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翔³(ショウソラカケル)ユーレイ探偵団外伝  作者: みや凜
第二部 第9章 激戦の翌日
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最果てを飛ぶ①:北~西



 マディアは王都の真北に瞬移し、其処から岩壁(いわかべ)の上端、角に沿って西へと飛び始めた。


 唐突だけど何が目的なんだろ?

 獣神狩りは しないんだよね?

 人神だから里は見えてないよね?


一定間隔で並ぶ小動物神の里には視線を向けないように気をつけてマディアは飛んでいた。


「エーデ――いや、マディア。

 瞑想しておるのか?」


「えっ? あ、はい」今日はオフ?

「余計な詮索をしないように可能な限り瞑想状態を保つよう努めています」


 エーデラークしなくていいの?

 でも瞑想してるフリは

 しときたいんだけどなぁ……。


「ふむ……向こうが気になるのか?」

岩壁の向こう、遥か遠くを見ているらしい。


「気にはなりますが……」


「また儂の寝言を聞いたのだな?」


「はい……」


「最後に会った時ルサンティーナは儂を拒絶したのだ。

 全身を黒いローブで覆って姿すらも見せてはくれず、声すらも儂には聞かせたくないと言っているかのように、儂の知る透き通る歌声ように美しいものではなく、まるで老婆の如く押し潰していた。

 鈍く光る赤い目しか見えなかった……。

 しかし儂がルサンティーナを見紛うなんぞ有り得ぬ事だ」


「それって……あっ――」口を(つぐ)んだ。


「構わぬ。話せ」


「はい……ルサンティーナ様は囚われていたんですよね?

 もしかして何か、術が呪かを掛けられてザブダクル様には見せたくない姿にされていたのでは?

 声も そのせいで……勝手な想像で申し訳ありません」


「如何なる姿であろうが儂は気にせぬ。

 その程度の事、解っておる筈だ」


「ですよね。

 ですが……僕には姉も妹もいます。

 戦った後とか鍛練の後、少し汚れたり髪が乱れたりすると『見ないで!』とよく怒られました。

 僕だけでなく兄弟皆です。

 大抵 男には気づかない程度の事で、何を怒っているのか理解に苦しむような些細な事でした。

 ですが女性は気にするんです。

 声が変わるくらいなら相当に酷い事をされたのではありませんか?

 瞳は元々赤だったんですか?」


「いや……ルサンティーナの瞳はマディアの鱗のような青だ。

 緑を帯びて煌めく美しい青だ」

マディアの背を撫でている。


「それでしたら……真実を確かめませんか?

 ルサンティーナ様を捜しませんか?

