スズラン
彩桜は庭に出て来た紗達の話し声を聞きながら、紗を『ランちゃん』と呼ぶ きっかけを探していた。
あ♪ そ~だ♪
思い付いて、いつもの穴から顔を出した。
「響お姉ちゃん♪」奏お姉さんだけど~♪
「「「え?」」」
「あれれ? 違ってた~」
「あ! ショウの穴にお兄ちゃん!」
「すみませ~ん」引っ込む。
「待って! 響のお友達?」
また顔を突っ込む。「うん♪ あ♪」
【サクラ♪ サクラ~♪】とことことこ♪
「おいで♪ ショウ♪」「「「えっ?」」」
「あれ? また違っちゃった?」
「ううん。ショウだよ♪」紗も行く。「ママ、いいでしょ?」
「え? あ、どうぞ入って」「いいの?♪」
「ええ。どうぞ」「ありがとございます♪」
つい塀を跳び越えて入ってしまった。
「「「え?」」」
あ……やっちゃったぁ。
道からだと2メートル以上あるんだった~。
【サクラ~♪ 久しぶり~♪】
「うんうん♪ 久しぶり~♪
また犬なんだね~♪」
「また、って……」
「お兄ちゃん、ショウとお話ししてるの?」
「うん♪ この穴でよくお話ししたよね~♪」
【ね~♪ アオせんせーにも会った~♪】
【ん♪ 俺との繋がり説明させてねっ♪】
【うんっ♪】
「あ、兄貴にも会ったんだ~♪」
【僕、助けてもらったの~♪】
「ん♪ 動物のお医者さんの兄貴ねっ♪」
【ありがとショウ♪】
【ん♪ ヒビキとソラ知ってる?】
【友達なった~♪】【コッチ来てるよ♪】
「あ♪ 響お姉ちゃん、こっち来てるの?♪」
【うん♪ でねっ、カナデ飼い主~♪】
「今度は奏お姉ちゃんが飼い主さんなんだ♪」
【僕のお家もらった~♪ 花壇にするの~♪】
「小屋のトコ、花壇にするの?♪」
【そ♪ タカシ、スズランが好き~♪】
「スズラン植えるんだねっ♪」
【種ある?】
「種? うん、種じゃなくて球根だよ♪
でもね、育て易い苗あるよ♪
持って来るねっ♪」また塀をピョン♪
「「「あっ!?」」」
あっ! また やっちゃった~。
逃げちゃお。
地に足が着く前に瞬移した。
―◦―
家の庭に出た彩桜は、藤慈が木陰で育てている苗の中から鈴蘭を探した。
「あれれ? あったハズなのにな~。
あ、そっか♪」裏庭へ。
――「藤慈兄と鈴蘭いた~♪」ぴょんと着地♪
薬草畑に植えようとしているらしく、藤慈の横には苗ポットが並んだ平べったい箱が置いてあった。
「彩桜? 鈴蘭がどうかしましたか?」
「鈴蘭ちょ~だい♪」
「いいですけど、薬草と毒草は紙一重ですので気をつけてくださいね。
特に鈴蘭は一般的には毒草ですので」
「うんっ♪
ショウなら掘って食べないから大丈夫♪」
「ショウでしたら大丈夫ですね♪ はい♪」
1箱渡した。
「こんなにいいの?♪」
「いいですよ。
何方かに差し上げるのでしょう?
ショウでしたら戌井さんですか?」
「ショウ、紗桜さん家のコなったから~、ショウのお家お引っ越しで、ソコ花壇にするの~♪」
「そうですか♪
やっと友達になれたのですね?」
「うんっ♪ それじゃ藤慈兄ありがとねっ♪」
瞬移しようと――【お~い彩桜ぁ】
【ふええっ!?】【聞こえてるんだろ?】
【・・・ホントに黒瑯兄?】リーロンじゃなく?
【だよ。紅火が教えてくれたんだ♪
今、裏庭に藤慈と彩桜が居るのも見えてるぞ♪】
【って、お店からっ!?】
【おう♪ でな、彩桜の友達が来てるぞ。
また どっか行くのか?】
【うん。……紗ちゃんに鈴蘭あげるの】
【あ~、そりゃ 一大事だなっ♪
そんじゃコッチは後でいいや。
家、案内してやっからな♪】
【友達って……? 古屋先輩!?
