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翔³(ショウソラカケル)ユーレイ探偵団外伝  作者: みや凜
第二部 第3章 利幸の件の裏側で
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封珠の中、賽子の中



 廃教会から稲荷山と奥ノ山の中間に新たに建てた(やしろ)へと瞬移したリグーリは、宵闇にひっそりと並ぶ社の東端にルロザムールを案内した。


〈中央の社は神らしく戻れた堕神達が住んでいます。

 日常の指導をお願いしておりますので。

 それより西(向こう)側は修行中の堕神の社です。


 (こちら)側は、昨年ウンディの家にランマーヤへの宣告をする為に襲来した際に捕らえられていた死司神や、先日ドラグーナ様に気絶させられて運ばれた死司神のうち中位上級以上が修行の為に住んでおります〉

入る前にと指しながら説明した。


〈私が引き戻される原因となった あの時に……。

 あっ、ドラグーナ様はご復活なされたのですか?〉


〈まだ途上ですが、御力は流石ドラグーナ様と思える程に〉


「ルロザムール様!」

高位・中位死司神だった面々が集まって来た。

「支配が解けたのですね?」


「はい。皆様も、なのですね?」


「ええ。この通り反撃すべく修行に励んでおりますよ」

「記憶を見て暫くは悔しくて涙するばかりでしたがね」


「私も消えてしまいたい思いでしたよ」


苦笑しつつ肩を竦めた後、決意の眼差しで頷き合った。


「ルロザムール様も此方で修行を?」


「いえ、敵神の懐に居りますので」


「敵神は、やはり……」


「はい、ナターダグラルです。

 ですが以前とは別神(べつじん)です。

 どうやら以前のナターダグラルの身体を奪ったようです」


「そのような事が可能なのですか!?」

「ナターダグラル自身は滅されたのですか!?」


「敵は、とても強い古の人神なのです。

 今の人神では知らぬ術を使いますので、非常に危険な悪神です。

 今のところはエーデラーク様が鎮めておられるようですが、いつ暴れだすか知れたものではありません。


 私は月で修行していたのですが、唐突に神世に引き戻されてしまいました。

 これも知らぬ術です。

 以前のナターダグラルの魂は悪神が持つ封珠に封じられているようです。

 その封珠にはエーデラーク様の奥様と王妃様も封じられているようです」


リグーリも含めて口々に驚きの声と、一緒で無事なのかという声が上がる。

が、この中では最高位の男神が それを制して尋ねた。


「では王とエーデラーク様は悪神の言いなりなのではありませんか?」


「最悪……そうなるかも知れません。

 ですので私は留まっているのです。

 エーデラーク様には何度もお救い頂いておりますので」


「では私も上に!」「私も!」「同じく!」


「いえ……皆様は悪神には知られておりません。

 このまま知られず、修行を続けてください。

 力ある人神は少ないのが現状です。

 どうか備えていてください」


「そうですか……」「ですが確かに」「ふむ」


人神達が それもそうだと頷いた時、入口近くに人姿のフェネギが瞬移して来た。

フェネギの背に隠れるように俯いた梅華(メイファ)も。


「おや、人神様ばかりの社に珍しいですね」

リグーリが微笑む。


「此方の方々は味方です。

 そのくらいは私でも――」「ピュアリラ様!」


人神達が梅華を見つけて、その前に(ひざまず)いた。


「いえ、私は……」フェネギの背に(すが)る。


「私の妻はピュアリラ様の妹です」ムッ。


「これは失礼致しました!」一斉に退く。


「リグーリ、話があります」


「ああ、それで。

 ではルロザムール様、皆様とお話しなさっていてください」


「それでリグーリは いつまでその姿なのです?」


「ま、いいか」爺様を解いて狐に。


「えっ!?」「知らなかったのですね?」


「ですから『ま、いいか』なのですよ、兄様」


「そうですか」「御兄弟っ!?」


「ルロザムール様、私も獣神なのですから姿を変えるのは容易いのですよ」

中にどうぞと示した後、笑って兄夫婦と共に社を離れた。



 人神達が ぞろぞろと入った時、中にラピスリが現れた。


「今度こそピュアリラ様っ」祈りの姿勢に。


【リグーリ! 中にと呼んでおいて外か!

