上空に集まる者達
数日後の朝――
【オニキス師匠! ウィスタリア師匠!
どっちか乗せてっ! 早く!】
【どーした彩桜?
オレは黒瑯と一緒だからムリだぞ?】
【そっかぁ。
ソラとショウ、成荘ダム行っちゃったのぉ。
ダム湖でユーレイ泣いてたのぉ。危険なのぉ】
【泣いてるユーレイかぁ】
【でしたら私達と行きましょう】
【あ♪ ウィス兄様、行けるのか?】
【はい。ちょうど巡視が終わりましたので】
【そんじゃ、お願いします♪】
ウィスタリアとナスタチウムが輝竜家の庭に行くと、ぴょんぴょんしていた彩桜が勢いをつけて跳び、ナスタチウムの背に乗った。
【ウィスタリア師匠♪ ナスタチウム師匠♪
ハムちゃん師匠♪ おはようございます♪】
【おはようございます、彩桜】
【は……はい……】【おはよう♪】ふふっ♪
父を感じる彩桜の掌は随分と慣れたので、カンパニュラは親指に凭れるように座って瞑想を続けた。
【この前のダム湖ね?】【うんっ】
瞬移しようと――【俺も……お願い致します】
【紅火兄も!?】【邪魔か?】【じゃなくて!】
【乗ってください】ウィスタリアが降りた。
【ありがとうございます】スッと跳ぶ。
そして成荘村のダム湖上空へ。
【輝天包囲】ウィスタリアが皆を包んだ。
【響お姉ちゃん見~つけた♪ 車も~♪】
【ショウ達は車の中ですね】
【結界を補強しているみたいね。
私達もお手伝いしない?】
【そうしましょう】
結界に近付こうと降下した。
結界の天頂付近には死司神が見えたので、念の為、距離を取って南端の方に降りた。
【堅固】【破邪♪】【【破邪包囲】】
皆で結界に触れて力を込める。
結界の要となる四隅を確かめようとしているらしい響が走って来た。
【あれれ? 響お姉ちゃん、結界の端っこで首傾げてる? ど~して?】
【強過ぎたのでしょうか……?】
【でも笑って次に行ったわね】【そうですね】
少し上昇した。
【彩桜くん、今ならソラくんとショウだけよ。
行かない?】
【えっとね~】【行け】【紅火兄てばぁ】
【彩桜と話せばソラは思い出すのではないか?
ぐずぐずせずに行け】
【その為に来たのぉ?】ぶぅぅ~。
【その為ではない。試す為だ】
【何を? また道具?】
【具現環】彩桜へと投げた。
片手で受け取る。【この大きさって、腕輪?】
【そうだ】右手を見せた。【具現化】大剣。
【そっか♪ 作ってた輪っかだ~♪】嵌める♪
【破邪の剣♪】具現化♪【でっきた~♪】
【ソラくん達、外に出たわよ】
【聞き込みなのでしょうか?】
【探偵団だから~♪】【手伝いに行け】
【もぉまたぁ~】【渋る理由が解せぬ】
【コレ、祓い屋ユーレイさん達の為に作ってるんでしょ?
完成したら俺からソラに渡すからぁ】
【ふむ。ならば早急に完成させる】
【紅火兄てば目がメラメラ~】
【む……フン】コツン。
【剣で叩いたぁ~】【彩桜?】【青生兄だ~♪】
【うん。声が聞こえたから】
現れた青生は瑠璃鱗の龍神に乗っていた。
【病院は?】
【別件で午後は休診にしていたんだ。
予約来院が早く終わったから上昇したら彩桜の声が聞こえたんだよ】
【【別件?】】
【うん。紅火にも協力してもらおうかな?】
【ふむ】【俺は?】
【ソラ君とショウの護衛なんだよね?
