ジョーヌの記憶:再会
きりゅう動物病院の事務室では、診察を終えた青生も加わり、ジョーヌの記憶を少し見ては話すという流れを繰り返していた。
【ジョーヌ、狐の力は術移にのみ使っているのか?】
ラピスラズリが目覚めないので、ラピスリは声を低くして話している。
【はい♪ 主に術移ですが、術に必要なら使いますよ。
その点はガイアルフ様がシッカリ教えてくださいましたので♪】
〖ガイアルフが欠片を与えるとは……余程 気に入ったのだな〗
【お祖父様も欠片を与えていますよね?】
【はい♪ 頂いています♪】
〖ふむ……〗
【何か? 思い出しましたか?】
〖いや……続きを頼む。
あ、いや。ジョーヌを嫌ってなんぞいない。
ただ、その……もどかしいだけだからな〗
【はい♪ では、再開した時の記憶を流しますね。
僕は術移だけでなく飛ぶのも速いからという理由で近衛団では伝令係をしていました。
班長はラピスリ様の同代のエメルド様でした。
ドラグーナ様は、滝を護らなくてもいいから各所の里を護ってほしいと、いつも仰っていましたので、交替で小動物神の里も護衛していたのです。
この日は栗鼠の里を護っていました】
―・―・―*―・―*―・―・―
栗鼠の里からは少し離れた場所にエメルド班は陣取っていた。
〈王軍が来てる! まっすぐコッチだよ!〉
巡視していた淡緑龍達が慌てた様子で戻った。
〈何しに来てるんだろ……〉
ユーリィが示す方角に神眼を向けた翠龍が顔をしかめる。
〈話しに来てるだけかもだけどアーマル兄様を呼んどかない?〉
〈そうだね。ジョーヌ、連絡お願い〉
〈はい!〉瞬移!
――したものの、なんとなく懐かしい気を感じたジョーヌは宙で止まった。
〈……お祖父様?〉
〈見つかってしまったか。
久し振りだな、ジョーヌ〉姿を見せた。
〈もしかして近くに住んでいるのですか?〉
〈そうだ。
今は栗鼠の里と兎の里の真ん中に潜伏している。
王都と副都から逃げて来た獣神達と共にな〉
〈ガイアルフ様とクウダーム様も?〉
〈一緒だ〉
振り返ると、遠くに栗鼠の里が見えている。
その更に向こうには王軍が迫っていた。
〈と、いう事は……王軍はお祖父様達に向かっているのでは!?〉
〈やはり見つかったか。
昨日、軍神がウロついていたのだ。
だから警戒していた〉
〈僕、アーマル様に連絡して援軍を連れて戻ります!〉
〈ヘナチョコ人神軍なんぞ俺ひとりで十分だ。
先に衝突してしまうドラグーナの子達を避難させろ〉
〈はい!〉引き返した。
〈エメルド班長!〉
〈あれ? ジョーヌだけ?〉
〈途中でお祖父様に会ったのです。
王軍の目的地は、お祖父様の家です。
お祖父様の所に行きましょう!〉
〈お祖父様は何をしているの?〉
〈それは知りません。
ですが王都や副都から逃げて来た獣神様と一緒に暮らしているそうなのです〉
〈逃げて!? それを追ってか……よし!
皆! お祖父様の所へ!〉
〈おいおいジョーヌ、此処に逃がして どうするんだ?〉
〈僕達も戦います!〉エメルドが前に出る。
〈ふむ……ま、頼むとするか〉
〈はい!♪〉
〈王軍の矛先を変えてくれ。
俺が倒せば見つかったも同然だ。
上手く奴等を離してくれるか?〉
〈はい!♪ ジョーヌはお祖父様と離れて〉
〈はい! 行きましょう、お祖父様〉
〈いいか? ドラグーナの為にも戦うな。
上手く翻弄して逃げろ〉
〈父様の為に?〉
〈ただでさえドラグーナは狙われている。
要らぬ口実を与えるな。いいな?〉
〈はい!〉
フィアラグーナとジョーヌは兎の里近くに潜んで気を消した。
〈ふ~ん、流石ドラグーナの子達だな。
よく鍛えられている〉
エメルド達が姿を見せると、即座に王軍は追い始めた。
〈ジョーヌが劣っているという意味ではない。
同じ俺の孫なのだからな。
それにしても、あの追い様は……龍は全て狙われているのか?〉
〈ドラグーナ様の御子であろうがなかろうが若い龍がウロウロしていると『護り』を怠っていると思われてしまうようです。
区別なんてつかないらしくて。
ですが実際、交替で護りを抜けて来ていますけどね〉
〈さっきの緑はアーマルの代ではないのか?〉
〈そうですけど?〉
〈その上を連れて行った軍神達が、街や村まで全て護りを得たと言ったのだが?〉
〈ビリジアン様の代ですね?
その代以降は職域の護りをしていますよ。
ビリジアン様の代は浄化域。
アーマル様の代は再生域。
ミント様の代は魂生域。
シャルディアン達は保魂域です〉
〈シャルディアン達までもが!?