 僕は……ルサンティーナ様は生きていらっしゃると思います。

 アミュラ様とかピュアリラ様とか、そういう強い女神様に護られていると思うんです。

 ただのカンですけど――」

背に滴を感じてマディアはピクリとした。


「……ザブダクル様?」


ザブダクルが大きく息をした。

「いや……少し考えさせてくれ」


「はい……申し訳ありません」


「何故 謝る?」


「勝手な事ばかり申しましたので……」


「ふむ、そうか。……いや、構わぬ」

なんだか歯切れ悪く呟いて黙り込んだ。



 やはりルサンティーナは生きておるのか。

 儂を見ておるのだな。


 昨夜の夢……ルサンティーナは赤く燃える瞳で

 儂に怒りを向けていた。

 この数日、儂がしておった事を見ておったに

 違いない。マディアとの約束を(たが)えた儂を。


 マディアにも見せられぬ。

 ルサンティーナにも見せられぬ事を儂は……。


 せめて浄化域送りにしてしまった獣神への

 償いを何かせねばと思っているのだが――



―・―・―*―・―*―・―・―



「ルサンティーナ。花の世話か?」


私に背を向けて花に恵みを注いでいたルサンティーナの美しい金の髪が揺れて流れ、振り返る。

いつもなら煌めくような笑顔で様々な花の名を並べて咲いたと喜ぶのだが――


「あなた。なぜ、あのような酷いことをなさったのですか?」


――怒りで赤く染まった瞳で私を睨んでいた。

声も低く冷ややかだった。


「ルサンティーナ……何故、とは?」


「それは、あなたご自身の胸に手を当ててお考えください。

 あのようなことをお続けなさるのでしたら、私は……もう、あなたと共には居られません」


「私とは居られない、と……?」


「はい」背を向ける。


「ルサンティーナ! 何故っ!?」


「おわかりにならない あなたではございませんでしょう?」


全てが薄れつつ遠ざかる。暗転していく。


「待ってくれ! ルサンティーナ!!」



―・―・―*―・―*―・―・―



 何かせねば……ルサンティーナに

 会えたものではない。

 何とかせねば――



―・―*―・―



 響とソラに慎重に受け答えした後、エィムはチャムを引っ張って稲荷山の社に行った。


【遅くなりまして申し訳ございません】

【父ちゃま~♪】

エィムと手を繋いだままハグ♪【チャム!】


【チャム、本来の姿に戻すぞ?】【イヤ!】


【ならば大人らしくせよ】【仕方ないわね】


父娘の遣り取りに、少し離れて座っている狐儀と梅華が笑っている。


【狐儀、エィムと話したい。

 外に連れて行ってくれ】娘を指す。


【畏まりました。お嬢様、此方に】

丁寧な言葉とは裏腹にチャムには有無を言わせず、捕縛の術で動きを止めて連れて出た。梅華も追って出る。



【エィム、マディアの近くに行こうとしておるのだな?】


【……僕には無理でしょうか?】


【無理とは思わぬが、誰が行こうとも危険な事に違いは無い。

 彼奴は禍だけでなく支配も使う。

 禍に対するは破邪。

 エィムの浄化は強いが更に強化しておくべきだ。破邪に変える力もな。

 術や呪に対しては狐は龍よりも強い。

 故に、儂の欠片を受けよ】


【よろしいのですか!?】


【術移も出来る。

 チャムの移動を見て悔しかったのであろう?】


【あ……はい】


フッと笑うと、オフォクスは人差し指をエィムの額に当て、光を込めた。


【後は修行あるのみだ。

 彼奴が使う支配は、ダクラナタンが盗んだマリュースの力だ。

 カツェリス(バステート)はマリュースとの絆に支配返しの力を見つけておった。

 カツェリス、頼んでもよいか?】

薄暗い隅に目を向けた。


【もちろんです】

スゥーッと現れ、爪の先でチョン。

【いろいろ混ざってしまったけれど、少しずつですから貴方は龍よ】


【そもそもドラグーナは親族や、滝の儂等やイーリスタ様から欠片を集め、子に込めておった。

 幾ら頑丈な龍でも千もの子を単独でなんぞ無理も甚だしいのでな。

 エィムにもトリノクスの蛇が混ざっておる。

 他にはフィアラグーナ様とシャルディア様、それとアルボネーアもな】


【そんなにも!?】祖父母と両親、勢揃い。


【狐と猫が増えようとも微々たるもの。

 解ったであろう?

 止めようが無駄なのであろう?

