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翔³(ショウソラカケル)ユーレイ探偵団外伝  作者: みや凜
第二部 第9章 激戦の翌日
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獣神狩りが終わった日



「今度は死司なんだね~」


 慌てる宰相に手を引かれてティングレイスがにこにこ笑顔で入室した。

その笑顔は勿論 作ったものではあったが、どういう形であってもマディアと会えるのは素直に嬉しいと思っているティングレイスだった。


「今度は?」ナターダグラル怪訝顔。


「さっきまで浄化と保魂が来てたんだ~」


「然様で」


「モグラが運ばれたって~。

 死司も その話なの?

 宰相、勲章 用意しといてね~」「はっ!」


「いえ。勲章の必要は御座いません。

 そうまで大仰な事では御座いませんので。


 その件ではなく、獣神狩りの件で御座います。

 本日、最果てを一周して参りました。

 獣神は隠れて静かに暮らしております。

 数も残り少なく、最早、人神にとって獣神は脅威ではないと判断致しました。

 故に即刻の廃命をお願いする為に参上致しました次第。

 獣神狩りの廃止を御宣言くださいませ」


「ん♪ いいよ~♪

 宰相、獣神狩り、おしまいね~♪」


「はっ」「ありがとうございます!」


「そっか~♪

 エーデラーク、獣神だったね。

 今まで ごめんね~」


「いえ……勿体なき御言葉……感謝の極みに御座います」


「宰相、明日の朝、神世中に伝えてね~。

 人神だけじゃなく全部ね~」


「畏まりまして御座います!

 して……会議の方は如何致しましょう?」


「王命で始めたんだから~、僕の宣言だけでいいんだよね?」

ナターダグラルに尋ねている。


「よろしいのでは?」宰相に。


「かっ、畏まりまして御座いますっ!」



 こんな簡単に終わっちゃうんだ。

 なんか……拍子抜け? そんな感じ。

 グレイさんも困惑してるよね?

 早く帰って手紙書きたいな。


 みんなにも知らせたいなぁ……。



―・―*―・―



 キツネの社では獣神魂を水晶に込め終えたところで、時間差で戻るべきとルロザムールは先に職に戻って行った。


「エィム、チャムなのだが――」

「お稲荷様♪

 力丸のオヤツ――あれれ? 死神様?」

大木の(うろ)からドーナツの皿を持った彩桜が出て来た。


「置いて帰りま~す。お邪魔しま――」

「待て彩桜。ドラグーナは?」


「寝てるの~」虚から頭だけ出している。


「此方に」「いいの?」「構わぬ」「ん」


「眠らせてドラグーナを呼んでもよいか?」


「うん」寝転がった。


「すまぬな」「おやすみなさ~い」「ふむ」


 彩桜を眠らせたもののオフォクスは直ぐにはドラグーナを目覚めさせず、エィムに視線を向けた。


「チャムなのだが、あの様子では邪魔にしかならぬであろう。

 全てが終わる迄、封じておくと決めた。

 チャムの神力を持ち、神世に行ってくれるか?」


「はい……ありがとうございます」


「妻として、支えとして共に行ければ良かったのだが……」


「僕は……封じられる恐れさえ無ければ、そのままでいいんです。

 今のままの明るいだけのチャムがいいんですから。


 思考が負に傾き易い僕にとってチャムは、明るい方向を示してくれる大切な存在(ひかり)なんです。それだけで十分なんです。

 これまでの成り行きと、アーマル兄様を逃がす為の道を求めての結婚でしたが、今日一日 冷たくしようとしただけで心に無理があると痛感したんです。

 いつの間にかチャムは僕にとって掛け替えの無い存在になっていたんです。

 理解し難い事なんですけど。

 ですから……危険な神世には僕だけで行きます。

 チャムを……妻をお願い致します」


「然うか……確かに預かる。

 この彩桜が持つドラグーナの力は破邪。

 故に強化を頼もうと引き留めたのだ。

 チャムの力と合わせて持って行――」


パキッ、パリーン! と、何かが弾けた。


「置いてかないでっ!!」ぜーはーっ!!


「まさか……」「チャム、どうして……?」


「私はエィムと一緒に行くのっ!!

