魔道発見
【ラピスラズリ、無事ですか?】
トウゴウジから離れて上空で待機しようと昇ったウィスタリアが、降りて来ている瑠璃龍神に寄った。
〖大事無い。奴は神世に戻った〗
【そう……マディアも、なのですね……】
〖マディアは元気だ。真っ直ぐにな〗
【そうですか。良かった……】
龍神兄弟の邪魔にならないよう軽く話を聞きつつ青生と紅火も話していた。
【――うん。もう戻って来ないと思うよ】
【青生、何故 俺を呼ばなかった?】
【あの状況で呼べると思う?
だから今、ドラグーナ様は深く眠っているよ】
【ふむ……確かに彩桜だけを残すなんぞ出来ぬ状況だったな】
【だよね? だから今度は一緒に支えてね?】
【青生は……眠らず支えていたのか?】
【眠ってしまったよ。
でも支えていたらしいんだ】
【そうか。
湖で起こる事を予見していたのか?】
【有り得ないよ。
ほぼ毎日、近くに怨霊が出ているからね、それを利用しようと考えていただけなんだ。
ドラグーナ様とラピスラズリ様がマディア様に会いたいと仰ってね。
紅火は? 出て来るなんて珍しいよね?】
【ドラグーナ様が彩桜を護れと仰った】
【やっぱりドラグーナ様なんだね】にこっ。
【彩桜を心配して――む?】
青生に笑みを返した紅火が麓の街に目を向けた。
青生も同時に振り向いていた。
【何か……良くない何かが膨らんだよね?】
【確かめるか?】
【確かめたいね。
ラピスラズリ様、お願い致します】〖ふむ〗
【紅火、私達も】【お願い致します】瞬移。
――東の街、上空。
皆、一斉に神眼で探った。
【動いているとしか分かりませんね……】
【そうね。留まってはいないけれど……】
【ラピスラズリは?】
〖掴めぬ。
モグラという名だったか? 奴の気に間違いないが、その名の通り穴でも掘りながら進んでいるのではないか?〗
【穴、ですか……】
【ユーレイ達は『霊道』というのを通るわ。
地中とは限らず、似たような道を掘っているんじゃないかしら?】
【空間に穴……それでしたら――】【龍神様!】
青生が一点を指していた。
最も動きの速いウィスタリアが空かさず瞬移し、何かに向かって牙を剥いて低く唸っている犬達の前に出た。
【堅固!】紅火が防壁を成した。
黒い輪郭しか見えなかったが、モグラらしき霊が闇に溶けるように消えた。
【無事ですか!?】
【はい】【【ありがとうございます】】
巡視していた堕神犬達が安堵の表情を浮かべた。
【何があったのです?】
【その塀に真っ暗な穴が開いて、人型の霊が出て来たのです】
【奴は人魂を連れていました。
人魂に意識は無く、神力紐で縛られていて、紐は穴へと続いていました】
【何か言っていませんでしたか?】
【『混ぜるのに丁度良い』と……】
【混ぜる?】
【他の言葉かもしれませんが、そう聞こえたのです】
【そうですか。
私達が交替しますので、この事を急ぎオフォクス様に伝えて頂けますか?】
【【【はい!】】】
去って行く堕神犬達を見送っていると――
〈あら、もしかして彩桜クンの龍神様?〉
――すぐ近くから声が聞こえた。
〈えっ? ――ああ、先程の。
トウゴウジ殿でしたか?〉
〈あら、嬉しいわ♪
龍神様に覚えていただけるなんて♪
それで……龍神様も不穏な気を感じて?〉
〈はい。
トウゴウジ殿でしたら見えるのでしょうか?
霊道に似たものがありませんか?〉
塀を指した。
〈確かに……禍々しさタップリな道ね……〉
〈見えるのですね。良かった。
何やら妨害されているようで探れなかったのです〉
〈強い力だと探れないのかしら?
