バステトとフィアラグーナ
響から出た黒猫女神バステトを連れて東の街の結界天頂付近に瞬移したウィスタリアとナスタチウムは、即座に治癒と回復の光で包んだ。
【俺も!】彩桜も加わる。
そこに瑠璃光も加わった。
【青生兄、病院は?】【診察の休憩時間だよ】
ラピスラズリに乗った青生が微笑む。
【ったく~、一緒にって約束してたのに置いてくんだもんなぁ】
オニキスも来た。
〖夕食の仕込みを任されていたではないか〗
ラピスラズリが笑う。
【そ~だけどぉ】
【晩ご飯オニキス師匠のなのっ!?】
【ど~ゆ~意味だよ?】
【だってぇ~】
【野菜切るのしか言われてねぇよ】
【そっか~♪】
【皆様……ありがとうございます……】
【バステト様、ですよね?】
【キャティス様はご一緒では?】
【はい、私はバステトです。
キャティスは引き戻されてしまいました。
繋がりが切れないと……】
【繋がりが……つまり、外側の人魂とは包まれているだけでなく、繋がっているのですね?】
ウィスタリアも犬の魂を連れたまま。
【そのようです。
キャティスは私の欠片を集めてくれました。
そして脱出方法を模索していたのです。
キャティスを包んでいた人魂が寿です。
浄魂を逃れる為にキャティスは寿を連れたまま、予め己が欠片を込めておいた響の内へと移ったのです。
しかしそれは仮。
響とは繋がっていなかったようです。
分離を好機として脱出しようとしましたが繋がりの方が強かったようなのです】
【ではキャティス様の分離は……?】
【私が知る術では無理なのでしょう。
しかし禁忌などと縛られ、廃れた古の術であれば叶うかと……】
【神世でなければ調べられませんね……】
【そうですね。今は……手は無さそうです】
【そうですか……】
【なぁ、こんなトコで話してねぇで社に行かねぇか?】
【しかしまだ下で――終わったようですね】
【ああ。ユーレイも人も帰っちまったよ。
死神達も……大丈夫だろ♪】
もしも聞こえていたなら『大丈夫じゃない!』と一斉に返ってきそうな状態だが。
【では社に参りましょう】一斉に瞬移。
―・―*―・―
〈ゴウちゃん♪ 具現化を鍛えてあげるわ♪
もう此処はいいでしょ?〉
〈ヨシさんは出口を見てたんじゃ?〉
トウゴウジが念の為にと民家の風呂場と庭を確かめていると寿が現れたのだった。
〈兄さんが『一人で考えたい』って睨むから逃げて来たのよぉ〉
〈父さんが? 何を?〉
〈さぁね~♪ 具現化の修行しましょ♪〉
〈他の修行をお願いします。
今は――〉手首を見せる。〈――この具現環の検証中だから……〉
〈具現環?〉
〈具現の力を持っていなくても霊力さえあれば具現化できる道具なの。
お師匠様が龍神様に依頼して、試作品が出来上がったからって〉
〈お稲荷様じゃなく龍神様ねぇ……〉
〈昨日も今日も助けてくださったわ。
あの魔道も龍神様が教えてくださったのよ。
だからキツネ様だけじゃなく龍神様もいらっしゃるのよ〉
〈信じてないワケじゃ――〉
〈嘉藤、トウゴウジ。なぁにしてるだぁよ?〉
〈あ、お師匠様♪〉〈先生……トクちゃんは?〉
〈瞑想してるだぁよ。
で、何を深刻そうに話してるんだぁ?〉
〈お師匠様、具現環を作った龍神様は彩桜クンが乗ってた龍神様ですか?〉
〈……ま、トウゴウジと嘉藤なら話してもええかなぁよ。
皆には内緒で頼むだぁよ。
い~や。その彩桜ってぇ子をを含む輝竜兄弟が偉大なる龍神様だぁよ。
キツネ殿の親友でなぁ、なぁんも悪い事なんざぁしちゃいねぇのに7つに分けられて堕とされたんだとよぉ。
だからキツネ殿が兄弟として集めて育てたんだと。
親は外国で音楽してるからなぁ。
道具作りしてるのは五男坊だ。
嘉藤が使った紙も五男坊が漉いたモンだぁ〉
〈魂墨の吸い込みが良いと思ったのよね。
気持ち良く入るから不思議だったのよ。
力が倍増する感じだし。
龍神様の紙ね……納得だわ〉
《その龍神の名は?》〈〈えっ!?〉〉
〈オイラの龍神様だぁよ。
ず~~~っと眠ってたんだがなぁ。
お目覚めなさったかぁ。
龍神様、キツネ殿から聞いた名は『ドラグーナ』様だったよぉ〉
《ドラグーナが堕とされただと!?