だから場合に依っては、かな?】
【瑠璃姉は?】
【ラピスラズリ様の中だよ】【何か用か?】
【やっぱり瑠璃姉は起きてられるんだね♪】
【それを確かめたかったの?】【うんっ♪】
【もっと修行すれば眠らず、共に居られるようになる】
【ん♪ 頑張る~♪
ラピスラズリ様は? 静かだよねぇ】
【ウィスタリア様とお話し中だ】
【そっか~♪】
―◦―
夕方までは何事も起こらないまま、ユーレイ探偵団の動向を追いつつ、各々の兄弟が話しているうちに過ぎた。
【あっ、見えたよ!】
夕陽に煌めく湖面に俯いた男が佇んでいる。
【昼間は湖底の家に居るんだね】
【病床で何かを――否、誰かを待っていた】
【うん。そういう生活だったんだろうね。
夜は寂しさに耐えきれなくなって、探す為に浮上するのかな?】
【しかし真上にしか動けず、水面から足は離れず、か……】
【だから悲しくて泣いているんだね】
【ふむ……】
【青生兄 紅火兄、助けてあげられないの?】
【ユーレイ探偵団が助けるんじゃないかな?】
【彩桜は手伝いに行け】
【またぁ。紅火兄てばソレばっかり~】
【彩桜がぐずぐずするからだ。
む? 青生の目的も来たようだな】
【そうだね。離れるよ】
ラピスラズリはウィスタリアに頷くと上昇した。
【あ……みんな来た……】
【彩桜、助けねばならぬ時は躊躇わず行け】
【うん。そうだよね――ってトクさん!?】
【む? よくパイプオルガンを聴きにいらしている ご婦人か? しかし……】
【写真 見たから知ってる。若くなったんだ】
【ま、ユーレイならば有り得る】
【あれれ? サイオンジさんと仲良しさん?】
【ご夫婦であったのか……】
【紅火兄もサイオンジさん知ってる?】
【具現環の依頼主だ】【ほえ~♪】
【弟子達の為に、と】【ふぅん♪】
【お稲荷様からの紹介なのだろう】
【そっか~♪ お友達だもんね♪】
【ショウも絡んでいるようだな】湖を指す。
【飛翔さんが連れて戻ったねぇ】【ふむ】
【あれは……最後の欠片が動きましたね】
ふわりと小さな白狐が現れた。
【狐儀師匠~♪】【狐儀殿、何か?】
【弟から騒ぎが起こるだろうと。
紅火様と彩桜様は?】
【ユーレイ探偵団 見てるの~♪】
【ソラ……サイ様も……そうですか】
【それで『最後の欠片』とは?】
【ショウと力丸の魂には多くの他魂の欠片が混ざり込んでいたのです。
神の欠片も、人の想いの欠片も。
その欠片達が魂の濁りとなり、修行を阻害しますので、飛翔の協力を得て想いを遂げさせ、昇華させていたのですが、ショウの内の最も大きな欠片だけは固く口を閉ざしていたのです】
【瑠璃姉と父ちゃんも協力してたんだよね♪】
【はい。お願いしておりました】
【ふむ。それで騒ぎとは?
湖に集まっているユーレイ達を死神が狙っているのと関わりが?】
【おそらく……そうなのでしょう】
【あ♪ トウゴウジさんだ~♪】
すぐ下――結界の内に来ており、弟子達が集まると指示をし始めた。
結界の外では、三日月鎌を大きくして柄までもを伸ばして構えた死司神達が、じわりじわりと近寄っていた。
【対岸に行かせてはなりませんね。
勿論、下の方々も護らねばなりません】
【あの鎌って、結界に入っちゃう?】
【決死の覚悟ならば……入るでしょう】
【ソラとショウ護らなきゃ!】
―・―*―・―
一方、ラピスリも『目的』に向かって、じわりじわりと距離を詰めていた。
『目的』ことマディアは気付いていたが、ザブダクルに伝わらないよう心を閉ざして湖を見詰めていた。
〈最高司様、結界が強化されておりますが如何致しましょう?〉
〈ルロザムールは普段、如何に?〉
〈結界から出た魂のみを確実に捕らえているのではないでしょうか〉
〈ふむ。モグラは近くに居らぬのか?〉
〈……見えませんが、捜しましょうか?〉
すぐ近くの街に居るけどね~。
〈構わぬ。儂から離れるな〉〈はい〉
死司の証を捨てさせれば入れるが……
神力射を調整――いや、厄介極まりない。
捨てさせれば捨てさせたで後が面倒か。
堕神が集まっておると言うに……。
〈命が危ぶまれる近さになっておりますが、出た魂のみを確実にと御指示なさいますか?〉
〈皆が鎌を大きくしておるのは?〉
〈短時間で少しでしたら入れられますので〉
〈ふむ。ならば鎌で捕らえよと指示せよ〉
〈はい。
死司の皆様に最高司様よりの御指示です!
結界には直接 触れぬよう、死司杖にて死魂を捕らえてください!
くれぐれも無理はなさいませぬよう!
しかし確実に捕らえるのです!〉
結界近くの死司神達に緊張が走るのが伝わった。
鬼のルロザムールでも十二分に怖いのに、エーデラークに乗ったナターダグラルが睨んでいると、ようやく気付いたのだ。
無理をしない訳にはいかない。
そう覚悟してギリギリまで降りる死司神達だった。
ユーレイ探偵団 本編では、奏&響のデビューライブの翌日、ライブハウスの店長から依頼を受けた響がユーレイ探偵団を連れて成荘村に行ったお話でした。
村に着くと響はショウとソラを車に残して結界を補強しに行き、それが終わるとショウとソラに聞き込みを頼んで宮司の家へ。
そして夕方、ダム湖に祓い屋ユーレイ達も集まって――という辺りですね。
この日ルロザムールは休みで、最高司直々に死司神達の働きを見に来てしまいました。
もちろんラピスリが仕組んでの事なんですけどね。