 ならば此処に通え。鍛えてやる。

 ドラグーナ達も来るのでな、高め合えばよい】


【はい!】



―・―*―・―



「マディア……」


「はい」


「獣神達は人神には見えぬようにして暮らしておるのだな?」


「はい」


「儂を怖れての事か?」


「いいえ。ずっと以前からです。

 ダグラナタンが獣神狩りを始めて以降、結界をより強化しましたので人神には全く見えないと思います」


「ずっととは? 何があったのだ?」


「僕も全てを知っている訳ではありませんが……人神が書いた歴史書には記されていない事実があるのは確かなんです。

 都合の良い事しか残していませんので」


「ふむ」


「獣神の地が岩壁に囲まれて以降ずっと そんな事を繰り返していたので、今の人神は此処を『最果て』と呼ぶんです。

 この向こうが在るなんて思いも寄らないんですよ。


 囲まれた直後、獣神の長は、生き残った人神に地を分け与えました。

 最終的には獣神の地、人神の地、そして禍を封じる為の禁地を均等に分けたんです。

 ですが数年も経たないうちに人神は獣神を端に追いやり始め、禁地にまで住むようになったんです。

 王都も禁地だったんです。


 神世の1/3は憎悪と怒りの炎で燃えていて、その熱で1/3に当たる地間を占めていた雲海(うみ)は、すっかり干上がりました。

 ですから初代四獣神様は灼熱の地を風雪で鎮め、怒りの捌け口からの熱を防ぐ為に雲海だった場所を岩壁に変えたんです。


 岩壁で護られた残り1/3の地――獣神の地であった此処に在る禁地を人神が荒らしました。

 鎮まっていない禍が噴出して人世にまで落ちてしまったんです。

 灼熱の影響もあるのに禍を噴出させただけでなく、人神達が神世にした悪行の影響は人世に及び、人世は崩壊してしまいました。


 人神達は人世の事なんて見向きもせずに、この地を占有する事にだけ励んでいたのに、人世が崩壊したとなると、また人世を作ったんです。獣神は反対したのに。

 そうしておいて、また放置したんです。

 ちょうど王都を作り始めたから。

 ですから獣神が下空の雲地に職域を作って人世の管理をし始めたんです」


「儂が読んだ歴史書とは嘘の宝庫なのだな。

 しかし何故 獣神は戦わぬ?

 力ずくで阻止すれば良かろう?」


「獣神は獣ではなく神なんです。

 争いは好みません。

 ですが……僕も戦うべきだと思いました。

 許し続けた結果が獣神狩りにまでなったんですから。

 ……ダグラナタンがした事は内からご覧になっていたんですよね?」


「いや。儂は何も見ておらぬ。

 好きにさせ、彼奴の憎悪を糧に復活しようとしておったのでな」


「そうですか。

 ダグラナタンの行いの前に長い歴史がありますが、獣神は干渉せず静かに暮らしていましたので、その辺りは簡単に。

 人世の人々が文字を得るまでは、人神の王は獣神を無視しているだけでした。

 ですが その間に人神は古の教訓を忘れ、修行すら忘れて、神とは名ばかりな程に劣化していきました。


 大きく変わったのは5000年程前、人が文字を得た事からなんです。

 人神が作った人は獣より優れている。

 つまり人神は獣神より優れている、と勝手な理屈で獣神を虐げ始めたんです。

 ですが獣神には爪や角や牙がある。

 動きも素早く、術にも長けている。

 自分達が劣化した事には目を背けて省みず、獣神は恐ろしい、理性を持たないと勝手に言って獣神だけが使える術を全て禁忌とし、人神に触れる事すらも禁忌としたんです。

 禁忌を犯せば堕神にされます。

 職域も奪われました。

 獣神を堕神にするのに都合の良い施設ですので」


「それでも反撃しなかったのだな?」


「はい」


話しているうちに西端のマヌルの里が近付いていた。







前夜、エーデリリィの声に集中していたマディアは、いつもの夢だろうと首輪には集中しませんでした。

なのでザブダクルの動機が分からないまま飛んでいます。


ザブダクルの夢は罪悪感からのものでしょう。

人世でラピスラズリから嫌という程てんこ盛りに怒りの破邪をぶつけられましたからね。


ルサンティーナは怒っていると思うと会いたいけれど捜しに行けないザブダクルなのでした。



モグラとの激戦の翌日は、本編では夕方まで特に何事も起こりませんでしたが、神世では少々大きめな出来事があったんです。

その辺りをマディアとザブダクルだけでなく追ってみます。




            ◌亀

                  ◌狐

  ◌兎

 ◌栗鼠



◌           ▣           ◉

マヌルの里       王都         禍の滝


 ◌獅子

  ◌虎                  ◌龍


            ○鳳凰




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