鬼のルロザムールと老神
利幸の魂を新魂に、死司装束を再生装束に偽装したリグーリ姿のラピスリは、リグーリ達が住んでいる廃教会へと降り、中に入った。
留守か? ……ああ街の上か。
それならばと、偽装を解いた利幸を窓の無い小部屋に押し込んだ。
「暫く出るでないぞ。
追っ手が居るやも知れぬからのぅ。
確かめて来るからのぅ」
「寝ててもいいかぁ?」
「好きにすればよい」苦笑。
扉を閉めたリグーリは姿を戻し、リグーリの近くへと瞬移した。
――姿と気を消したまま、離れた位置で周囲の死司神達の様子を窺い、気取られる様子は無いと判断して声を掛けた。
【リグーリ、ウンディは教会だ。後は頼む】
【ルロザムールは?】
【すっかり元通りだ。
ハーリィとも絆を結んだ】
【それは良かった。
さて……弟子達に面倒を見させようかの♪】
【エィムに?】
【弟で弟子じゃからの♪】
【アーマル兄様の弟子なのだが……】
【ま、双方にとって良い修行になるじゃろうよ】
【ふむ。確かにな。
では頼む】
【社に行くのじゃろ?
兄とオニキスにも伝えてもらえるかの?】
【勿論】ふふっ♪
【何じゃ?】
【流石、板に付いていると思った迄だ】
【ま、、当然じゃろ】なんだか恥ずかしい。
【では】笑顔で瞬移した。
【エィム、何処じゃ?】
【はい】現れた。
【教会に戻ってくれるかの?】
【はい?】
【行けば分かる。頼んだぞ】
【……はい】【もうっ! 置いてかないでよ!】
【来たの?】【トーゼンでしょっ!】
【当然、ね……】瞬移した。
【待ってってば! エィム!】探す!
【教会じゃよ】
【あ♪ はい♪】追った。
―◦―
教会に何が――この気……こっちかな?
居た……けど寝てる?
眠らされているんじゃなさそうだよね。
それなら――
「起きてください」ゆさゆさ。
全く起きる気配は無い。
「相変わらずなのですね。
では、いつも通りに!」
思いっきり蹴り上げ、雷を放った。
「起きてください!!」
「うわわわわっ!?」
無意識のまま雷を躱してから目を覚ました。
「何しやがる!? ……ってジーサンは?」
「師匠から何を聞いたんです?」
「修行して飛翔と紗を護るんだ♪」
「そうか。そういう事か……」
今は人のユーレイ。
兄だと思うな、か。
やれやれと溜め息。
「エィム♪」腕に絡まった。「捕ま~えた♪」
「離してよ。話の途中なんだから」「やん♡」
「お前ら、夫婦かぁ?」
「そうよ♪」〈チャム!〉〈いいでしょ♪〉
「神様も結婚するのかぁ♪」
「するわよ♪」
「それより修行を始めてください。
修行の場に入ってもらいます。
まずは何でもいいので思い出そうと集中してください」
有無を言う隙すら与えず、掌に出した賽子のような箱に押し込んだ。
「チャムも神なんだから嘘は駄目だよ」
「だったら~♪」うふっ♪
「何?」
「ホントにしちゃいましょ♪」「離せっ!」
「エィムだ~い好き♡」「離れてくれっ!」
「私じゃ……ダメ?」
今にも泣き出しそうなチャムから目を逸らしたエィムは、返す言葉を探しているのを誤魔化そうとして小さく息を吐いた。
「今は昇格する事しか考えられない。
僕達のターゲットが あの状態なんだから大問題だろ。
恋愛とか結婚とか、そんな余裕は皆無だよ。
僕は仕事に戻るけどチャムは修行するの?」
「答えてもくれないの?」
「行くからね」手を解いてチラッと見た。
「行っていい?」
「相棒だからね」手を繋いで瞬移した。
――街の上。
〈手繋ぎは仲良くないとしないわよねっ♪
エィムの答えなのね♪
ね♪ エィム♪
さっきのユーレイ、誰?〉ぴょんぴょん♪
〈手を離すか、跳び跳ねるのを止めて〉
〈離さなくてもいいのね♪〉止まった。
〈仕事しないの?〉
〈待ってるだけでしょ?
