廃墟マニアの少年②:輝竜家へ
人世に戻ったエィムは、チャムの尾を見てもらおうとキツネの社に行ったが、オフォクスが彩桜と話していたので廃教会の庭に戻った。
【ホントにお花畑ねっ♪
キレイね~♪】
【あの草の壁は何だろう?】
【また廃墟マニアが来てたとか~?
これから祓い屋さん達が来るんだったら隠しておくべきじゃない?】
【……確かに一理あるね】
【あ♪ ドレス着てくれてる~♪】
【ミュムが挙式を見守ってくれたそうだよ】
【間に合って良かった~♪】私のドレス♪
【まだ中で話してるけど死司衣に着替えて仕事するよ】
【ええ~っ! デートは?】
【仕事もデートも同じだろ?
一緒に居るんだから。
僕達は どんどん導いて目立たないといけないんだよ? 解ってるの?】
【はぁ~い】
エィムが手を引いて中に入り死司装束を引き寄せて着た。
【行くよ】【待ってよぉ~】
〈エィム♪ チャム♪ ありがとう♪〉
響もソラも天井を見ている。
【え?】【イキナリ呼ばれたわね♪】
【どうして上?】【行きましょっ♪】
チャムが手を引いて天井近くへ。
姿も見せた。【チャム……】【エィムもね♪】
渋々エィムも見せた。
〈ドレスはテキトーに置いといてね♪
またいつでも着ていいわ♪
ちゃんとエィムが保管してくれるから♪〉
〈チャム……そのくらい自分でしてよね〉
〈心配しないでねっ♪〉〈聞いてる?〉
〈エィムは優しいのよ♪〉〈あのね……〉
〈それじゃお互い、お幸せに~♪ ねっ♪〉
〈これからは、あまり話せないからね〉
〈どっちに言ってるの?〉〈どっちもだっ〉
〈でも~、ここだったらいいんでしょ?〉
〈頻繁に来るな〉〈ええ~っ!〉【煩い】
〈それが君達の為でもある。
僕達は死神。
君達は祓い屋とユーレイなんだからね。
……可能な限り早急に、堂々と協力できるようにするから、それ迄は我慢してくれ〉
〈私も頑張るわ♪〉〈チャムは程々でいい〉
〈そりゃあダメ神だって自覚してるけどぉ〉
〈そうじゃない。
僕とミュムが捕らえられた場合の最後の砦だからだよ。信頼している〉
〈捕まるなんて有り得ないってくらい敵対してるって演技に徹してあげるわ♪
だからエィムの思い通り、思いっきり改革してねっ♪〉
〈……ありがとう〉
〈じゃあ、これからは密かにヨロシクね♪〉
言いながら窓に寄った。
〈解った。宜しく頼む〉
響は窓を開け、外に向かって――
「この教会は怪しいから何度でも調査しに来てあげる♪
ユーレイ探偵団がねっ♪」
〈そうか。受けて立とう。
何度でも来ればいい。
尻尾は掴ませないからね〉
〈尻尾? 神様にもあるの?〉
〈あのね……〉〈私とエィムにはあるわよ♪〉
〈〈えっ!?〉〉〈チャム!!〉
【もしも獣神だとバレたら――】
〈だから頑張って掴んでねっ♪〉
【獣神狩りは終わったのよ♪】
〈そういう意味なのねっ♪〉 【えっ!?】
「それじゃあ今日の調査は終わりね♪
ソラ、行きましょ♪」 【午後の試験の前に
王様のお使いさんが言ったの♪】
「そうだね。
怪しいトコだらけだから、また来ないといけないね」
【本当、に?】
「今度は「みんなでね」♪」
窓を閉めて笑った。 【ホントにホントよ♪】
【エィム? 聞いてる?】【あ、うん】
【笑ってるわね♪】【うん。そうだね】
【何度でも来てくれるって♪】【え?】
【楽しいわねっ♪】【喜んでる場合?】
【どんどん来てもらいましょ♪】
【だから駄目だと言ってるだろ】
【ここの結界、強いんでしょ?】
【強いけどね、窓から見えるだろ】
【窓、見えなくできないの?】
【出来るけど不自然だろっ!】
【新婚の家なんだからいいじゃない?】
【・・・何を考えてるの?】
【エィムとイチャイチャ♡】【チャム!?】
【ね、まだ居るわよ?】
【あ……】〈で? 出て行かないの?〉
「着替えるからぁ、出てってよぉ」
エィムはチャムを連れて瞬移した。
―◦―
【エィム♪ ずっと話していたけど、やっと会えたね♪】
街の結界の上に浮かんだエィムに向かって輝竜家近くの民家の屋根に腰掛けているミュムが手を振っていた。
【ミュム、さっきは ありがとう】
【お礼を言ってもらえるような事なんてしていないよ?】
【でも……ありがとう】
【そう?
