魑魅魍魎の正体
モグラが穿った禍々しい道から何かが現れたならば即対応しようと身構えたまま、ウィスタリア達が下を見詰めていると――
【ほらよっ】【紅火兄まだ居た~♪】ぱふっ♪
――オニキスが彩桜をポイッと投げて消えた。
受け止めた紅火が顔をしかめる。【店番は?】
【若菜姉ちゃんが『もし そう言ったら寝てない紅火こそ帰りなさいって伝えてね』だって~♪】声真似~♪
【む……】
【あ♪ トウゴウジさんだ♪
あれれ? トウゴウジさんが2人?】
【少し違いませんか? 親子なのでは?】
【オフォクス様――】
【藤慈兄おはよ~♪】
【祓い屋が戻ったか?】
【あ、はい。おはようございます】
【はい。お二人ですが】
【そっか~♪
トウゴウジさんの父ちゃんなんだ~♪
そっくり~♪】 【確かめた。では放つ】
ナスタチウムが笑いだした。
【彩桜、他の方から見れば、私達の方が区別がつかないのですよ?】
【そっか~♪ あ! 変なの出たよ!】
【猫? ……何の動物なのでしょう?】
【なんだろねぇ……】
【モグラが魂を混ぜているようなのです】
【ウィスタリア様、魂を混ぜるとは?】
【藤慈達の内には私達の父様が居ります。
これも混ぜているという状態なのです。
それよりも乱暴に、無作為に分割して他魂に込めているのですよ】
【どぉして?】【目的は?】
【混ぜられているのは神の欠片を持つ者達。
獣だけではなく人の魂も混ぜられています。
敵神は欠片が神に戻る前に滅してしまおうと企んでいるのです。
神の魂を混ぜると力の反発が起こり、不安定となります。
悪くすれば力を打ち消し合った挙げ句、欠片自体の消滅も起こり得るのです。
欠片とは言え神の魂です。
人世の生物魂で包むのも無理があります。
その不安定さから外側の人世生物魂が怨霊化し易くなるのです。
怨霊化した魂は神世の浄化域で浄魂するより他に術がないのです】
【神様に戻れなくなっちゃうの?】
【後の処置次第です。
ですので職域に仲間が潜入しているのです】
【そっか~♪
じゃあ死神さんに渡していいんだね♪】
【そうですね……欠片持ちの皆さんが魑魅魍魎のままでは可哀想ですよね】
【トウゴウジさん達に飛ばされたの、上げちゃう~♪】ぽ~ん♪
【では私も】【ふむ】藤慈と紅火も弾く。
こうしてトウゴウジとその父が道の穴から出た魑魅魍魎達を投げ飛ばし、彩桜達が更に弾き上げて、次々と結界から出していった。
死司神達は予定外の大収穫に驚きつつも、これで今日は怒られずに済むぞと大喜びで連れて昇った。
【あれれ? 塞いじゃったよ?】下を指す。
【応援を呼ぶのかもしれませんね】
【トウゴウジさん、離れちゃったもんねぇ】
【そうですね】
暫し待つ。
【あ♪ 響お姉ちゃん♪
お家に入ってっちゃったね~】
【とうとう友達ができたのですね?】
【ん~とぉ、お得意様♪
御札使いの祓い屋さん♪
バンドでギターもしてるの♪
でねっ、ユーレイ探偵団なの~♪】
【ユーレイ専門の探偵なのですか?
では、このお宅の方にも先程の魑魅魍魎が見えていたのですね……】
【あ、そっか~。
お風呂入れないから依頼したんだね♪
あ♪ サイオンジさん達もお風呂場に来てた~♪】
【ソラとショウも、だろ】紅火が睨んでいる。
【そぉだけどぉ】
【む? 霊眼鏡を売ったのか?】
【売っちゃダメだった? 値札ついてたよ?】
【構わないが……どれを売った?】
【二千円の~。
他の、二万円と二十万円だったから~】
【俺が最初に作った物だ】
【いつ作ったの?】
【小2……】
【だから二千円?
二万円のは? 5つあったよ?】
【中2……】
【その間は? 作らなかったの?】
【作っていたが……そうか。
磨き直していた間に売ったのだな】
【アレ、磨いてなかったの?】
【いや。終えた物を戸棚に戻していた】
【磨いたトコトコだったんだね♪
良かった~♪
二十万円のは?】
【お稲荷様の手本だ。
その値にしておけば売れるなんぞ有り得ぬだろうと……】
【そっか~♪
最初のでも使えるんでしょ?】
【使える……筈だ】
【紅火兄でも自信ないとかってあるの?】
【俺を何だと思っている?】
【だって~、紅火兄だも~ん♪】
【だから――】【何か始まりましたよ】
【あ、トクさん……呪われてたの?
もしかして昨日ので!?】
【違うのだろう。
湖の男性は静かに昇った】
【ふぅん。じゃあ何してるんだろ?
