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翔³(ショウソラカケル)ユーレイ探偵団外伝  作者: みや凜
第三部 第3章 黒瑯の龍神と兄達の過去
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殻を破れ



 翌日は文化祭前の特別部活日だったので、放課後、彩桜は茶道部・書道部と共通の活動場所になっている、かつては宿直室だった和室に行った。


「あれれ? 俺、一番乗り?

 掃除当番だったのに?」


 書道部が使う長卓を部屋の真ん中に2台くっつけて広い座卓になるように並べ、座布団も並べたが、部長も顧問も来なかった。


「本、読んで待つ? あ♪」

返してもらったばかりの小テストを鞄から出して思惑通りの点数なのを確かめた。


 うんうん♪ ちゃんと同じ点♪

 中間テストもコレしたらいいね♪


「輝竜君、手抜きをするとは如何なものでしょうね?」


背後からの声に恐る恐る振り返る。


「そろそろ実力を発揮しては如何です?」

顧問の白儀(しらぎ)教頭が来ていた。


「でもねぇ――あっ! 返してっ!」


(いず)れも75点ですか……見事に揃える努力を他に向けては如何です?」


『遅くなって すみません!』「あっ」

外で声がして直ぐに襖が開き、徹が入って来た。


「教頭先生、それは?」


「輝竜君の答案です」「ダメッ!」

彩桜を無視して徹に渡した。


「で、でも、見るなんて……」


「構いませんよ」「ダメだってばぁ」

「この点数で部活を続けてもよいと考えますか? 古屋部長」


「ごめんね、彩桜君」

困り顔で点数が書かれている右上だけをササッと見た。


「全部75点って……嘘だよね?

 あ、体調――は、毎日 元気だったよね。

 どうして?」


【狐儀師匠ヒドいんだぁあ~】ぐすっ。


【手抜きは許せません。

 ドラグーナ様もお嘆きになりますよ?】


【んもおぉ~】


【牛ですか? 牛にして差し上げてもよろしいのですよ?】


【イヤです!!】


【でしたら答えなさい】


【どぉして今日は分身じゃないのぉ?】


【話を()らさないでください】


「目立ったらイジメられるから……」


「それは僕も解るけど……でも彩桜君ならイジメられないくらい手が届かない存在になれると思う。

 全力、出しなよ」


「でも……俺……」


「だったら僕も言うばかりじゃなく上を向くよ。死ぬ気で頑張る。

 僕、今の成績じゃ絶対ムリな櫻咲(さくらさき)高校を受けるよ。

 さっき担任に呼び止められて進路のことクドクド言われて、明日答えますってテキトー言ったけど、決めたよ。

 まずは担任に反対されない成績になる!」


「徹君……」


「櫻咲に行けば歴史好きな友達ができるかも、って ずっと憧れてたんだ。

 でも歴史しか点が取れないからムリだって諦めてた。

 彩桜君、一緒に上を向こうよ」


「彩桜君のお兄さん達も多少はイジメを受けておりました。

 ですが負けず、前を、上を向いて、強い意志で学生生活を乗り越えたのです。

 もう(うつむ)くのは、おやめなさい」


「も……ちょっと、考えさせて……」


「そうですね。

 お兄さん達とも お話しなさい」


「……はい」


「では古屋部長、文化祭に向けて何か考えておりますか?」


教頭に手で示されて、徹と彩桜は向かい合って座った。


「はい。

 僕は最後なので、僕の好きな邦和古代史の展示にしたいと思っています。

 藤原京とか、どうでしょうか?

 彩桜君? さっきのは ゆっくり考えてね?」


「うん。ちょっと置いときます。

 藤原京、いいと思います。

 なんか新しいの見つかってたし。

 資料、集めときます」


「そうですか。

 では、その展示に決めましょう。

 この部屋は文化祭迄、毎週木曜日を押さえております。

 保管しておきたい物も部屋の隅に置かせてもらえますので連絡だけはお願いしますね。

 では私は職員室に戻りますので、具体的に詰めてくださいね」



「彩桜君。一緒に頑張ろ?

 もう、普通の人に出来る事、出来ない事、分かるよね?

 普通じゃない事だけ、しないようにすれば大丈夫だよ。

 彩桜君なら堂々としてるだけで大丈夫だ」


「……ありがと。

 ね、藤原京のジオラマ作らない?

 紅火兄に習って」


「それイイねっ!♪」



―◦―



 その夜、部屋で独り悩んでいた彩桜は、心話で呼ばれて紅火の部屋に行った。


「紅火兄なぁに?

