吸い込み口
〈瑠璃、どう?〉
〈ふむ……〉
青生に呼ばれた瑠璃は空き地を睨んでいた。
〈見辛いが……空き地横の路地上を南北に伸びる魔道から少しだけ出た枝道が我が家に向いているようだ。
まだ出口は開いていないようだが……〉
〈もしかして庭の神様が狙われている?〉
〈可能性は否定出来ぬ。
が、掴もうとすれば逃げてしまう。
何処を塞ぎ、何処を断てばよいのか全く分からぬ。――と仰っている〉
〈瑠璃の神様でも対処出来ないんだね?〉
〈そうらしい〉
〈俺達は北を確かめるんだけど、そのままお稲荷様の社に行く?〉
〈そうだな……ふむ、そうしよう〉
二人は宙に漂う違和感を辿り始めた。
〈青生……少し元気になったか?〉
並んで歩く青生の顔を覗き込んだ。
〈あ……うん。そうかもね。
やっとこうして瑠璃と一緒に動けるくらいになれたから……〉
照れて外方向いた。
〈そうか〉ふっ。
〈うん。
だから……少しだけデート気分かな?
浮かれている場合じゃないんだけどね〉
〈だから彩桜を南に?〉
〈紅火が見張っておきたいだろうと……。
でも、そうかもしれないね〉照れ苦笑。
〈そうか〉ふふっ♪
―・―*―・―
南へと違和感を辿っている紅火達は――
〈此処で曲がって、向こう……外国船の方に向かっていませんか?〉
〈うんうん。大きな船の方に、にゅ~って〉
――港に着いていた。
〈あっ、待ってよぉ。紅火兄ってばぁ〉
スタスタ進んでいる紅火を駆けて追う。
〈なんか言ってよぉ〉
〈俺の真後ろを歩け〉〈ほえ?〉
〈魔道に吸い込まれるぞ〉〈ふええっ!?〉
彩桜を挟んでピッタリ縦一列!
〈此方側は吸い込み口らしい。
神様の力を持つ者を生死問わず捕らえるつもりのようだ。
形状は掴めぬが、捕らえ、引き寄せようとする力だけは感じる〉
〈確かに……何本もの手が掴もうと迫っている感じがしますね〉
〈俺にも分かった~〉
〈む?〉 〈えっ?〉〈あ、フェンス?〉
〈『立入禁止』と書いてあるな〉指す。
〈道は続いているのに扉には南京錠ですね〉
〈ん~~~、カメラとかあるのかにゃ?〉
〈見つけた。止める〉〈すっご~い♪〉
〈一旦、引き返すぞ〉〈はい〉〈うん♪〉
引き返す。
〈でも写っちゃったよね?〉〈そうですね……〉
〈釣り人が来るなんぞ茶飯事だろう〉
〈でも手ブラ――あれれ?
紅火兄、ナンか持ってる?〉
手には釣竿、肩からクーラーボックスを下げている。
〈具現化しただけだ〉〈そっか~♪〉
監視カメラからフレームアウトして止まり、紅火が一点を睨む。
神眼で探しているらしく視線を巡らせては止め、暫く睨んで次へと移る。
そうして20程の監視カメラを止めたらしい。
〈行くぞ〉弟達の腕を掴んで瞬移。
――大型船が見える倉庫の屋根の上。
〈伏せろ〉 〈はい!〉〈ん♪〉
〈1隻1隻へと手が伸びているように思えますが……〉
〈そのようだな〉
〈あっ! 猫のユーレイさんが!〉
〈吸い込まれましたね!〉
再び弟達の腕を掴んで瞬移!
――即、具現化大剣で空を斬った!
〈彩桜!〉〈うんっ!〉
タックルするように飛び込んだ彩桜がクルンと前転して立ち上がると、
〈猫さんと犬さ~ん♪〉
ユーレイを抱いていた。
〈狼だ〉〈ほえっ!?〉
〈紅火兄様!〉〈フン!〉ブォンッ!!
〈行きます!〉跳ぶ!
藤慈は兎を抱いて立ち上がった。
〈早く塞がなければなりませんね〉〈ふむ〉
〈猫さん、狼さん、兎さん。
大陸から来たの?
