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翔³(ショウソラカケル)ユーレイ探偵団外伝  作者: みや凜
第二部 第8章 門前逃走した裏側で
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逃走の闘争中に結婚



 浄化域に入った死司神達は案内されるがままに進み、扉の前で微笑む若い女神に愛想を振り撒いて、すんなりと指示に従ってキメラ魂を扉の向こうへと押して入れた。


【死司は男神が圧倒的に多い。

 なかなかに賢い作戦だよな♪

 誰が考えたんだろうな♪】


職域の中は結界だらけで獣神であろうが自由に神眼で見られるわけではない。

その為、通路を曲がった先で案内している女神はまだ声しか聞こえていないが、引き返す死司神達の満足気な笑顔を見つつ、最後尾のリグーリとハーリィは話していた。


【ロークスやも知れぬぞ?】


【あの堅物がか!? まさか!♪】


角を曲がる。


【あ……ロークスの策だな……】


【ふむ。リリムか】


【チャムとは大違いに清楚で可憐だよなぁ】


【ドラグーナ様の御子で白鱗の女神は共通して その傾向がある。

 美しいという点も共通だ】


【確かになぁ。

 ユーチャリス姉様も そうだったよなぁ】


【そうだな。ま、どの鱗色にしても美しいのだがな】


【ハーリィは結婚しないのか?】


【リグーリには言われたくない】


【聞いただけだろっ】


【全てが終わったなら……考える】


【そうなるよなぁ】


「魂をこちらにお願いいたします」

【リグーリ様、ハーリィ様】にこっ。


【ロークスの指示か?】ハーリィ、押し込む。


【はい♪ リグーリ様も、どうぞ】


【この魂は違うんだ。

 ロークスはモグラの所かな?】


【はい♪ では、こちらに】


【ありがとう。

 あ、ルロザムール様。

 この魂はモグラの母親ですので奥に行って参ります】


【そうですか。では私は先に】礼。



―◦―



 リリムに案内された部屋に入ると、ロークスが笑みを浮かべ、モグラが目を見開いた。


「母さん……。

 もう見つけてくださったのですね」


「神ですので」「澄也……澄也!」

母は飛ぼうとしたが上手く飛べなかったのでリグーリが行ってモグラに抱かせた。


「ロークス、一緒に頼むよ」


「勿論だ」


「じゃあまたな」


抱き合って涙に咽ぶ母子に微笑むと、リグーリとハーリィは部屋を後にした。



―・―*―・―



 エーデラークとして執務をしているマディアの机上の石板が光った。


『準死司神エィム、同チャム:本死司神に昇格』


 あ、最高司の仕事だ……何処かに

 出掛けてたけど……居るよね?


〈最高司様? お戻りですよね?〉


 強い浄破邪光を浴びたザブダクルは居室で臥せっているうちに眠ってしまっていたが、エーデラークの声で目覚めた。

〈如何した?〉


〈死司見習いの若神がターゲットを導き、本死司神に昇格したようです。

 速やかに最高司様から証を授与しなければなりませんが、如何致しましょう?〉


〈……エーデに任せる〉


〈では、代理として行って参ります〉


〈頼む……〉


 また具合が悪いのかな?


首を傾げ、一瞬だけ躊躇(ためら)ったが意を決して言ってみた。


〈あの……医師を呼びましょうか?

 もし獣神が当ててもよろしければ私が治癒を当てますが?〉


〈……医師なんぞ……後で、頼む……〉


〈はい。では行って参ります〉


〈早く戻れ〉


〈はい〉瞬移。



―◦―



 (エィム)へと瞬移すると、浄化の門は騒然としていた。


「これは――」「あっ! なんでもっ!」

チャムがエーデラークの視界を遮るように両手を広げて跳び跳ねる。


「エーデラーク様……どうして?」


「本死司神の証をお渡しする為に。

 最高司様の代理として参りました」

不自然と感じられないようにザブダクルに流している。


「あっ♪ 偉い死司神様ねっ♪

 私達一緒に合格なのねっ♪ 昇格だっけ?

