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翔³(ショウソラカケル)ユーレイ探偵団外伝  作者: みや凜
第三部 第2章 人として生きるには
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天才青年Sora



 午後早く、ソラに偽装したままの彩桜を連れたオフォクスは北米の首都、ホンガンジが指定した場所に術移した。


【キツネ様、此方に】礼。


見るからに邦和人な男性ユーレイが居た。


【カミコウジ、儂等は間に合ったか?

 医師や看護師が入れ替わり立ち替わりで出られなかったのだ】


【大丈夫ですよ、十分に。

 彩桜君の荷物も此方に】指してニコッ。


【ありがと~♪】


【彩桜、何を持って来たのだ?】


【後で父ちゃんに会えるんでしょ♪

 だから楽器♪】


【瑠璃が言ったのか?】


【うんっ♪ あ、内緒だった?

 サプライズしてくれるんだった?】


【ま、試験に合格すれば、な】


【うんっ♪】



 そして、カミコウジは身体を具現化し、とあるビルに一緒に入った。


【全て整えておりますが、公式に認められる何かが無ければ操りが解けてしまいますので、ご理解ください】


【操り? 支配なんぞ持っておったのか?】


【いえいえ。モグラ様ではありませんので。

 催眠術程度のものですよ】



 カミコウジが受付カウンターで書きつつ、オフォクスと話している間に手続きが終わったらしく、彩桜は事務員らしき女性に案内されて行った。


【キツネ様、彩桜君は若いのでは?】


【中学一年生だ】


【えっ!?

 院生留学として整えましたけど?】


【それで良い。

 ソラは大学院生と成るのだからな。

 彩桜は此方でならば既に大学院生に成っておろう】


【飛び級ですか……】


【邦和には無い制度だからな】


【彩桜君のお父様とは何方なのですか?】


【ふむ。近くに来ておるな。

 父は輝竜 燻銀(いぶし)、母は美翠(みどり)だ】


【キリュウ夫妻!?

 ……だから楽器も……語学も、ですか……】


【コンサートでもあるのか?】


【はい。週末に】


【ふむ】



―・―*―・―



 きりゅう動物病院は深夜で、内も外も静まり返っていた。


「そう。彩桜は父さんに会いに……」


「青生も会いたいのか?」


「うん……答えるのが難しい質問だね。

 会いたくないと言ったら大嘘だけど、無理をしてまでは、って感じかな?

 国内でコンサートがあれば行きたいな」


「今週末、北米でコンサートがある。

 皆で行かぬか?」


「え? 病院は?」


「狐儀殿に頼んである」


「それじゃあチケットも?」


「ある」


「パスポートとかは?」


「瞬移する」


「でも白久兄さんと黒瑯は――」


「白久殿には酒で眠って頂く。

 黒瑯殿は週末迄には目覚めさせる」


「え……?」瑠璃が?


「と、ラピスラズリ様が仰っている」


「あ……そうか」


「では私は夜勤を続ける。

 お休み、青生」


「うん。おやすみ、瑠璃」



―・―*―・―



 異国の陽が傾き始めた頃、ビルの中は天才が現れたと騒然としていた。


【俺、やり過ぎちゃった?】


【ま、良かろう】フッ。


稲荷(オフォクス)と彩桜は長椅子に腰掛けて、受付カウンターに居るカミコウジの背中を見ながら話している。


【父ちゃんトコ行ける?

 学校、間に合う?】


【学校に行きたいのか?】


【うんっ♪ ちゃんと行かないと放課後 徹君と遊べないから~♪】


【ふむ……】フフッ。


【俺……なんだか眠くなっちゃった~】


【邦和は明けに近い夜中だからな。

 眠っておけ】


【ん……】すぅ……。


オフォクスは凭れてきた彩桜に微笑み、回復光を纏わせた手で撫でた。


「父ちゃん……」


「心配せずとも会わせてやる」


「ん……♪」


寝言だとは知っていても答えてしまうオフォクスだった。




 騒ぎで少し長く掛かったが、カミコウジが笑顔で振り返り、寄って来た。


【手続きは全て終わりました。

 天才青年Sora Okasakiは最速処理で北米人になります。

 後は僕達に お任せください。

 キリュウ夫妻の所へどうぞ】



―◦―



「父ちゃん♪ 母ちゃん♪」ぱふっ♪


 リハーサル用に借りているホールの控室のドアをノックするのも開けるのも もどかしい様子の彩桜は、開けるなり燻銀の胸に飛び込んだ。


「彩桜……どうしたんだ?」ぱちくり。


「来ちゃった~♪」「あっ、お義父さん!」


美翠の声でドアの方を見ると、燻銀の養父である稲荷(いなり) 厳狐(げんこ)が苦笑していた。


「演奏を聞いて欲しいそうだ」

彩桜のリュックをテーブルに置いた。


「彩桜、何を持って来たの?」


「フルートとバイオリン♪」出す~♪

にっこにこで、先ずはバイオリンを奏で始めた。



 2曲目に入ろうとした彩桜が首を傾げ、振り返った。

「わっ……どぉしよ……」


入口に背を向けて演奏に集中していた彩桜は気付いていなかったが、開けたままにしていたので楽団員達が犇めき合って覗き込んでいた。

両親も、稲荷までもが笑っていた。


「また やっちゃった~」


「皆さん、此方にどうぞ。

 彩桜、次の曲を」


「う、うん……」

恥ずかしくなってしまった彩桜だったが、両親の笑顔に勇気づけられて視線を上げ、笑顔を返してスッと息を整えると音を紡ぎ出した。


楽器を持っていた楽団員達が合わせ始める。

兄達としか合わせた事のない彩桜にとって初めての他人とのセッションは、とてもとても楽しいものとなった。



 フルートに持ち替えた頃には、楽団員達は皆、楽器を持って来ていた。


「狭いのでステージの方で如何ですか?」


燻銀の提案で、楽し気な集団は彩桜に話し掛けながら歩いて行った。



「お義父さん、ありがとうございます」


「行かぬのか?」


「ご一緒に♪」


美翠は稲荷の手を引いてステージに向かった。



―・―*―・―



 オフォクスの術移で帰国すると登校時間ギリギリだった。

オフォクスの回復で元気いっぱいな彩桜は着替えながら朝食を掻き込むと学校へと瞬移した。


 その様子を神眼で見ていた瑠璃は、青生と交替するとキツネの社へと瞬移した。


【オフォクス父様】


【ふむ。彩桜を(そそのか)したな?】フッ♪


【彩桜は、ひと晩中 父様に連れ回されたのでしょう?

