エィムの話①:三度目の人世
モグラの母・菊乃を連れて昇るリグーリは弟子達に追い付いてしまった。
【眠らせたのか?】カケルを指す。
【いえ。ですが目覚めないのです】
【ま、ゆっくり昇ればええじゃろ。
また魑魅魍魎達が、ひと騒ぎ起こすじゃろうからの】
【そうですね……】
【門神達が疲れた頃に着いてやれ】ニヤッ。
【それも手ですね。そうします】留まった。
頷いたリグーリは、待っていたらしく ゆっくり飛んでいたハーリィと並び、速度を上げた。
【ね、エィム。
青い龍に挨拶してたわよね?】
【僕の姉様だよ】
【黒くて嫌な感じのと戦ってたわよね!?】
【黒いのは神世を滅ぼそうと企んでる敵神。
姉様は強いんだ。単独で戦える程にね】
【エィムは?】
【違う闘いをしているつもり。
だから闘い続ける為に、此処で待つ間に少し話さないといけない】
【結婚のこと?♪】
【それも含めて。
人世生まれ、人世育ちのチャムが知らなくて当然な話だよ】
【うん……】溜め息。
【どうしても結婚の話が先でないといけないみたいだね?
仕方ない。先に話すよ。
人の結婚を見て憧れてるみたいだけど、神の結婚は違うんだ】【ええっ!?】
【煩い。
神の結婚は力の融合、もしくは共有の為に術で絆を結ぶ事なんだ。
簡単に言うと神力強化だよ】
【愛は? ないの?】
【無くても結べる。
けれども愛も一種の力だから、強化の助けにはなる。
結婚については、これでいいよね?
職神試験の時に僕と一緒に居たのが仲間。
皆、四獣神の子なんだ。
チャムも四獣神の子だから仲間に入れた。
でも歳までは聞いてなかったんだ。
チャムも僕の歳なんて知らないよね?】
【同じくらいじゃないの?】
【100歳くらい僕が上だと思う。
同じくらいって言うけど、そもそもチャムは自分の歳なんて知らないよね?
記憶を封じられてるんだから】
【ええっ!?】
【誰から生まれ、誰に育ててもらった?】
【あ……】
【何処で暮らしてた?】
【う……】
【それを不思議とも思わないようにも縛られているんじゃない?】
【う~ん……】
【結婚すれば、その封印も縛りも解ける筈。
結婚は最強の絆だから。
僕としては、チャムを押し付けてきたオフォクス様の真意が知りたい】
【その為に私と結婚?】
【それも理由。
神力強化が結婚理由その1。
チャムは僕に不足している力を持っている。
錠と鍵、その言葉に納得したよ。
知りたいのが結婚理由その2。
ま、錠と鍵だけでも納得なんだけど、きっと もっと深い意味があると思うんだ】
【その3は愛?】
【3なんて考えてない。
愛は……まだ僕には分からない。
情なら、たぶんある】
【そんなぁ……】うるうる――
【泣かないでよね。
愛とかってものにまで考えを及ばせられる余裕なんか無かったんだ。
それに嫌いだとは言ってないだろ】
【うん♡】
【話を進める。
神世では、人神が勝手に国を作り、王を決め、獣神を虐げてきた。
下の地を造り直し、三度目の人世を構築してまだ浅い頃からずっとね】
【えっ? なに? わかんない!
三度目の人世? どーゆーことっ!?】
【神世が乱れれば人世も乱れる。
脆弱な人世の方が先に滅びてしまう。
そういう事が過去に二度あったんだよ。
でも、この話はチャムだけが知らないんじゃないんだ。
今も神世で暮らしている人神なんて、全く知らない。
僕が知り得たのは偶然だった。
まだ僕が基礎修行をしていた100年位前。
人世に降りると仰ったオフォクス様と最後に残った四獣神ドラグーナ様をガイアルフ様とフィアラグーナ様が話があると呼んだんだ。
ドラグーナ様は保険的に次代にも聞かせたいからとアーマル兄様を呼んだんだ。
アーマル兄様は僕の師でもある。
僕は好奇心から兄様を追ってしまったんだ】
【ええっと、いっぱい出てきて……】
【チャムのお祖父様と僕のお祖父様が、チャムの父様と僕の父様を呼んだ。
僕の父様が兄様を呼んで、僕は兄様の後をつけた。
これで分かる?】
【うん♪】
【父様は僕にも聞いていいと言ってくれた。
だからアーマル兄様と僕だけは知り得た。
他に知っているとしたらマヌルヌヌ様くらいだろうね】
【マヌ――誰?】
【獣神の長老様】
【それじゃあ知ってるのが ごく一部なのね♪
ちょっとホッとした~♪】
【何処までも お気楽だよね。
でも進めるよ】
【その話、私も聞いてよいか?】
【あ、ラピスリ姉様。はい】
【聞く為に戻ったのではないが、お祖父様も父様も未だ記憶は十分ではない。
アーマル兄様は眠っているのでな】
【お祖父様が見つかったのですか?】
【祓い屋ユーレイの内に居る。
