東の街へ
「店番は いい。行け」
「はぁい」
翌朝、紅火に追い出された形で彩桜は外に出ようとしていた。
「あ……」すりガラスの向こうに人 来てる~。
『あ……』相手も気づいた。
「いらっしゃ~い♪」ギシギシ開ける♪
「やっと ちゃんと顔が見えたわ♪」
「あ……そぉだね~♪」えへっ♪
ん~~と、御札お姉ちゃんだけ?
ソラは? ショウは?
「えっと、今日は――」「紙3束でしょ♪」
「また当てられちゃった~」
「兄貴♪」振り返ったが誰も居ない。
が、カウンターに3束 積んであった。
紙束の横には箱も。
「保冷箱? アイスかなっ♪」
ぴょんぴょん行って確かめる。
「うん♪ 修行アイス♪ と、筆?
そっか! 魂筆の試作品♪
またまたお願いしま~す♪」
「高価そう……ホントに使っていいの?」
「うん♪
黒毛が龍で、白毛が狐です♪」
「え? 狐はいいとして、龍って……」
「ん? 狐もお稲荷様、神様のだよ♪
お客様の筆と同じ♪」
「ええっ!? コレも!?」
「うんっ♪
とにかくお願いしま~す♪
アイス、早くお持ち帰りくださいねっ♪」
紙と筆はパパッとお買い上げ袋へイン♪
「あっ! お金!」財布出す!
「ん?」紙束の帯を見せる。
「試作品……?」
「そ♪ また感想お願いしま~す♪」
―◦―
お家にアイス置いて、公園でしょ。
あ♪ ソラいた♪ カケルさん寝てる?
だったらショウと話せるかな?
でも……ソラと楽しそぉだよね……
あ、カケルさん起きた?
ええっ!? カケルさんとショウって
一緒に話せるの!? どーなってるの!?
気配を完消しして神眼と瞬移も使い、響を追って来た彩桜は木陰のベンチで文字を追っていない本を見詰めていた。
あ……一緒に出掛けるんだ。
探偵団するのかな? いいな~。
でもソラは? 別行動?
あ、サイオンジさんと一緒に行くんだ。
だったら俺、御札お姉ちゃん追っかけよ~。
十分 離れたのを確かめて、彩桜も動き始めた。
響達が事故のあった交差点を大きく迂回して図書館前の広場に行くと、待っていた中年男性ユーレイがペコペコと申し訳なさそうに頭を下げた。
あれれ? あのオジサン……そっか!
こないだトシ兄と一緒に居たヒト!
もしかしてトシ兄も近くに――
〈お~い! アンタ、響チャンだろ?〉
――ホントに居た!
【オニキス師匠! ウィスタリア師匠!
トシ兄 見つけたよ!】
【って! 今オレ動けねぇよぉ】
【私が行きます!】
ウィスタリアはナスタチウムと一緒に来た。
当然、姿は消している。
【ウンディだけではないのですね。
では上空から見ていましょう】【はい♪】
彩桜が乗ると同時に舞い上がったウィスタリアは結界の上端近くに留まった。
【あの青年ユーレイ……】
【うん♪ 交差点に居たカケルさん♪
でもまだショウしか起きてないんだ】
【そうですか】【あれれ? ハムちゃん?】
ナスタチウムの髪に隠れようとしている小さなお尻がぷりぷりしていた。
ぴょいと移った彩桜が掬い上げ、丸まって震える背をそっと撫でた。
「だいじょ~ぶだよ~♪」
【と……ぅ……様……?】
【あ♪ 龍神様なんだ~♪
ドラグーナ様が父様なんだね♪
俺、彩桜♪
ドラグーナ様……また寝てる~】
【私達の妹なの。
カンパニュラは恥ずかしがり屋さんなのよ】
ナスタチウムが申し訳なさそうに言った。
【そっか~】よしよし♪
【あっ、動きましたよ!】ウィスタリアが下を指している。
【あの方向……駐車場かなっ。
車で出掛けるのかも~♪】
【ウンディも一緒に?】
【ショウが一緒だからかな? あ!
トシ兄のアイドルな『響チャン』って御札お姉ちゃんなんだ!】
【アイドル……ですか……】呆れ溜め息。
【確かに可愛いわよね♪】
―◦―
また赤い軽自動車を追う事になった。
【東に向かいましたね。
ウンディの家でしょうか?
