モグラとサイ
〈続きを、お願い致します〉
力丸を静かにさせたバステートが、力丸の代わりに謝るかのように頭を下げた。
〈はい。
当時、私は弟と共にオフォクス様御不在の代わりとしても務めておりました。
私共の親友であるアーマルとウンディはドラグーナ様をお支えし、お護りする為に近衛神団を結成し、アーマルの妹ラピスリ様は使徒神団を結成したのです〉
〈私も使徒に加わり、ドラグーナ様とラピスリ様の命にて前王様をお護りする為、近臣として神王殿に入ったので御座います〉
〈然様で御座いましたか。
ではマリュース様の事は……?〉
〈神は怨みに因って動いてはならないとドラグーナ様に諭されたのです〉
〈ドラグーナ様らしき御言葉で御座いますね〉
〈はい……〉穏やかに微笑んだ。
〈なんか話が見えないんですけどっ〉
〈続けますね〉ふふっ。 〈お師匠様ぁ〉
〈トリノクス様のように無自覚堕神のまま浄化されぬよう、近衛団の者がお見守りし、マリュース様が渡竜 澄也として成人を迎えられました頃、ようやくオフォクス様が戻られたので御座います。
オフォクス様にマリュース様の事をお伝えしようと致しましたら既に見たと仰られ、更に、百年後を垣間見た、と。
オフォクス様は探りを極めただけでなく、更に強化し、先読みの御力を得ておられたので御座います。
百年後は……ティングレイスが王と成り、近臣は操られし者ばかり。
ドラグーナ様の御姿は神世には無く、人世は荒れ、多くの無自覚堕神が居た。
そう仰られたので御座います〉
〈その『百年後』が今なの?
あっ! でっ、ですかっ?〉
〈そうですよ。その通りでしょう?
無自覚堕神として浄化した神の力を吸収しては、私兵としての子を作り、神力封じの縄を持たせて巡回させ、己に従わぬ神を捕らえては堕神とする。
ティングレイスは、そうして神世を支配したのです〉
〈あの縄……そういうヤツだったのか……。
あ、でも俺は持ってても何もなかったと思うんですけど?〉
〈そんな弱っちい神力なんて、縄にすらも感知されないわよ〉
〈しゅ~ん……もおっ、お師匠様まで笑わないでくださいよぉ〉
〈続けますね〉くすくす♪
〈オフォクス様は、備えねばならぬ、と人世に下られたので御座います。
そうして渡竜の内に眠らされているマリュース様を目覚めさせようと試みられたので御座います。
しかし途中でお止めになられ、抑止の錠が破壊されておる、と再び封じられましたので御座います〉
〈ヨクシノジョウ?〉
〈静かに聞けないの?〉〈だってぇ〉
〈仕方ないわね。
マリュース様の御力は『支配』。
神であろうが、その目を見て発動すれば言いなりに出来る御力なの。
だからこそ正しく強き意志の神でなければ使えないように『抑止の錠』が共に在るの。
無ければならないのよ。
それを破壊して奪ったからティングレイスなんかにも使えたのね……だとしたら……間違いなく禁忌を使ったのだわ!〉
〈間違いなく、そうなのでしょう。
ですが狡猾なティングレイスは、証拠隠滅にだけは長けております。
人神には尾は無い。
無い尾は掴みようが無かろうとでも嘲笑うかの如く、のうのうと君臨しているのです。
渡竜は幼少の頃からマリュース様の御力を少々使えておりまして『獣使いのモグラ』と呼ばれておりました。
祓い屋となっていたので御座います。
オフォクス様が単独で人世に降りました当時は、未だ回復の途上で御座いました。
故にティングレイスの追っ手からも、反撃も出来ず、ただただ逃げるのみであったそうなので御座います。
其処に現れ、お護りくださったのが渡竜の相棒であるサイ様で御座いました。
偶然の出会いでは御座いましたが、何かのお導きであろうと、オフォクス様は回復なさる迄、サイ様のお世話になられたそうで御座います〉
〈そのサイ様も堕神なのですか?〉
〈いいえ。
堕神の欠片を異常な程に持ち、使い熟しておられます人ですよ。
おそらくは……欠片となろうとも何れ神として復活しようと、他の欠片をも集めている某かの神が宿っているので御座いましょう。
使い熟せる魂の強さ……ティングレイスより余程サイ様の方が神に相応しいと、私は思っております〉
〈神を超える人……あっ、欠片の神様を超えないと、その力って使えないんですよね?
