玉に瑕の病
あ、響お姉ちゃん達、出掛けるの?
ブランコに戻っていた彩桜は、響とソラも気になるので紗とショウだけでなく神眼を向けていたのだった。
さっき専務さんとモフが入った
マンションに向かってるのかな?
あ♪ ベランダに専務さんだ~♪
やっぱり会いに行くんだねっ♪
そのまま神眼で追い掛け続けた。
ショウ、起きないな~。
紗ちゃん、フルート頑張ってるんだね。
俺も一緒に吹きたいな……。
―・―*―・―
死司最高司の館では、マディアが上機嫌で執務をしていた。
机上の石板が、この日の昇格試験の合格者を連ねていく。
まだ試験中なのに早いね~♪
ま、提出 即 採点だから
これも当然かなっ♪
あ……エィムとチャムって……
本職神に昇格したばかりなのに。
僕を目指してるって
あの場を凌いだんじゃなくて
ホントだったのかな?
「エーデ、如何した?」
「昨日、正死司神に昇格した若神が今日の昇格試験に合格しているのです」
「ふむ。出来は?」
「満点です」
「死司の位は十二であったな?」
「はい。
ですので十二位から十一位への昇格です」
「ふむ。中位は八位以上だったな?」
「はい」
「八位に成ったならば報せよ」
「はい」ど~する気なんだろ?
心の内で首を傾げるマディアだった。
―・―*―・―
【お~い彩桜、何してるんだぁ?】
【ソラ兄とショウ見てるの~】空にオニキス師匠だ~♪
【見てるだけか?】
【ショウ寝てるんだもん】
【ソラは?】
【友達なったもんっ】
【知ってるよ! じゃなくて今だよっ】
【トウゴウジさんと響お姉ちゃんと丑寅ガラスの専務さんと、もひとりとお話ししてる】
【んん?】人姿で現れた。
【あのマンション】上の方に視線を向ける。
【何話してるんだろな?】神眼と神耳だ♪
【あの女性って……】ラピスリの友達だ!
【何話してるのぉ?】俺、別トコ聞いてるからぁ。
【あ、聞かせてやるよ】手繋ぎ。
【紗ちゃんトコ聞いてるもんな♪】【ショウトコなのっ!】
―・―・―*―・―*―・―・―
生き人とユーレイの5人がテーブルを囲んで座っており、ソラの横には具現化した女性像が立っていた。
テーブルを囲んでいる内の1人はノートパソコンを操作している。
「写真、覚えてるわ!
雰囲気がカナリ違うけど……身を隠す為に変えていて当然よね。
3年前に捜索願いが出てるハズ!」
「3年ね――見つけた!
真喜多 小夜子さん!」
向かいの響達に画面を向けた。
「上品そうな奥様……」
「そうなのよねぇ。
それにしても、こんなにも近くに住んでたなんて……とんでもない化け上手ね。
悔しいったら――あ、新隈って旧姓かしら?
ねぇ暎、小夜子さんの戸籍は真喜多のままだったわよね?」
再びパソコンを自分に向けた。
「うん。真喜多のままよ。
でも旧姓は違ってたハズよ?
旧姓だったら私も引っ掛かったと思うし。
あった♪
新隈って伯父さんが居るわ。母方の姓ね。
旧姓は河上よ。
元ご主人の話では、突然、何も言わずに行方不明になってしまったって。
調べたら会社には多額の借金があって、それが全て失踪直前に彼女名義に変わっていて、離婚届が出されていたそうなの」
「じゃあ借金って、会社やご家族を護る為に背負ったものだったのね……」
「小夜子さん、何か言ってたの?」
「爆発直前、小夜子さんは麻雀してて、それに勝ったら全てチャラだったって……」
「そう……」
「それで小夜子さんは?」
「会いたい人も行きたい場所も無いからって、成仏してしまいました」
―・―・―*―・―*―・―・―
【成仏しただと……】悔しさを拳に込める。
【オニキス師匠?】
【クソッ!】
上空に浮かぶ死司神達を睨んだ。
【オニキス兄様、どうかなさいましたか?】
【あ♪ 龍神様な死神様~♪】
【エィムか……ん!? おいエィム!
オレの神眼と合わせろ!】【はい!】
【具現化してる女性、見えたか?】
【真喜多 小夜子さん、ですね?】
【いつ浄化域に行ったか知ってるか?】
【今日の昼です。
何度も戻らないかと言ってみたのですが成仏したいと――】
【まさかお前が送ったのかっ!?】
【落ち着いてください、兄様。
僕も姉様と彼女の事は知ってます。
ですので浄化のリリムには頼みました。
浄魂なんて……出来ませんよ】
【そっか。怒鳴って悪かった。すまねぇ】
【いえ。僕も同じ気持ちですので】
【ねぇねぇ、ガラスおじさんとトシ兄の友達、アパートの前で話してるよ?