 何か褒美が無ければ可哀想ですので】


【ま、確かにな。大喜びであった。

 週末にはコンサートがあるそうだが?】


【はい。チケットは得ております。

 ですので黒瑯殿の父を目覚めさせねばなりません】


【ふむ……今夜はジョーヌだ。

 明日にでも】


【兄弟で目覚めさせるのを皆で補佐するという形を望んでおります】


【ふむ。良かろう】


【父様、何故 高校生達に絡まれたのです?】


【其れか……。

 結という娘の神力が急激に伸びておった。

 確かめに行くと、トウゴウジが結に捕まっておったのだ。

 師弟となったかと様子を見ておったら、トウゴウジが儂に目を向け、頼れば良いと。

 結界の点検が途中であるが故、と離れて待っておったホウジョウと共に消えおったのだ。

 結は、進学の事ならばトウゴウジの娘達を頼れば良いとは聞いていたらしい。

 だから連れて行けば儂の役目は終わると踏んで行ったのだ】


【それでも離してもらえなかったのですね】


【其の通りだ】


【此処を探し出して来るのでは?】


【嫌な予言をするでない】


オフォクスは顔をしかめて姿を消した。



―・―*―・―



「『ソラ』だけじゃ探せな~いっ!」


早朝からパソコンで検索していた御榊(みさかき)は椅子をクルッと回すと天井を睨んだ。


「あ♪ そうだ♪

 紗桜さんに聞けばいいのよね♪


 あ、もしもし紗桜さん? 私、御榊。

 そうね、表示されるわよね。

 ひとつ聞きたいの。

 紗桜さんの結婚相手の名前は?

 頭イイのよね?

 共同研究なんてどう?


 ア・マ・ミ・ソ・ラ、ね。ありがと♪

 それと――ん? 後で?

 ああ、学校に行く時間なのね。

 はいはい、ありがと♪」


再びパソコンに向かう。


「ん? 邦和人みたいな名前ねぇ。

 邦和系人なのかしら?

 ま、どーでもよねっ♪

 大学は聞き出せなかったけど、ま、探せるでしょう」



 1時間後――


「ちょっと待ってよ~、見つからないじゃないのよ!

 もしかして既に卒業してる?

 あっ! さっきの名前! 邦和名ねっ!

 もうっ、私ったら!

 本名 聞かなきゃ意味ないじゃないのよ!

 お昼には電話くれるかしら?」


真愛(まな)、独り言が大きいわね♪」


「なんでショーちゃん!?」


「言っとくけどノックは何度もしたわよ。

 何を騒いでいるの?」


「ソラが見つからないのよぉ」


「あ~、大卒有資格者は?

 卒業してるかもよ?」


「そうよねっ♪」検索検索~と♪


「きっと時間かかるわよ?

 大学のに、いったい何時間ログインしてるの?」


「え?」


「延長した?

 タイムアウトで強制ログアウトかもよ?」


「ええっ!? 知らないんだけど!?」


「困った真愛ね。あら、出たわね」


「良かった~♪」「延長なさいな」「はい!」



 結局、本田原が延長した。


「北米で当たったわね。Soraは1人だけ。

 Sora Okasaki、22歳 男性。

 邦和系人かしらね?」

本田原が展開する。


「アマミソラだって聞いたのにぃ」


「邦和名なんじゃない?

 養子縁組手続き中とか?」


「この子……国籍も大学名も空欄?」


「そうね。あら、国籍だけ入ったわね」


「バルバドス、アメリカ?

 邦和名があるのに邦和(コッチ)は?」


「だから手続き中なんでしょ。

 大学名の欄は塗り潰されたわね。

 つまり卒業資格試験合格者なんじゃない?」


「それって普通に卒業するより――」


「遥かに難関でしょうね♪」


「決めたわ! この子も引っ張るわよ!」


「だったら願書を仮申請しておかないと間に合わないわよ?

 このまま開いて申請すれば?」


「そーねっ! ショーちゃんお願いっ!」


「仕方ないわねぇ。

 御榊教授推薦での仮申請ね」「うんうん!」


本田原が どんどん入力していく。


「え? 天海 翔? 知ってたの!?

 また輝竜教授と話したの!?

 私も仲間に入れてよぉ」

画面を指して大騒ぎ。


「音楽の話をしているだけ。

 真愛には無理でしょ?」


「ううう~~」


「唸る暇があるのなら音楽の勉強でもしたら?

 音楽(ツウ)になったら話にも入れるでしょうね。

 はい、これで仮押さえ出来たわよ」


「ありがとショーちゃん♪」







これにてソラが留学生として大学院に入る手筈は整いました。


彩桜は物凄い子でした。

煌麗山大学の教授でも難関だと認める試験に合格する天才。

しかも演奏の腕も一流です。


2メートル以上を跳び越えたり、足が速かったりと他にも物凄い点がありそうですが……それは、これから ゆっくりと、です。



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