ルロザムールの記憶領域
ルロザムールの魂の内では、記憶領域を封じる『岩壁』に大きな穴が間隔を置いて3箇所 開いた。
1つ目はラピスリがハーリィに要領を伝えつつ開けた穴で、記憶が漏れないよう蓋をしている。
2つ目、3つ目はラピスリとハーリィの前で口を開けている。
「今は、これで十分でしょう。
先ずは此方に。どうぞ お入りください」
言われた通り入ると、ルロザムールは光に包まれ、そこに帯状に輝くものが次々と飛び込んだ。
【あれが記憶なのか?】
ハーリィはルロザムールが入った穴を覗き込んだ。
【そうらしいな。私も初めて見た。
向こう側を探ると仕切られているのが見えたので、重要そうな箇所を優先した】
【今、入っている箇所は?】
【神格形成の要、幼少期から学生時代を経て修行に励んでいた頃迄だ。
細々とした記憶は更に奥なのだろう。
光の強さから強い記憶ばかりだと考えた。
索引や目次といったところだろうな。
内の間仕切りにも穴を穿ち繋げた。
この障壁を全て融かすのは容易でないからな】
【此方の穴は?
光に濃淡か? 帯に穴?
内が詰まっていないように見えるが?】
元の位置に戻り、目の前の穴を覗き込んでいる。
【消されたのだろう。
其処に偽りの記憶が込められていたのを私が浄滅した。
職神と成り、死司域に来る以前だ。
其方も間仕切りには穴を開けている】
【私を指導し、相棒として務めていた頃か……】
【だから協力してくれ。
失った記憶を補ってもらいたい】
【大切な師であり友だ。力を尽くす。
しかし何故 敵陣である死司域に?
乗り込んだのか?】
【いや……ルロザムール様だけでなく、神力を高めていた人神は全て死司域――ナターダグラルの下に集められたのだろう。
神力を高め得た人神は、意志も強い。
神格者でもある。
故に、逆らい、邪魔立てされぬよう奴は先手を打ったのだ。
獣神同様に神力封じの縄を掛けて捕らえ、神力を抜いて支配を込めたのだ】
【許せぬ……】
【そのナターダグラルは今は封珠の内だ。
今のナターダグラルは別神だ】
【どういう――】
ルロザムールが清々しい笑顔で出て来た。
「ありがとうございます!」
「次は彼方です」ハーリィの方を示す。
「はい!」
ハーリィに一礼して入った。
【若返った、か?】
【若い頃の記憶の影響かと。
では、続きは後程。今は全力で】
【ふむ】
再生神だったラピスリも記憶を込めるべく、ハーリィと並んで穴に向かって両手を突き出した。
―・―・―*―・―*―・―・―
永遠の樹の反対側で待たされている利幸は長いなぁと欠伸をした。
「アイツ、ウチに来たヘナチョコ死神の上司だよなぁ?
死神株式会社の上司、過労で倒れたかぁ?
真っ黒着てるのはブラック企業の証ってか♪
にしても暇だよな。寝て待つかぁ~」
利幸はゴロンと横になった。
すぐに鼾が聞こえ始める。
何時でも何処ででも寝られるのも利幸の特技なのだった。
―・―*―・―
オニキスと彩桜はライブハウスの上空からバンドの練習を見ていた。
【へぇ~、上手いモンだなっ♪】
【オニキス師匠も演奏できる?】
【いやぁ……ムリだっ♪】
【黒瑯兄の弟子なら1つくらいは――】
【どーゆーコトだっ!?】
【俺達の親、知ってる?】
【いや……】
【音楽家なの。
欧州で活動してるの。
でね、俺達にも来い来いって言うの。
コンクール出ろとか、デビューしろとか、しょっちゅう言うのぉ】
【ピアノとかか?】
【なんでもいいからって~】
【ナンでもって……?】
【ちょっと俺ん家】【ん】瞬移。
オニキスは庭に出たが、彩桜は離れへとスキップして行った。
【お~い彩桜ぁ?】
【犬でも人でもいいよ~♪】
【おいおい】人で追った。
離れもボロ屋敷だが、戸を開けると――
【マジかよ……】家中ナンかキラキラ?
【防音完備♪ 空調、楽器に最適キープ♪
レコーディングもで~きる~♪】
――オニキスには謎の機器がビッシリのガラス張りの一角あり、壁が全面鏡張りな一面ありな広い快適空間にグランドピアノが7台、互い違いに並んでいた。
【他の楽器コッチ~♪】ぴょんぴょん♪
足音を立てるのも憚られて、忍び足で追った。
【な~にしてるのぉ?】
【いや、ナンでも……ってカンオケ!?】
【楽器ケースだよ~♪
でも おっきいの、俺 入れる~♪】
【楽器屋の倉庫か?】スッゲー数!
