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翔³(ショウソラカケル)ユーレイ探偵団外伝  作者: みや凜
第三部 第2章 人として生きるには
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恋人はフランス人



 夜が明ける前に職神達は職域に戻り、青生と瑠璃は動物病院に、他の兄弟と妻達は家に帰った。


「間も無く夜が明けるが、少しでも眠っておくか?」


「そうだね。

 急患が来たら俺が起きるからね」


「私が起きる」


「俺が――それじゃあ一緒にね?」


「ふむ」


仮眠室へ。


「それじゃあ「おやすみ」」【ラピスリ殿!】


「「え?」」青生にも聞こえたらしい。


【姉上の名を考えてはくれぬか!?】


「静香姫様の神様の声だよね?」「うむ」

「人としての名って事だよね?」「うむ」

虹香(にじか)姫様とか?」「そうしよう」眠い。


【虹香姫様で如何か?】


【うむ♪ 忝い♪

 今宵、驪龍(リーロン)との祝宴を致す。

 ワラワの姉として紹介するからの♪】


言いたい事は言い終えたらしく静かになった。


「紹介するも何も、もう皆 知って――あ、そうか。白久兄さんと黒瑯か」


「そうだな」ふふっ。


「おやすみね」「うむ」



―◦―



 そして朝を迎えた。


 朝陽と共に起き上がった青生と瑠璃が動物達の様子を確かめ、支度をしていると、みかんとリリス、藤慈が出勤した。


続いてジョーヌも。

「遅くなって すみません!」


「遅くなんかナイナ~イ♪」「みかんさんっ」


ジョーヌを追って来たらしい心咲(みさき)も。


「おや?

 高階(たかはし)さん、ジョーヌ君が心配ですか?」


「職場としての きりゅう動物病院を見学させてくださいっ」サッと腰直角!


「すみません、止めたんですけど……」

ジョーヌ、とっても困り顔。


「トリミング室、手伝ってもらえたら とっても助かるな~♪」

「みかんさん!? ジョーヌさんと一緒に居たいんじゃありませんか?」

「あ~、そっかぁ。ザンネンッ」


「あ、あのっ、それも させてくださいっ」


「いいの?♪」


「はいっ! お願いいたします!」


「それじゃ、堅苦しいのナシねっ♪

 制服、私のでいいかなっ♪ ハイハイ♪」

更衣室へ引っ張って行った。


「みかんさん待って!」慌てて追う。



「えっと……ジョーヌ様?」

藤慈が首を傾げる。


「あのっ、僕に『様』なんてっ」焦っ。


「オニキス様のように、これからは人として、なのですね?」


「たぶん……フェレットもします。

 あのっ、薬草をこれからもお願いします!」


「気を遣わなくてもよいのですよ?」


「そうじゃなくて! 本当に必要なんです。

 まだ身体に慣れていなくて……不安定で、人の食べ物にも慣れていなくて……えっと、美味しいんですけど……」


「分かりましたよ♪ 栄養(神力)補助ですね♪」


「はいっ、お願いします」ぺこりっ。

「こうして人として生きられるようになれたのも藤慈様の薬草のお陰なんです」


「昨日と一昨日だけですよ?」


「お庭でいただいた食事に含まれているの知ってます。

 だから神力が高まって、それと励ましてくださったから心咲さんとの『人生』に踏み出せたんです。

 ありがとうございます」


「そんな大袈裟な……私は何も――」照れ照れ照れ――。


 青生が事務室から出て来た。

「ジョーヌ君、今日のところは名札だけね。

 高階さんにも渡してもらえるかな?」


「あっ、はいっ!」


「青生兄様、私の制服では?

