モグラは何処に?
瑠璃に眠らされていた兄弟は、陽が昇ると各々の日常に戻らされた。
兄弟揃って黒瑯が作ってくれていた朝食を食べ、紅火は店奥の作業場で具現環を作り、2学期が始まった彩桜は学校へ。
青生と藤慈は揃って動物病院に向かい、今その扉を開いた藤慈は新たな一歩を嬉しそうに踏み出したのだった。
「藤慈、寝る前にも聞いたけど
動物薬剤師ってないから事務でいいかな?」
話しながら更衣室へ。
「はい♪」
「じゃあ名札と服ね。
それと、これが薬の在庫表。
発注も含めて管理をお願いね?」
「はい♪
あ♪ 同じ形で色違いなのですね♪」
「うん。スタッフだと分かり易いようにね。
俺達は濃いめの青だから藤慈のは淡くて紫がかった青にしたよ。
トリマーの2人は淡いピンクなんだ。
それで薬なんだけど、薬草の方は内々でしか使えないよね。
処方薬は大丈夫かな?」
「しっかり勉強しましたよ♪
昼間は暇でしたから♪」
「薬の棚は事務室に運んだからね。
薬学博士に頼むのは申し訳ない程度の仕事なんだけど……獣医の仕事の一部だから本当に裏でコソッとになるよ? いいの?」
「人と接するのは苦手ですので奥で働きたいのです♪
あっ、でも お渡しするくらいでしたら大丈夫ですよ♪
獣医師の指示で動いています、という顔で接しますね♪」
「そう? それじゃあ、それもお願いね。
暇だろうから薬草の勉強をしていてね?」
「はい♪」
バステトから新たに貰った本を抱いて嬉しそうに事務室へ。
事務室の扉が閉まると同時に、建て増したトリミング室の扉が開き、瑠璃が姿を見せた。
「みかんさんとリリスさんは?」
「病院よりも予約が詰まっているからな、支度をしている」
「楽しそう?」
「そうだな。ずっと笑顔だ」
「そう、良かった」ほっ。
「看護師としては余程でなければ呼ばぬつもりだが、それでよいか?」
「うん。今まで通りでいいよ♪」
「あからさまに嬉しがるな」ふふっ♪
「瑠璃こそ~」
「さ、此方も支度せねばならぬ」
「そうだね♪」
―・―*―・―
寿達が結界補強を始めた頃、サイオンジは北の街に着いた。
〈ホウジョウ、見つけたかぁよぉ?〉
〈はい、お師匠様。此方です〉飛び始める。
〈キツネ殿は北の山裾としか言わなかったが、トウゴウジんトコと同じかぁよ?〉
〈はい。山裾の地下に溜めております。
其処から街へと伸びる魔道も、ほぼ同じと思えます〉
〈モグラの奴ぁオイラを挑発してやがるなぁ。
今度こそ成仏させてやらにゃあなぁよ〉
〈お師匠様……〉
〈そんな顔すんなってぇモンだぁ。
モグラにとってもソレが幸せってぇモンだぁよ。
長く……苦しんだんだからよぉ。
次こそだぁよ、ホウジョウよぉ〉
〈はい!〉
決意を新たにした二人は、禍々しさを強く感じる地から伸びる何本もの魔道らしき空間の歪みを目で追った。
―・―*―・―
そして夜。
初日の仕事を楽しく終えた藤慈は、この夜も裏庭で薬草を探していた。
【藤慈、モグラが近くに居る。家に入れ】
【はい、紅火兄様――】「!?!」
顔を上げると目の前に女性の顔があり、驚いて立ち上がってしまった。
〈あら、見えてるのね〉 【どうした?】
「驚かせてしまってごめんなさい。
でも……こんな夜中に何をしているの?」
【人が居てっ】
「あ、あのっ、や、薬草をっ、探していてっ」
【ふむ。見えた】
「雑草の中に? ふぅん……」
【祓い屋。常連客だ】
深呼吸。 【そうですか】
「雑草に見えても、様々な有益植物が混ざっているのです。
昼間に探していると変人扱いされますので、こうして夜中に探しているだけなのです」
【安心しました】
「それはそれで犯罪者扱いされないかしら?」
「何度か職質されましたよ。
ですのでお巡りさんの間では――」
「変な有名人なのねっ♪」
【もしかして――】
「……そう、ですね。
ところで貴女は……ユーレイですよね?」
【む?】
「その通りよ♪
でもね、生き人も一緒なの♪」
【彼女達の方が見えるのでは?】
「え?」振り返る。「あ……」
【モグラの魔道か?】
「あ♪ ちょうど良かった~♪
御札用の紙をお願いしたかったんです♪
たくさん使っちゃったから~」 【はい】
駆けて来た。
「響チャン、知り合い?」 【ふむ】
「うん♪ 古道具屋さんの――」
【魔道の件、頼んでも?】