じゃあサイ様って人なのに魂の強さだけじゃなくて力も神超えたの!?〉
〈そうですよ。
だからこそ渡竜の相棒とも成れたのです。
化け物と呼ばれて育った渡竜の心の支えとして、共に生きてくださったのです。
『モグラとサイ』として祓い屋の頂に上り、誇り高く生きられるようにしてくださったのです〉
〈えっと~、渡竜さんがモグラ?
さっきは聞き間違いかと思ったんだけど。
それってまさか……ティングレイスの怨霊?
あっ! 違うよねっ!
名前だけだよねっ、偶然ねっ!
バステートちゃん睨まないでっ!!
お話の邪魔してゴメンナサイっ!!
お師匠様、ソッポ向かないでっ!!〉
〈いえ……噂をすれば何とやらですね。
バステート様、力丸も。
己が目でお確かめください〉
一瞬の浮遊感――
〈えええっ!? ぁうっ、ぃてっ――〉
バステートに尾で叩かれ、蹴りまで喰らった。
〈静かになさい〉
〈んっ〉自ら口を押さえてコクコクコク!
少し離れた場所には巨大な黒い塊が居り、無数の手を伸ばして宙を飛ぶ者達を掴もうとしていた。
デカイのに速っ!!
飛んでるの何っ!?
〈あれが怨霊。
飛んでいるのはサイ様が率いておられます祓い屋ユーレイの皆様です。
バステート様、如何ですか?〉
〈確かに神王殿で見た怨霊です。
あの時より遥かに強大になっていますが〉
〈元となった怨霊は、ティングレイスが人の想いの欠片から抜き出し集めた負の感情と、堕神の欠片から集めた神力を寄せ集めたもの。
それだけでも凶悪強大な怨霊でした。
渡竜は、その怨霊と戦っているうち、食われ、取り込まれてしまったのです。
ですが渡竜は流石マリュース様。
内側から怨霊を倒したのです。
ですが精魂尽き果て、その場で気絶してしまったところをティングレイスの配下に捕らえられてしまったのです〉
〈そして怨霊『モグラ』に?
ですが神は堕神とされようとも怨霊になど出来ぬ筈。
それに、あのモグラからはマリュース様を感じません〉
〈やはりそうですか。
オフォクス様も、かつてドラグーナ様も同じく感じ、探りました結果、怨霊に加えられたのはマリュース様の神力のみ。
マリュース様御自身は何処かに保たれている筈と出ましたのです〉
〈そうね……マリュース様を浄化しきってしまうと神力までも消えてしまう可能性が高いでしょうね。特殊な御力だから〉
〈随分と思い出された御様子。
何よりで御座います。
たとえティングレイスがマリュース様の御力を全て盗めようとも、使えるのは、ごく一部。
錠を破壊しようとも、御力の殆どがマリュース様でなければ使えず、マリュース様の存在なくしては消滅するのみなので御座います。
ですので彼の怨霊に支配を使わせる為、堕神としての魂のうち純粋に渡竜であった部分のみを集め人魂と同等としたのです。
そして其れを核とし、マリュース様の御力を付加させたのだと考えているのです〉
〈少し安堵致しました。
あの力さえ回収叶えば、マリュース様は復活できるのですね……〉
〈はい。
怨霊モグラを倒すはトリノクス様とガイアルフ様、とオフォクス様は仰いました。
然すればマリュース様の御力と魂とを合わせる事が叶い、マリュース様は御復活なさる筈で御座います。
ですので私もトリノクス様の欠片を集め、ガイアルフ様をお捜ししているので御座います。
では、此方を動かぬようお願い致します。
私はサイ様に加勢致しますので〉
狐儀とバステートは頷き合い、
狐儀は怨霊近くへと瞬移した。
〈静かに出来るのなら話してもいいわよ。
と言うか、知っているのなら教えて。
ティングレイスが誰にも触れさせない程に大切なものを保管している場所は何処?