友達じゃなくて部活の先輩だよぉ】
【けどイイヤツだぞ♪
古い家の良さを分かってやがるんだ♪
食いっぷりもいいしなっ♪】
【ん~、それじゃお願い。
俺……行ってきま~す!】逃げコミコミ瞬移!
―◦―
「はい♪ 鈴蘭の苗♪」
今度は門扉を開けて入った彩桜が、駆け寄って来た澪と紗に苗箱を差し出した。
「こんなに沢山?」
「お兄ちゃん、いいの?」
「いいよ~♪
俺、彩桜♪ 輝竜 彩桜♪」
「イヌイ、スズです♪」
「友達なってね♪ 紗ちゃん♪」
「うんっ♪
サクラお兄ちゃん こっちこっち~♪」
【サクラ~♪
ヒビキとソラ、車で来てる~♪ 着く~♪】
「あっ、それじゃ片付けないとだねっ」
ついさっき横を通ったカーポートを見る。
「自転車とか出さなきゃねっ」
木陰に箱を置いて走った。
澪と奏も慌てて駆けたが、
「だいじょ~ぶで~す♪」
と、彩桜がサッサと出して、門扉から玄関への通路と庭に並べてしまった。
【来たよ~♪】【ん♪】「行こっ♪」
よちよちショウを抱き上げ、紗と手を繋いでカーポートに行き、並んで身を乗り出して手を振った。
〈ヒビキ~♪ ソラ~♪
サクラ来てくれた~♪〉
〈〈友達だったの!?〉〉
〈うんっ♪〉
慎重にバックで車をカーポートに入れた響とソラが降りた。
「はじめまして、天海 翔です。
犬小屋、運びますね」
〈はじめまして? そっか~♪
前の時はコドモだったもんね~♪〉
〈うん。彩桜クンには聞こえてしまうから今はソレ言わないでね〉
〈ん♪〉
「ソラ兄♪ 俺もお手伝い~♪」
彩桜が紗と一緒に駆けて行く。
「こちらです。どうぞ」
澪も歩き出した。
ガッチリと地面にアンカリングされている犬小屋を彩桜が軽々と抜き、ショウを中に入れるとソラと二人で運び始めた。
「この小屋、手作りですよね?」ソラから澪に。
「うん♪ オニーサンが作ってくれたの♪」
彩桜の服の裾を握っている紗が答えた。
「トシさん?」
「うんっ♪」「ただいま♪ あ、ショウ♪」
小さな男の子が駆けて来た。
〈アスカ~♪〉キャンキャン♪
〈ショウ♪ あ♪ サクラおにーちゃん♪〉
犬小屋から顔を出したショウを飛鳥が抱き上げた。
犬小屋は運ばれて行く。
飛鳥はショウを抱いて追いかけた。
〈うんっ♪ 来てくれた~♪〉
「ショウ、ちっちゃくなっちゃったね~。
ん~と……」じっとソラを見る。
〈僕の友達のソラ~♪〉〈俺も友達~♪〉
〈ん♪〉
犬小屋を車に載せたソラが飛鳥にだけ見えるように口の前に人差し指を立てた。
〈飛鳥クン、見えるだけじゃなくて話せるんだね?〉
「うんっ♪」
飛鳥はソラに駆け寄り、話し始めた。
「紗ちゃん行こ♪」彩桜が鈴蘭を指す。
「うんっ♪」手を繋いでスキップ♪
車へと向かう奏とすれ違った。
響は双方を見た後、彩桜達を追った。
彩桜が説明して作業を始めたところに飛鳥も来た。
「一緒に植えよ~ねっ♪」「うんっ♪」
「飛鳥、彩桜君を知っていたの?」
「ルリおねーさんとショウのおさんぽ、いっしょしてたんだ♪」
「あ……青生さんの弟さんだったわね。
瑠璃ったら何も言ってくれないんだから」
「俺が恥ずかしくて、言わないでって言っちゃったの~」
「そうだったのね?