それとソラ兄達コッチ来てる】
【ん?】【彼女の話みたいですね】【だな】
【でも話が……】【こんがらがってそうだな】
【真喜多さんが居た方が良さそうですよね?】
【そんなら瑠璃も居た方がいいのかな?】
【僕、真喜多さんの魂を借りて来ます!
兄様は姉様を呼んでください!】
【会わせるんだなっ?】【はいっ!】
【彩桜、見ててくれ!】瞬移!
―◦―
ラピスリの気へと瞬移したオニキスは、即、犬に姿を変えた。【ラピスリ!】
【オニキスか。
また見もせずに来たのだな?】
【え? あ……悪ぃ……すまねぇ】
仮眠室だった。
【ま、構わぬが】
布団に潜って浄化してから起き上がった。
【で?】
【あ、ああ。チョイ出られるか?】
【……青生と話す。少し待て】
【おう】〖強い女神じゃな♪〗【おいっ!】
【その水晶の女神様の件なのだな?】
【違っ!】〖ワラワの姿が見えるのかの?〗
【シャイフレラ――ではなさそうですね。
姉上様ですか?】
〖流石じゃの♪ シャイフレラの姉じゃ♪
サリーフレラと申す。
オニキスを婿とすると決めたのじゃ♪
絆を結んではくれまいか?〗【オイッ!】
【然様で御座いますか。
では、先ずは身体を成さねばなりませぬ。
故に修行が必要となります。
オニキスと共に高めてくださいませ】
笑いを堪えているのがオニキスには伝わる。
〖うむ♪ 確と心得たぞ♪
オニキス♡ 共にのぅ♡〗【うっ……】
【ではオニキス、待つ間、修行していろ】
【冗談だろ……】〖ワラワは真剣じゃぞ♪〗
【おいおい……】〖早ぅ修行いたそぅぞ♪〗
背中で笑いながらラピスリは部屋を出た。
―・―*―・―
上空で待たせていたチャムを少し離れた場所に連れて行き、下の様子を見ているよう頼んで、連続で術移したエィムは浄化域のリリムの目の前に着いた。
【また? 慌てて どうしたの?】
【昼の女性は!?】
【こっちよ】
リリムが居たロッカールームのような場所の狭い通路を奥へと進んだ。
【とりあえず衣の色は私に合わせてよね】
【あっ、ごめん】淡い青に偽装。
【それで?】
【え? 理由?】
【それ以外に何かある?】
【リリム? 何か怒ってるの?】
【そうね】
【突然 無理を言ったから? ごめんね】
【ホント全く気づいて――】
【そのくらいにしてあげて。
ね? リリム】
【【ミュム……】】
【神だって完璧なんて居やしないよ。
だから、ね?】
【そうね。これぞ『玉に瑕』よね】
【ミュム、分かってるのなら教えてよ。
直すし、謝るから】
【こればかりは治らないだろうし、今更だから言わないよ】
【治らないって病みたいに……】
【そうだね、病だね】【そうね】ふふっ♪
【ま、リリムの機嫌が直ったから、もう気にしないで。
それより急いでいたのだよね?】
【あっ! そうだ! 早く降りないと!】
何処だ? とキョロキョロ!
【ここよ】
『ロッカー』の扉を開けて、眠っているらしい光球を掬って出した。
【浄化済みとして想いの欠片に偽装したわ】
【ありがとう!
話はまた後で聞くから!】術――
【僕も】エィムの腕を掴んだ。
――移!
連続術移で人世に戻ろうとしていたエィムだったが現世の門で、はたと止まった。
【ミュム? どうして人世に?
そもそも どうして浄化域に来たんだ?】
【僕がリリムに会いに行って何か不都合があるのかな?
行ったらエィムが居たのだよ。
で、その状態の魂の目覚めさせ方、死司も習うの?
死司には必要ないよね?】
【あ……】じっと手の魂を見る。
【目覚めさせてあげるからね♪ 行こう】
【……ありがと】気を取り直して最大術移!
オニキスが話す前にサリーフレラが話し始めたので、瑠璃は誤解していますが無事に小夜子と会わせられるのでしょうか?
兄弟で親友で修行の相棒だったエィムとミュム。
本当はずっと一緒に居たいんです。
ミュムは偶然リリムの所に行ったのではありません。エィムを追ったんです。
そして一緒に人世へ。
やっぱり一緒に居たいんです。