 私の背が足りませんか?」


「上着だけ、お願いできる?」


「はい♪ 着替えましょう♪」「あっ」

ジョーヌを引っ張って行った。



【青生兄~♪】瞬移して来た♪


「今度は彩桜なの?」くすくす♪


【学校終わったら(とおる)君と来ていい?♪】

朝ごはん真っ最中♪


「徹君?」


【部活の先輩で、友達なったの~♪】


「遊び場じゃないんだけど?」


【見学~♪ 動物大好きなんだって♪】


「庭で遊んだら?」


【ソレもする~♪ ね、ダメ?】


「休憩時間でもいいならね」


【うん♪ 行ってきま~す♪】


また茶碗と箸が残っていた。



―・―*―・―



 夕方、診察開始前に彩桜達を帰し、祝宴の為に外来を瑠璃に頼んで病院を出た青生にジョーヌと心咲が駆け寄った。


「青生先生、途中まででもっ」


「きりゅう動物病院は合格ですか?」


「とっても素敵な職場です!

 あのっ、、資格を取ったら、働かせていただけませんか?」


「今のお仕事の方が給与面で良いと思いますけど?」


「そういうのは……それよりも、やりがい、なんです。

 大変なのは今日だけでも十分。

 臭いとか汚れとかも。

 でも……それでも楽しいんです。

 楽しいとかってダメなのかもですけど……」


「駄目だとしたら俺も失格ですね。

 辛い事も悲しい事もあるけど、基本、楽しんでいますから」


青生に寄って来た野良猫に微笑み、しゃがみ込むと、夕陽で誤魔化せる程度に浄化と治癒の光を淡く纏わせた手で撫で始めた。


「俺としては、気に入ってもらえたのなら、いつからでも。

 資格は追々で助手からでもいいし。

 もちろん両立できるようにするからね」


目を細めて すりすりしていた野良猫は『にゃ~ん』と満足気に鳴くと、立てた尻尾を揺らめかせて悠々と去って行った。


「それじゃあ……」


「今の お仕事の都合を優先してね?

 専門学校の方は、みかんさんとリリスさんの方が詳しいかな?」


「もう聞きました♪

 それで決心したんです♪」


「そう。なら、いつでも」にこっ。



「私……男性恐怖症だったんです。

 小6の頃、夜、塾の帰りに知らない おじさんに追いかけられて……それで、大人の男の人には近寄れなくなって……」


ジョーヌが立ち止まった。「僕……」


「あっ、ジョーヌは大丈夫だって言いたかったの!」慌てて手を繋ぐ。


「でも……」

ジョーヌは戸惑って手を引こうとしたが、心咲は離さず、むしろ強く握った。


「お父さんが唯一だった。

 学校でも会社でも、距離を保つのに必死だったの。


 ジョーヌがマンションから居なくなって、きりゅう動物病院に走って、青生先生が対応してくれた時……私の殻が1か所、パリーンって弾けたみたいになって、この先生だけは大丈夫って思えたんです。

 なんだか……人じゃなくて動物の神様みたいに思えて。

 それが1つのクッションだったみたいに、なんだか弾んだみたいに少しだけ前向きにしてくれてたんです。


 昨日、ジョーヌが人になったのを見て……私、嬉しかったんです。とっても。

 大人の男の人なのに。

 また逃げたら大変って思って……飛び込んじゃいました♪

 ジョーヌと結婚して二人の収入なら生活なんて どうにかなると思うんです♪」


「結婚……本当に僕と?」


「ジョーヌだって帰ってから

『結婚してくれますか?』って言ったじゃない。

 あれがプロポーズなんでしょ?」


「っと……はい。

 ずっと一緒に居たいので」


「私が こうやって くっつける唯一の男の人なんですからね♪

 もう元がフェレットでも何でもいいの♪

 私、今のジョーヌが好き♡」


「ええっと、青生先生が――」「あっ!」


「あれ? 居ない?」「あ! あそこ!」


道を折れて進んでいた青生が振り返らずに片手を軽く上げて振った。

【ジョーヌ様、また明日♪ お幸せに♪】


「あ、あのっ――」


【給与面は瑠璃と検討しますので♪】


「ありがとうございます!」礼っ!