ずっとお世話になっていたのね」
「お世話じゃないからぁ~」照れ照れ~。
「ママ~、植えないの~?」
「あ、そうね」しゃがんだ。
「サクラお兄ちゃん、なにしてるの?」
「その板は どこから?」
「さっき退かした中にあった~♪
あ、使ってもいいですか?」
箱から板を選んでいたが、戻して箱ごと持ち上げた。
「犬小屋の残りかしら? どうぞ使ってね」
「あっりがと~ございます♪」運ぶ♪
「でも短いのばかりなのね?」
「並べるから大丈夫です♪」
出してザックザック突き刺している。
「花壇を囲むのね?」「うんっ♪」
「ど~してぇ?」
「また犬飼うんだったら囲っとかないとね♪
スズランと犬、両方の為にねっ♪」
今度は大きめの木槌で打ち込んでいる。
「犬も?」「どうして?」
「ちょっと毒~」「えっ!?」「毒!?」
「だから噛っちゃダメだよ~」
囲み終えてポットを測ろうと苗に手を伸ばした。
「かじらないも~ん」「ね~」
紗と飛鳥がポットを手に取る。
「かわいいね~♪」「ね~♪」
見せ合っている。
植える場所を彩桜が掘り、紗と飛鳥が持っている苗のビニールポットも外してあげた。
響も加わって、植え付けが始まった。
「ほとんどしていただいて、すみませんね」
楽しそうにお手伝いしている子供達を澪が更に手伝っている。
「これからもお世話しに来ますねっ♪」
どんどん掘るんるんるん♪
「でも、こんな暑い時期に植えて大丈夫なの?」
響が首を傾げる。
「このスズラン特別だから~♪
暑さも寒さもだいじょ~ぶ♪
木陰だから~、も~っとだいじょぶ~♪
じゃ、コッチも植える~♪ はい♪ 飛鳥♪
スズランちゃん、コレねっ♪」
彩桜も掘り終えて植え始める。
「スズだってばぁ」あははっ♪
「じゃあランちゃん♪」
「ど~してソッチなのぉ?」あはははっ♪
「カワイイから~♪」
「あれ? 彩桜君、ホッペ赤いよ?」
「日焼けかなっ」にゃははっ。
―◦―
彩桜達の作業が終わり、夕陽が沈んだ。
戌井家に集まっていた面々は、各々が晴れやかな表情で家路に着いた。
そして夕闇が宵闇へと移っていき、星が瞬き始める――
【では、小夜子を頼む】
穏やかな微笑みを浮かべてエィムに渡した。
リグーリが戻る迄と彩桜を見ていた瑠璃だったが、リグーリが戻ってからも皆で眺めていたのだった。
【このまま人世で保護しないのですか?】
【神魂ならば その方が安全だろうが、人魂だからな。保魂域の方が安全だろう。
それに小夜子は成仏を望んでいた。
私が持っていれば気を遣うだろう】
【では途中まででも一緒に】
姉の手を取って昇り始めた。
リグーリとミュムも続く。
オニキスは彩桜を指して降下した。
【ありがとう】【エィム!!】
【あ、チャム。どうしたの?】
【また放ったらかしなんだからぁ~】
【あ……】すっかり忘れていた。【行こう】
【ん♪ あ♪ ラピお姉様♪
龍狐の保ち方、教えてください♪
エィムも困ってたのぉ~】【チャム!!】
【そうか。見事に半々になったのだな。
私も苦労した。
では小夜子を送った後で社に来てくれ】
【はい♪】【ありがとうございます!】
【では私は此処でな】
【どうかしたのか? リグーリ】
【呼ばれてるからな】
リグーリが指した方を見ると、プラムを連れたハーリィが照れ臭そうに視線を逸らした。
いろいろと盛り沢山だった1日が終わったところで、第二部は終わりです。
彩桜は響・ソラと友達になり、ショウ・飛鳥と話せて、やっと紗とも仲良くなれました。
瑠璃も小夜子と話せて、もう心置き無く前に進もうと決心しました。
この夏の終わり、短い期間に大きく変わり始めた輝竜兄弟と周辺の人々の生活を第三部では描いていくつもりです。
『周辺』の中には響やソラや祓い屋達だけでなく、ご近所さんやら、ライバルやら、神様やらと、とんでもなく大勢が登場します。
お話の進行速度がユーレイ探偵団 本編並みに緩やかになりますので、と~~っても長~~い第三部になります。
それが本編に戻った時に絡むのか? と言うと……掠める程度でチョコ出……するのかなぁ? くらいの予定です。
つまり、長々話ですが覚えなくていい。
細々書いていてもスルーで十分。
サラッと軽く流していただければ幸いです。
m(_ _)m