動き始める
狐儀と梅華の結婚の絆を結んだ後、瑠璃は彩桜の所に戻った。
〈あ♪ まだぜ~んぜんだよ。
お兄さん、地縛霊なっちゃったのかなぁ?〉
〈そうならぬようにした筈だが……〉
〈俺、御札お姉ちゃんが通るの待つから瑠璃姉は青生兄トコ行ってあげてよ〉
〈ん?〉
〈青生兄ず~~~っと!
寂しそぉでツラそぉだったんだからぁ。
瑠璃姉、元気なったんなら行ってあげてぇ〉
〈そう、か……〉
〈そぉなのっ!
コッチは大丈夫。ナンかあったら紅火兄 呼ぶから行ってよねっ〉
〈ふむ〉瞬移。
―◦―
「青生……」
青生は精算をしていた手を止めて、瑠璃に笑みを向けた。
「少し元気になった?」
「心配を掛けてしまったな」
「小夜子さん見つかったの?」
「近いうちに見つかるそうだ」
「狐儀殿から?」
「そうだ。すまなかったな」
「そんな事……今夜は眠れそう?」
「ああ」
「なら良かった。
後少しだから先に休んでいてね」
「明日からは診察もする」
「うん♪」
―・―*―・―
【お~いフェネギ、相談があるんだが】
【オニキス……今ですか?】
【ナンか冷たい……】
【……どうぞ】
【ナンの間だよ?】現れた。【あのな――】
目を見開いて固まった。
【どうぞ?】
仲睦まじく寄り添う狐達が微笑む。
【そンならそーと言ってくれっ!】消えた。
【私共は構いませんけど?】
【コッチが構うよっ!】
【そうですか?
ですが、そうなるとオニキスはもう私共に近寄れませんね】ふふふふ♪
【ゲ……ま、仲良くなったんならソレはソレでいいんだけどな。ラピスリは?】
【彩桜様――いえ、青生様の所ですね】
【じゃなくて! 完全に乗り換えなのかよ?
ちゃんとフッキレたのか?】
【そもそも私のラピスリ様への想いは恋愛ではなく信奉なのです。
ピュアリラ様を知った時、私は そう確信したのです。
梅華に恋をしたのは、その後なのです。
今後、私は梅華と共にラピスリ様をお支えするのです】
【呼び捨て……まさか お前!】
【はい。梅華との結婚の絆をラピスリ様に結んで頂きましたよ】
【……そーかよ……】
【それで、相談とは?】
【リグーリんトコ行くよ……お幸せにな】
ちょっと悔しいけどホッとしたオニキスだった。
【狐儀様、よろしかったのですか?】
寄り添っている狐儀の顔を見上げた。
【最初だけでしょう。
オニキスなら、すぐに慣れてくれますよ。
それより、私には名のみで呼んでほしいと言っておきながら、どうして?】
【私にとりましては生きる道の師でもありますので……敬意を込めさせてください】
【梅華は私に恋愛を教えてくださいました。
その点では私の師ですよ?】
【お教えしたなんて……あっ――】
恥じらいを頬に浮かべて、俯き加減でふるふると首を横に振る姿が愛おしくて堪らなくなり、思わず抱き締めてしまった。
【呼び方に距離を感じる度に、こうして確かめさせて頂きますね】
【狐儀様の……意地悪……】
【そうですか?】ふふっ♪
【……でも……】
【でも?】
【私……幸せです。
少しだけ意地悪な狐儀様も大好きです。
私……生まれてこれて……良かった……】
【はい。出会えて良かったです】
胸に押し当てていた顔を上げさせて微笑みを寄せ合い、そっと鼻ツンした。
―・―*―・―
【リグーリ居るかぁ?】
外壁から顔を突っ込んだ。
【教会ではなくウンディの家だ。
奴は街から出ていないのだろう?
出たならば真っ先に自宅なのでは?】
【あ、そっか】瞬移。
【で、どうした?】
庭木の枝から大蛇の頭が垂れた。
【相談もあるんだが……先に1つ。
フェネギが結婚した】
【はぁあ!?】
【アイツ……弟にまで内緒かよ。
梅華チャンと結婚したよ。
ラピスリが結んだそーだ】
【ま……落ち着いたのなら、それでいいが……】
【ちゃんと祝うか?
軽く祝って全てが終わってから祝うか?】
【後者かな?
今はアーマルは目覚めず、ウンディは行方不明、マディアの事もある。
祝うどころではなかろう?】
【だよな】
【それで兄ではなく俺に相談か?】
【イチャイチャが忙しそ~だからな。
聞いてくれるか?】
【退屈しのぎに丁度よい】
【ありがとな。
オレ、黒瑯の父様を目覚めさせるのに人として近づいてもいいと思うか?
