祖父と暮らしていたジョーヌ
フィアラグーナとラピスリはクウダームの鏡を前に話し続けていた。
《この鏡……クウダームというのが持ち主なのだな?》
〈はい〉
《人神か?》
〈はい! 思い出されましたか?〉
《……それ以上は無理そうだな。
しかし会えば分かる筈だ。何処に居る?》
〈月に。月への道も断たれてしまいました〉
《全く厄介な状況だな》
〈はい……申し訳ございません〉
《ラピスリが謝るような事ではなかろう?
オフォクスも謝っておったが》
〈そうですか……〉
《ん? ラピスリからオフォクスを感じる?》
〈ドラグーナ父様とオフォクス父様、半々で再誕させて頂いたそうです〉
《龍と狐……半々……そんな女神を知っている?
……そうだ! ピュアリラ様だ!
朝に夕にクウダームが祈っていた!
その姿は浮かぶのだが……》
〈ご無理なさいませぬよう。
この鏡にはクウダーム様ご自身でも文字を込めていらっしゃいました。
ご記憶に関する記録らしきものでした。
その中に、ジョーヌに最近の記憶を預けたといった記述が御座いましたが、何か思い出せそうですか?〉
《待て待て……ジョーヌ……ジョーヌ……》
静かに待つ。
《そうだ! 孫だ!
何があって出会ったのかまでは分からぬが孫には間違いないぞ》
〈シルバーン伯父様とコバルディ伯父様の御子のジョーヌですね?〉
《ふ~む……ドラグーナでない事だけは……たぶんな》
【ジョーヌ、今 来る事は?】
【1時間後でしたら。
ケージに布を掛けてもらったら瞬移します】
【ふむ。頼む】
〈1時間後に参りますので――ん?〉
【寝たフリをしたら布を掛けてもらえました♪】
現れてにこにこ♪
【そうか】ふふっ♪
〖皆、この話法を普段使いしているのだな?
で……ジョーヌなのか?〗
【はい♪ そのお声は、お祖父様ですね♪】
〖クウダームの記憶――〗
【必要になりましたか♪
ちゃんと尾に入っていますよ♪】
〖そうか。ありがとう〗
【今、クウダーム様は月にいらっしゃるのだ。
大切に保管していてもらえるか?】
【はい♪ ご覧になりますか?】
【そうか。頼む】〖俺にもな〗
【はい♪
ですが……お祖父様、記憶の蓋が まだ開いていないのですよね?
僕の記憶を先にご覧になりますか?】
〖蓋か……おそらく記憶は抜かれている。
尾も見つかっていないのでな、記憶は無いと言っていい〗
【そうですか……では僕の事も、ですよね?】
〖すまぬな〗
【いえ……僕も長く ただのフェレットでしたので、よく分かります。
僕を月から神世に連れて行ってくださったのは、お祖父様とガイアルフ様なのです。
父様達とは1年程しか暮らしていません。
龍の里と、狐の里を行ったり来たり。
勉強も修行も全て、お祖父様とガイアルフ様から教わりました。
一時期、人神の兵士さんとドラグーナ様の御子達も一緒に暮らしていました。
百年程前、おつかいの帰りに狐の里から龍の里へと僕ひとりで飛んでいた時に倒れているクウダーム様を見つけたのです。
クウダーム様は禍に触れてしまったのか、お話しもできませんでしたので、抱えて龍の里の家に術移しました。
クウダーム様はお祖父様とガイアルフ様のお友達でした。
目的地はお祖父様の家だったようです。
お祖父様とガイアルフ様は、すっかり回復されたクウダーム様と夜通しお話ししていたようでした。
翌朝、お祖父様はクウダーム様と共に隠れると言って里を出たのです。
そこから再会するまでの事は、僕は近衛団に入りましたので知りません。
ですが王都や副都から逃げて来た大勢の獣神の皆様と暮らしていたようです。
再会した時に、クウダーム様のご記憶をお預かりしたのです。
大まかな流れは、こんな感じです。
では、流しますね】
―・―*―・―
サイオンジ公園のソラの木の下では、南北東の街から来た祓い屋頭3人が顔を寄せ合っていた。
〈お師匠様ったら、どこに行ってしまったのかしらねぇ……〉
〈奥様もご存知ないなんてなぁ……〉
〈モグラの道を調べているのでは?
危険だからこそ誰にも何も言わずに行かれたのでは?〉
〈あの魔道なぁ……〉
〈響チャン達、大丈夫かしら……〉
〈ん?〉〈どーしてだぁ?〉
〈だって私の街の北に魑魅魍魎を溜め込んでいたんでしょう?
村は、その北なのだから――〉
〈三人集まってコソコソ何してるの?〉
〈〈〈あ……ヨシさん……〉〉〉
〈来たらマズかったかしら?〉
〈そんな事……お師匠様の居場所をご存知ですか?〉
〈あ~、心配してたのね?