心咲もジョーヌを追うように深く礼をした。



―◦―



 心咲がマンションの部屋のドアを開け――


「え?」「心咲、お帰り♪」「お母さん……」


驚いたジョーヌは、ついフェレットになってしまい、心咲の肩に登った。


「いつもいつも前ぶれもなく来るのね」

リビングへ。


「近くだし~♪

 娘の暮らしが気になるし~♪」

謎の歌を歌いながら夕食を作っている。


「お父さんは?」


「夕飯なら~♪ 置いて来たわ~♪」


「お父さん、かわいそう」くすっ♪


「あら、ご機嫌ね♪

 あらあら♪ キィちゃん♪

 お姉さん登りしてるのね~♪」


『このコはジョーヌ!』と言いかけて、『ジョーヌ』は結婚相手として紹介するのだからと口を(つぐ)んだ。


「ね、この風呂敷包み、何?」


「もちろん~♪ いつもの物よ~♪

 ちゃ~んとお父さん似で優しい人を探して探して探して選んだのよ~♪

 早く結婚しないと行き遅れるでしょ~♪

 釣書よ♪ つ・り・しょ♪」


「要・ら・な・い。

 私、近いうちに帰るから。

 結婚を約束した人と一緒に」「ええっ!?」


「降って湧いた王子様♪ カッコイイのよ♪」


「ちょっとぉ、写真か何か無いの?

 スマホ見せなさい」

ドタドタ来て手を出した。


「近いうちに本人に会わせるわよぉ。

 お鍋、吹いてるよ?」


「あらあらあら待ってね~♪」


「お鍋と話さないでよ」ふふっ♪


「あらっ?」


「今度は何?」


「頂き物のスパイスセットよぉ。

 心咲にあげようと思ってたのに置いて来ちゃったわ~」


「使い方が分からなくて押しつけようと思ったんでしょ?」


「心咲なら使えるでしょ?」


「使えると思うけどね……」


「ね、お鍋のも一緒に帰らない?♪

 彼氏も呼びなさいよ♪」


「もうっ、何言ってるのよぉ」


「近いうち~が、今夜になるだけでしょ♪

 スパイスセットもあげるから~♪」

サッサと鍋の物を大きなタッパーへ♪



―◦―



 そして母はフェレットのままなジョーヌをケージに入れて、強引に心咲を連れて出た。


 どうしよう……脱走は得意だとしても

 何も打ち合わせてないのに――


「心咲さんっ」駆けて来ている。


「ジョーヌ……」「えっ? 外国の方なの?」

「うん……ダメ?」「ステキねっ♪」


ジョーヌ到着。


「あのね、母なの」「心咲の母で~す♪」


「はじめまして。

 ジョーヌ=アレンソワと申しマス。

 結婚を前提に、真剣に、心咲さんとお付き合いしてぃマス」

少しだけ片言チックに言った。

姓は口から出任せ。音の響きだけの適当で。


「フランス人?」こそっと。

「そ~なのっ。フランス人!」こっちも適当。


 心咲の声が大きかったらしく、近くに居た見るからに外国人達がジョーヌを見て寄って来た。

地図らしき紙を示してジョーヌに話し掛ける。



「ななな何っ!?」母、ビビって後退る。


「何か話してるぅ~」心咲も数歩下がる。



ジョーヌは にこやかに対応している。



「何語なのっ!?」

「フランス語に決まってるでしょっ」

「ペラペラなのねぇ」

「フランス人だからっ」

「フランス旅行もいいわねっ♪」

「はあっ!?」

「案内してもらいましょ♪」立ち直り早っ!







前夜の騒ぎを知らないジョーヌ。

神仲間が何組も結婚して、巡視仲間のオニキスまでもが結婚したなんて知ったら、どんな顔をするんでしょうね。


さておき、人として心咲と結婚しようとしているジョーヌ。

人の世では、ただ一緒に居たい、だけでは済みません。

既に勝手にフランス人にされています。


この章は、神やユーレイが人として生きるには? からのドタバタ騒ぎを描いていきます。



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