〈そのと~り~♪〉駆け出て来た。


〈その……祓い屋しているのは、ショウの欠片昇華の為、なんだよね?〉


〈ま、楽しんでいる。気にするな。

 それに、この調子で昇華すれば、そう待たずともショウと飛翔が祓い屋を引き継いでくれるのだろう?〉


〈サクラと一緒に祓い屋さんした~い♪〉

〈この力を集めないといけないからね〉


〈ふむ。それは良いとして、だ。

 サンタがどうしたのだ?〉


〈聞こえてしまった?〉

〈タカシがパパサンタさんするんだよ♪〉


〈ふむ。

 紗の為に姿を見せようとしているのだな?

 上手くいっていないのか?〉


〈ショウから出られないんだよ。

 怨霊を動かすのは簡単なんだけどね〉


〈ショウが出してやればよいのでは?

 飛翔が自身を引き出すのは難しいだろうな。

 だがショウが追い出せば――〉〈やってみる♪〉


言い終わらないうちに試し始めた。


〈タカシに巻きつけて~♪

 すっぽ~~ん♪ できたっ♪〉


〈一発だったな〉〈っと……具現化?〉

〈何故、疑問形なのだ?〉〈さぁ……〉

〈兎に角、出来たのでは?〉〈あ……〉


少々気の早いサンタ服な飛翔はポンポンと身体を確かめた。

〈うん……できたね〉


〈タカシ~♪〉〈わっ!?〉

嬉しさ爆発なショウが飛びつき、飛翔は押し倒されてしまった。

〈痛たた……なんだかそれも嬉しいけどね〉


〈プレゼントは澪と準備しておく。

 ショウが運ぶとでも言っておこう〉


〈ありがとう。

 利幸がサンタをするのは阻止してね〉


〈ショウが潰れてしまうからな♪〉


〈あ……その心配もあったね〉


〈ま、心配無用だ。

 あとは疲れぬ程度に練習しておけ。

 さて、狐儀殿はどちらに御用なのですか?〉


〈えっ?〉〈あ♪ こんばんは~♪〉

振り返ると白狐が笑っていた。

〈もしかして手伝ってくださったとか?〉


〈ほんの少々。

 参りましたついでで御座いますよ。

 ですが、もう其の必要も御座いますまい。

 ショウは要領を得たようですのでね。


 瑠璃様。お話があり、参りました次第。

 宜しゅう御座いますか?〉


〈飛翔、ショウ。早く休めよ〉〈では〉礼。


片手を軽く挙げて微笑み、家に向かった瑠璃を追って、狐儀は宙を跳ねて行った。



〈じゃあ帰ろうか〉〈うんっ♪〉

並んで歩き始めた。

〈タカシと おさんぽ嬉し~な♪〉


〈どのくらい保てるのかを確かめ――!?〉スッ――


〈あ♪ おかえりなさ~い♪〉


〈……うん。

 ほんの少しも気を抜けないらしいね〉


〈クリスマスまで毎日練習?〉


〈しないとね〉苦笑。


〈一緒に おさんぽ嬉し~な♪〉てってって♪



―・―*―・―



〈フェネギ様、昨夜現れた敵方結界の件で御座いますね?〉


〈はい。

 ですが破壊の仕方は心得ております故、ご案じ召されますな。

 二度と何方も入れぬ状況なんぞ成させませぬよ〉


〈前回同様だったのですね?

 頭部お二方が街に入れぬようにと成されておったのですね?〉


〈其の通りで御座います〉


〈進歩が無いのは此方にとっては好都合ですが……〉


〈他の企みを隠す為か否かは、ディルムとリグーリが探っております〉


〈兄の記憶を取り戻させるべきでしょうか?

 ダイナストラだけは記憶そのままですが、ショウフルルは如何に致しましょう?〉


〈双方共、時に委せるべきかと。

 アーマルは明確な先読みでは御座いませんでしたが、予知的な力を持っております。

 故に自ずと感知する事でしょう。

 一度、蓋が開いておりますのでね。


 ショウフルルとの共存も、(トリノクス)の欠片を理由も分からぬままに集め続けてくれている事も、良い方向にしか向いていないとオフォクス様も仰ってくださいました。

 ですので其のままで〉


〈何もかも、お世話になるばかりで申し訳御座いません〉


〈いえいえ、友の為。何より神として大切なもの全てを護る為で御座いますよ〉


〈街の結界にも……〉見上げた。

〈重ねてくださっておりますね?〉


〈ええ。また要らぬものを重ねられぬように、で御座います。

 彼女の結界が優れているからこそ成せたのですよ〉


〈直接は関わっておらぬが、共に怨霊退治をして、その力、よく分かりました。

 人もなかなかのものと〉


〈大いなる神の、大きな欠片をお持ちですのでね〉


〈やはり……〉ふふっ。


〈はい〉ふふふ。


同代で同格の二神が、安堵も混ざった笑みを交わしたのはほんの束の間で、直ぐに表情を引き締め、目礼して背を向けた。




 然様で御座いますか……

 己に厳しく、冷徹とまでも言われた

 ラピスリ様も

 人としての幸せを知ってしまわれ、

 お悩みなのですね。


狐儀は雪がチラチラと舞い降る空を見上げた。


 しかし立ち止まれはしない。

 其の決意の笑みを心からの喜びの笑みに

 変える事が叶うのか……。


掌で受けた雪が儚く消える。


 私の想いも此の雪のように――いえ。

 今暫くは蓋をしておくべきですね。


 何を置いても、

 災厄からの脱却に向けて

 事を運ばねばなりません。







クリスマスまであと少し。

紗を喜ばせたい一心で頑張る飛翔を父親のように見ているショウは、一緒に頑張れるのが嬉しくて楽しくて仕方ありません。


こうして覚えた分離方法を記憶も開ききっていないままに利用して、本編でも飛翔とカケルを分離して飛翔の家族と奏に姿を見せたようです。



狐儀(フェネギ)瑠璃(ラピスリ)に片想い。

瑠璃の想いを知ってもなお消えない強い想いを抱えたまま、狐儀は任に徹しようと雪舞う夜空を見上げます。


もちろん、切ないままになんかしませんけどね。

狐儀にだって春が来るんです♪



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