虹の絆
【御札お姉ちゃん達、民家に入った?
あのオジサンのお家かにゃ?
あ、ソラも? 合流したの?
そっか♪ 怨霊のを知らせに来たんだね♪
あれれ? ソラだけ一瞬で出て来ちゃった~。
大通りの方、行っちゃった?】
【彩桜、『虹の絆』が見えますか?】
【ん~~~、見えた~♪
お家から大通りの方に繋がってる~♪】
【探偵団の皆さんが あのお宅に入った時に生じました。
同じ神の欠片を持つ2人、おそらくは男性ユーレイと親子関係の者との繋がりが見えているのでしょう】
【神様の欠片、呼び合ってる?】
【はい。とても強く】
―・―*―・―
ここって……塾? 予備校?
この内容……高校のだよね?
おじさんユーレイから伸びてる虹、
あのお姉さんに繋がってるね。
ボクの声、聞こえるかな?
ソラは机の間を飛びながら、どう声を掛けようかと悩んでいたが、着いてしまったので女子高生と向かい合う形で机の下から頭半分だけ出してみた。
見えてない?
そう思った時、女子高生はノートに『なに?』と書いた。
〈えっと~、すぐ帰った方がいいです〉
『どうして?』
〈帰ったら分かります〉
『帰るね』
視線は黒板のまま、口元だけで小さく笑った。
『ありがとう』
ぺこりとしてソラは建物から出た。
少しして駆け出て来た女子高生は、ちょうど来たバスに乗った。
バスは住宅が犇めく台地に向かって走り始めた。
ここからだと住宅地の丘はすぐだから
バス停2つか3つくらい?
あ! 怨霊の方 見てる!?
〈怨霊と目を合わせちゃダメ!〉
窓越しのソラに女子高生は一瞬だけ驚きで目を見開いたが、小さく頷いて前を向いた。
〈ビックリさせて ごめんなさい〉
ソラは去ろうとしたが、女子高生の口が『待って』と動いた。
首を傾げたままバスの横を飛んでいると、女子高生は出した参考書に
『もしかして お父さん来てる?』
と書いた。
頷いて、今度こそ離れた。
―・―*―・―
【ソラ、虹と虹、合わせよぉとしてる?】
【近付けば神力は支え合います。
無自覚な欠片持ちの魂は不安定ですので、怨霊化を防ごうとしているのでしょう】
【ね、師匠。俺達、見てるだけ?】
【下ではなく、上に目を向けてください】
【うっわ~、死神さんだらけ~】
【社で浄化した者より遥かに多くが、まだ支配されておりますからね。
何かあれば盾となるつもりです】
【そっか~♪ 俺、浄破邪する!♪】
―・―*―・―
ソラはサイオンジの傍に瞬移した。
〈ソラ! 響チャンは!?〉
ナンジョウが叫びながら来た。
〈居場所は知ってますけど~〉
〈頼む! 連れて来てくれ!
この際カケルでもいい! 手が足りん!〉
〈囲みを作る隙がないのよぉ。
お願い〉拝んでウインク。
〈はい! トウゴウジさん!〉〈俺は!?〉
〈もう行っちゃったわよ?〉
〈ソラぁ~〉
―・―*―・―
【来たよ!】
【彩桜、ナスタチウム。
武器は浄破邪のみ。よろしいですね?】
【はい!】【ええ】
【解けている方々も戦う振りをしなければなりません。くれぐれも――】
【話してる余裕は貰えないみたいよ!】
【――そうですね。参りましょう!】
ウィスタリアとナスタチウムは結界から出た。
「怨霊を鎮めるまでお待ちください!」
「聞く耳なさそうよ?」
「ですね。ではっ!」
舞うように連携して飛ぶ夫婦龍神と、その背の彩桜は、浄破邪を連射し始めた。
【彩桜クン、カンパニュラは?】
【ポケットで寝てる~♪】たぶん修行中~♪
【そう……よかったわ、ね……】
【意外と大胆ですね♪】ふふっ♪
―◦―
彩桜達が戦っている間に、怨霊は『囲み』に閉じ込められ、街の結界から出された。
「皆、鎌を納めよ」
偉そうな死司神がウィスタリアの前に現れ、戦う意志は無いと示すように軽く両手を挙げた。
【其奴は高位死司神のルロザムールです。
お気をつけください】
何処に居るのか、リグーリの声が聞こえた。
「怨霊は引き渡してもらえるのか?」
「はい。そのつもりで お待ちくださいと申しました」
「他の死人は?」
「彼らは怨霊を鎮める祓い屋です。
浄化域送りにすれば、困るのは死司の皆様ではありませんか?」
「ふむ。
ならば此度は見なかった事にしよう。
皆、退きなさい」
死司神達はルロザムールに一礼すると各々の持ち場に向かった。
「では、怨霊だけを貰い受ける」
ふわふわと昇っていた魂を回収した若い死司神がルロザムールに差し出すと、それを受け取り、神世へと飛んで行った。
【あの方……強い支配に縛られているのに、意志が残っているようですね】
【そうね。抗っているようね】
【解いて差し上げたいですね】
【そうね……】
【なんかぁ、お稲荷様と瑠璃姉 感じたよ?
