エィムの話②:四獣神の役目
【ね、エィム♪ 続きは?】
まだ引っ張って飛んでいる。
【あ、うん……】
【考え事? ぶつぶつも言ってないけど?】
【あのね――いや、続けるよ。
人神の地が灼熱と化した後、獣神は人神に住む場所を与えたんだ。
最初の四獣神様が人神を助けたからね】
【お人好し~】
【そうだね。
でも神だから、そうするのが当然なんだ。
ただ……そう考えるのは獣神だけ。
人神は獣神の地だった事は子孫に伝えず、我が物顔で獣神を端に追いやったんだ。
人神の地が灼熱と化した時、初代四獣神様は、干上がってしまった雲海を高くて分厚い岩壁に変えたんだ。
灼熱が伝わって来ないようにね。
だから今の『神世』は高くて分厚い岩壁で囲まれている。
今その岩壁に接して、或いは岩壁の上や中に獣神は種族毎の里を作って暮らしているんだ。
獣神は争いを好まない。
『大切なもの』を守って暮らせたらそれでいい。
だから静かに生きてきた。
人神は都や街を作り、安穏と暮らしている。
神としての修行を怠り、劣化している。
正しい歴史を伝えず、術を忘れ、禍が何かという事すら忘れて生んでしまう。
人神が生む禍を鎮め、滅するのが二代目以降の四獣神様の仕事なんだ】
【ええっと、ワザワイって?】
【怨霊の如くでもあるし、天変地異の原因にもなる。神の命を奪うものだよ。
神は容易くは死なない。
神を死なせられるのは術か禍。あと浄魂。
だから そういう術は禁忌とされている。
禍は神の負の感情から生まれる。
それと操禍という力を持つ神なら自由に生み、操る事が出来る。
敵神は、その操禍を持っているらしい】
【そんなのと戦ってたの!?
さっきのお姉様!!】
【そうだよ。強いと言ったよね?
そういう事なんだ。
人神は何も知らずに、獣神だけが使える術に怯え、その全てを禁忌にした。
そうしておいて自分達が生み出す禍の後始末を四獣神様に押し付けたんだ。
四獣神様は禍に対する術すらも使えずに、禍を地に鎮め、弱らせてから滅していた。
その鎮禍の地に、人神は軍の訓練場を作ったんだ。獣神には何も言わずにね。
その訓練場は滝の形状で、疑似の禍を生む筈のものだった。
でも、その地は禍の悪気を吸収していた。
だから滝は凶悪化し、本物の禍を生むようになってしまったんだ。
派遣された軍神は全て禍に滅され、滝から離れた禍が都や街を襲った。
獣神の里に現れて初めて発生源が明らかになったんだ。
でも王は人神が作った滝が原因だなんて認めずに、当時の四獣神様に禍の処理を押し付けたんだ。
お祖父様達の代を経て、父様達の代になって、ようやく原因が滝だと認めてもらえたけど、それならと今度は滝から禍が漏れないように森で囲んだんだ。
その森は通過しようとする禍を喰らう為のものだったんだけど、劣化した人神がした事だからね、また失敗だった。
神力を喰らうように出来上がったんだ。
餌に出来ると判断した神を喰らう森。
凶悪な滝は、そんな森を従えた。
森からの神力を得て更に凶悪化したんだ。
父様達は文句ひとつ言わずに戦い続けた。
滝から生まれる禍だけじゃなく、人神が生む禍も滝に転送させて、全ての禍と戦ってきたんだ。
でも……今、父様は無自覚堕神なんだ。
オフォクス様は自ら降りられたけど、トリノクス様は堕神にされた後、浄魂されて、今は欠片の状態。
マリュース様も堕神にされた。
さっきのモグラがマリュース様の器だよ】
【怨霊でしょっ!?】
【そう。
おそらく、だけどね。
神を内包したままでは、あんなに強い怨霊化なんて無理。
だからマリュース様はモグラから離されて何処かに封じられている筈なんだ。
今、人世には多くの堕神が居る。
父様を堕神にした直後、敵神が獣神狩りを始めたから。
獣神だというだけで堕神にされてしまうようになったんだ。
僕は……だから、そんな神世になってしまった時、決めたんだ。
人神なんかに神世を任せてはならない。
父様を神に戻して、父様に王になってもらわなければ世は終わる。
父様は全ての獣神が認める獣神の王。
劣化した人神の王なんかよりずっと上。
なのに堕神だなんて……あんまりだよ。
だから僕に出来る事を、と考えた。
僕には姉様みたいな戦いなんて無理。
知恵と知識を活かして、上り詰めて、邪魔となる人神を排除しよう、とね。
だから最高司を経て宰相を目指そうと考えていた。
でも状況が変わった。
敵は王じゃなかったんだ。
敵神が死司最高司に化けているのは偶然だけど好機。
エーデラークをしているマディア兄様のように僕も懐に入るつもり。
これからの道は険しい。
本職神に成ったら最速で駆け上がる。
上位職神に最短で成れば目立つからね。
側近に加えてもらえると踏んでいる。
これで全てだよ。
こんな事を企んでる危険な僕と……まだ結婚したい?】
【その為にも私の力が必要でしょ♪
一緒に駆け上りましょ♪】
【試験があるって知らないの?】
【え…………あ!♪
エィムの力、貰えるのよね?♪】
【共有するのは神力。知識は別】
【ええ~っ。
で~も♪ なんとかなるなる♪
私とエィムだもん♪
だから結婚しましょ♪】
【危険だって本当に解ってる?