【俺達の楽器~♪】
【って……全部7つずつか?】
【うんっ♪】フルート出す~♪
【ソレ、さっき御札っコの姉サンが吹いてたよな?】
【うんっ♪】吹く~♪
優しい音色が流れ出た。
あ……音が父様だ……。
音色に黄金龍を重ねてしまったオニキスの瞳から涙が零れた。
【師匠?】
【あ……ナンでもねーからなっ!】
【ふ~ん?】
〖素直になっていいんだよ?〗
【え?】
頭をぽふっとされた気がした。
【……父様?】
確かめるように頭に手を当て、視線を上げると、フルートを奏で続ける彩桜の頭上に桜色のドラグーナが淡く浮かんでいた。
【父様……】ぽろっ――
〖彩桜と黒瑯を支えてくれて ありがとう。
頼りにしているよ〗
笑顔で ふわりと包んだ。
【オレ……頑張ります!
早くチャンと父様に会いたいからっ!】
〖……すまない。
俺も頑張るからね〗
包んだ時と同じように ふわりと離れ、彩桜に吸い込まれるように消えた。
彩桜が奏でる音色は、癒すようで宥めるような響きに変わっていた。
オニキスに向けている眼差しも優しく微笑んでいる。
【父様?】
【ううん俺~。ごめんね】
【謝るなよなぁ】
【師匠、父様大好きっ子?】
【う"……】
【俺も父ちゃん大好き~♪】
【……そっか。スゲー大好きだよ】外方向く。
【東京に仕事で来た父ちゃんに2回会った♪
コッチ戻って ぜ~んぜん。
だから俺、楽器持って会いに行くんだ♪】
【そっか。お互い頑張ろーなっ♪】
【うんっ♪】
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記憶の光の向こうからルロザムールが飛んで来た。
「ハーリィ!」
抱き着いて声を上げて泣いた。
「ルロザムール様……」
友情を確かめ合うように抱き合う2神をラピスリは静かに見守った。
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管楽器の部屋を出て中央の広間へ。
【で、ピアノも弾けるのか?】
【うんっ♪ でもね~コッチ♪】
ぴょんぴょん通り抜けて別の部屋へ。
【パイプオルガ~ン♪】
【ゲ……部屋中に筒?】
【ソレ言うなら壁一面でしょ】
壁の向こうはホントに管だらけだけどね♪
【体育館の壁なっ!】
【そんなに大きくないよぉ】大袈裟~。
【広いだろーがよ!
で、余った場所に客席か?】
座り心地の良さそうな椅子が並んでいる。
【動かせない楽器だから~。
戦前から ず~っとここにあるんだって~】
【そっか。スゲーな♪】
【弾く~♪】【彩桜が!?】【うんっ♪】
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号泣していたルロザムールがハッとしてラピスリを見た。
「申し訳ございません!
すぐに残る穴に!」飛ぶ!
ラピスリがルロザムールの行く手を塞いだ。
「お待ちください。
残っている記憶は死司域でのもの。
つまり操られていた間の記憶です。
知りたくなければ入らないでください」
「おそらくは多くの方にご迷惑をお掛けしたのでしょう。
覚悟して受け入れます。
謝罪し、償わねばなりませんので」
「そうですか。では、どうぞ」
横に避けようとした。が、立ち止まる。
「心の支えが必要となりましょう。
先にハーリィと虹紲の絆を。
如何でしょう?」
ハーリィが嬉しそうに飛んで来、驚きで固まっているルロザムールの肩を抱いた。
「友情の絆、結んで頂きましょう!」
さて、絆って? ですよね。
この世界の神が魂と魂を繋げて神力強化する為のもので、術で成します。
互いの心も神力もを支え合い引き上げ合うものなんです。
友情の絆として最強の虹紲の絆は、全体でも結婚の絆に次ぐ とても強い絆です。
単独での神力強化は、より上位の神から与えられる称号(二つ名、継承神名などを含む)を術で得ることで行います。
称号は、ただの名ではありません。
神力が込められている言霊的に力を持つものなんです。
ラピスリの『慈愛の女神』や、ウンディの『力の神』、カツェリスの『バステート』などが称号です。
彩桜達の両親はキリュウ夫妻として活動している世界的に有名な音楽家の燻銀(:ピアノ奏者)と美翠(:ソプラノ歌手)です。
兄達6人、誰も親と同じ音楽の道には進みませんでしたが……。
輝竜兄弟のお話はユーレイ外伝 第三部で、です。
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