 何事だっ!】


【兄に呼ばれただけだ。

 丁度いい、ルロザムール様に獣神秘話法を教えてもらえるか?】


【ふむ。貰った死司装束分として働こう】


【頼む♪】


「ルロザムール様に獣神秘話法をと、リグーリよりの依頼を受けました。

 皆様は修行にお戻りください」にっこり。


「はい!」嬉々として戻って行った。



「なんと申しますか……凄いですね。

 ですが解ります。

 私も信奉させて頂きます」


「おやめください。若輩者に そのような」


「神力は遥か彼方に上です。

 歳なんぞ関係ございませんよ」拝む。


「獣神秘話法を――」


「ああ、そうでした。

 どうかお願い致します、ラピスリ様」


「私の名……ハーリィからですか?」


「ハーリィが補ってくれた記憶からです」


「そうですか。では方法を流した後、獣神の欠片を震わせて誘導します」

手を取り、光で伝えた。

「誘導、始めます」



―・―*―・―



 社の人神達が懸念していた封珠の中では、封じられている3神が脱出すべく神力を高めようと修行していた。


〈駄目だわ。

 どうしても吸い取られてしまうわね〉


〈そうですね。

 ですが少しずつ高まっているのは感じます〉


エーデリリィとユーチャリスが目を開け、休憩にしましょうと頷き合った。


〈そうね。ダグラナタンは? ――って、また泣いているの?〉


神眼を強めても見えないが確かに在る障壁の向こうで項垂れているダグラナタンが ゆっくりと顔を上げた。


〈高めても高めても全て奪われてしまうのです〉


〈身体が無いのが原因なのかしら?〉


〈敵神も人神ですし、人神の神力の方が必要なのかもしれませんよ?〉


〈そうなのかもね……あ、もしかしたら私達のように封珠にではなく、身体に吸い取られているのかも〉


〈その可能性もありますね……〉

白龍達、考え込む。


〈あの……私の事は捨て置きください〉


〈そうはいかないわよ。

 貴方は私とマディアの子になったのよ?

 残して行くなんて有り得ないわ〉


〈罪を重ねた私なんぞの為に……〉


〈重ねたからこそでもあるの。

 グレイだけでなく多くの方々を操っていたのでしょう?

 きちんと話してもらわないといけないの。

 だから一緒に脱出しなければならないのよ〉


頷いたユーチャリスが続けた。

〈全てを話せば責められてしまうでしょう。

 ですがグレイは処刑なんてしません。

 償いは未来に向けて尽力する事でと言う筈です。

 グレイなのですから〉


〈そうね。

 過ぎる程に優しくて、考えが甘いのよね。

 でも、そこがグレイの良い所よね♪〉


〈そうなのです♪〉ぽ♡


〈それに……そうまでも神力を吸い取られるのなら脱出には人神の力が必要不可欠なのよ。

 そうに違いないわ。

 それなら先ずは……その壁を壊しましょう。

 封珠よりは容易(たやす)い筈よ。

 練習にもなりそうだし〉


〈はい♪

 壁が無くなれば、支えて高め合えますね♪

 頑張りましょう、お姉様♪〉



―・―*―・―



 封珠の外は会議中で、余計な事を考えないようにと記録を取っているエーデラーク(マディア)の横でナターダグラル(ザブダクル)が額に手を当てて(うつむ)いた。


〈如何なさいましたか?

