狐儀だけは春
梅華様にお気持ちを確かめる、とは……?
つまり私から告白せよと……いえいえっ!
主様は絆としか仰っておられませんでした。
虹紲等の友としての強い絆なのでしょう。
自信をお持ち頂く為の絆なのですから。
然すれば、先ずはラピスリ様に確かめ、
神として生きる為の支えとしての絆を
結びましょうと持ち掛けるのが
よろしいのでしょうね。
公園の交差点側の隅で弁当を広げている彩桜達を上空から見詰めていた狐儀は、ようやく意を決して瞬移した。
【瑠璃様、梅華様。
少々よろしいでしょうか?】
【あ♪ 狐儀師匠~♪
瑠璃姉、メイ姉、行っていいよ♪
俺お腹いっぱいで元気なったから~♪】
【ふむ。山の社ですか?】
【はい、お願い致します】
一斉に瞬移した。
―◦―
と、社に来たものの、狐儀は話し辛そうにしているばかりだった。
【フェネギ様?
お話とは、トリノクス様の事ですか?】
【いえ……梅華様の事で……】
【私は双子として生まれたのだと喜んでおりますが?
父から吸収させよと命じられたのですか?
それならば直接 父と話しますが?】
【主様もお喜びで御座いますのでっ】焦っ!
【では?】
【そ、そ、その……梅華様をお支えする為……私と、、絆を……】
尻尾もじもじ、頬 真っ赤!
色恋には疎い瑠璃だが流石に理解した。
【では、確かめますのでお待ちください】
にっこり微笑むと、梅華と手を繋ぎ、フェネギからは見えないように結界を成した。
【あ、あの……】
【メイは私以上なのだな】ふふっ♪
【以上、ですか?】
【フェネギ様はメイと結婚なさりたいそうだ】
【えっ……】
次第に染まっていく頬を両手で包んだ。
【嫌か?】【いえっ! ……ですが……】
【好きならば飛び込めばよい。
結婚の絆、私が結んでよいか?】
【ラピスリ様……】
【双子は対等だ。様なんぞ付けるな。
私では不安ならば父様を呼ぶが?】
【不安だなんて……そうではなく、私は嬉しいのですが……】
【フェネギ様か?
尾が大好きだと語っていたが?】
【本当に?】
【双子には嘘なんぞつきようがない。
メイがフェネギ様を好いているのも、とてもよく伝わってくる。
だが……フェネギ様から直接 妻にと仰って頂きたいものだな……】
義や責や礼節を重んじるフェネギ様ならば
……ふむ。これでよかろう。
方法が定まり、梅華を見ると俯いていた。
【性急だと思うのならば待つが?】
【いえ……嬉しいばかりで……ただ……頬が熱くて……恥ずかしくて……】
【それは女性として当然、普通の反応だ。
では……メイの幸せを心から願う】
結界を解いた。
じっと待ってはいられなかったらしいフェネギがハッと足を止め、急いで駆け寄る途中で瞬移して目の前に。
【あっ、あのっ】
【妹が望みました絆を結ばせて頂いてよろしいですか?】
【はいっ!】
【メイ、フェネギ様と並んで】【はい】
フェネギと梅華を中心とした魔法円が現れた。
【向かい合ってください】
向かい合いはしたが、どちらも顔を上げられなかった。
【始めてもよろしいですか?】
【あっ……フェネギ様、どうかよろしくお願いいたします】
【えっ……あ、、はい。
……よろしくお願い致します】
どの絆を選んだのだろうと不安が渦巻く中、耳に入った術が何であるのかを理解したフェネギは思わずラピスリに驚きの瞳を向けた。
術を節目で止めたラピスリが小首を傾げる。
【何か?】
【この術……】
【お察しの通りですが……お嫌でしたか?】
【そうではなくっ!
