オフォクスに挨拶
何度かエーデリリィの声を聞いているうちにマディアは落ち着きを取り戻した。
同じ場所に翳しても聞こえたり
聞こえなかったりなんだよね。
でも沢山聞けちゃった♪
エーデ、何度も込めてくれてたんだね。
ザブダクル、よく寝込むけど
ダグラナタンの身体、不適合なのかな?
そ~ゆ~のってあるのかな?
それともダグラナタンが
呪とか病とか持ってたとか?
調べてみようかな?
でも……叱られそうだよね。
表面だけならいいかな? ――って、え?
コレって……破邪?
隠してるけど、とっても強い破邪だよね。
出掛けて破邪 浴びちゃった?
ソレって禍使いだから命取り?
ダグラナタンも破邪で苦しんでたし、
禍使いって、けっこう大変なんだね。
それじゃあ人世の結界も
破邪を強めたらいいのかな?
死司装束 脱いでも入れなくなるよね?
人世の皆に伝えたいなぁ……。
この破邪……ラピスリ姉様?
じゃなくてラピスラズリ兄様?
それと……父様かな?
一緒に戦ってるんだね……いいなぁ。
――って、つまりザブダクルは
人世に行ってたんだね。
何しに行ったんだろ?
浄化の門、騒がしかったよね。
永遠の樹に逃げて来てたの
アーマル兄様だったよね。
つまり……今回はアーマル兄様だったんだ。
ウンディは浄化されてないみたいだけど
無事なのかなぁ……。
それにしても……
どうして ひとりで行ったんだろ?
どうして いつもは僕に乗るんだろ?
ホント何がしたいんだか……?
〖マディア、元気出してね♪〗
あ……そうだよね、エーデ♪
―・―*―・―
エィムとチャムが廃教会に戻ると、リグーリは先に戻っており、ルロザムールと話していた。
「本死司神になったからの、これにて指導役も終わりじゃ。
配属は中位の昇格試験合格の後、ルロザムール様の直下に決まったからのぅ。
それまでは儂の下じゃが……ま、好きに働けばよいじゃろ。
此処も渡すからの、好きに使え」
「ハーリィ様とミュムは一緒に居るのに……」
「上りたいんじゃろ? ならば励め」
「リグ兄ちゃまは? どこ行くの?」
「その呼び方は止めよ」
「じゃあ~、リグ爺ちゃま♪」「チャム!」
リグーリが呆れて肩を竦めると、ルロザムールは堪えきれずに吹き出した。
「ま、そこまでは決まったからのぅ。
エィム……マディアを支えてやってくれ。
彼奴は辛さを顔には出さぬからのぅ」
「僕が懐に飛び込もうとしてたの……気づいてたんですね?」
「師をナメんなよ?」ニッ。
「ま、とにかくだ。
気を引き締めて掛かれ。
油断こそが真の敵だ」ポンポン。
「ルロザムール様、無鉄砲な若僧ですがどうか宜しくお願い致します」
ルロザムールは決意を込めて頷き、エィムに微笑んで姿を消した。
「お師匠様――」「さて、山に行かねばのぅ」
「あ……」オフォクス様に挨拶……。
思わず踞り、頭を抱えるエィムだった。
「死司装束は全て置いて行かねば命を落とすぞ。支度せよ」
「私、ドレスのままがいいな~♪
父ちゃまにも見せたいし~♪」
「それは死司衣を偽装しとるんじゃから置いて行け」
「え~~っ!」
「好きに具現化すればええじゃろ。
チャムは具現も強いのじゃからの」呆れ顔。
「そうなのね♪ 着替えてきま~す♪」
「一瞬じゃろ」呆れ溜め息。
「だってぇ、いろいろ試したいし~♪
失敗しちゃったら大変だも~ん」
小部屋に入った。
「エィム?」
「……はい」
「後悔しておるのか?」
「…………ぃぇ……」
「記憶が戻っても性格は変わらぬが……。
もう絆は切れぬからな。従妹を頼む」
「……だから兄ちゃま? ええっ!?」
顔を上げるとリグーリは本来の姿に戻していた。
「私の父はトリノクスだからな」
「それじゃあ さっきの――!」
「当然 見ていた。
お陰で逃げ仰せたよ。ありがとう。
もう何かに再生してもらったのだろうな」
―・―*―・―
ミュムが小さな公園で響とソラに子犬を渡して話していた頃、ハーリィは きりゅう動物病院の事務室を訪れていた。
【――という事だ】
