ソラも目覚める
「ここ……ボク……」
「ボクちゃんのお家じゃないわよ?」
「えっと……」
まだよく見えていないらしく何度も瞬きして、瞼を擦ったりしている。
「トウゴウジよ」目覚めて忘れたのね。
「トウゴウジさん……ボク……」
「ゆっくり思い出せばいいわ」いいこいいこ♪
「……うん。サイオンジは?」
「それは覚えているのね♪
お師匠様は出掛けているの。
だから今夜は私と一緒にね?」
「うん。ここでいいの?
いっしょに――あれれ?
ユーレイさんたち……人、かこんでる?
いいの?」
やっと見えたらしい。
「いいのよ。囲まれている女の子は祓い屋だから大丈夫なの♪
近くに行ってみたいの?」
ソラは響をじーーーっと見ていた。
「視線外しは完璧ね♪
行ってみましょ♪」
「うん♪」
ベンチの後ろの木に隠れた。
〈響チャンには見えてしまうの。
声を出せば聞こえていまうわ。
心に言葉を乗せるのは覚えてる?〉
〈こう?〉
〈よくできました♪
響チャンなら信頼できるわ。
ちょうど終わりそうだし、ボクちゃんも助けてもらったら?〉
〈ボク……〉もじもじっ。
〈大丈夫よぉ。ほら♪〉トンッ♪
〈あっ――〉木に めり込んだ。
〈迷子かな?〉
〈ほら♪ 響チャンも気づいたわ♪〉
木から引き出して、今度は横に押した。
〈いいの?〉トウゴウジに。
〈対処できる、なんて言いきれないけど、話してみてね〉
〈ほらほら~♪〉
ソラの言葉が自分にだと思った響が笑顔で振り返り、トウゴウジはソラの背を押して消えた。
〈うん〉もじっ。
〈ここ座って、ね?〉とんとん。
〈うん〉とことことこちょこん。
―◦―
トウゴウジは彩桜の傍に現れた。
〈トウゴウジさん……〉
〈彩桜クン、また友達になるんでしょ?
大丈夫よぉ。そんな顔しないの。
性格が変わるわけじゃないんだからぁ〉
〈そぉだよね……うん。
御札お姉ちゃんと仲良くなったら、お店にも来てくれるよね。
友達……それからだよね♪
あ……ユーレイお兄さんも一緒に……〉
〈そのうち あの輪に入れるわよ♪〉
〈うん。俺……頑張る♪〉
―・―*―・―
利幸の家では――
【で、人としての姿なんだが……】
【偽装は犬で慣れているのだろう?】
【犬は慣れたんだけどなぁ】人姿に。
【人の偽装はムズいんだよ。複雑で。
けど、だからってオレの人姿、黒瑯に似てるのがナンだかなぁ……】
黒髪をわしわし。
【しかし変えると、姿を保ちながら弟子をするのは難しくなるのだろ?
難しいという事は、偽装術はオニキス向きではないのだろう?】
【そ~なんだよなぁ】
【ま、黒瑯様に似ているという事は、あの兄弟皆に似ているという事だ。
親しみを持ってもらえるのでは?】
【そっか……んじゃあオレは このままで黒瑯の弟子になる!】
【頑張れよ】
【おうよ♪ あ……名前ど~しよ……】
【と言うか素性全般なのでは?】
【そっか。人ってメンドーだよなぁ】
【妻役の誰かに頼んで兄弟という事にするのは?】
【一度も顔見せてない兄弟かぁ?】
【ならば従兄弟は?】
【ソレだっ♪
ラピスリどーしてっかなぁ……ゲ……】
【いきなり神眼全開で向けたのか?】
【つい……】
【己の神眼の強さを自覚しろ。
だが……元気になったようだな】
【見てるのかっ!?】
【薄目程度。気を確かめているだけだ。
明日から復帰してくれそうだな】
【ラピスリの あんな顔……初めて見た……】
【おい、聞いているのか?】
【可愛いだなんて思っちまった……】
【おい!】
【あ……ナンか言ったか?】
【普段は戦神みたいなラピスリだろうが青生様の前では ただの女性だ。
オニキスにとっては怖い姉でしかなかったのだろうが、ラピスリの美しさは神世の頂を争う程だと思うぞ。
復帰してくれそうだ。従弟にしてもらえ】
【だよな。朝になったら頼みに行くよ】
【名前は?】
【ラピスリに決めてもらうよ。
旧姓なんてのがあるんだろ?
