モグラとサイ
〈――サイ……サイ? ……聞こえない?〉
魂の内で身動き取れずにいたモグラは、サイオンジに込めていた支配が発動された事で、ようやく繋がりを見つけた。
親友を助けたい一心で意識を繋がりに向けると、それは赤光を帯びてモグラに苦しみを与えた。
引き千切られそうな激しい痛みと苦しみに耐えて辿っていると、サイオンジに与えている苦痛は自分の苦しみどころではないと感じ取れた。
モグラは泣きたい思いを堪えて、鈍く光る鎖のように見える親友との繋がりだけに意識を向けて辿り続けた。
そしてとうとう親友に触れる事が出来、呼び掛け続けていたのだった。
〈……モグラ……かぁ?〉
〈うん。僕……サイに酷い事を……〉
〈モグラが、したんじゃ、ねぇ、ってくらい……オイラ、にゃあ……分かってる、よぉ……〉
〈苦しいよね? でも聞いて?〉
〈こん、くらい……大、丈夫、だぁよぉ……〉
〈僕の支配が、サイの魂の中に在る筈なんだ。
その塊から鎖がサイに伸びている筈。
それを断ち切れば楽になるよ。
鎖と聞いて、見えるようになってない?〉
〈確かに、鎖、だぁな……〉
〈その鎖に『消えろ!』って強く念じて。
きっと楽になるから〉
〈そぉかぁ……ありがとよぉ。
そんじゃあ――消え失せやがれってんだ!!〉
弾け散った鎖が瞬きながら消えた。
〈確かになぁ……消えたなぁよ。
で、次は? モグラも動けねぇんだろ?
今度はオイラが助ける番だ〉
〈僕は……もう、いいんだ。
破邪が……楽にしてくれたよ……。
……サイ……このまま……成仏させて……ね……〉
〈モグラ!?〉
〈早く……支配の塊……見つけて……。
『好きにはさせない!』で……止まる。
あとは、キツネ様に……頼んで、ね……〉
手が離れた。
〈待てモグラ!!〉
〈もう外…………サイ、ありがと……〉
〈モグラ!!!!〉
解除する力、残ってなくて……ごめんね――
―・―*―・―
モグラを捕らえたエィムとチャムだったが、カケルを奪われてしまった。
〈チャムはこの怨霊を早く連れて行って〉
〈でも……〉
〈この網はチャムの力なんだから、この厄介な怨霊にはチャムが付いているしかないだろ?〉
〈ターゲットは?〉
〈此奴を送ったら来て。
それまでに解決しているだろうけどね〉
〈わかった……けど、ムチャしないでね?
相手はあの御札使いチャンなんだからぁ〉
〈チャムに言われなくても気をつけるよ。
それより早く――〉
〈お~い、ラブラブ死神達~♪〉
〈〈え?〉〉
不意の声に驚き、結界内に目を向けると祓い屋ユーレイが大きく手を振っていた。
〈なんなの?〉
〈これから雑魚な獣憑き達を送り出すから連れてってくれ~♪〉
〈え? まさか――〉〈ええっ!?〉
キメラ魂達が魔道の口から溢れ出た。
〈チャム! 網を広げて!〉〈うんっ!〉
〈広げるだけでいい! 僕が保つ!
チャムは早く其奴を!〉
〈わ、わかったわ!〉
モグラ入りの網を抱えて瞬移した。
「このキメラ達は神力を持つ。
つまり神力封じの網で文字通り一網打尽。
だから後始末を誰かに……」ぶつぶつ。
神眼で追っていた死司神の塊に目を向ける。
【お師匠様、チャムがモグラを連れて昇っていますのでお願いします】
【保護したわぃ。
で、ターゲットは?】
【すぐにでも追いたいのですが……】
【見えたわぃ。ならばルロザムールと正気な仲間を其処に向かわせる。
少しだけ待っておれ。
ああそうじゃ、位置を知らせられるかの?
救援を求めりゃええじゃろ】
【ありがとうございます。では――】
〈追わせない気なんだね……それなら此方にも考えがある。
近くに御座します死を司る導き神様!
急ぎお助けください!
無数の獣霊、人獣霊が溢れ出ております!
どうかお助けください!!〉
ユーレイにも人神にも聞こえるように言った。
急降下して来た死司神達が着地と同時に一瞬だけエィムに笑みを見せた。
〈あれを!!