簒奪後、何度か神王殿に探りに行ったら、複数ヶ所も入れない場所が在ったの。
出来ていたのよ。
以前は普通の部屋だったのに。
私は其処こそが保管場所だと思っているの。
其処に入る方法は?〉
〈入れない部屋? 大切にしてるもの?
アイツ、何でもカンでも秘密にするんだ。
大臣達が『開かずの間』って呼んでた部屋があるのは知ってる。
ソコ、俺達王子にも絶対入るなってキツ~く言ってたんだよ。
でも俺、入ったんだよ。入れたんだ。
どの部屋にも入れたよ。
鍵もかかってなかったよ?
どの部屋の壁にも棚が天井までベッタリ ビッチシあって、部屋の中も棚で仕切ってあって、水晶がズラッと並んでた。
玉もたくさんあったけど、いろんな動物の形してるのもイッパイあったよ〉
〈きっとその水晶に高位神様の御魂や御力、御記憶が封じられているのね。
怪しい部屋には私も仲間も誰ひとりとして入れなかったのよ。
でもアナタは易々と入れるのね。
それなら部屋の鍵は……ティングレイスそのものなのではないかしら?
だからティングレイスの欠片を込められている王子ならば入れるのでは……?
うん。それなら納得できるわ。
その点ではアナタも使いようがあるわね。
アナタは王子である事を嫌だと思うようになったみたいだけれど、それが役に立つ時が間違いなく来るわ。
全てが終わって平穏が得られたなら……。
その時になっても生み直してほしいと望んでいるなら、マリュースと私の子にしてあげるわ。ダイナストラ〉
〈えっと、あの、、どうして子供?
俺、バステートちゃんと結婚したいんだけど?〉
〈あのねぇ、いくらなんでもそれは無理〉
〈俺が憎いティングレイスの子だから?
生まれ直させてもらえたら、その後なら結婚してくれる?〉
〈何をしようが何の後だろうが無理よ。
アナタみたいなお子様からしたら、私なんて物凄くお婆ちゃんよ?〉
〈ウソだろっ!?
だって同じくらいの子狐だしっ!!〉
〈静かになさい〉〈ごめんなさいっ〉
〈今、私が子供なのは、堕とされたのが最近だからなだけ。
私は狐儀様より歳上なの。
それにとっくに結婚しているのよ〉
〈えぅ――〉バヒューーーン!!
大声を上げる前にブッ飛ばされた。
狐儀が話すと丁寧で堅苦しい……。
台詞が長い……文字詰まる~。(汗)
堕神達のお話ですので神だらけです。
簡単にですが、四獣神周りを纏めますと――
フィアラグーナ(龍)
│
ドラグーナ(龍)=アルボネーア(龍)
┌─┴─────────────────┐
…アーマル ラピスリ ウンディ … エィム ミュム…
┌┴────┐ 全1000(全て龍)
ランマーヤ(龍) サファーナ(龍)
ガイアルフ(狐蛇)=ララナルフ(狐)
┌────┴──────┐
オフォクス(狐) …トリノクス(蛇狐)…
┌─────┴──────┐
…フェネギ(狐) リグーリ(蛇狐)…
マリュース(獅子虎)=バステート(猫)
┌──────┴──────┐
…ディルム(虎) ハーリィ(豹)…
――こんな感じです。m(_ _)m