料理の弟子ってのウンディがしてただろ?
あの真似しようかと思うんだ】
【そうか。黒瑯様は料理人だったな。
弟子入りか……やってみては?】
【賛成してくれるんだな♪
昼間は弟子として、夜は犬として四六時中くっついてようと思うんだ♪】
【ドラグーナ様が目覚めてくださらねば何も始まらぬ。そうしてくれ】
【よーし! 頑張るぞっ♪
けど……残るは白久の父様だよなぁ。
黒瑯よりも手強そうなんだよなぁ】
【確かにな。会社員だったか?】
【大手のお偉いさんだよ。
だから昼間は近づけねぇ。
力丸とは仲良かったらしいが、力丸じゃなぁ……】
【堕神にされている他の兄弟は?】
【そのセンしかねぇよなぁ。
気が合うと言えばシルバスノー兄様あたりなんだけどなぁ。
滝なんだよなぁ】
【ま、家に出入りしていれば話す機会もあるだろうよ。
仲良くなってくれ】
【だな……ソッチも頑張るっきゃねーかぁ】
【各々、手一杯だからな】
【ウンディが見つかりゃあ変わるんだがなぁ】
【アーマルが目覚めてくれてもよいが?】
【確かになぁ。
ラピスリが復帰してくれてもいいよなぁ】
【こんな時に兄が申し訳ない】
【ま、ソレはソレだ♪
梅華チャンが戦力になってくれるんなら前進できるよなっ♪】
【そうだな】
―・―*―・―
深夜、日付けが変わる頃――
交差点のカケルと公園の彩桜の中間地点にソラが現れた。
彩桜が慌てて回収する。
この表情……目覚めかけ?
声かけていいのかな?
「ん……と、サクラお兄ちゃん?」
「うん♪ また病院に行こうとしてた?」
「病院……?」
「えっと~、夜中だから寝ようか?」
「夜中……夜ふかし悪い子だよね……うん」
彩桜がリュックと弁当箱をレジャーシートの端に寄せて寝転がると、ソラは嬉しそうに並んだ。
「おやすみなさい」よしよし♪
「おやすみなさい♪」ぴと♪
次に目覚めたら……きっと
俺のことなんて忘れてるよね?
寂しいけど……目覚めないとだよね?
〈あら、また来ていたのね?〉
〈あ、ユーレイお姉さん〉
〈この姿なのに……ありがと♪〉
〈向こうの公園に連れて行きますか?〉
〈ボクちゃんの保護者は出掛けてしまったの。
だから私が此処で見ているわ〉
〈それじゃあ俺、少し離れます〉
〈そう?〉
〈たぶん……もぉすぐ目覚めるから。
これまでの記憶……消えてしまうから……〉
俯いたまま荷物を纏め、背を向けた。
〈また友達なるだけだから心配しないでくださいねっ〉
駆けて木々の向こうへ。
〈あ……〉
〈どうしたの?〉
〈御札お姉ちゃんとユーレイお兄さんが話してる……〉
〈あら♪ 響チャンとも知り合いなのね♪〉
〈お客様だから……ええっ!?
お姉ちゃんユーレイに囲まれちゃった!?〉
〈響チャンなら大丈夫よぉ〉
〈コッチ来る!?〉
〈其処なら見つかりっこないわよ♪〉
ユーレイぞろぞろを引き連れた響が近くのベンチに腰掛けた。
〈お兄さん止まっちゃった。
離れて……見てるだけ?〉
〈私達と同じで様子見ね♪〉
〈そぉですね〉
〈響チャン、何を被ってるのかしら?〉
〈霊声補聴頭巾……です〉
〈夜中なのにサングラス?〉
〈霊視線偏光眼鏡、です。
強化したら色着いちゃって……〉
〈そういう物を扱ってるお店なの?
キツネ様が作ってるの?〉
〈兄貴が……お稲荷様の弟子なんです〉
〈キミも、でしょ?〉
〈あ……はい〉
ソラが身動ぎして、ゆっくりと目を開けた。
「ここ……ボク……」
ユーレイ探偵団本編では、バイト先のライブハウスから帰宅しようとしていた響をカケルが呼び止めて――という辺りです。
第一部で、店番の彩桜と客の響が出会っていましたよね。
彩桜は慌てていましたが、いつも何かを被っていて顔を見せていなかったとは気付いていないのでしょうか?
トウゴウジと彩桜が見ているとは知らず、ユーレイ達に囲まれた響は交差点近くの公園に入ると、彩桜達のすぐ近くのベンチに座って聞き取りを始めました。
その場面で使っていた変なアイテムは、モニターしているものでした。
それを見ているとソラが目覚め――
次回に続きます。m(_ _)m