 御気分がお悪いのですか?〉


〈軽い眩暈(めまい)だが、常の事だ。

 己が身体ではないのだから、仕方の無い事なのであろう〉


 ダグラナタンめ、修行を怠っておるな。

 身体への吸い上げ神力が不足しておる。


〈退室し、お休みになられては?〉

顔を上げないので覗き込んだ。


〈その感情……儂を心配しておるのか?〉


〈まぁ……そうですね。心配しております〉


〈変な奴だな〉


〈確かに変ですよね。

 それはともかく、退室なさるべきです〉


〈ふむ……〉



 エーデラークは議場の隅に控えている執事を目配せして呼んで伝えると、ナターダグラルを支えて控室へと瞬移した。

ソファーに座らせようと体勢を変えた時――


〖マディア、私達は大丈夫よ。

 言葉は交わせなくても心は共に居るわ。

 私達は出られるように修行します。

 ユーチャが一緒なのだから心配しないでね。

 心を確かに、お互い頑張りましょうね〗


――エーデリリィの声が聞こえた。


 その声は封じられた その日に込めていたものだったが、知る由もないマディアは思わず溢れ出しそうになった感情をどうにか心の奥に留め、何事も無かったかのようにザブダクルから離れるだけで精一杯だった。

そして乱れる感情を誤魔化すように急いでベッドを具現化し、ナターダグラル(ザブダクル)を横たえた。


〈如何した? 感情が波立っておるぞ〉

ナターダグラル(ザブダクル)が探るように見ていた。


〈いえ……御懸念なさるような事では御座いません。

 議場に戻るべきか、付き添うべきかと。

 ですが、お辛そうなのに伺うのも、と躊躇(ためら)っておりました〉


〈ふむ。大した会議ではない。

 此処に居れ〉


〈はい〉

エーデラーク(マディア)はベッドに椅子を寄せて座り、心配を漂わせて心を閉じた。


 さっきのは手紙?

 直接の声じゃなかったよね?

 もう少し触れていればユーチャ姉様の声も

 聞こえたのかな?


 もう一度 機会があればいいんだけど……

 今度こそ落ち着いて聞かなきゃ。


 エーデ……僕、頑張ってるよ。

 会いたいな……じゃなく!

 会えるようにしなきゃだよね!



―・―*―・―



 利幸は賽子(サイコロ)の中の白い世界を何処へともなく歩いていた。


「思い出せってなぁ……」ついつい溢しつつ。


「あ……そーいや誰かが板前のシュギョーじゃないシュギョーを教えてくれたよなぁ。

 確か、こう……座ってだな。

 メイソーして光? 光だったよな?

 目ぇ閉じて光か? あ、見えたな。

 追っかけるんだっけか?」


《早く来いよな》光が明滅。


「ナンで俺の声!?」


《声に出さなくてもいい。

 とにかく来いよな》


「おう。あ、そーだ。

 コレ教えてくれたの誰だぁ?」


《だから声に出さなくても……まぁいい。

 彩桜だよ。思い出せよな》


「サクラ?

 ナンか……さっき聞かなかったかぁ?

 あ! 成仏しよーとしてたら会ったぞ!

 龍に乗ってたヤツだ!」


《乗ってたな。

 瑠璃の旦那の弟でダチだよ。

 龍神の方はオニキス。弟だ》


「お前の弟なんだな?

 つまりお前も龍神なんだな?」


《俺はお前。龍神ウンディだ。

 堕神にされる直前にアーマルが細工してくれたから話せてるんだ》


「はぁあ!?」


《受け入れろ。

 アーマルが込めてくれた神力が尽きたら俺は消える。

 あんま余裕ないんだよ。

 四の五の言わず、とっとと思い出せよな》


「ごわあっ!? ナンで水!?」ドドドドドッ!


《滝だ。サッサと瞑想しやがれ!》


「ちったぁカゲンしやがれっ!!」


《集中しやがれっ!!》


「お、おう!!」


賽子(サイコロ)の中で滝行する羽目になった利幸だった。







どうやらアーマルは、ウンディの尾(大器)にウンディの意識を込めて残していたようです。

維持し、発動する為の神力が尽きれば消えてしまう程に僅かなのは、ウンディの大器が小さかったせいでしょう。


記憶の写しも込めている筈ですが、神力を高めないと開けないでしょうね。



それだけの事が出来るアーマルの方は自身にも同じようにしていなかったのか?

飛翔(たかし)の中で目覚めていた間も賢神らしさに欠けていたような……?



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