話しててもいいでしょ♪〉
〈勝手にして。でも僕を巻き込まないで〉
〈さっきの誰?♪〉
〈巻き込まないでって言ったの、聞こえなかった?〉
〈その前に聞いたでしょ♪〉
【……兄様】
【え? ユーレイなのに?】
【堕神にされた兄様なんだよ。
人としては死んだんだ】
【浄化域には? 送らなくていいの?】
【身内を浄化域送りになんて……】
【だから匿うのね♪ 神に戻すのね♪】
【そうだよ。邪魔しないでね】
【もっちろん協力するわよ♪】
【それが邪魔なんだけど?】ぷいっ。
〈エィムったらヒド~い〉
〈もう静かにしてよ〉離れようと――
〈あ~♪ 耳まで赤~い♪〉〈なっ――〉
〈エィム大好き♪ だ~い好き♡〉
〈真面目に修行しろ!
早く僕に追い付け!
揶揄うなっ!!〉
〈追いついたら結婚してくれるのね♪〉
〈追い付けるもんか〉フン。
〈言ったわね~〉
〈その通りだろ〉
〈だったら~♪〉〈何?〉〈こう♪〉ちゅ♡
〈何するんだ!?〉〈修行するわ♪〉消えた。
取り残された真っ赤っかなエィムは、チャムの感触が残る頬に手を当てて呆然と漂っていた。
遠くから様子を見ていたリグーリが、やれやれと思いつつ行って肩を叩いた。
「落ちるぞ?」
「あっ」慌てて姿勢を正す!
「仕事せねばのぅ」
「はいっ」
【ターゲットに関しては、この結界から出た時に説得するしか無かろう。
浄化の門で反転させるだけだ。
そう気に病むな】
【はい!】
【正職神にさえ成れば、続く昇格試験は最短で駆け昇ればいい。
ディルムは、いつ戻って来られるのやらだが、代わりにルロザムールを頼ればよい】
【えっ?】
【正気に戻ったそうだ。
ハーリィの師であり相棒だったのだから信用できる】
【ハーリィ様の……はい♪】
【ま、敵神の懐に居るのだから操られているとせねばならぬし、近付くのは容易ではなかろうがな】
【ですが……】リグーリの後ろを見ている。
【ん?】振り返る。【ルロザムール!?】
『鬼のルロザムール』が睨んでいた。
「怠けておったのではなく弟子を指導しておっただけでっ――」
ルロザムールは威圧的に見据えて近寄り、リグーリの肩に手を置いた。
〈振りですので……その……すみません〉
「あ……」そうだった。
〈獣神秘話法というのをお教え頂きたく……。
あの……ハーリィから獣神様の欠片があるので私にも話せると聞きまして……そ、その……お願い致します!〉
言葉は低姿勢で必死だが、威圧的に鋭く睨んだ振りのまま。
「でっ、では! 顛末書は拠点にてっ!
申し訳ございません!」
〈と、いう理由で如何じゃろうか?〉
〈重ね重ね申し訳ありません。
では、拠点にお連れくださいますか?〉
「ふむ。よかろう」
ぐるりと鋭い視線を走らせる。
「皆も、よく務めるよう」
周囲の職神達からの視線をたっぷり浴びつつ、エィムを庇うようにリグーリが飛び、ルロザムールは厳しい表情を保って追った。
―◦―
教会に着くと、エィムに利幸とチャムの修行の指導を頼んで奥に行かせた後、リグーリは自分そっくりな等身大の人形を具現化し、着ていた死司装束を着せて、机で書いている風に座らせた。
「もう1つ具現化。
装束を全てお借り出来ますかのぅ?」
代わりの上着を具現化して渡した。
「あ、はい」脱いで人形に着せる。
窓に背を向けて座らせ、フードを被せた。
「これでよし。
高位死司神と白髪死司神の出来上がりじゃ。
窓から覗かれてもルロザムール様と儂にしか見えぬじゃろ」
振り返ってイミシンにニコリ。
「では、場所を移しましょう。
お仲間に会わせますよ」
「え? 声が――」若い?
微笑むリグーリが手を取って瞬移した。
地星の神は年齢ではなく成熟度合い、つまり修行の成果で成神だと認められることになります。
エィムは150歳くらいです。
人神なら、普通は中等学校を、出来が良くて高等学校を出たばかりの半神前です。
最初に滝に行ったティングレイスと同じくらいですね。
エィムは基底の高い龍神。
しかもドラグーナの子です。
修行もシッカリしていますので、とっくに成神しています。
対してチャムは……?
オフォクスの子ですが、そもそもチビッ子。
神世の地を踏んだ事も無いので危機感0。
修行は……してなさそうですよね。
全てが正反対な2神。
本編終盤では結婚していたようですが……?
現時点ではチャムは積極的かつストレートに好きだと言っていますが、エィムはどう考えているのでしょうね?