「店番をしているのは弟ですので伝えておきますね」にこっ。
【ふむ。頼めばいい】
「あ、お兄さんなんだ~。
だから眼鏡かけてるのか~。
それにしてもソックリですねっ♪」
【はい♪】
「あ、ええ……そうですね。
あ、、祓い屋さん、でしたよね?」
「「はい♪」」
「この二軒挟んで向こうにも空き地が在るのですが、そこに歪みが在るように思えるのです。
調べて頂けますか?」
「「喜んでっ♪」」
本当に嬉しそうに駆けて行った。
【紅火兄様、御札の紙が必要だそうです】
【ふむ……】
【どうかしましたか?】
【今日は具現環しか作らなかった。
在庫を確かめておく】
【はい♪】店の方に駆けて行った。
―◦―
【オニキス師匠 連れて来た~♪】
裏庭から戻った藤慈と、妖秘紙の束を持っている紅火が店の座敷で話していると、押し入れの襖が開き、黒い尾を掴んでいる彩桜が出て来た。
【行くんでしょ♪
ウィスタリア師匠も呼ぶ?♪】るんるん♪
【ウィス兄様なら庭だろーがよ。
ったく~、寝込みを襲うなっ】人姿に。
【神様も眠るのですね♪】
【父様ずっと寝てるだろ~がよ?】
【ああ、そうでした♪】
【ま、ソレは特別なんだがな。
神はフツー、食ったり寝たりしねぇよ。
オレの場合は昼間リーロンしたり犬したりしてっから腹も減るし、疲れて眠くなるんだよ】
【魔道は祓い屋に任せたのだが……】
【はい、お願いしましたよ?】
【そっか。そんじゃあオレは帰――ん?
外が騒がしいな……ゲ……】見ているらしい。
【む?】神眼を向けた。【集まったな】
【ソッチじゃねぇよ。も少し北だ】
【モグラさん来てる!!
サイオンジさん達 睨んでるよ!!】
【上 行くぞ!】【うんっ!】
【紅火 藤慈、ウィス兄様と来い!】
【【はい!】】
――結界上端近くに瞬移すると、死司神達が寄って来た。
〈黒い龍神様――〉
声がしたので神眼だけで上を確かめると、集まった死司神達の後方、つまり少し上に、ダム湖や東の街で見知った男神が居た。
〈――今 降りた奴らは操られてます。
一昨日、敵神から更に強い支配を込められてしまいましたので、霊も獣神様も見境なく攻撃すると思います。
命すらも惜しまず鎌を突っ込むと思いますので離れてください〉
早口で伝えて、前の者達同様に鎌を構えた。
〈ありがとなっ〉少し降下。
〈モグラも自力で支配を解いていましたが、同じく込められてしまったようです。
その時にモグラの魂は封じられたのか、滅されたのか……全く感じられないのです。
とにかく、あれはモグラの姿をした敵神だと思ってください〉
〈ん。お前らも気をつけろよ。
支配、受けるなよ?〉
〈大丈夫です。
モグラから視線外しを習いましたので〉
〈そっか♪〉【モグラさん見つけたよ!】
【さっきから其処に居るじゃねぇかよ】
【じゃなくて魂の真ん中!
滅されてない。封じられてるんだよ!】
【そっか……そんじゃあ助けねぇとなっ!】
【うんっ! あ♪ 青生兄~♪】
青生を乗せた瑠璃龍神が上昇してオニキスと並んだ。
【病院いいの?】
【常に神眼で見ているから大丈夫だよ】
【ん♪】
藤慈を乗せたウィスタリアと紅火を乗せたナスタチウムも並んだ。
【大勝負になりそうね……】【そうですね】
【モグラさんは封じられてるのっ!
助けなきゃなのっ!】
【では全力で助けましょう】
【うんっ!】【おうっ!】【はい!】一斉!
【ウィス兄様、オフォクス様は?】
【オニキスは社に居たのでは?】
【寝てたんだよなぁ~】
【魑魅魍魎の保管場所ですよ】
【そっか♪】
昼間はスタッフが増えた きりゅう動物病院の明るいお話でしたが、夜、とうとうモグラが動き始めました。
下にはモグラ、上には死神。
vsモグラ戦は、祓い屋達がユーレイ探偵団 本編で戦っていましたので、外伝では、vs死神戦――になるのかな? 両方? とにかく輝竜兄弟を追います。
あと、忘れそうになっていましたが、エィムとチャムも!
↓魔道がある空き地
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│空き地│ │ ┃ 裏 庭 ┃
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┃┃ 離れ:和館 ┃┃離れ:洋館┃┃
↓庭 ↓本館:住居