 どっちでもいいわよねっ♪

 だったら~、あの木が良いわよねっ♪」

エーデラークとエィムの腕を掴んで術移♪




――永遠の樹の下。

浄化の門からは見えない場所に出た。


「エィムと結婚するんです♪」「チャム!」

「昇格したら即って約束してるの♪」


「そうですか」

〈最高司様。

 若神達は昇格を機に結婚をと望んでいます。

 私が絆を結んでもよろしいでしょうか?〉


〈存分に働いて貰わねばならぬ。

 結んでやれ〉


〈はい〉

「では、授与の後、絆を結びましょう。

 ですが……私でよろしいのですか?」


「はい♪ お願いします♪」


エィムはチャムを捕まえて引き下げた。

【こっ、これは、そのっ――】


エーデラークが手で制す。

そして宙に光で『会話は全て敵神に筒抜け』と書いて首輪を指し、直ぐに消した。


エィムは素早く考えを巡らせた。


 話せない。振り向かせてもいけない。

 振り向けば死司最高司補エーデラークとして

 マディア兄様は逃走を阻止しなければ

 ならなくなる。


 アーマル兄様と同代なのに

 そんな酷い事なんてさせられない。


 僕だってアーマル兄様を逃がしたい。

 マディア兄様を悲しませたくない。


 それなら――


「あまりの喜びと緊張で取り乱し、申し訳ございません。

 僕はエーデラーク様に憧れ、エーデラーク様を目指しています。

 僕達の結婚の絆、どうか宜しくお願いいたします」


「エィム♡」喜びいっぱいで抱きついた。


「そうですか。光栄です。

 では、此方が新たな死司衣と杖です。

 各々に証が込められています」

手に出した黒衣を光に変え、飛ばして(まと)わせた。そして杖を渡す。


「ありがとうございます。

 本死司神として恥じぬ行いに努めます」

「頑張って導きます♪」一緒に礼♪


「続いて死司の真意、知識を与えます」

エーデラークの両掌、各々の上に浮かんだ光球がエィムとチャムの額へと飛んだ。


「こ……こんなにも決め事とかあるの……?」


チャムの呟きに舌打ちしたい気持ちでエィムはサッと手を繋いだ。

(尾に入れろ!)

(えっ?)

(尾は知識を込める為の器なんだよ!)

(えええっ!?)(早く!!)(うん!!)

――が、結局エィムが手伝って押し込む。


エィムとしても得た中に見つけた一文に歯噛みしたい思いで、考えを纏めたくて仕方なかった。


 それなのにっ――


「エィム、チャム。

 それでは結婚の絆を結びます。

 術は長いので、新たに得たものを読み、覚えていてもかまいませんよ」


 全て……お見通し、なのか?

 僕がアーマル兄様を逃がそうとしているのも、

 その後の事で困っているのも、

 まだ結婚を迷っているのも……全て……?


「これからは本死司神として、ふたりの合わせた力で務めに励んでください。


 己の心、相手の心を大切に、素直に受け止めてください。


 伝えたい言葉は惜しまずに、正直に、恥ずかしがらず伝えるべきです」


 微笑みを湛え、ゆっくりと語る兄の心を知りたかったが、完璧なまでに閉ざされていて何も読み取れなかった。


 ここまで鉄壁に出来ないと

 敵の懐には入れないんだ……。

 それを教えてくれているのかも――


「間に合ったようじゃの」


「えっ? あ……」「お師匠様~♪」


「この二神の指導をしております、リグーリと申します。

 弟子達の結婚、見届けさせて頂けますかの?」


「再生のハーリィ、弟子のミュムです。

 此処は再生域。

 通りすがりですが立ち会わせて頂きます」


「入っちゃダメだった?」


「いいえ。この永遠の樹は、人世から魂を昇らせる死司神と、人世に魂を降ろす再生神の交流の場。

 かつては向かいの死司域にも同じ目的の大木が在ったのです。

 ですが今は此方のみ。

 死司の皆様にも お使い頂きたいと思っておりました」


「ありがとうございます。

 では祝福を込めまして、偽装」


 エーデラークからの祝福の光がエィムとチャムを包み、爽風のようにサッと抜けると、エィムの黒衣は高位神の装飾に似せた白衣に。チャムの方はウェディングドレスに変わっていた。


チャムが歓声を上げて跳ね回る。

エィムとリグーリが慌てて捕まえ、落ち着かせて、ようやく詠唱が始まった。



 その詠唱だけをザブダクルに流し、穏やかな笑みの下、閉ざした心の内でマディアは――


 リグーリ、ハーリィ、

 来てくれて ありがと。


 嬉しいよ。声出して笑いたいよ。

 いっぱい話したいよ。

 飛び込んで抱きつきたいよ。


 結婚……エーデに会いたいよぉ。


――泣き出しそうになっていた。







キメラ魂を運ぶ死司神達が浄化域に入った直後、カケルに説明し終えたエィムが到着したようです。


カケルが反転して戦闘が始まったところにエーデラーク。

チャムはエィムにまた保留と言われる前にと永遠の樹に場所を移します。

そのおかげでカケルは逃げきれたとも言えるのかもですね。


神眼が強いマディアが樹の向こうを見ていない筈がありません。

マディアもアーマルを逃がそうとしているんです。



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