敵神の禍に触れたら死ぬんだよ?】
【私の網、その為の力なんでしょ?♪
禍だって神が生むのなら神力なんでしょ?
違ってても近いんでしょ?】
【……確かにね。禍も神力だよ。
それなら……結婚しよう。
本職神の証を貰ったら即、ね】【うん♡】
【食い気味……】僕を食う気?
【だって~、エィム大好きなんだもん♡】
【取り消――】「んっ……」【あ……】
【起きちゃった~。結婚決定♪】
「ん? ええっ!? ナンで飛んで!?」
【彼に説明しないといけない。
だから保留】【えええっ!?】
―・―*―・―
浄化の門は、まだ大混乱で大騒ぎだった。
「もういい!
死司!! 連れて入れ!!」
「いいのか?」「掟破りですか?」口々。
「特例だっ!!
足を着けさせるだけよい!!
早く行けっ!!」
操られている者も、いない者も、この場は仲良く魑魅魍魎達を門の向こうへと押しやった。
途端に魑魅魍魎達はムクムクと頭を擡げ、動き始める。
「そんな所に積むなっ!!
案内係! 死司達を奥へ!」
普段は死魂だけを導く神達が慌てて動く。
「どうぞ此方に」
しかし死司神達は最高司に何を言われるか知れたものではないと躊躇していた。
「皆、浄化の方々の指示に従うよう」
ヒステリックな浄化の門神とは大違いに穏やかなルロザムールの言葉を聞いて、ようやく死司神達は門をくぐった。
リグーリとハーリィは面白い事になったと、その後に続いた。
―・―*―・―
モグラが待つ部屋に重厚な威厳を纏った初老の男神が入って来た。
「待たせて申し訳ない」
「いえ……」
「渡竜 澄也自身に罪は無いと私は認めている。
しかし多くの魂を取り込んだのも事実。
分離せねば成仏は果たせぬ」
「はい。どうか分離してください。
お願いいたします」
「分離は苦痛を伴う。
多さ故、長く掛かる事となろう。
それでもよいか?」
「はい」決意を眼差しに込めた。
「ふむ」【ただ……】
【あっ、獣神様――キツネ様の……?】
【はい。オフォクスの子、ロークスです。
神の欠片は分離可能なのですが、人魂内の人魂を分離する事は非常に困難なのです。
ですので、償いは他の方法でと許しを得ております。
可能な限り分離した後、別の生物として生まれ変わり、祓い屋を助けて生きて頂きます】
【それが償い?
僕には ご褒美としか思えない……】
【貴方自身に罪はありませんので。
それに父の友人です。
魂の分離という、ある意味『地獄』を経させなければならないのは申し訳ないばかりです】
【申し訳ないだなんて……。
僕が死なせてしまった皆さんをせめて成仏させていただきたいのです。
僕は どうなってもいいんです】
【魂を分離する際、融合してしまっている箇所を切り離せば、記憶の欠落が生じるでしょう。
他神に対しては浄罪という名目での生まれ変わりですので、記憶も残さなければならないのですが……】
【僕の記憶よりも皆さんの分離を優先してください!
記憶、残っているって事にしてでも!
忘れたくない事や人もいるけど……それでも僕より皆さんを……お願いします!】
【そうですか。では――】
「成仏に至るまでの詳細を説明する」
「はい、お願いいたします」
クウダームから聞いた話の続きでした。
たぶんフィアラグーナから聞いた話も混ざっているのでしょう。
獣神達は口を揃えて『獣神王』と呼びますが、ドラグーナは引き受けていません。
その称号を拒み続けているんです。
称号についても後で詳しく書きますが、絆と称号は神力強化です。
ロークスだけでなく末代の指導神として潜入したアーマルの同代達は、それぞれの職域で最高司補(最高司の次の地位)に昇格しています。
リグーリだけはエィムがまだ見習いなのと、自由に動けるからとヒラを続けていますけどね。
代わりにディルムが昇格しようとしていましたが、月で何をしているのやらですね。