あら、確かに強めると霞んでしまうわ〉
〈やはり……〉
〈では仲間を呼んで、この辺りを調べますわ♪
とりあえず、この向こうは――〉
塀に首を突っ込んだ。
〈――すぐに民家で、お風呂場ね。
道は斜めに通り抜けて庭へ。
その先は見えなくなっているのね……〉
〈見えなく?〉
〈ええ。
ですが少しずつ具現化すれば辿れますのでお任せください♪〉
〈では、お願い致します。
私達は上空で待機しておりますので、いつでもお呼びください。
モグラも近くに居ります。
お気をつけください〉
〈はい♪ お気遣い ありがとうございます♪〉
―・―*―・―
モグラの気配が掴めないまま夜明けが近くなり、青生とラピスラズリは彩桜を連れて帰った。
【お♪ 居た居た。
今度は何してるんですか?】
藤慈を乗せたオニキスが近くに現れ、飛んで寄った。
【モグラが禍々しい霊道を穿っているのです。
今、この街の祓い屋ユーレイの皆さんが調べてくださっているのですよ】
【モグラが……】
【早く支配を解かなければなりません。
その為には捕らえなければならないのです。
気を落としている場合ではありませんよ】
【そっか……ですよね!】
【それで……オニキスは此方に居てよろしいのですか? 藤慈もですが】
【黒瑯んトコに戻りますけど~】
【私は休みを取りました♪】
【では藤慈は此方に。
オニキスは仕込みに戻ってくださいね】
【は~い。午後は来ますのでっ】
藤慈がナスタチウムの背に移ると敬礼して消えた。
今日も暑くなるぞと宣言しているかのような朝陽が顔を出した。
【ウィスタリア様】
下に堕神犬達が戻って来ていた。
【オフォクス様からの伝言ですか?】
【はい。
あの後、探ってくださいまして、この街の北端の地下に獣霊を集めているのを見つけたそうなのです】
【『混ぜる』というのは、おそらく神や神の欠片を持つ人魂に獣魂を混ぜて更に不安定にし、怨霊化し易くしているのだろうと仰っていました】
【サイ様に連絡し、獣混霊達を成仏させるべく結界外に放ちたいとの事ですので、モグラの道を断って出口を作ってくださいますか?】
【解りました】
【では私達はサイ様に連絡しますので】
ぺこりとして走り去った。
【道が見えれば容易いのですが……】
【ウィスタリア様には見えないのですか?】
【ええ。藤慈には見えているのですか?】
【はい♪】
【そうですか♪】
【藤慈、これを】腕輪を渡した。
【紅火兄様、これは?】
【具現環だ。道を断つ道具を思い浮かべろ】
【はい♪】手に大きな斧が現れた。
【では破邪を込めますね】
ウィスタリアが破邪炎で包む。
【祓い屋ユーレイさん達、休憩かしら?】
ナスタチウムが指す方を見ると、ユーレイ達は2、3人ずつで何かを探っているらしく、掌をあちこちに向けながら離れて行った。
【この道を辿っているのですよ。
あんなにも分岐しているのですね。
ですが丁度良いですね♪
藤慈、お願いしますね】
【はい♪】
ナスタチウムが民家の庭に降り、藤慈が具現化斧を振るってモグラの道を断った。
【トウゴウジ殿が此方に向かっております】
紅火が一点を指す。
大慌てで急上昇!
【トウゴウジ殿って……彩桜のお友達ですね♪】
【らしい】
庭に現れた。
【彩桜は『お姉さん』と言っていましたが……】
【中身は女性だ】
【そうですか。戦う為の姿なのですね♪
ですが……覗き込んでいますが大丈夫なのでしょうか?】
〈龍神様~、入って調べているのですか~?〉
〈あっ、はい!
逃げたモノを追跡しています!〉
ウィスタリア慌てて理由を作った。
〈お気をつけくださいませね~〉
〈はい、ありがとうございます!〉
トウゴウジはモグラの道から離れて、別の霊道に入って行った。
【何処にいくのかしらね?】
【サイ様の所ではありませんか?】
【きっとそうね♪】
【祓い屋は離れておるのか?】
【あっ、オフォクス様っ】
【慌てずともよい。
既に混ぜられておる者達は浄化域にて分離し、保護してもらわねばならぬ。
故に選別して放つが……此処からは見辛い。
対応出来る者が戻ったならば連絡してくれ】
【はい!】
湖の件が落着し、響がぐっすり眠っていた頃、東の街では――な、お話でした。
ユーレイ探偵団は朝からの活動になりますが、輝竜兄弟とドラグーナの子供達、それとオフォクスは夜通し動いていたんです。
この章では、お風呂場の魔道の件の裏側で頑張るキンギョ・トウゴウジ父娘、輝竜兄弟とドラグーナの子供達、職神達の動きを描きます。
m(_ _)m