廃墟マニアの少年①:廃教会へ
【でも間に合うの? 試験】
【間に合わせるよ。
チャムの尾は確かめられないけど、午前と同じ方法で大丈夫だろ】
【ええ~っ】
【不合格になんかさせないから】
【うん♡】
「こっちもペアなのね♪」
チャムと話しながら浄化の門へと向かっていると女性ユーレイが笑っていた。
「そうよ♪ 昨日 結婚したの♪」
【余計な事は話すなっ】
【いいじゃない~♪】
「新婚ほやほやなのね~♪
いいわね~♪」「でしょ♪」
ん? よく見てなかったけど
この女性……見覚えがあるような……あっ!
ラピスリ姉様が連れていた筈!
「僕達の事より、貴女は本当に昇って良かったのですか?
きちんと挨拶して未練を無くしているのですか?」
「それね……会えないわよ。
家族になんて……家出したんだから……」
ラピスリ姉様の事は?
記憶が消えてしまったのか?
「家族だけですか? 友人とかは?」
「友達?
あ、トシ君、もう成仏したのよね?
向こうで会えるのかしら?」
「トシ君?」いくら神でも それだけでは無理。
「ええっと……待ってね。
思い出すから……ええっと……そうよ♪
そうそう♪ 亥口 利幸よ♪」
って……ウンディ兄様!?
そうか。ラピスリ姉様と友達なら
アーマル兄様やウンディ兄様を
知ってても おかしくないよな。
「戌井 飛翔は、ご存知ですか?」
まだ利幸が人世に居るとは言えないので他の記憶を引き出そうと、誤魔化しも兼ねて尋ねた。
「あ! 高校のクラスメイト♪
あ……そっか。病気で死んじゃったわよね。
ああっ! 澪! そっか~、私ったら澪に挨拶しなかったわ~」
「引き返しますか?」【ちょっとエィム!】
【リグーリ様にお願いするよ】【そっか♪】
「やめとくわ。
それにしても、どうしてこうも思い出せないのかしらねぇ」
「それは、身体に想いや記憶を残してしまうからです。
突然 亡くなると特に。
何も持ち出せずに放り出される事もあるのです」
「そっか~。ガス爆発じゃ仕方ないのね。
こうやって生きてた時のこと忘れて成仏するのね……」
前方を指す。
「あれは現世の門です。
あの向こうは神世です。
もう一度お聞きしますが、戻らなくてもよろしいですか?」
「いいわ。
私が死んだの2ヶ月も前なんでしょ?
もう四十九日も過ぎちゃってるんだからスパッと成仏しなきゃね」
「そうですか。では参りましょう」
「でも……最後なら……」
くるりと後ろを向いて両手を口の横に当てた。
「子供達ーーーーっ!!
立派な大人になってねーーーーっ!!
澪ーーーーっ!!
頑張って生きてねーーーーっ!!
真実さーーーーん!!
再婚してねーーーーっ!!
あ~スッキリした♪
それじゃお願いします♪」
笑顔で現世の門をくぐった。
【チャム、風景が変わらない間をショートカットするよ】
【私が術移してあげる♪】えいっ♪
――永遠の樹の近く。
【唐突に大木じゃないか】
【でも時間ないでしょ?】
【確かにね……】
「ああっ!
私ったら一番 大事な友達 忘れてたわ~」
「え?」「ええっ!?」
「あ、でも仕方ないわよね。
瑠璃なら……私の女神様なら、成仏しても会いに来てくれそうよねっ♪」
神だと知っていたのか。
確かにラピスリ姉様なら行きそうだね。
それなら……ギリギリになるけど
寄り道しないといけないな。
【チャム、浄化域に寄るから先に試験会場に戻ってて】
【もう時間ないのに!?】
【僕だけなら間に合わせられるから】
【もしダメなら分身して座っておいてあげるわねっ♪】
【分身!?】見つけた! こんな高度な術をする気か!?
【狐印の分身の術♪
シッポに入ってたの♪ まっかせて♪】
【いや……絶対 間に合わせるから】
【任せてよぉ】【着いたよ】
「死司の神様、新たなる魂のお導き、ありがとうございます」
「成仏への道、どうかお願い致します」
門神とエィム、同時に礼。
チャムと小夜子は手を振り合っている。
「では、真喜多 小夜子。此方に」
「それじゃ新婚な神様♪
ありがとねっ♪」
小夜子は笑顔で浄化神に付いて行った。
―◦―
エィムは姿を消してリリムへと術移した。
【どうしたの?】
【頼みがある。急いでるから手短に。
たった今 僕が導いた女性の魂を記憶そのまま再誕できるようにして。
ラピスリ姉様の友達だから。
それじゃ――】
【待って! プラムには会ったの?】
【そうか。保魂にも頼まないといけないね】
【じゃなくて! あ、まぁいいわ。
私が伝えるから】
【それじゃ お願い!】術移!
―◦―
【あ~、間に合っちゃった~】
【どうして残念そうなの?】
【分身の術したかったな~】
【それは――いや、いざという時の為に隠しておいて】
【あ♪ そうね♪ とっておきね♪】
【……それでいいから】
【ん? なぁに?】【始まるよ】【ん♪】
机上に試験用紙が現れ、監視神から開始が告げられた。
あ……教会に来るんだったね。
【ミュム。今、何処?】
目は忙しなく設問を読んでいる。
【人世だよ。
今日はハーリィ様がお休みなんだ】
【丁度いい。
僕達の教会に行ってもらえる?