トクちゃんも心配していたから見てみたら龍神様の集まりの中に居たわ♪
だから心配要らないわよ♪〉
慌てた様子のトウゴウジが寿に肩を寄せた。
(言って良かったの? 龍神様だなんて)
(あら、ゴウちゃんたら♪
龍神様は大勢いらっしゃるのでしょ?
先生が伏せたかったのは輝竜さんご兄弟の事でしょ?
だから大丈夫よ♪)
(そう……ね……)
〈ヨシさんは東の街の北に魑魅魍魎を集めてたのもご存知ですよね?〉
コソコソ話している二人にシビレを切らしたナンジョウが割って入った。
〈それは聞いていたわよ♪
シッカリ浄化したそうよ♪〉
〈その更に北は大丈夫なんですか?〉
〈う~ん……それは聞いていないのよねぇ。
それじゃ響ちゃんとソラくんのお邪魔しに行こうかしら♪〉
〈〈〈やっぱり あの二人……〉〉〉頷き合う。
〈若いっていいわよね~♪〉〈ヨシ……〉現れた。
〈あら兄さん、どうかしたの?〉
〈少し……よいか?〉
〈ええ♪ な~に?〉
〈弟子達は各々の街に戻れ〉
〈〈〈はい!〉〉〉睨まれたので消えた。
〈兄さん、それで? ゴウちゃんの事?〉
〈許そうとは思う。のだが……〉
〈どこまでを?
娘になってもいいってだけ?
丈二くんとの結婚もいいの?〉
〈なっ――〉
〈ヒカルちゃんの事も引きずっているわ。
だから、すぐにとは言わないけれど、ゴウちゃんが立ち直るには丈二くんの支えが必要よ。許してあげてね?〉
〈ヒカル?〉
〈そっか。兄さんが知ってるのは~~あ♪
兄さんの前の前の相棒さん!
板地さんの姪っ子ちゃんよ♪〉
〈イタチの!? 光子か!?〉
〈そうそう♪ 改名したのよ♪
で、光ちゃん♪
ゴウちゃんと結婚したのよ♪
祓い屋としては相棒ね♪
戸籍上は夫・剛司で妻・光。
実生活ではゴウちゃんが妻♪
で……夫なヒカルちゃんはゴウちゃんを護ってモグラに……。
そんなだから、まだ引きずっているのよ〉
〈そうか……〉
〈何も知らなかった、とかって怒らないでね。
そんな権利なんて兄さんには無いわよ〉
〈いや……全て任せきりで……すまなかった〉
〈それじゃあゴウちゃんは自由ね♪
女に戻って、丈二くんと結婚してもいいわよねっ♪〉
〈一歩ずつだ。俺が乗り越える時間をくれ〉
〈ま、いいわ。
ゴウちゃんにも時間が必要ですからね。
でも兄さんが乗り越えていなくても二人が踏み出したら、私、止めないわよ〉
〈ふむ……〉
〈兄さんも誰か相手を探したら?♪
義姉さんには見限られたのだから~〉
〈その事は剛司には――〉
〈言わないけどね~、今では離婚なんて軽いものよ? あの頃とは大違い。
だからもう気にしなくていいと思うのよね。
それに、み~んなユーレイなのだから♪
生き人の決め事なんて知~らない♪〉
〈ヨシ……〉
〈そんな睨まないでよね。
私も いい人 探しましょ♪
あ、ゴウちゃんには兄さんから言ってね♪
父娘の今後の為には、それしかないわよ♪〉
〈ま、待てっ!〉
〈待たな~い♪〉既に声だけ。
〈時間をくれっ!〉
〈3日待っても言ってなかったら~、離婚の事――〉
〈言うなっ!! 3日だなっ!!〉
〈頑張ってね~♪〉
頭を抱えるキンギョだった。
―◦―
そして寿は響達の所へ。
〈響ちゃん♪〉
〈ヨシさん……何かあった?〉
〈気になってるでしょう?〉
〈何を?〉
〈私とトクちゃんと先生のコト♪〉
〈それは……まぁね〉
隠れていたソラとショウも出て来させ、昔話をしつつ辺りに不穏な気配があるのかを探る寿だった。
ヨシさんが響達の所に行きましたので、ここからは本編 第10章の裏側に突入します。
フェレットとして登場したジョーヌも龍に戻って巡視していましたし、記憶もすっかり元通りのようです。
ドラグーナの子供達は祖父フィアラグーナが何処で何をしていたのか全く知りません。
ダグラナタンがトリノクスを罠に嵌めた時に基礎修行をしていた子供達だけは、ティングレイスの友神達と共に滝から逃げた後、暫く一緒に暮らしていたようですけど。
キンギョはトウゴウジを勘当した事で奥さんに家出され、離婚に至ったようです。
昔気質なので離婚を恥だと思っていますが、ヨシさんにバラされる前に乗り越えられるのでしょうか?