どうかお願いいたします!!〉
エィムが指す方を見た死司神達はサッと魔道の口に集まり、溢れ出すキメラ魂達を回収し始めた。
ルロザムールがエィムの方に寄って来た。
〈これは何事があったのだ?〉
【リグーリ様から伺っております。
トリノクス様の保護に向かってください】
〈怨霊と化した人霊を捕らえたところ、その配下となっていた獣霊達が主を追って溢れ出て来たのです〉
【ありがとうございます。
ですが上からの視線を感じますので、形式に則り説明だけはさせて頂きます】
【確かに……では、お願いします】
〈私と相棒はまだ見習いの身でございます。
とてもこの状況に十分な対処なんぞ出来よう筈も御座いません。
しかし、怨霊と化した人霊を奪い返されるなどあってはならない事でございます。
そこで相棒が、捕らえた人霊を連れて浄化の門を目指し、私が助けを求めたのでございます〉
早口で捲し立てた。
〈見習いであったか。
ならば的確な判断と言えよう。
此処は我等に任せ、相棒を追い、怨霊を確かに浄化の門へと導くがよい〉
〈ありがとうございます!!〉
〈そちらも、必要ならば呼べばよい〉
〈はい!! それでは!!〉
【お願い致します!】
カケルを包んだ網に込められているチャムの力へと瞬移した。
―・―*―・―
チャムを保護したリグーリは、騒いでいる集団をハーリィに任せて上昇していた。
〈お師匠様いいの?〉サボり?
〈浄化へと導く事こそ儂らの使命じゃろ?〉
〈そうよね♪ それなら~〉
〈ん?〉
〈あの騒ぎ、何ですか?
私よりも働いてないわよね?〉
街の東端を指している。
〈その通りじゃな〉はははっ♪
〈死司神として正しく働いておる者は、ほれ、下で回収に勤しんでおるわぃ〉
〈あれって……さっきの場所?〉
〈エィムが呼んだんじゃよ。
任せてターゲットを追ったようじゃな〉
〈さっすが私の夫ねっ♪〉
〈んんっ!? 夫!?〉
〈ターゲットを導いたら結婚するの♪
エィムが そう言ったのよ♪〉
神力の為か……? ん? あれは――
〈お師匠様? 黙らないでくださいよぉ。
ホントなんだからぁ〉
〈チャム、少し黙っておれ。
急ぎ通り抜けねばならん〉
〈え――〉
口の前に人差し指を立てられた。
頷いて、リグーリの視線を追う。
〈!?〉
【リグーリ! これ以上は離せぬ!
少し遠回りして抜けよ!】
西の空、上方で敵神と戦っている青い煌めきからラピスリの声が聞こえた。
【解った!】
【其方だけは向かせぬ! 行け!!】
リグーリはチャムとモグラを水晶玉に込め、術移を交えて浄化の門を目指した。
―・―*―・―
【ハーリィ、その黒装束は?】
【余裕なのかオニキス?】
フードを深く被っているハーリィは黒龍を追っていると見せかけて、他神を突き飛ばしたり、鎌を引っ掛けたりしつつ動いている。
【いや、だってお前、再生神だろ?】
【ルロザムール様は私の師であり相棒だ。
死司衣を頂いて以降、時折 手伝っている】
【そっか♪ マディアにも会えるのか?】
【いや……側近となったルロザムール様ですら話せぬそうだ】
【そっかぁ……で、アイツ今日はナンで単独なんだ?】
【知らぬ】
【だろーなっ】避けて反転っ!
向かって来た死司神は空振りしたところをハーリィにブッ飛ばされた。
【ただ……】
【ん? ナンだよ?】スイスイッと♪
【敵神は友を欲しているのではないかと……そう感じている】
【マディアは嫌がってるんだろ?】
【今は、そうだろうな】
【今は、ってぇ?】
【エーデリリィ様を解放してもらえたなら、友となるやも知れぬ】
【そっか~、マディアだもんな♪】
【彼奴はマディアが嫌がっているとは思っていなさそうだ。
信頼関係を築けた、とでも思っているのではないだろうか。
だから嫌われたくない。
故に、この有り様を見せたくなかったのではないかと私は思う】
【ふ~ん……アイツ、そもそもを忘れてやがるんだな?】
【そうなのだろうな】
【けどマディアが友達になったら、神世を滅ぼすのもヤメてくれそうだよな♪】
【何れに転ぶのか……】
【お~い、も~チョイ希望ってモンを持てよなぁ。
神が笑えば福来たる、だ♪】
【笑う門には福来たる、だ】
【ナンでもイイじゃねぇかよ。
とにかく笑えばイイんだからよっ♪】
鎌を奪って結界内に投げた。
鎌が塵と化して消える。
【スッゲーなっ♪】
【死司衣を着たまま入れば同じ運命か……】
【ヘナチョコ人神よか、よっぽど強ぇな♪】
【確かに……】
やっと親友に戻れたのも束の間、モグラは成仏を望み、無抵抗でチャムに導かれています。
モグラは本当に優しい善人なんです。
獣神vs操られている死司神、ザブダクルvsラピスラズリの戦いはまだ続いています。
ルロザムール率いる死司神達vsキメラ魂も、なかなかに激しくて、死司神達は悪戦苦闘しています。
ですので『激戦』は、もう少し続きます。