お稲荷様トコ行こぉとしてたの?〉
〈〈〈……はい〉〉〉
〈じゃあ行こっ♪〉【何かあったのですか?】
【あ♪ ウィスタリア師匠~♪
あのね、また魔道なのぉ】
【では社に!】【うんっ♪】乗る~♪
―・―*―・―
北の街の山裾側に複数の魔道端が集まっている場所を見つけ、其処に神力が集まっているのを確かめた青生と瑠璃は、キツネの社へと瞬移した。
〈紅火?〉
ほぼ同時に現れたウィスタリアから降りた弟達へと駆け寄った。
〈南の端は港に在り、他国から此処を目指す者を吸い込む口となっていた〉
〈そういう口が他にも在るみたいだよ。
何本かが集まっている場所を北の街に見つけたんだ〉
社に呼びに行った瑠璃と共に稲荷が出て来た。
【先ずは吸い込み口を塞ぐ。
既に吸い込まれ、北の保管場所に引き寄せられておる全ての者を集め、道は浄化した後、滅する。
サイにも伝えるつもりだが、よいか?】
【モグラさんだから?】
【然うだ。
しかし其れだけではない。
死神の動きも活発だ。
故に渡すべくは渡しておけばユーレイ達にまで手を出さぬであろうからな】
【ユーレイさん達、協力してるって解ってもらうんだね♪】
【然うだ】
【俺、頑張る~♪】【彩桜は寝ろ】【ぶぅ~】
【見つけておる吸い込み口は先に塞ぐが、以降は全てを確かめねば動けぬ。
生き人である皆は今の内に眠るべきだ。
瑠璃、この兄弟を頼んだぞ】【はい】
【ウィスタリア、その狼達を頼む】【はいっ】
―・―*―・―
青生と紅火から場所を聞き、もう吸い込まないように塞いだ後、明け方近くになって ようやくオフォクスはサイオンジに会った。
〈キツネ殿……モグラ、だろ?〉
〈気付いておったか〉
〈まぁなぁ。けど掴めねぇんだなぁ〉
〈此方の街にも魔道を張り巡らせておる。
保管場所は東と同じく北の山裾だ〉
〈東とおんなじに浄化するんだなぁ?〉
〈其のつもりだ。
しかし未だ全てを掴んではおらぬ。
奴の魔道には獣神封じが仕掛けられておるのでな〉
〈そんじゃあオイラ達ユーレイが調べりゃええんだなぁ?〉
〈ユーレイ達は獣神を内に持つ。
故に同じだ。
だが神力が弱い程、見える可能性は高い〉
〈東で見えてたならコッチでも見えるかぁ?〉
〈可能性は高い。
が、モグラは更に強くなっておる〉
〈まぁた怨霊を喰っちまったかぁ〉
〈然うらしい〉
神力強化の為、喰わされたのであろう。
その上、敵神に支配を強められておる。
〈そんじゃあコッチでも探すが……〉上を見る。
〈ふむ……死神か〉
死司神達も支配を強められたか。
〈昨日から ず~~~っと張り付いてるんだぁ。
オイラ達を狙ってるだぁよ〉
〈だから結界を強化するわ♪
失礼いたします、お稲荷様♪〉
〈嘉藤……ヒビキチャンはまだ寝てるんだろ?
夜中にでも話し合ったのかぁ?〉
〈御札の紙なら持ってるわ♪
龍神様のお店で霊体を沢山いただいたの♪
急ぐべきだと思うのよね~〉ヒラヒラ~♪
〈ふむ。先に強化を進めてくれ。
儂は其の間に魔道を調べる。
では又、深夜に〉消えた。
〈魔道? こっちにも!?〉
〈ずっと聞いてたんじゃなかったのかぁ?〉
〈来たばかりよ♪
死神を見てたから加わったの♪〉
〈そんじゃあトクとキンギョにも声掛けて打ち合わせるかぁよ〉
〈兄さんは そっとしといてあげて~〉
〈ど~したんだぁ?〉
〈ゴウちゃんと水入らずなの~♪〉
〈やぁっとホンットに仲直りしたかぁよ〉
〈そうなの~♪〉
―・―*―・―
陽は昇ったものの朝まだ早い時間。
胸騒ぎを覚えて目覚めた響は御札の紙を補充しようと稲荷堂を訪れていた。
「流石に早過ぎたかぁ~」戸が開かない。
『あっ!』「え?」キョロキョロ。
通称『お化け屋敷』の方から声が聞こえたが姿は見えなかった。
『若菜さーん! 客だぞー!
えええっ!? 出掛けた!?
一緒にか!? 知らねぇってぇ~』
そこそこ遠くから聞こえてくる。
駆けて来る足音が近付き、すりガラスの向こうに人影が立った。
『すまねぇ。店のモン皆、出掛けてるんだ』
「あっ、でしたら出直します。
朝早くから すみませんっ」
ペコリとして逃げた。
暫く走って、ふと立ち止まる。
「えっと~、私どうして逃げたの?
でもま、明日でいいわよね? うん」
独り言ち、歩き始めた。
「ん? さっきの誰っ!?」
―・―*―・―
「若菜殿、何処に行っておったのじゃ?」
「市場に♪
出店している皆さんと顔見知りになっておけば、この先、黒瑯さんのお店の材料を買うのに良いでしょう?」
「然様じゃな♪
ならば明日よりワラワも参るぞ♪」
「そうですね♪」
「して、紅火殿は?」
「夜中に出て行ったきりなのよね……」
「藤慈さんもなんです!」
「およ? リリス、裏庭では?」
「居ないんですぅ~」
「彩桜も居らぬよぅじゃな。
神眼で捜すかの」
「「そうねっ」」
暫し捜索中――
「オフォクス様のお社じゃな」
「寝てますね……」
「青生さんも居ますね……」
「修行でもしておったのじゃろ♪
無事で何よりじゃ♪
瑠璃殿が確と見張っておるのじゃから安堵せよ♪」
「「そうですね」」ふふっ♪×2。
結局、兄弟まとめて瑠璃に眠らされてしまったようです。
紅火 藤慈 彩桜が行った港は南渡音地区にある渡音港です。
この大きな港は、戦前に百合谷家が貿易をする為に開いた私港でした。
輝竜家から渡音港までの距離ですか?
車で20分くらいです。
普通は徒歩でなんて行きません。
北の山裾はもう少し遠くて車で30分くらいです。
健脚な輝竜兄弟は軽く行ってしまいますけど。
東京に居る金錦は出ませんでしたが、前回は白久が、今回は黒瑯がチョコっと出ました。
ドラグーナが目覚めていない白久と黒瑯。
周囲は皆、1日も早くと願い、頑張っているのですが、この騒ぎにも間に合いませんでした。
さて、どうなることやらです。
響が ついつい逃げてしまった理由も……この先、秋が深まる頃には出てきます。
m(_ _)m