あの時の人神兵士達は?〉
〈王軍を退役してドラグーナ様の近くに居ますよ。末の代を鍛えています〉
〈ビリジアンの代で、やっと護りが終わったと皆が思ったのだ。
だからアーマルの代は後継ぎとして育てるつもりでオフォクス達も多く生み、俺達も欠片を込めて強くしたのだ。
人神めが、騙すような言い方をしおって。
と、一括りにしてはならんな。
ティングレイスは どうしている?〉
〈ドラグーナ様と共に滝で禍と戦っています。
ですが それを知っているのは ごく一部なのです。
森の向こうに行っていいのは伝令係だけですので。
ティングレイス様は出ていらっしゃいませんし、ドラグーナ様にも口止めされているのです〉
〈そうか。ふむ。
マディアは?
グレイと一緒なのだろう?
それとも近衛の長か?〉
〈マディア様、ですか?
僕はお会いしていませんけど?
近衛団長はアーマル様です〉
〈そうか。
マディアは月にでも行ったのだろう〉
〈僕の代わりに、ですか?〉
〈いや……グレイが皆に姿を見せないのも、マディアが消えてしまったのも、理由は同じだろう。だが今は話せぬ。
時が解決するだろうからな、待っていろ。
二神の事は誰にも言うなよ?〉
〈はい〉
エメルド達が戻って来た。
〈子供騙しな罠に嵌めたら、王に報告するって帰ってしまいました♪〉
〈十分だ。
見ず知らずの龍がした事だからな。
ありがとう〉
〈では僕達は元の場所に戻ります。
ジョーヌ、やっとお祖父様に会えたんだから今日はもういいよ。
ゆっくり話して。
じゃあ皆、戻るよ!〉〈はい!〉一斉瞬移。
〈ドラグーナに似て優しいのだな〉
〈僕が歳下なので、いつも護ってもらっているのです〉
〈そうか。
折角の機だ。ついて来い〉
〈はい♪〉
フィアラグーナがジョーヌを連れて瞬移すると、強固な結界で隠している家に着いた。
〈お♪ ジョーヌ、久し振りだな〉
〈ガイアルフ様♪〉
〈とうとう此処を見つけたのか?〉
〈お祖父様を見つけました♪〉
〈そうか。珍しく外に出ていたな〉
〈珍しいのですか?
会えて良かったです♪〉
〈ま、昨日の事があったからな〉
〈で、解決したのか?〉
〈王軍が近くまで来ていたが、ドラグーナを護っている子供達が追い返してくれた。
獣の気配を感じた程度の事だろうからな、これで十分だろうよ〉
〈しかし……引っ越すか?〉
〈ふむ。栗鼠や兎に迷惑を掛ける訳にはいかんだろうな。そうしよう〉
〈ならば皆に伝えておこう〉消えた。
〈せっかく会えたのに……〉
〈ジョーヌには幾つか頼みたい。
だから次の場所も教える〉
〈はい♪〉
〈先ずは、引っ越す準備をしている間にマヌルの婆様に手紙を届けてくれ。
これだ〉
ジョーヌの尾へと光を放った。
〈はい♪ 行って参ります♪〉
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【手紙の内容は見たのか?】
【マヌルヌヌ様が教えてくださいました。
続いてマヌルヌヌ様からのご依頼で動きましたので。
ですが、その時の僕には分からない内容でした。
『全ての獣神の為に計画を早めてくれ』でしたので】
【マヌルヌヌ様からのご依頼は?】
【マヌルヌヌ様のお弟子様のサティアタクス様と共に王都に行き、カイダリアスト第1位公爵様にお会いするという内容でした。
行けば進展するので、と】
【すんなり会えたのか?】
【『ピュアリラ様のお使いです』と言えば会えるとマヌルヌヌ様は仰いました。
人姿でお屋敷の門番さんに そう言うと、すぐに通してくださいましたよ♪
カイダリアスト様にマヌルヌヌ様からのお手紙をお渡しすると、サティアタクス様に残るよう仰ったのです。
ですので僕はお祖父様の所に戻りました】
【そうか。
サティアタクス様は第1位公爵家の養子となったのだな?
そして王に、か……ふむ】
【獣神に優しい王様でしたよね♪
あれ? お祖父様?】
〈もしかして、眠ってしまいましたか?〉
〈ついさっき眠っちまっただぁよ。
起こそうとしたんだがなぁ〉
〈では、続きは明日に。
また お願い致します〉礼。
〈そんじゃあ、また来るだぁよ〉
サイオンジは笑顔で消えた。
アーマルがドラグーナを護る為の近衛団を結成し、同代だけでなく兄弟が近くに居るようになった頃、誰にも会いたくないマディアは時々は滝に現れていたようですが、ほぼ行方不明でした。
何処かに隠れて修行していたようです。
トリノクスとマリュースを罠に嵌めたダグラナタンに、その罪を擦り付けられたティングレイスは、誰にも姿を見せずにドラグーナと共に滝で禍と戦っていたんです。
伝令係達には知られてしまいましたが。
フィアラグーナとガイアルフはクウダームを連れて逃げ込むのに最適な場所を見つけていたのですが、逃げて来た獣神を匿って大勢となった為に其処には行けず、転々としていたようです。
シャルディアンの代が、滝にトリノクスを捕らえに来たダグラナタンと山賊みたいな兵士達から逃げたチビッ子達です。
龍の里に避難した兄弟とティングレイスの友神達はフィアラグーナに保護されて暫く一緒に暮らしたんです。
ジョーヌはアーマル達よりは歳下、シャルディアン達よりは歳上のようですね。