ウィスタリア師匠、何の術?】
【解呪の一種ですが、どちらかと言えば解錠ですね。
響殿の内にいらっしゃるのは、白銀光を纏う黒猫の女神様。
欠片ですが、かなり強い力をお持ちですので、大神バステト様でしょうか?】
【灰猫の女神様も見えるわよ?】
【……見えました。
纏う黄金光に見覚えがありませんか?】
【黄金光の灰猫女神様ね……あっ!
何度かマリュース様を訪ねていらしたわ!
ええっと~奥様の妹神様の~】
【キャティス様ですか?】
【そうそう! キャティス様よ!
気づいてるなら早く言ってよねっ】
【いえ、以前バステート様から妹神様とお話しなさったと仰っていたのです。
ナスタチウムが妹神様だと言うので言ってみただけなのですよ】
【それじゃあもうバステート様とキャティス様はお話ししたのね♪
良かったぁ】
【響殿にはユーレイの女性が重なっておりますね……】
【あ……そうみたいね】
【そっか~♪
ヨシさん、重なってるんだ♪
見えないと思った~♪】
【【ヨシさん?】】
【トウゴウジさんと響お姉ちゃんのお師匠様なんだって~♪
昨日、トウゴウジさんと話してたんだけど聞いてなかった?】
【飛ぶのに集中していたので……】【私も~】
【ふぅん。
で、響お姉ちゃんとヨシさんの神様が黒猫様と灰猫様なんだね♪
どっちがどっちとなんだか わかんないけど~】
【そうですね。
私にも組み合わせは分かりません】
【響お姉ちゃん、どっちもの神様の力 使えるの?】
【使えるのではないでしょうか】
【いいな~あっ! 鎖!】
【弾けましたね】【ふむ】
【やはり解錠でしたね】
【トクさんにも神様いるの?
ちょっとだけ そんな気してたんだ~】
オニキス師匠が居るって言ってたけど~。
【入っているのは確かですが……】
【隠れているのかしら? 見えないわね】
【かくれんぼ得意な獣神様?】
【小動物神様は皆様 得意ですよ】ふふっ♪
【そっか~♪
きっとカワイイ動物さんなんだねっ♪
あれれ? サイオンジさんとトクさん残して み~んなお庭に出たねぇ】
【ご夫婦で話したい事もあるのでしょう】
【庭の方は魔道の断面を確かめているな】
【ほえ? 魔道?】
【そう聞こえた】下を指す。
【魑魅魍魎が通る道なのですから、そう呼ぶのが妥当でしょうね】
【モグラさんの道……モグラさん、早く元に戻してあげなきゃ】
ウィスタリアとナスタチウムが強く頷いた。
【トウゴウジさん……腕輪してる?】
自分の具現環と見比べる。
【ふむ。最初に渡した試作だな。
問題点を探してくれているのだろう】
【ユーレイさんに物?】
【霊体のみを渡している】
【じゃあソラもショウも使えるねっ♪
物なのに、どぉするんだろ? って思ってた~♪】
【サイオンジ殿からの依頼なのだぞ?】
【だよねぇ】にゃは♪
【あれれ?
カケルお兄さん、具現化してる?
じゃあショウもできるの?】
【はい。カケルとショウは同じ神様を内包しております。
そのトリノクス様は具現の神。
ですので持っておりますよ】
ウィスタリアが答えた。
【飛翔さんは?】
【重なっておりますので使えると思いますよ。
内の神はアーマル。私達の弟です】
【そっか~♪
トリノクス様はショウの中で、アーマル様は飛翔さんの中だったんだ♪】
【知っていたのですか?】
【うん♪
ショウの中、いっぱい入ってるな~♪
って思ってたの♪】
〈あのぉ龍神様……〉【ふえっ!?】
ウィスタリアとナスタチウムが見上げて微笑み、結界端へと上昇した。
〈如何なさいましたか?〉
〈もう終わったのでしょうか?〉こそっと。
〈いえ、まだまだこれからですよ。
出し易くするのでしょう〉
〈そうですか♪ では待ちます♪〉
若い死司神は嬉しそうな笑顔を向けたまま、仲間が待っている所へと上昇した。
【祓い屋ユーレイさんと死神さん、これからず~っと こんなふうに協力したらいいのにねぇ】
【そうね♪】【そうですね……】
魑魅魍魎の正体は、人魂と獣魂と獣神の欠片を無茶苦茶に混ぜたものでした。
神魂の大きな塊が込められている堕神なら、内の神が(眠っていても)怨霊化を阻止しますが、小さな欠片では阻止できる程の神力はありません。
支配されたモグラは、それを利用して一触即発で怨霊化する魂(=魑魅魍魎)を作っていたんです。
モグラ自身は怨霊化させられる際にマリュースを抜かれていて、現状は その後に喰って取り込んだ欠片のみとなっていますので、考えついたのでしょうね。
紅火が初めて作った霊眼鏡がプチ活躍し、トクさんの封印を解きましたので、これから魔道端を街の結界の外へと繋ぎます。