そのキツネとやらはオフォクスか?》
〈そんな名だったなぁよ〉
《会わせろ》
〈呼ばれて来たんだからよぉ、待ってりゃ現れるよぉ〉
【フィアラグーナ様、此方に】
空間が歪み、手が出てサイオンジの腕を掴むと引き込んだ。
〈行っちゃった……〉
〈彩桜クンって……神様だったのね……〉
〈古道具屋さんに行ってみましょ♪〉
〈えっ? ヨシさん!?〉
トウゴウジは寿に引っ張られた。
〈ゴウちゃん、今くらい戻しなさいな♪〉
どうやら隣街への霊道に向かっているらしい。
〈えっ……〉
〈ほらほら~♪〉
〈そ、そう?〉
―・―*―・―
オニキスの提案で山の社に瞬移した彩桜達だったが、オフォクスからモグラの悪気を集めたので浄滅せよと言われて、オニキス、ウィスタリア、ナスタチウムと紅火、彩桜は魑魅魍魎を集めていた地下に来ていた。
【あ♪ お稲荷様とサイオンジさ~ん♪】
【皆、此方に――】言い終わる前に集まった。
〖ドラグーナ……何故……〗
【ん? ドラグーナ様~起きて~♪】
目覚めそうにもないので紅火と手を繋ぎ、
【せ~のっ♪ 起・き・て~~っ!】
【お目覚めください、ドラグーナ様】
内へと力を集中させた。
〖……ん?〗〖ああ、紅火と彩桜〗
【起きた~♪】
〖〖どうしたの?〗〗
〖それは俺が言いたい。
何故お前は堕神なんぞに?〗
〖あ……〗〖父様……〗【【【お祖父様!?】】】
〖〖父様こそ何故 欠片に?〗〗
〖……記憶が無い。今は尾も無いのでな。ただ……
『時空の彼方に飛ばされてしまえ!』
『お祖父様に何するのっ!!』と聞こえ、
『オジサン嫌いだから させないよ~♪』と聞こえたとだけは覚えている〗
〖つまり、誰かに時空の彼方に飛ばされて〗
〖俺の子の誰かに引き戻されたんですね?〗
〖そうなのだろうな。
落ち着いた先がサイの中だったらしい。
で、お前は?〗
〖そもそも父様も欠片だという事は〗
〖一度は堕神にされているんですよね?〗
〖なら、獣神は捕まれば堕神にされると〗
〖ご存知ですよね?〗
〖そうか……ふむ。記憶が無いのでな。
何がどうなって、そんな世になってしまったのか話してくれるか?
サイにも聞かせたいのでな〗
〖〖オフォクス、お願いね……〗〗
〖おいコラ! ドラグーナ!!〗
【眠ったようです。
長くは保てないのですよ】
―・―*―・―
青生と藤慈は薬草に詳しいバステトから話を聞いていた。
【この草は犬には良薬、猫には毒、人には益も害も無いわ。
そんなふうに野草はとても複雑なの。
全て覚えるのは無理と言うものよ?】
【ですが動物達にとっての薬は、まだまだ研究途上なのです。
動物の中には神様もいらっしゃいますので、より良い薬を作りたいのです。
通いますのでお教えください】
【その目、その熱意……叶えましょう。
私が纏めた薬草書よ】
手に現れた大きくて分厚い本を差し出した。
【ありがとうございます!】
【それを教科書としますね。
続きは沢山あるのだけれど――】
【はい! 頑張ります!
今日は休みを取ったと言いましたが……実は退職したのです。
ですので毎日 通わせて頂きます!】
【藤慈、退職って……】
【青生兄様の病院で働かせてください】
【それは嬉しいけど……。
研究所みたいな給料は無理だよ?】
【給料の問題ではないのです。
私の夢なのです】
【ああそうか。
リリスさんと働きたいんだね?】
【ではなく! いえ、それもですが……。
青生兄様は私の憧れで目標なのです】
【俺なんかが? まぁそれは置いておいて、動物達に優しくて、良い薬が得られるのは とても嬉しいよ。
リリスさんが来月からだから、藤慈も一緒にお願いね】
【はい♪】
【その話は後にして、バステト様の貴重なお話を伺おうよ】
【そうですね♪】
【ドラグーナ様は、とても良い方々に包まれているのですね】
バステトがにこにこ見ていた。
【あっ……】頬染まる。
【ありがとうございます】にこっ♪
この章は本編 第9章と第10章の章間から第10章の裏側までです。
風呂場の魔道の件の後は、夜に寿が響達に昔話をしていました(本編 第10章)が、その前、まだ昼間のお話から始まります。
前回、寿からバステトが出、今回はサイオンジの魂内の神、ドラグーナの父フィアラグーナが目覚めました。
どうやらドラグーナよりもシルバーン・コバルディの方が父親似みたいですね。
東の街に仕掛けていたキメラ魂の貯蔵庫と魔道が見つかってしまったモグラは、次を仕掛ける為に東の街を去りました。
モグラの動きは人世に居る神達にも見えない為に追えませんので、何かしているらしいと不気味さを漂わせているだけです。
お話は、その他の動きを追っていきます。