【二度目だからな、想定内だ】
【で、ドラグーナ様は?】
【眠っている。
青生は一度 目を覚ましたが、夜勤は私がするからと仮眠室に押し込んだ】
【残り2/7は未だなのか?】
【オニキスも頑張っているのだが……】
【そうか】
ミュムが現れて礼。
【ハーリィ様、ラピスリ姉様。
此方に向かわせましたので】
【では任せてもらおう】
【ああ、頼む。
此方も何か策を探しておく。では――】
ミュムを連れて瞬移した。
入口扉が開いたと事務室のチャイムが告げた。
「どうやらまた犬らしいな」
呟いて笑みを浮かべ、瑠璃は診察室に瞬移して扉を開けた。
「此方に」
―・―*―・―
「父ちゃま♪ 私、結婚したの♪」
リグーリが連れて瞬移して社が見えたとたん、中も確かめずに飛び込んだチャムは、クルンとドレスを見せた。
「って、あらら? コギ兄ちゃま?」
「相変わらずなのですね、チャムは」
「と、誰? とっても美神さん♪」
「妻の梅華ですよ」「結婚したのっ!?」
「その幼さで結婚したチャムには言われたくありませんね。
それで、チャムだけなのですか?」
「もっちろん来てるわよ♪ エィム♡」
が、入って来ない。
「外にも居ませんね。
ああ、リグーリと一緒なのですね。
参りましょう」
梅華の手を取り、チャムも連れて瞬移した。
―◦―
「今度こそ父ちゃま~♪」
フェネギの手から抜けたチャムは、向かい合って真剣に話している父と夫をくっつけるように纏めて抱いた。
「結婚したの♪ 見て、ドレス♪」
「……ふむ」
「え~~っ、それだけ~?」
「此処を浄化し終えたならば祝う。
暫し待て」
「浄化? ここ……何?」
「モグラが獣霊や獣憑き達を保管しておった場所だ」
「それじゃあエィム♡ 浄化しましょ♪」
「えっ!?」
チャムの視線の先には、手を繋いで浄化しているフェネギと梅華が仲睦まじく微笑み合っていた。
「浄化って楽しそうよねっ♪」
満面笑顔でグイグイとエィムの手を引いて空間の真ん中に。
「待ってチャム!
チャムには――」「全力全開で浄化♪」
爽やかな浄化光が空間を輝きで満たした。
そして吹き抜けるように昇った。
「キレイねっ♪ エィム♡」
「っ……」「エィム!?」
エィムは崩れ落ちるように倒れてしまった。
「エィム!! シッカリしてっ!!」
皆が集まり、一斉に回復光を当てる。
「チャム、無茶をするな」父が睨む。
「どーゆーことっ!?」
「チャムの浄化は弱い。
エィムの浄化が強いのでな」
「???」
「結婚の絆は力を増幅するが、それだけではない。
エィム程の熟達者であれば共有も融合も可能だ。
つまり先程、チャムはエィムの力を使い果たしたのだ。
この場合に限っては悪い事に、手を繋いでおったからな」
「えええっ!? 死なないでエィム!!」
「死なせはせぬが……加減を覚えよ。
リグーリ、面倒な奴だが引き続き頼む」
「仕方ありませんね」諦め溜め息。
「ドラグーナは何度か強い子を生んだ。
四獣神を継がせるという局所的な目的ではなく、神世と人世を総じた世を護る為の子をな。
エィムも然うなのだ。
ただ……ドラグーナも儂も、一魂には抱えきれぬ力を込められておるが故に、その反力にも悩まされてきた。
大きな力を使う度に、儂が長く眠らざるを得なくなるのも、その反力が故だ。
ドラグーナは子には苦労させたくないと一魂に込める力を限界の八分目とした。
越えたならば双子としておったのだ。
儂はエィムの代が『護り』として連れて行かれなかったと知り、補う者としてチャムを生んだ。
だが……神力の面を重視したが為に性格の方が……」
横たえたエィムの胸元に顔を埋めて叫び続けているチャムに目を向けて、オフォクスは溜め息を落とした。
エィム、チャムに振り回されっぱなしです。
緊張の挨拶――の予定が、ブッ倒れてしまいました。
チャムの記憶の封印には大した意味はありませんでした。
幼いから封じた。だけ。
ですので性格も何も変わりません。
無邪気でおマセなチビッ子狐です。