かなり待たせるかもだけど】
【それなら、この仕事を終えたら行くね】
【うん、お願い。
僕も最短で戻るから】
サッと回答用紙をひと撫でして全ての答えを記入した。
【もしかして昇格試験?】
【そう。もう回答は埋まったよ。
あと少し待たないと出られないけど】
【流石だね。あ、奥様は?】
【今その回答を確かめてる】
【やっぱり大好きなのだね♪】
【錠と鍵だから一緒に潜入するだけ】
【チャム、設問3が抜けてる】【ええっ!?】
【3に4の回答が入ってて以下全てズレてる。
落ち着いてね】【ちょ、ちょっと待って!】
聞こえたらしいミュムが笑っている。
【笑わないでよね――全部 消すな!】【!?】
【今、一番下のをその下に書く】 【はいっ!】
【10を11に書いたよね?】【っと~うんっ!】
【10を消す】【はい!】【9のを10に】【ん】
【で、9を消す。その繰り返し】 【はいっ!】
【なんだか安心したよ】ふふふふ♪
【どういう意味?】
【強化だけかと思っていたんだ。
違ってて安心した】
【……ま、神の生涯は長いからね。
結婚したからには……仕方ないよね】
【顔が赤いよ?】【っ!?】
【見えないけどね】くすくす♪
【揶揄うなっ】 【全部 埋めたわよ♪】
【うん。合ってる。出よう】 【うん♪】
ちょうど退室可の小旗が立ったので試験用紙を提出して会場を出た。
【エィムがしたの?】【何を?】
またミュムの声が聞こえた。
【来たら埋もれるくらい花が咲いていて、女の子の方はドレスを着ていたんだ】
【えっ!?】【リグ兄ちゃまじゃない?】
【だから結婚式をしているよ。
これを見守れって事だよね?
だから こっちは任せてもらおうかな?
少し休んだら?】
【そう……ありがとう】【デートねっ♡♪】
【ホントお気楽だよね】【エィム大好き♡】
【聞いてる?】【声だけなら聞いてるわ♪】
【どういう意味?】【言葉は逆でしょ?♪】
【逆?】【冷たいほど『愛してる』よね♪】
【……もう何も言わない】
【それって~『最高に愛してる♡』かな♪】
【言葉通り!!】ぷいっ。
【待ってよぉ~】あはっ♪
チャムはエィムの背に飛びついて赤く熱を帯びている首筋にキスをした。
「なっ――!?」「だ~い好きっ♡」
―・―*―・―
時を少し遡り、エィムが神呼びの鈴に呼ばれた直後――
自転車でやって来た少年が廃教会へと続く雑草だらけの道を歩いていた。
「本当に道? 合ってる?
雑草だらけでサッパリだ。
自転車、向こうに置いとけばよかったな」
押して歩くのも大変。
古い住宅地図を手に、不気味さが漂う薄暗い小道(獣道か?)を歩く少年は、少し怖いのもあって、ずっと呟いていた。
―◦―
利幸の家の庭木を新たな住処にしているリグーリは、察知した侵入者の目的を確かめようと廃教会に行き、屋根に腰掛けた。
また廃墟マニアか。
ったく、よく来るよなぁ。
取り敢えず建物を隠すか。
かつて教会を囲んでいた塀と門扉が在った場所に、目隠しとして人の背よりも高い植物壁を成した。
そして道の痕跡を国道に向かって曲げて伸ばし、自然と出て行くように変えた。
これで草の壁に沿って歩いているうちに
元の道に戻るだろう。
なんだ、よく見れば子供じゃないか。
少年はリグーリの誘導通りに去って行った。
―◦―
「え……国道? どーしてっ!?
また歩くのもなぁ……輝竜君の家、有名らしいから探してみようかな……」
自転車に乗って街へと帰った。
―◦―
今度は車か!?
庭木に戻ろうとしたリグーリが音に気付き、慌てて神眼を向ける。
祓い屋か……エィムの友ならば
歓迎してやるか。
しかし生き人だけだな。
ソラは? 霊道から来るのか?
霊道は昨夜エィムが作っていた筈だな。
ふむふむ。両街と繋いだか。良い出来だ。
教会の周りを花で埋め、外壁の苔を消して中も浄化して整えた。
ん? チャムのドレスか?
出来を確かめておくか。
ほぼエィムの力だな。
しかし努力は認めよう。
式を挙げに来たのなら
目立たせておかねばな。
チャムのドレスを宙に掲げ、浄化と祝福の光で包んでおいた。
ん? もう来たのか。
足音を聞いたリグーリは天井近くへと逃げた。
――のと同時に入口扉が軋みつつ開く。
〈え? まさか……〉
〈ウエディングドレスだね〉
宙で煌めく純白のドレスに駆け寄った。
恐る恐る触れる。
〈ちゃんと本物の布ね……〉
〈いらっしゃい♪
私のお古だけど、それで良かったら着てね♪
人に合わせて物質化したけど大丈夫かな?
新郎クンは好きに着替えられるでしょ?〉
〈チャム、話し過ぎ〉
〈だってぇ、私も友達が欲しいのっ〉
〈もう行くよ〉
〈待ってよぉ。友達になってくれるよね♪〉
〈〈よろしければ……〉〉
〈よろしいからぁ。友達ねっ♪〉
〈〈……はい〉〉
〈それじゃ、ごゆっくり~♪〉
ひとりでエィムとチャムをしたリグーリは、祝福の光を纏わせたブーケを降らせた。
〈あ……〉〈キレイ……〉
〈お幸せにねっ♪〉
ブーケは新婦の手に収まった。
〈ブーケトス?〉
その通りだ♪
笑って廃教会を後にした。
こうして小夜子は浄化域に行ってしまいました。
廃墟マニアの少年――彩桜が青生に話していましたよね。
きっと、その彼でしょう。
なんだかんだって面倒見のよいリグーリ。
その弟子だからか、エィムも甲斐甲斐しくチャムの面倒を見ています。
幸せそうで何よりです。