ンなモン知らねぇし】
―・―*―・―
〈御札お姉ちゃん行っちゃった……〉
〈そりゃあ帰るわよね。
あの二人なら私に任せてね♪〉
ベンチではカケルとソラが話している。
〈どんどん思い出してるね……〉
〈そうね♪ ボクちゃんが教えてるわね♪
見守っておくから帰って休みなさいな〉
〈うん……〉まだ見ている。
〈夜道を帰る響チャンを護衛してもらえる?〉
〈あ……はい!〉
立ち上がって荷物を抱え、駆け出した。
〈ちゃんと帰って寝るのよ~♪〉
〈は~い♪〉
―・―*―・―
そして明け方、彩桜は再び公園に行った。
〈あら、早いわね♪〉
〈いつも交差点に行ってたから~〉
〈そっか〉交差点を見る。〈前進ねっ♪〉
〈うんっ♪ あとは、お兄さんと重なってる友達が目覚めてくれたら……俺、修行に専念します♪
ちゃんと祓い屋なりたいから♪〉
〈待ち遠しいわぁ〉
〈えへっ♪ 頑張りま~す♪
でも……お兄さん動いちゃうし~、友達どぉしたらいいんだろ……〉
〈彼の力は……まだ眠ってるわ♪
かなり近づかないと気づけないわよ♪
だから近くから呼びかけてあげたら?〉
〈そっか~♪
トウゴウジ師匠、ありがとございます♪〉
〈師匠だなんて、なんだか恥ずかしいわぁ。
それより、呼びかけてごらんなさいな〉
〈はい♪ ショウ♪ おはよ~♪
起きて~♪ おさんぽしよ~♪〉
《ん……》〈ショウ♪〉《サクラ……?》
〈そ♪ 彩桜だよ♪ ショウ起きて♪〉
《も……ちょっと……僕ねむ……》
〈うんうん♪ 後で遊ぼ~ねっ♪〉
《遊ぼ~ね……》
〈うんっ♪〉
〈もうすぐ目覚めそうね♪〉
〈師匠♪ ありがとございま~す♪〉
〈もおっ、ゴウちゃんでいいわよぉ〉
〈それじゃゴウちゃん師匠♪〉
〈どうしても師匠なのね?〉
〈はいっ♪〉
〈キツネ様に申し訳ないわよぉ〉
〈他にも師匠いますけど~?〉
〈他って?〉
〈お稲荷様のお弟子さんで兄貴達が小っちゃかった頃からウチに来てた狐儀師匠♪
それと~、黒い龍神様なオニキス師匠♪
藤色の龍神様のウィスタリア師匠とオレンジ色のナスタチウム師匠♪
それと~、黒猫女神様なバステート師匠♪〉
〈神様ばかりなの!?〉
〈はいっ♪〉
〈それなら尚更よぉ。
師匠なんて呼ばないでぇ。
スカウト魔のナンジョウには彩桜クンのこと黙っててあげるからぁ〉
〈俺、神様もユーレイも尊敬してるんです♪
だから師匠です♪
でも……スカウト魔って?〉
〈ナンジョウってば、生き人でもユーレイでも祓い屋になれると見たら憑き纏うのよぉ~〉
両手を胸の前に垂らして揺らす。
〈憑くのっ!?〉
〈ナンジョウはシツコイんだからぁ~〉
〈ふええっ!?〉〈呼んだかぁ?〉
〈あら、コッチに来てたの?〉
彩桜に視線で逃げろと示す。
〈お師匠様が出掛けてるからな。
コッチも巡回しないとな♪〉
〈だったら巡回に戻りなさいよ〉
〈トウゴウジは何してるんだぁ?〉
〈ボクちゃんが目覚めたから見守ってるの!〉
〈怒らなくてもいいじゃねーかよぉ。
で、さっき話してた生き人は?〉
〈ボクちゃんの友達で、あの子の知り合いよ〉
〈あ……交差点のヤツか?〉
〈そうよ。あの子も強いわよ♪
消えちゃった戌井クンは諦めて、あの子を鍛えなさいよね〉
〈トウゴウジが強いって言うんなら鍛えてやっか♪〉
〈でも先にお師匠様に会わせなきゃね〉
〈だな。腕が鳴る鳴る腕が鳴る~♪〉
〈で、巡回は?〉
〈あ……そんじゃ、今日のトコは頼む♪〉
笑顔で消えた。
〈ゴウちゃん師匠ありがと~♪〉
〈あの顔には気をつけなさいね?〉
〈は~い♪〉
本編ではソラの家を探すと決めた後は、すぐ翌朝でしたが、その間に交差点近くの公園でソラはカケルにユーレイとして生きる基本を教えていたのでした。
それを見守る彩桜とトウゴウジ。
寂しそうな彩桜ですが、ショウが目覚めれば、またソラと友達になれるかもと期待もしています。
彩桜には生き人の友達は居ません。
学校では『空気』なんです。
そんな彩桜にとっても、この夏は大きな転機になりそうです。