それとも隣街に行くのでしょうか?】
【トウゴウジさんトコ……?】う~ん。
【お知り合いですか?】
【祓い屋ユーレイのオネーサン♪
東の街を護ってるの~♪】
【もしかしてナンジョウ殿のお仲間ですか?】
【うんっ♪
ウィスタリア師匠、ナンジョウさんに憑き纏われてるの?】
【憑き――そうなのかもしれません。
犬の姿で堕神犬と話していて……】
【スカウトされちゃったんだ~♪】
【……はい。以来ずっとなのです。
あ、ウンディの家は素通りしましたね】
【みんな……楽しそ~……】
【彩桜?】【彩桜クン?】
【あっ、ちゃんと見てないとねっ! ん?
また……モグラさん……?】キョロキョロ。
【下だわ! でも……どこかしら……】
【確かに……街を歩いているようですね。
ゆっくり動いているようです】
【向こう……山の方、ソラが走ってる?】
【サイ様も一緒ですね。
モグラの情報を得たのでしょうか?
あの道は祓い屋ユーレイの皆さんが『霊道』と呼んでいるものです。
結界は通常ですと半球状に出来上がるのですが、特殊な具現化を用いて道にしているようなのです】
【ユーレイさん専用?】
【はい。神力で成している道ですが、神力封じでもありますので、死司神も手出し出来ませんが、祓い屋の皆さんも瞬移などの神力は使えませんし、消耗も激しいようです】
【へぇ~。
それでも死神さんに連れてかれないよぉに通るんだね~】
【そうなのでしょうね】
【ユーレイさんと死神さん、協力できればいいのにねぇ】
【そうですね……】
【車、隣街に入ったわよ】
【お姉ちゃんも山に向かってる?】
【そのようですね。
トウゴウジ殿の居場所は?】
【中央公園。だから違うトコみたい~】
【山の方は住宅地ですか?】
【うん。そこそこ新しいの~。
山のキワキワまでが通称『東の街』な東合市街で~。
山から北は成荘村なの~。
金錦兄 生まれるより前に、成荘ダムの工事の人達が住むトコ作るのに山スパッて半分なったの。で、台地。
工事終わって住宅地にしたんだって~。
山の土で港も造ったんだって~】
【詳しいですね♪】
【重機ってワクワクするよねっ♪
ダムとか港とかってワクワクい~っぱい♪】
【そういう事ですか♪】
【うんっ♪】【モグラよ!】
少し離れた宙に現れたモグラは、ニヤリとしただけで何も言わずに消えた。
【まただ……】
【【また?】】
【ソラのお家に行った時も姿見せただけだったんだ。
だから警告かなって思ったんだけど、モグラさん……何か言いたいのかな?
話すのもできなくされてるのかな?】
【そうなのかもしれませんね……】
モグラが消えた宙を見詰めていると、台地と平地の間で黒いものが膨らんだ。
【怨霊だわ……】
【モグラが仕掛けたのですね……】
霊道から祓い屋ユーレイ達が飛び出す。
平地側からもユーレイ達が飛んで来た。
ナンジョウの姿を見たウィスタリアは上昇しつつ少し離れた。
【トウゴウジさんだ~♪】
【【男性?】】
【中身はオネーサン♪】
【ああ、そういう……】
【でも神力を持ってるユーレイなら性別なんて自由よね?】
【なんかワケアリ? そんな気する~♪
あれれ? ソラ、どこ行くんだろ?】
―・―*―・―
ソラがサイオンジから離れる直前――
〈サイオンジ、あれ何?〉
違和感のある虹のようなものが街の2点を繋いでいる。
〈ごく近い縁者の繋がりだぁよ。
強い力を持つ親子じゃねぇかと思うんだぁ。
あんだけ見える程に強くなってるってぇ事ぁ、片方がユーレイになっちまったんだろ~なぁ〉
〈強いって……怨霊化しないの?〉
〈危険だなぁよ。
近付けておけりゃあええんだがなぁ。
そ~すりゃあ力が引き合うからよぉ、怨霊化しにくくなるんだぁよ〉
〈ボク、行ってみます!〉
〈気ィつけるだぁよ〉
〈はい!〉消えた。
本編では、探偵団とは別行動したソラの動きを追っていませんでしたので外伝で追ってみます。
もちろん、探偵団を追っている彩桜の様子も。
今回はオニキスではなくウィスタリアに乗っている彩桜ですが、いつになったらソラやショウに会いに行けるのでしょうか。