元気そのものだ】
【そうですか。では話します。
お祖父様の家に入ると人神の男神様がいらっしゃいました】
【クウダーム様か?】
【あ、そうです。ご存知なのですね?】
【今は月にいらっしゃる。
しかし記憶は殆ど無い】
【そうなのですか。
そのクウダーム様から古のお話を伺ったのです。
最初に神世の内を穿ち、地を作ったのは人神です。
その地に獣神は自種の獣を、人神は人を作ったそうです。
その地は人が滅ぼしてしまいました。
しかし原因は神世にあり、一部の人神の傲慢から神世が崩壊寸前となった事が引き金となったそうです。
その時に獣神と善なる人神を保護して、神世の地を救ったのがピュアリラという名の龍狐女神様なのだそうです】
【そこでピュアリラ様が……ふむ。
クウダーム様の先祖はピュアリラ様に保護して頂いたのだな?】
【はい。
ピュアリラ様が救い、整えた神世は2つの ほぼ円形の地と、その間を埋める雲の海となったそうです。
獣神と人神は、その2つの地に分かれて暮らしたそうです。
人世の地が在った場所は、空洞となってしまったので、獣神は埋めようと言ったそうですが、人神は勝手に人世を再度 作ってしまったそうなのです】
【ふむ。二度目の人世は、神世の半分が灼熱と化した時に滅亡したのだな?】
【はい。クウダーム様が最初に生きた頃だそうです。
人神に因る災厄が、人神の地を住めぬ地とした為に、獣神の地に移り住んだと。
やがて人神は獣神を端に追いやり、国を作って王を置いたそうです】
【安住の地を得た人神は性懲りもなく人世を作り直したのだな?】
【そうです。
それが今の人世です。
僕は人神に世を任せてはいけないと思いましたが、父様は真逆だからこそ補い合えると――あっ……】
【気付いたか?
エィムとチャムも又然りだ。
オフォクス様も、そう仰りたいのでは?
ふたりは、全てを知っているからこその
『未来への光』となるのだろう。
封じられているチャムの記憶も、希望への鍵なのかも知れぬな。
大きな力を持つ神は『許す者』でなければならぬ。父様の教えだ。
長く虐げられてきた獣神だが、許し、共に歩めば、三度目の人世は滅亡を免れるのではないか?
それと……愛は大きな力だ。
エィム、己が心を素直に受け入れろ】
笑って青龍銀狐姿になった。
【えっ……】【えええっ!?】
【私はドラグーナとオフォクスの子。
弟と妹の結婚を心から祝福する】
二神を暖かな光で包んだ。
【もしかして、この為に?】【あ♡】
【エィム風に言えば、理由その1だな。
その2は、ひとつ確かめたかったのだ。
ミュムに頼んだという事は、その青年を再生させるのだな?】
【あ、はい。無理ですか?】
【再び人には出来ぬ。それだけだ。
何かあったならば、きりゅう動物病院に連れて来ればよい】
【はい!】
【そろそろ昇っても良かろう?
随分と経ったぞ?】
【あ……】【行きましょ♪】【そうだね】
【結婚についての続きは飛びながら話せばよい。
人と同様の結婚も良いものだぞ】
【姉様っ!】【ですよねっ♪】
【私か? 青生と暮らせて幸せだ】ふふっ♪
【幸せ……】【掴みましょ♪】
【神が幸せを求めて何が悪い?
エィム、幸せを知らずに他者を幸せに出来ると思っているのか?
掴めばよい。
共に歩めば見えてくるものも多い。
強化で幸せを掴めるのならば無駄も無い。
エィムの好きな『合理的』ではないか?】
【……確かに】
【さあ行け。
チャム、術移も見せてやれ。
エィムも喜ぶだろう】
【はい♪】
カケルを抱えているエィムの腕に手を絡めた。
【狐印の~術移♪】消えた。
――【現世の門!?】
【来れちゃった~♪】
【凄……】
【合格? 合格よねっ♪
浄化の門に行きましょ♪】
チャムはエィムを引っ張って飛び始めた。
眠るとなかなか目覚めないカケルを連れてエィムとチャムが浄化の門へと昇る途中のお話でした。
三度目の人世――地球ではなく、地星のお話ですのでっ。
この先も似て非なる地星の歴史が出てきますが、だからハイファンタジーなのか~と軽く受け流してください。
m(_ _)m
この章はタイトル通り、カケルとショウと飛翔が浄化の門から逃走して人世に戻る間の裏側を描きます。
エィム達ドラグーナの末代の子は、禍の滝近くでの基礎修行を終えようとしていた頃にドラグーナが堕神とされてしまい、マヌルの里に逃げ込みます。
基礎修行と並行して同代それぞれが師を見つけて修行をしていた頃にエィムはクウダームから過去の神世の話を聞き、その後、世の現状を知っていって人神から神世を取り返そうと決意します。
そうして同代を集めて職域に潜入したんです。