それならば私と致しましても、梅華様にお伝えしなければなりませんので】
決意の眼差しに変わる。
【どうぞ】にっこり。
可能な限り ゆっくりと唱えていた術を留める為に、右掌を二神に向けたまま顔を背けた。
フェネギは梅華の手を掬うように取った。
【梅華様、私をお選びくださり嬉しいばかりで御座います。
貴女の夫となりますからには包み隠さずお話しした上で、それでも私でよろしいのかを確かめなければなりません。
……お聞きくださいますか?】
【……はい】
躊躇いつつも頷いた。
【私が生を受け、目覚めました時、父の傍らにはドラグーナ様がいらっしゃり、ラピスリ様を抱いておられました。
私は、その清らかな瑠璃鱗の女神様をお護りする為に生まれたのだと悟ったのです。
私は……よく同代から頭が固いと言われてしまうのですが……その最初の思いを貫いて参りました。
ラピスリ様からは良くて協力者、恐らくは ただの同代でしかなかろうとも、その思いは揺るがなかったのです。
つい先日、ラピスリ様が龍狐神だったと知り、思いは強くなるばかりでした。
ですが……古の人神様が信奉していらした龍狐女神ピュアリラ様を知り、私の思いは同代が揶揄するような恋愛感情ではなく、信奉だったと確信したのです。
私にとりましてラピスリ様はピュアリラ様なのです。
古の人神様とお話ししたかったのですが、月に行ってしまわれましたので、少々時を要しましたが私なりに気持ちを整理し、落ち着けました直後、梅華様にお会いしましたのです。
梅華様がラピスリ様と同じお姿だからではありません。
決して そうではないのです。
私は……ふわふわと弾むように幸せでありながら、不安定に揺れ動く この感情こそが恋愛というものなのだと思い知ったのです。
この ふた月、共に過ごし……この幸せが続く事を望む気持ちが膨れる一方で……ラピスリ様に梅華様を会わせてはならないとまで思うようになっておりました。
もしも梅華様が取り込まれてしまったら……そう考えると恐ろしくて……。
それは有り得ないと一笑に付してくれたのはオニキスでした。
私は盲目となっていたのだと気付きました。
何度か聞いた筈なのに……目覚められぬ程に恐れを抱いてしまったのです。
離れ難い思いが強くなっていたのです。
梅華様。
このような私で よろしいのでしょうか?
私は……これからもラピスリ様をお支えしたいのです。
それは変わらないのです。
ですが、梅華様をお護りしたいのです。
共に生涯を……同じ道を歩めましたなら……そう願っているのです】
途中で俯いてしまっていた梅華が、不安と緊張で強張っていた身体を抱くように両腕を擦った。
フェネギの方は、そんな梅華の様子を静かに見ていようと思うものの、頭を殴られているかのような己が鼓動にくらくらするばかりだった。
梅華の微かな吐息が聞こえた。
その表情を覗き込みたい衝動を必死で押さえ込んでフェネギは待った。
【私も……姉様が大好きです。
フェネギ様をお慕い申し上げております。
共に、同じ道を……姉様をお支えする道を歩ませてください】
【では、私と結婚してくださいますか?】
【はい。
私の方こそ、マヌルヌヌ様の里の奥から出ることもなく育ちましたので、何も知らないのですが……不束も甚だしい私なんぞで よろしいのでしょうか?】
【はい。
梅華様にお会いして、私は生まれて初めて恋愛という感情を知りました。
梅華様でなければならないのです。
私の……妻となってください】
顔を上げた梅華の瞳から涙が溢れたのを見てフェネギは慌てたが――
【はい。幸せ過ぎて……嬉し過ぎて……】
【それは私も同じです】
――嬉し涙だったのかと解った瞬間、嬉しさやら感激やらがドッと押し寄せ、フェネギの瞳も潤んでしまった。
【梅華様……】
この期に及んでも まだ恐る恐るな手が梅華に触れ、躊躇いがちに抱き寄せた。
【フェネギ様の ぬくもり……近くて遠かった もどかしい距離が、やっと埋まりました】
【あ……鈍感で すみません】
【いえ……私も同じですので。
理由も何も分からぬまま、己が想いに気づかぬまま、もどかしかったのです】
【それは……私も同じで――同じというのは嬉しいですね】
【はい……♪】
ようやく目を合わせ、微笑み合い……フェネギが顔を寄せると梅華が瞳を閉じ……優しさを具現化したような鼻ツンを交わして少しだけ離れた。
【すみません、よく分からなくて……】
【私も同じです】ふふっ♪
【頬が染まっているのも?】
【はい♪ 同じです♪
私……とても幸せです♪】
【それも同じですよ】ふふふ♪
微笑んだまま、もう一度 鼻ツン♡
そこで同時に思い出し、揃ってサッとラピスリの方を向いた。
ラピスリの肩は小刻みに揺れていた。
【そろそろ術を留めていられる限りが来るのだが続けてよろしいか?】
案の定、笑っている。
【【お願い致します!】】
ラピスリへの想いを整理して恋愛を知り、ようやく狐儀は幸せを掴みました。
いや~、狐儀の告白、長かったですね~。
翔³とは全く関係の無いお話ですけど、裏側であった出来事ですので。
m(_ _)m
ユーレイ外伝 第二部は本編に絡んだり離れたりしつつ進みます。
第三部は本編の空白期間ですので、ソラと響の結婚式までは本編とは全く絡まないのは当然ですが、外伝なんですけどユーレイ探偵団メンバーも出てきて……もう本編そのもの? な状態です。
どうしましょ(^^;)
それはさておき、瑠璃も元気に復活しましたし、ひと夏のドタバタに本格的に突入です。
m(_ _)m