 その為なら父ちゃまの封印だって解けるんだからっ!!」


「まさか、さっきの――」「聞いたわよ!!」


エィム、またまた頭を抱えて踞る。


「かけがえのない妻を置いてかないでよぉ。

 ねぇ、エィムぅ~」ゆさゆさゆさ。


「……二度と言わない……」ぶつぶつ。


「もう聞いちゃったも~ん♪」


「しかし行けば封じられるのみ。

 エィムの足枷となるだけだ」


「ソレって~、大名の奥方を人質にしてムリヤリ従える将軍みたいなのでしょ?」


「何を言ってるの?」思わず顔を上げた。


「エィムったら知らないの? 時代劇♪」


「見てる暇があるのなら修行しろ!」


「知らないのね~♪」「チャム!」


「こ~ゆ~やりとりがエィムの愛なのよね♪

 幸せなのよねっ♪ よ~く分かったわ♪」


またまたまた頭を抱えるエィム。


「父ちゃま♪ 狐は術が得意なんでしょ♪

 化かすのも得意なのよねっ♪

 私、エィムの弟として行くわ♪

 だったら人質にされないでしょ♪

 あっ、人質じゃなくて神質(かみじち)?」


父と夫、唖然と言葉を失う。


〖それは面白い作戦だね♪〗くすくすくす♪


「ドラグーナまで……」呆れ溜め息。


〖兄弟らしく欠片を込め直さないとね。

 マディアと兄弟だとバレないようにもね〗


「あ……」「ふむ。確かにな」

「エィムとお揃いになれるの?♪」


〖化かすのなら完璧を目指さないとね。

 それに敵神もきっとピュアリラ様に助けられた人神の子孫だというのを誇りに思っているだろうからね、龍狐神には遠慮があると思うんだ〗


「ふむ。ならば均等にせねばならぬな」


〖俺とオフォクスも足すけど、夫婦でも交換したらどうかな?〗


「ソレいいわねっ♪ ね♪ エィム♡

 あら? どうして真っ赤なの?」


「何でも……」


「嬉し恥ずかし幸せ満喫中なんでしょ♪

 だんだん分かってきちゃった~♪」


無言でチャムを睨んで、ぷいっ。


「交換しましょ♪ ねっ、エィム♡」



―・―*―・―



 満足気なナターダグラルを乗せた碧龍エーデラークは下空へと瞬移すると、宵闇に包まれて静まり返っている保魂域の門前を通って死司域に入った。


「エーデ、如何した?

 いつもの瞑想とは違うようだが?」


「あっ、ぼんやりしていました。

 ホッとしてしまって……」


「そうか。ならばよい」


「本当に……ありがとうございました」


「ふむ(♪)」


「あの……お疲れになられましたでしょう?

 回復は必要ですか?」


「頼んでもよいのか?」


「勿論です」


「では頼む(♪)」


「はい♪」


 まだ多くの獣神が封じられてるし、

 堕神にされてるし、

 浄化域や保魂域にも居るよね。


 禁忌の事もあるし……。


 まだまだこれからだけど

 今日は大きく前進だよね。


 ザブダクルが眠ったら

 またエーデの声を聞こう。

 僕にとってのイチバンの回復光だから。



―・―*―・―



 利幸の家の庭木を新たな拠点と決め、其処で休んでいたリグーリは、利幸が入っている『賽子(サイコロ)』が騒いでいると気付いた。


「ったくウンディの奴は……」

ぼやいて廃教会へと瞬移した。




――小部屋の賽子を掌に。


「思い出したんだっ!」「何をじゃ?」

出した途端、利幸は老神(リグーリ)の胸ぐらを掴んだ。


「大事なコトだよっ!

 小夜チャンは!? 勝利(カツトシ)ドコだっ!!」


 あ~、あの二人か。


真喜多(まきた) 小夜子(さよこ)は、お前さんと同じ事故で死んでしもうたよ。

 荒巻(あらまき) 勝利(かつとし)ならば入院中じゃ。

 生死の境をさ迷っておったが、意識を取り戻したばかりじゃ」


「借金は!?

 家族んトコ行ってねぇだろーなっ!!」


「神と言うても儂は死神じゃ。

 借金の事までは知らぬよ」


「街に行かせてくれっ!

 勝利と話させてくれっ!」



 そうして暫く『行かせろ』『行かせぬ』を繰り返し、根負けしたリグーリが上から見ていようと覚悟して街に連れて行った。


「儂は入れぬからの。

 気を付けて降りるんじゃよ」


「おぅよ♪

 ありがとなっ♪ 死神ジーサン♪」



 降下した利幸は重傷なら街一番の総合病院しかないだろうと真っ直ぐ向かった。


「しっかし どーやって入りゃいいんだぁ?」

(そび)える白い建物を見上げる。


と、ユーレイが壁を抜けて出て来た。


「そっか♪ 俺、ユーレイなんだよなっ♪」


 壁を抜けて中へ。

消灯時間はまだまだ先の廊下を部屋毎に頭を突っ込んで確かめて歩いた。

そんな事をしなくても扉横にプレートがあるのだが。


「お♪」一応、扉を開けて入る。「よ♪」

無意識に身体を成しているのは流石だ。


「トシ!?」死んだハズだよなっ!?