 今日は店番サボりじゃなくて部活だったんだよぉ」


「そんな事は聞いていないが?」


「だよねぇ。なぁに?」


「黒瑯のドラグーナ様を目覚めさせる。

 青生も間も無く戻る。

 兄弟で黒瑯を囲み、力を注ぐ」


「兄弟だけで!?」


「ジョーヌ様の時も そうだったろう?」


「だったねぇ」


「あの時よりも各々が強くなっている。

 彩桜も自信を持て」


「またソレだ……」


「む? また、とは?」


「今日、狐儀師匠にも叱られたの。

 全力を出せって。

 徹君にも頑張ろうって」


「わざと空欄にしている答案を見られたのか?」


「うん。ん? 紅火兄も知ってたの!?」


「当然だ。

 皆、彩桜が殻を破るのを待っていた」


「紅火兄もイジメられた?」


「俺の方が無視した」


「聞いた俺がバカでした。紅火兄だもんねぇ」


「年の離れた彩桜は金錦兄と同じ苦労をしていると思っている。

 俺は年子な青生と黒瑯が何かと護ってくれていたからな」


「1コ違いっていいな……」


「確かにな。しかし出来過ぎる青生が近いのは、それなりにプレッシャーだった」


「黒瑯兄は?」


「あの大雑把で、おおらか過ぎる黒瑯でさえ押し潰されそうだと言っていた」


「そっか。兄貴達も みんな大変だったんだ。

 だからね、本気出す気には なったんだ。

 けど、全力なんていいのかなぁ……」


「出せばよい。

 中途半端に手加減すれば、手が届くと思われて引き摺り下ろされるぞ」


「徹君も言ってた」


「ふむ。良い友を得たのだな」


「うん。

 でもね、3年生だから卒業しちゃう。

 あ! だから文化祭!

 ジオラマ作りたいんだ!

 指導、お願いします!」


「む……彩桜だけではないのだな?」


「うん。部活だもん」


「俺にも避けるなと言いたいのだな?」


「違うよぉ。

 ちゃんと作りたいだけなんだ。

 全力出す練習なんだ。

 俺も、徹君も」


「そうか。ならば完璧を目指す」


「紅火兄の完璧って神業(カミワザ)でしょ?

 中学生の部活なんだからぁ」


「完璧しか許さぬ。全力を尽くせ」


「……うん。頑張る」『ただいま』

「青生兄だ♪ おっ帰りなさ~い♪」



―◦―



「ナンなんだよっ!?

 揃いも揃ってジーッと見やがって!」


部屋に集まった兄弟に囲まれた黒瑯はワタワタしていた。


「ナンか言ってくれっ!!」


「うん。確かめていただけなんだ。

 話す余裕が無くて ごめんね」


「青生ぉ、ナニ確かめてたんだよぉ?」


「最近、心話とか神眼とか出来るようになったんだよね?」


「おう♪ ソレ鍛えてくれるのか?♪」


「言い換えると、そうなるね。

 瞬移も出来るようになれば世界中を飛び回っての仕入れも出来るようになるね」


「うんうん♪

 ぐるぐるしてもランチに間に合う~♪」


「はあ?」


「瞬間移動♪」

消えて部屋の隅で手を振り、黒瑯の目の前に現れて笑った。

「もっと遠くても大丈夫♪」


と、説明していると金錦が現れた。

「遅くなって すまぬ」「金錦兄までっ!?」


「牡丹姉ちゃんは?」


「外だ。妻達は円形に家を囲んでいる」

囲みに加わった。


「そっか~♪」「フツーに話すなっ!」


「黒瑯、落ち着いてよ。

 普通じゃないって皆、嫌と言うほど分かっているんだから。

 ちゃんと話すから聞いてね?」


「おう」


まだ釈然としていない様子ではあったが、黒瑯は青生が正面になるように座り直した。







北米では楽しく全力を発揮していたのに学校では……な彩桜。

白儀教頭と徹、紅火にも励まされましたが、まだ悩んでいます。



狐儀は中学生になった輝竜兄弟に対するイジメが酷くなったのに気付き、白儀(しらぎ)として見守りを始めたんです。

狐神は分身やら偽装やら具現化やらの術が得意ですので、他にも見守り人をしていたようです。



前章でラピスリがオフォクスに話していたように、兄弟で黒瑯のドラグーナを目覚めさせようとしています。

神達は家を囲み、また上空から兄弟を支えようとしています。



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