それにしても昨日、永遠の樹の枝で交換したばかりの欠片が もう役に立つなんてね、驚いたけど嬉しいね】
【そうだね。試験会場は結界の中だから、交換してなかったら途方に暮れてたよ。
提案してくれて本当に助かった。
だから ありがとう】
【そういう意味だったの?
あれはリグーリ様とハーリィ様から教えて頂いたのだよ。
欠片を交換しておけば結界も何も関係なく話せる筈だって。
だから お礼はリグーリ様にね】
【うん。教会を飾ってくださったのも合わせてお礼を言うよ。
でも今まで そんな事、ひと言も教えてくださらなかったのに……どうして急に?】
【そこは よく知らないのだけれどね、ロークス様もいらして、モグラがどうとか、マリュース様がどうとか、同代会議した後に、そういう話になったのだよ】
【『筈だ』だから、話してるうちに何か思いついたのかな?】
【そうかも知れないね】
『横を見て』と手振りしている。
【え?】
示された横を見ると、チャムがうるうるした瞳で見ていた。
【どうしたの?】
【デートなのに無視するぅ~】
【聞こえてたよね?
僕とチャムも欠片を交換したんだから】
それにデートじゃなくて仕事。
【聞こえてたけどぉ~】デートなのっ!
【それじゃあ僕は上に戻るねっ】
慌て気味にミュムが消えた。
【変に気を遣わせたじゃないか。
ミュムは僕の弟で親友で子供の頃からの相棒なんだから話すくらいいいだろ】
【怒るぅ~】
【ミュムは……妻には なれないんだから。
妻はチャムだけなんだから、いいだろ?】
目を逸らした後、背を向けた。
【ん♪♡】エィムの背中をつんつん♡
【何してるの?】くるっ。
【向いてくれた~♪】
【僕で遊ばないで。
それと、そういうのは外では禁止】
【ん♪♡】不気味に素直。
【何 企んでるの?】
【な・い・しょ♪♡】
【禁止】【えええっ!?】【煩い】
【えっと~エィムの言葉は反対だから~♪】
【言葉そのままっ!】【うんうん逆ねっ♪】
【あーっ! もうっ!】【『大好き』ね♪】
―・―*―・―
キツネの社から帰った彩桜はジョーヌに励まされて意を決し、ショウが居るアパートに向かった。
小さな三角公園のブランコに腰掛けて待っていたが、ショウが眠り続けるので、白久の会社の仮社屋として使われ始めた煉瓦の倉庫の駐車場で、フェンスの向こうの丑寅家の庭に居るモフと遊んで待つ事にした。
ショウが目覚めたら、今度こそ
ソッコー声かけるんだ。
チラチラとアパートの2階を見つつ待ち続ける彩桜だった。
あれれ? 響お姉ちゃんの車?
やっぱり~♪
トウゴウジさんも一緒だ~♪
お家からはガラス細工のおじさん♪
ええっ!?『母さん』って言ったよねっ!
おじさんの母ちゃんがトウゴウジさん!?
ってコトは専務さんの兄弟!?
え? モフどこ行くの?
お家に帰るの?
彩桜は路地を駆けながらモフを神眼で追った。
モフって速いんだよね~。
あっ、お庭から出てっちゃった!
捕まえなきゃ! でも速い~!
って! マンション入っちゃった!?
あ♪ 専務さんだ~♪
そっか♪ 専務さん見つけて
追っかけたんだねっ♪
それならいっか~♪
ショウのトコ戻ろ♪
―・―*―・―
彩桜が出掛けているとは知らない廃墟マニアの少年が『お化け屋敷』こと輝竜家の周りの路地を自転車を押して歩いていた。
「たぶん、あの どれかだよな?
廃墟じゃないけど、この古さ……威厳?
重厚さ? 何て表現がいいんだろ?