解けかけ? そんな気がする~♪】
―・―*―・―
怨霊化していた人魂を浄化の門に届けたルロザムールは死司域に戻り、自室に向かっていた。
「ルロザムールよ、人世は変わり無いか?」
誰も居ない廊下を歩いていた筈だが、自室近くで唐突に背後から呼び止められた。
「はい、最高司様。
モグラを使い怨霊化させた堕神達を順調に浄化域送りとしております」
振り返って丁寧に深々と礼。
「怨霊化か……有無を言わさず堕神を浄化域送りとする良い方法であるな。
もっと増やせ。
堕神は全て浄化すべきだ」
「は」もう一度、恭しく礼。
「午後は休みであったな?
休むべくは確と休め」
「有り難き御言葉にて」更に深々と礼。
「ふむ」
ナターダグラルは神王殿から移設した書庫に向かって行った。
頭を下げたまま留まったルロザムールは書庫の扉が閉まる音を聞いて、ようやく頭を上げ、自室に入った。
「エーデラーク様……」
穏やかに微笑むエーデラークが待っていた。
エーデラークは何も言わず、宙に指を走らせ、光で文字を書いた。
『支配、解けかけていますよね?
早めたいから僕の欠片を受けて?』
ルロザムールは静かに頷いた。
文字を書いていた指先から光が飛び、ルロザムールの胸に入った。
〈あの……何故お気付きに?〉
『最初の報告で。
異常ナシにしてくれたから。
ありがとう』
そう書いて笑顔を咲かせて消えた。
「ありがとう……ですか。
私の方こそですよ」
ソファーに身を沈めるように深く座り、緊張を解いた。
人世を調べよとの命を受けて
降りた先日の私は、
エーデラーク様を蹴落とし、
のし上がる事しか考えていなかった。
人世は確かに異常で、
堕神が絡んでいるのは確かだと感じた私は
如何な理由をこじつけて失脚させようかと
練りつつ昇っていた。
その途上、黒々とした私の魂に光が射した。
『目覚めよ』と。
その光は私の魂の内で輝き、
私の記憶は封じられ、偽りの作りものが
込められていると教えてくれた。
日毎に私の魂は浄められ、
光からの声も聞き易くなった。
『悪神ナターダグラルの目を見てはならぬ』
『孤独に戦うエーデラークを支えよ』
『更なる支配を込められぬよう、
操られておる振りを徹底せよ』
『心を閉ざす修行をせよ』
私は、光の言葉に従おうと決めた。
話す自由すらも奪われている
エーデラーク様をお支えしなければ。
そう決意を固めたというのに……
私の方が救われてしまった。
魂の内に増えた光。
エーデラーク様の優しさが
更に私を浄めてくださる。
共に……戦いましょう!
―・―*―・―
【バス停でお話しして~、図書館 行って~、すっかり暗くなっちゃったね~】
【彩桜は帰らなければなりませんね】
【ん?】モグモグもぐもぐ♪
【食事中でしたか】
【うんっ♪ まだ夜食ある~♪】
【つまり、まだ帰らなくてもよろしいのですね?】
【うんっ♪】
【もしかして……その大きなリュックは全てお弁当なのですか?】
【おやつもある~♪】
【全て食べ物なのですね?】
【うんっ♪】
辺りを偵察していたナスタチウムが戻った。
【ダム、とっても新しそうだったけど?
金錦サンが生まれる前って……】
【うん。工事の途中で、台風とか豪雨とかあって何度も壊れちゃって、なかなか完成しなかったんだって~。
呪われてるって言われてたんだって~】
【呪われて……そう。だからなのね……】
【ん?】【だから、とは?】
【湖面でユーレイが泣いていたのよ】
【ふえっ!?】
【彩桜クンはユーレイなんて見慣れてるでしょ?】
【泣いてるユーレイさんは良くないと思うのぉ~】
【それをソラかショウに伝えては?】
【それが良いわね♪】
【ええ~~】
【今日は その為に出て来たのでしょう?】
【そぉだけど~。あ……お経?】
【成仏すると決めたようですね】
父親ユーレイが下を向いたまま昇って来る。
【虹……消えちゃった?】
【お嬢さんの方に集まりましたよ】
【そっか~♪】
【こうして継がれてゆく欠片もあるのですね】
【バラバラなったの、これからも集める為?】
【それもあるのでしょうね。
浄滅から逃れる為にも、なのでしょう】
【そっか……】
彩桜が使っているドラグーナの力・破邪は神力浄化を変化させたもので、禍や怨霊に対しては最強の武器です。
その破邪にも強さに段階があり、破邪<強破邪<浄破邪と強くなります。
神が持つ基礎神力として治癒や浄化は通常 備わっていますが、基礎神力では破邪に変えるので精一杯です。
基礎とは別に神力浄化(破邪の力)を持つ神が修行をして、その力を高めて得られるのが強破邪や浄破邪なんです。
術に対する神力を高めれば、術でも強破邪や浄破邪が出せますけどね。
つまり彩桜が浄破邪を使えているのは、いくらドラグーナの力だとは言え、引き出せるくらい修行しまくっているという証拠なんです。
壬上課長も結ちゃんも、この章では名前が出ませんでしたが、こうして結ちゃんは帰宅し、家族団欒を経て課長さんは成仏したんです。
というところで、壬上さんの件――つまり、この章は終わりです。
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