「見舞いに来てやったぞ♪」


「……地獄からか?」


「な~に言ってるんだよっ♪」バシッ♪


「ってーだろっ!!」


「あ、怪我人だったな♪

 ま、冗談はそのくらいにして真面目な話だ。

 小夜チャンの借金、どーなった?

 家族に回ってねぇだろーな?」


「それでワザワザ来たのか。

 あの麻雀勝負を受けた時点でチャラだよ。

 心配すんなよな」だから成仏しやがれ。


「証拠は? 会長サンに確かめたのか?」


「あ~~~、証拠かぁ……」


「ちゃんとチャラになったのか調べやがれ。

 その証拠、響チャン――は知らねぇよなぁ。

 小夜チャンのアパートに持ってけ。

 受け取ってくれるヤツが現れっから」


「退院してからでいいか?」


「いーや明日だ」


「どーやって行けってぇ!?」


「脱走、得意じゃねぇかよ♪」「バカか!?」


「じゃ頼んだぞ♪」サッサと帰る。


パタン。


「バカか、じゃなくてバカだったよな。

 バカって死んでも治らねぇのか……」



―◦―



「そんじゃあ響チャンを探さねぇとな♪

 あ♪ 飛翔を探しゃあ一石二鳥か♪

 飛翔は無事なんだろ~な?

 ま、行きゃ分かるよなっ♪」

病院の壁を抜けて外へ。



―◦―



 利幸が病院から出た途端、敵神の支配を受けている死司神達が、スイッチが入ったかのように一斉に三日月鎌を下へと伸ばし始めた。


 出るまでは感知されなかったのにっ!


神眼で一気に見回すと、支配が解けている死司神達は、その自殺行為を止めようと頑張っている。


 あんなにも苦しそうな顔をしているのに

 己では止められないのか?

 このままだと止めようとしている皆までも

 命を落としてしまう!


【利幸!】


聞こえていないらしく何処かに向かって鼻歌交じりに飛んでいる。


〈利幸!〉


気付いてキョロキョロ。


 ケーン (〔北の山)ケーン (に向かっ)ケーン!(て急げ!!〕)


ピタリと止まる。


 ケンケケンッ!(〔狙われている!〕)


北へ!



 結界端に来た利幸を回収して、リグーリは廃教会へと瞬移した。

ソッコー封じ直したのは言うまでもない。


「ボコボコにされなくて良かった……」ホッ。



―・―*―・―



 エィムとチャムが欠片を交換し、オフォクスの欠片を核としてドラグーナが神力を加えたものを追加してもらっているうちに、すっかり夜が更けてしまっていた。


〖あとは一緒に修行して高め合っていけばいいと思うよ〗


「「はい、ありがとうございました」♪」


〖それじゃあ俺はまた眠るよ。おやすみ〗


「父様おやすみなさい!」とっても早口。


「ね♪ 父ちゃま♪

 どうやったら私、エィムの弟になれるの?」


「僕が教えるから。帰るよ。

 仕事もあるんだからね」


「あ……ドレス……」


「それも空で教えるから。行こう」


「うん♡」


「それではオフォクス様、お騒がせして申し訳ありませんでした。

 それと、ありがとうございました」


「エィムったら、父ちゃまからも欠片もらって半々になったんだから、もう父ちゃまの子なんでしょ?」


「あ……」じんわり赤く染まる。


「ドラグーナの子のままでよい」こっちも。


「ちゃんと親子しなきゃね♪ えいっ♪」

父と息子をくっつけた。「「チャム!?」」


「はいはい♪ これからヨロシクでしょ♪

 父ちゃまとエィム兄ちゃま♪」


「あ、あのっ、、と、父様、これから宜しくお願い致します!」


「ふむ……宜しく頼む。「チャムを!」な」


「あ……」「どうして私なのぉ?」


「仲良しさんがイッチバ~ン♪」むにゃ……。


「あら?」「寝言?」「常の事だ」

娘と息子と父、つい笑ってしまった。


「寝言だが、間違ってはおらぬな」フッ。


「そうですね」「うんうん♪」あはっ♪







利幸の話を割り込ませたら長くなってしまいました。

(この翌日の話を書いていて思い出しました)

長い回になりましたが、この章はまだ続きます。

m(_ _)m



マディアの方は、とりあえずですが、めでたしめでたしです。


エィムとチャムは龍狐神になりました。

人神姿でもザブダクルには獣神だとバレますので、これはなかなかに良い作戦かもしれません。



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