和の趣と西洋化途上の浪漫かな?
どれもゾクゾクするくらい いい感じだ。
あ……ここ、店? 看板、だよな?
『道具店』は読めるもんな」
「その店にナンか用か?
開いてると思うぞ」
サッと前に割り込んで戸をギシガシ開けた。
「ほらよ。お~い彩桜~、客だぞ~」
黒瑯はサッサと入ったが、少年は店内を覗き込んだだけで、入れずに戸口で留まった。
【彩桜は出掛けている】
「そんじゃ紅火、コッチ来いよ」
【む……黒瑯、頼む】
「何言ってんだよ。お前の店だろ」
「あ、あのっ、独り言ですか!?」
「いや、アイツと話してるんだよ」
奥の座敷で背を向けて座っている男を指す。
「ぼ、僕は、彩桜君に会いに……」尻すぼみ。
「残念だが出掛けてるってよ。
そんじゃあチョイ待ってろ」
座敷に上がり渡り廊下を走って行った。
「え……?」待ってろって……?
黒瑯は甘い匂いと共に、すぐに戻った。
そこでやっと少年は、それまでずっと後ろ姿だった黒瑯の顔を見た。
「彩桜君ソックリ過ぎっ!?」
「おう♪ オレ達ソレよく言われるよ♪
ほらよ♪ シェフ特製パンケーキだ♪」
「ありがとうございます!♪
いただきます!♪」
「いい食いっぷりだなっ♪
すぐ出来るのはコレしかねぇが、次 遊びに来てくれたら、もっといいモン作ってやっからな♪」
【黒瑯、この声が聞こえるのだな?】
「聞こえてるよ。
いつものボソボソより聞き易いなっ♪」
【む……ま、いい】
―・―*―・―
「あ、そうか」
エィムは死司杖を振って宙に画面を開いた。
「確かに……獣神狩りは終わったんだ……」
「ど~して私が言ったのに連絡板なんか開いてるのぉ?」
「他にも何かあるかもしれないじゃないか。
ほら、僕達の合格も速報で出てる」
「エィムと並んでる~♪」るんっ♪
「読んでるんだから割り込まないで。
自分のを開けばいいだろ」
「一緒に見たいの!」「ったく~」
王からの宣言に続いて宰相からの詳細説明があり、更に下には大臣や最高司からの言葉まで続いていた。
「大きく取り上げてくれたんだ……」
「王様って、どんな人神?」
「会った事があると思う?」
「ふ~ん。でもイイ人神みたいね♪」
「そんなのが分かるの?」
「伝わる? ん~と、響く?
なんかそんな感じ♪」
「そうなんだ……」
それもチャムだけの能力なのかな?
共有――僕の性格が問題なのかも。
「ね、エィム。罠って?」
「噂では聞いてたよ。
獣神を捕らえる為に、神世の地にも下空の雲地にも仕掛けてあるらしい。
見つけたら滅するか、神王殿に連絡ね。
それなら休日には探しに行こうかな。
ずっと探したいと思ってたものも見つかるかもしれないし……」
「またぶつぶつ?」
「休日は雲地デート。それでいい?」
「うんっ♪ エィムだ~い好き♡」
これまでを考えれば彩桜はカナリ頑張っているんですけど……なかなか近寄れませんね。
意を決して出掛けた直後、廃墟マニアの少年が彩桜を訪ねて来ました。
さて、どうなる事やらです。
エィムが雲地に行きたい理由って?
それは後程。その前に雲地の説明です。
神世には上下に空が在ります。
上の空は単に『空』、下の空は『下空』と呼んでいます。
その下空の底に在るのが雲で出来た地『雲地』です。
職域も下空の雲地に在ります。
神世の地は枯れて荒涼としていますが、雲地は半透明な雲草類がキラキラと風にそよいでいて、美しい光景が広がっています。
神世の隅に追いやられてしまった獣神達は雲地の草原に走りに行っていたんです。
そこに人神が罠を仕掛けたんです。
人神にしか見えない罠だらけ。
獣神達は雲地にも行かないようになりました。
そして人神も劣化し過ぎて罠が見つけられなくなり、雲地には行けなくなりました。
走れなくなっても獣神達は雲地に『恵み』を注いでいます。
人神が眠る夜中に職域近くに降りてコソッと。
そうしないと人世に雨が降りませんので。